1.はじめに
1707年の宝永噴火以降、富士山にはっきりした噴火の記録はありません。富士山の火山活動は、休んでいるのでしょうか。
火山の地下数kmから数十kmにはマグマの溜まりがあって、さらに深いところでできたマグマが、一旦、このマグマ溜まりに蓄えられ、ある程度マグマが溜まると地表に向かって動き出して噴火が発生すると考えられています。地表には噴火の兆候はなくても、地下深部では着々と噴火の準備が進行しています。富士山でも地下のマグマ溜まりの様子がわかれば、噴火の危険性について知ることができるはずです。
残念ながらマグマ溜まりの様子を直接、観察することはまだ現在の技術ではできませんが、火山で引き起こされる地震や地盤の変動を観測することによって、間接的ながら火山の地下を探ることはできるようになってきました。富士山で行われている火山観測によってわかってきた現在の富士山の活動状況と、噴火を予知する技術の現状についてご紹介いたします。
2.現在の富士山の火山活動
(1) 低周波地震活動
火山で起きる地震には、ふつうの地震と火山特有の地震があります。ふつうの地震は岩盤にかかった力による断層の急激なずれが原因です。火山ではふつうの地震よりゆっくりした振動の地震が起きることがあり、低周波地震と呼ばれています。
活動の活発な火山の火口周辺の浅い場所で、しばしば低周波地震が観測され、マグマや熱水などによって引き起こされると考えられています。関東地方から東海地方にかけて地震観測網が整い始めた1980年代のはじめ頃に富士山でも低周波地震が発生していることがわかりました(図1)。この地震の発生している深さは、10kmから20kmくらいの範囲で、それまで良く知られていた火山でよく起きる低周波地震より深い場所です(図2)。
図1 富士山で観測される低周波地震(左)とふつうの地震(右) |
図2 富士山の低周波地震の震央分布と活動度 |
富士山の低周波地震が見つかった頃から日本の多くの火山や海外の火山でもこのような深い場所で発生する低周波地震が見つかるようになりました。ほとんどの場合、深い低周波地震は噴火とは関係なく発生しているように見えますが、なかには噴火など火山活動活が活発になったときにたくさん発生する場合もあります。このため地下深部のマグマの移動などと関連して発生しているのではないかと考えられていますが、まだ良くわかっていません。
富士山で観測される低周波地震の原因もまだ解明されていませんが、富士山の地下10〜20kmでは、現在も火山活動が継続していることを示す証拠と考えられています。
(2) 2000年−2001年の低周波地震活発化
富士山の低周波地震は、多少の変動はあるもののほぼ一定の割合で発生していました。ところが2000年10月頃から発生頻度が急激に高くなり、2001年5月までに過去20年間に観測された回数と同じ程度の地震が発生しました(図2)。
その後、現在まで低周波地震の活動は活発化する前の平常の水準に戻っています。低周波地震が活発化した時期に、富士山の傾斜計などにはマグマの上昇を示す地殻変動の異常は見られず、活動の活発化は富士山直下の限られた場所だったようです。
3.噴火予知の現状と見込み
ある程度の規模以上の噴火が発生するには、地下から新たなマグマが地表に向かって上昇してくることが必要です。GPSや傾斜計、高感度の地震計などの現在の観測技術によって、このようなマグマの移動が引き起こす異常な地殻変動や地震活動の活発化を観測することができます。それによって噴火の可能性が高まっているかどうかをある程度、知ることができるようになりました。
ただしマグマが地表に到達して噴火するのか、そしてどのような噴火を引き起こすのかについては、観測だけで予測するのはまだ難しいのが現状です。噴火予知では、観測される異常現象の時間的な変化を総合的に判断して活動を予測していますが、図3に示すように予測される活動の範囲を時間とともに的確に絞っていくことができるよう、現在も研究が続けられています。
図3 時間とともに活動の可能性の幅を絞っていく火山活動予測の例 |