公開講座「伊豆大島の火山研究と防災」の開催にあたって

日本火山学会会長 / 浜口博之


 火山に関連した学間を発展させると共にその知識の普及を図ることを目指し て,日本火山学会では,現在,約1200名の会員がそれぞれの分野で活躍し ています.これまでに蓄積された火山に関する研究の成果の一端を一投の方々 にわかりやすくお知らせする公開講座を,平成3年の雲仙普賢岳の大きな火山 災害の教訓を契機に始めました.第1回の公開講座は平成6年に福岡市で開催 されました.第2回目は「火山噴火のしくみ一火山学が青少年に期待するもの ー」と題して昨年東京で開催されました.本年度は,昭和61年の伊豆大島の 噴火10周年に当たり,日本火山学会の秋季大会が伊豆大島で開催される機会 に,標記の題で第3回目の公開講座を計画しました.
 明治の初め日本の近代化のために西欧から招へいされて東京で鉱物学などの 教鞭をとっていたイギリスの若い学者J.ミルンにとって明治9〜10年の三 原山の溶岩噴泉を伴う噴火は自然の驚異であったに違いありません.明治10 年1月に三原山の噴火を調べ近代科学として最初の調査記録を残しました.伊 豆大島は日本の火山研究の発祥の地と云っても過言ではありません.その後, たくさんの研究者が伊豆大島について調査・研究を行ってきました.そあ結果, 伊豆大島は日本の火山の中でもっとも良く調査され,その歴史や噴火活動の様 式などが一番理解されている火山と思われてきました.しかし,噴火の予知の ためにはまだ十分な理解ではありませんでした.昭和61年の伊豆大島の噴火 に先立ち,いくつかの観測には噴火の前兆を示唆するデー夕が得られたのです が,最終的にそれらを的確な予知情報に結びつけることができませんでした. 当時の火山学の知識と経験にもとづく噴火予知の限界が明らかになりました. との噴火では,また,全島民が一夜の内に島外に避難するという異常な社会的 体験をし,日本の火山防災対策を考える上で多くの教訓が残されました.
 現在,伊豆大島では,火山噴火予知のための観測体制は以前に比べて格段に 強化され,世界の火山の中でもトップ・レベルの観測がされています.しかし, 火山の噴火現象は複雑で,また,火山ごとに活動の特性が違うなどのため,噴 火の予知は実用化に至っていません.住民や行政に携わっている方々の予知に 対する期待感と現在の学間レベルの間にはまだ埋めなければならない深い溝が 残されています.このために,学者,行政,住民はそれぞれの立場からこの間 題に取り組むことが求められています.今回の公開講座では,伊豆大島の火山 について造詣の深い講師の方々が,伊豆大島の噴火の歴史や火山観測の最前線 の現状について,さらに,火山と人との共存に向けての火山防災の方策を紹介 する予定です.この公開講座が,火山の噴火の仕組みに対する理解を深め,ひ いては,火山防災に役立つことを願ってやみません.


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1996年11月,日本火山学会: kazan@eri.u- tokyo.ac.jp