こうして得られた噴火直前の各観測点の地殻変動を第2図(a),(b)に示す.第2図(a)は、2周波受信機によるもので、国土地理院の室蘭観測点を基準にもとめた各観測点の緯度成分(NS)、経度成分(EW)、高さ成分(UD)の時間変化である。3時間毎の変化を示している.第2図(b)は、1周波受信機による結果で、1時間毎の変化を示している.
第2図(a)の上段は有珠火山観測所(UVO)の変動、中段は金毘羅(KON)の変動、下段は大平(OHD)観測点の変動である.特徴は、UVOの変動は、29日の昼以降変動率は大きくなるが、30日の夕方からその変動率は鈍ってきている.OHDも同様に、30日夕方には変動率は大幅に小さくなり、噴火後はほとんど変動していないことがわかる.その反面、金毘羅火口群に最も近い金毘羅(KON)の変動は噴火に至るまで指数関数的に増加していることが特徴である.KONは、噴火後データの回収は不可能になったが、噴火直前までの貴重なデータを得ることができた.
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第2図 (a) 上より、有珠火山観測所(UVO)、金毘羅(KON)、大平(OHD)観測点の変動 |
第2図(B)の上段は、西胆振消防組合(IZM)を基準にしたかんぽの宿(KNP)の変動、中段は壮瞥公民館(KMK)を基準とした西胆振消防組合(IZM)の変動、下段は壮瞥公民館(KMK)を基準とした虻田泉(AKT)の変動を示している.1周波受信機の基準点としての壮瞥公民館(KMK)は、3月30日に設置したもので、29日に設置したKNPとIZMについては、中段に示すように、噴火前には、KMKに対してIZMは5cmを超える変動は示していない.IZMが西山西火口群と金毘羅火口群の中間に位置しているものの、非常に火口に近いにもかかわらず、噴火前の変動が極端に小さいことは重要なことで、観測データなしではこうしたことは見出せない.KNPの変動も、KON同様噴火までその変動率は大きくなっている.一方、AKT観測点は、噴火前に変動を始めているが噴火後むしろ加速しているのがわかる.
第2図 (b) 上より、かんぽの宿(KNP)[西胆振消防組合(IZM)固定]、西胆振消防組合(IZM)[壮瞥公民館(KMK)固定]、虻田泉(AKT)[壮瞥公民館(KMK)固定]観測点の変動 |
これらの変動を1日あたりの変動ベクトル表示したものが、第3図である.29日とは、29日09時から30日09時までの変動を示し、30日31日も同様である.全体の特徴をあらためて眺めてみると、噴火が31日の13時08分であるから、29日の変動は噴火2日前の変動であり、南側の大平で最も大きく、かつ変動が比較的広範囲にわたっていることが指摘できる.1日前の変動は、有珠山の北西部が大きくなり、南部や東部の変動が小さくなったことがわかる.そして、31日の変動、ほぼ噴火後に相当、では、虻田泉(AKT)の観測点が大きな変動を示すが、他の点は、ほとんどその変動を終えている.これらから、噴火前には、比較的深部で大きな変動が進行し、1日前には、その変動源を北西部に移し、かつ影響範囲が狭まることから浅く移動していったことが言える.そして、その変動がさらに浅く局所化していき、西山西および金毘羅での噴火につながっていったことが地殻変動は物語っている.
第3図 噴火前3日間の観測点水平変動ベクトル図 上下変動量は観測点脇に数値で示してある |
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