今年の3月末に有珠山が23年ぶりに活動しはじめました.三宅島では6月下旬から海底噴火,山頂での水蒸気爆発・陥没と続いて,新島−式根島−神津島周辺の活発な地震活動も続いています.そして磐梯山では噴気の活発化と地震の頻発(7月14日)など,西暦2000年という節目の年に日本各地の火山が活動を再開したかのようで,火山活動についての関心がたかまっています.このような時期に,第7回日本火山学会公開講座を札幌市で開催することになるとは,学会役員一同誰も予想していませんでした. 有珠山も三宅島も,20〜30年の間隔をおいて活動することは分かっていても,火山が人間の尺度で規則正しく活動する訳ではありません.しかし,有珠山の今回の噴火に際しては,90年前、57年前、23年前の噴火に至る経過の記録があったこと,常時観測が行われていたこと,災害予測図がつくられていたこと,ホームドクターが居たことが重要でした.これらの利点が最大限生かされて,最小の被害で済んだといえます.
私たち火山を研究対象とする者にとって,予測しがたいのは新島−式根島−神津島の例のように1000年以上もの間噴火していない火山の活動です.このような火山については,常時観測が十分ではなく,噴出物と古文書を手がかりに活動様式を推測するだけで,前兆現象を的確にとらえることができないからです.科学技術が進歩しても,火山噴火をとめることはできないでしょうから,噴火災害を軽減することを目標に,研究者は情報を提供し,行政当局は対策を考え,火山周辺の人々は知恵をはたらかせるよう努力することが肝要と考えています.
今回の公開講座では,有珠山の動静を間近で見守ってきた三名の研究者が,最新の情報を提供します.それらの情報をそれぞれの立場で消化・吸収して頂ければ幸いです.火山は被害を与えるばかりでなく,素晴しい景観・温泉など私たちの心身を癒してくれる場も提供してくれます.有珠山の活動が落ち着いたら,噴火の痕跡が見られる現地を訪れて,噴火災害の現実をご覧になり,かつ被災地の復興に多少の手助けをして頂ければ大変嬉しく存じます.
なお,火山活動の情報は,日本火山学会のホームページ(http//hakone.eri.u-tokyo.ac.jp/VSJ1.html)でご覧になれます.