火山の活動によって生ずる災害には,軽微な窓ガラスの破壊から,多数の人命の損失,世界的な気温の低下まで,様々な種類がある.多様な火山災害を,原因となる火山現象に基づいて,表1に分類する.
原因 |
災害の要因 |
災害の内容 |
場所と範囲 |
---|---|---|---|
ガスの噴出 |
ガスの充満 |
中毒死,窒息死 |
近傍の窪地等 |
溶岩の噴出 |
溶岩流 |
建物や道路等の破壊 |
山腹,山麓 |
テフラの噴出 |
火砕流 |
生命,建物等の破壊 |
山腹,山麓 |
降下火砕物の堆積 |
農地,建物等の破壊 |
周辺の風下側 |
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火山灰の浮遊 |
航空機の飛行障害 |
大気中 |
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エアロゾルの浮遊 |
気温の降下 |
全世界 |
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爆発 |
爆風の飛来 |
生命,建物等の破壊 |
火山近傍 |
音波の伝播 |
窓ガラス等の破壊 |
火山近傍 |
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噴石の直撃 |
生命,建物等の破壊 |
火山近傍 |
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マグマの活動 |
地震,地殻変動 |
建物等の破壊 |
火山近傍 |
山体崩壊 |
岩屑流,土石流,泥流 |
生命,建物等の破壊 |
山腹,山麓 |
融水 |
泥流 |
生命,建物等の破壊 |
山腹,山麓 |
テフラの堆積 |
土石流,泥流 |
生命,建物等の破壊 |
山腹,山麓 |
2次災害 |
洪水,津波 |
生命,建物等の破壊 |
火山周辺 |
災害の原因で最も重要なのは,火山から噴出する溶岩,テフラ,火山ガスなどの噴出物によるものである.溶岩は,マグマが液体状態を保ったまま,地表に流れ出たものである.テフラとは,爆発的な噴火の過程で砕かれたマグマの破片のことで,細粒の火山灰から巨大な噴石まで,様々な大きさのものがある.火口や噴気孔などから噴出する火山ガスは,マグマから放出された部分もあるが,大半は地下水などが二次的に加熱され,気化したものである.
火山災害の性質は,噴火が爆発的かどうかによって異なる.爆発性の低い噴火は,マグマを溶岩として穏やかに噴出する.主な災害は,溶岩流による建物,農地,道路などの破壊である.溶岩流は,流動性のよい玄武岩質溶岩の場合,火口から数十kmの距離に達することがある.ただし,流下に時間がかかり,避難する余裕がある場合が多いので,溶岩流で生命が失われることは少ない.
爆発的な噴火は,テフラや古い岩石の破片を激しく噴出する.その噴出量は大噴火では1立方キロを越える膨大な量に達する.テフラの内,火山灰を主とする細かい粒子は,空気と混ざり合って雲状の流体を形成する.流体の中では,マグマの破片から放出されたり,外から取り込まれたガスが,激しい流れをつくり,テフラを浮いた状態に保つ.マグマの熱でガスが膨張すると,この流体は浮力を獲得して,噴煙として鉛直に上昇する.浮力が不十分な場合には,流体は火砕流となって山腹を流下する.
高く上昇した噴煙は,テフラを広域に降下させ,細粒の火山灰を時に全世界に拡散する.大規模な噴火が起こると,火山の近傍や風下側では大量の火山噴出物が地上を覆い,建物や農作物が壊滅的な被害を受ける.また,空中に浮遊する火山灰は,航空機の飛行を妨げる.大量の火山灰と火山ガスが,微粒子(エアロゾル)として成層圏に運び上げられると,長期間浮遊して太陽光の入射を妨げ,世界中の気温を下げる.
火砕流は,空気に近い流動性をもつために,流下速度は時速100km前後の高速になる.マグマの熱で数百℃に加熱されていることもあり,流路に居あわせた生物に大きな脅威となる.火砕流に襲われた市町村が,ほとんど全滅した例もある.
爆発的な噴火で生じた爆風(ブラスト)は,音速を越える高速度でテフラを周辺に噴射し,樹木などをなぎ倒す.爆発に伴う音波(空振)は,周辺に伝播して窓ガラスなどを破壊する.細粒のテフラが,空気と混合して噴煙や火砕流を生むの対し,粒径の大きな噴石は,爆発で加速され,弾道を描いて山腹や山麓を直撃する.
