ここでは産総研の最近の地質調査によって明らかになった富士火山の過去4千年間の噴火履歴について紹介します.
噴火史の順序(古富士/新富士旧期/新富士中期/新富士新期)は従来の研究でほぼ確実になっていますが,産総研が近年実施した系統的な放射性炭素年代測定によって,以下のような富士山の噴火履歴の詳細化を押し進めることが出来ました.次の富士山の噴火様式を考えるためには,最近数千年間の噴火履歴(噴火の年代、様式、噴火場所、噴出量等)を正確に知ることが特に重要であることは言うまでもありません.
1)新富士火山と呼ばれる今の富士火山の活動史で,もっとも特徴的なことは2千年程度の時間間隔で噴火様式が大きく変化してきたことです.
図1は縦軸に噴出物から得られた炭や木片の暦年代を,横軸に噴出物の重なる順序(左から右に古くなる)をとって,年代分布を示した物です.最近4千年間に注目すると紀元前1.6千年頃までが主成層火山形成期,紀元前1.6千年頃から紀元前2百年頃までが爆発的山頂・山腹噴火期,紀元前2百年頃以降が山腹割れ目噴火期になります.主成層火山形成期は,山頂噴火や山腹割れ目噴火での玄武岩溶岩の流出による現火山錘の成長で特徴付けられます.この時期の終わり頃には,山体の高さは今とほとんど同じくらいに達していました.
図1.富士山の噴火年代と噴出物(地質標本館2003年特別展から) |
2)爆発的山頂・山腹噴火期では,高い噴煙柱を形成する玄武岩マグマの爆発的噴火が繰り返し起き,東山麓にはS-10からS-22の名前の付いた降下スコリア群が降り積もりました.S-10スコリアからは紀元前1.5千年頃,大沢スコリアから紀元前1.4千年頃,大室スコリアから紀元前1.2千年頃,砂沢スコリアから紀元前1.2千年頃,S-18スコリアから紀元前6百年頃,S-22スコリアから紀元前3百年頃の暦年代を得ています.
この時期の山頂噴火に伴い西斜面を玄武岩火砕流が流れ下っていますが,その発生は紀元前1.5千年頃,紀元前1.3千年頃,紀元前1.0千年頃,紀元前8百年頃の4回です.
3)爆発的山頂・山腹噴火期に発生して西山腹を下った4枚の火砕流堆積物は,火山弾・スコリア・火山灰からなる基質支持で淘汰の悪い堆積物からなり,基底部に淘汰のやや良い細粒火山礫混じりの砂質火山灰からなるサージ堆積部を伴っています.また,上位・下流域には火砕流堆積物を母材とするラハールを伴い,これが山麓の扇状地を構成しています.
図2.富士火山西山麓での火砕流到達域(地質標本館2003年特別展から) |
西側の火砕流堆積物の分布は山頂部の傾斜角34度以上の急斜面分布と良く一致しますが(図2),これは玄武岩火山弾・スコリアの安息角が32〜33度であること深い関係があります.すなわち,34以上の急斜面上では降下した火山弾やスコリアは斜面上に定置することが出来ず,転動せざるを得ません.十分な流量があれば斜面を転動する降下火砕物は粒子流となり,更に大気の取り込みが流れの前面・上面が進んで火砕流へと成長したものと考えています(図3).
図3.火砕流発生の概念図(地質標本館2003年特別展から) |
4)紀元前2百年頃以降は一転して山腹割れ目噴火を繰り返すようになり,山頂噴火は起きなくなりました.新年代値として二ツ塚スコリア,赤塚スコリア,青沢溶岩流など図1上に示した割れ目噴火噴出物で今回新たに年代値を得ています.
この中で重要なことは,南山腹にある年代の決まっていなかった割れ目噴火の噴出物の幾つかが,平安時代の噴火で形成されたことが確実になったことです.北山腹では西暦1.0千年頃に剣丸尾第1・第2溶岩流が相次いで噴出しましたが,南山腹でもほぼ同じ頃に不動沢溶岩(Fd),日沢溶岩流(Ns)が噴出していたのです(図4).また,新しく見つかった須山胎内溶岩流(Syt)からも西暦1.1千年頃の暦年代が得られました.
この時期の噴火活動は現在確認出来る歴史記録より数が多く,さらに今後も増えると思われます.
図4.南山腹の噴火割れ目群.津屋(1968)富士火山地質図を加工(CD-ROMバージョンに加筆) |