山腹に堆積したテフラが,降雨などによって流動化されると,泥流となって斜面や河川を流下する.水の量がもっと少ない土石流,逆に水が主要な構成物質となる洪水を,泥流と併せてラハールと総称する.それに対して,岩屑流は,乾いた岩石が雪崩のように崩れ落ちる現象である.これらは,火砕流と並んで,周辺に大災害をもたらす極めて危険な現象である.
噴火で放出された熱は,雪や氷を融かして,泥流を誘発することがある.マグマが貫入して山頂部が大きな歪を受けたり,強い地震動によって火山が揺すられたりすると,山体が崩壊して,岩石や土砂を岩屑流,土石流として山麓に流し出し,河川沿いに泥流を発生させる.岩屑流,土石流,泥流は,川や海に流れ込んで洪水や津波を起こし,更に広い範囲に深刻な2次災害をもたらす.津波は海底噴火によっても引き起こされる.
2.火山災害の規模と影響する範囲
大規模な噴火が頻発すると,広域に深刻な火山災害が絶えない.幸いなことに,大きな噴火ほど多量のマグマの蓄積を必要とするために,発生の頻度は低くなる.1立方キロ程度のマグマを噴出する歴史上の大噴火は,ひとつの火山について見ると,大体数十〜数百年の間隔で発生する.それより噴出量が1桁以上大きく,カルデラを造るような巨大噴火は,数千〜数万年の間隔で起きる.逆に,噴出量が1桁以上小さい中〜小噴火は,数年〜数十年程度の間隔で繰り返す.
表2は,死者1000人以上を出した世界の火山災害である.これを見ると,大災害を導く原因に何種類かあるのに気づく.ひとつは,噴火自体の規模が大きく,影響する範囲が広い場合である.1815年にタンボラ火山で発生した噴火は,噴出物の総量が150〜200立方キロに達する歴史上最大規模の噴火で,それに対応して火山災害も甚大であった.2番目のタイプは,火砕流や泥流などの流れが人工密集地を直撃する場合である.1902年のプレー火山の噴火では,火砕流によってサン・ピエール市が,また1985年のネバド・デル・ルイス火山の噴火では,泥流によってアルメロ市が,ほぼ完全に破壊された.第3のタイプは,噴火で洪水や津波が誘発され,それが広域に2次災害を生む場合である.1883年のクラカトア噴火では,爆発により火山島の大半が破壊され,同時に津波が発生した.津波はジャワ島西部とスマトラ島南部の沿岸を襲い,大きな被害を生んだ.第2,第3のタイプは,火山の立地条件によっては,噴火の規模が余り大きくなくても,極めて深刻な災害を生む.
年月日 |
火山(国) |
死者 |
摘要 |
---|---|---|---|
79.8.24 |
ベスビオ(イタリア) |
2000以上 |
火砕流,テフラによりポンペイ等埋没 |
1586 |
クルー(インドネシア) |
10000 |
ラハール |
1631.12.16 |
ベスビオ(イタリア) |
3500以上 |
溶岩流,テフラ,ラハールによる.家畜6000頭の死.VEI4 |
1638 |
ラウン(インドネシア) |
1000 |
火山灰 |
1672.8.4 |
メラピ(インドネシア) |
3000 |
火砕流,ラハール.多数の集落壊滅.VEI3 |
1711.12.10-16 |
アウ(インドネシア) |
3000 |
ラハール.VEI3 |
1741.8.11 |
渡島大島(日本) |
1475 |
津波が北海道沿岸に.流失家屋1475 |
1760.9 |
マキヤン(インドネシア) |
2000 |
ラハール |
1772.8.11-12 |
パパンダヤン(インドネシア) |
2975 |
爆発,山体崩壊.家畜1500.VEI3 |
1783.6.8-11月 |
ラキ(アイスランド) |
9350 |
テフラ噴出による農作の阻害,餓死.家畜も大半が餓死.VEI4 |
1783.8.5 |
浅間(日本) |
1151 |
爆発,テフラ,火砕流,泥流,洪水.流失家屋51.VEI4 |
1792.5.21 |
雲仙岳(日本) |
15000 |
眉山の山体崩壊,有明海に津波 |
1814.2.1 |
マヨン(フィリピン) |
1200 |
火砕流,火山灰,溶岩,ラハール.VEI4 |
1815.4.5-12 |
タンボラ(インドネシア) |
92000 |
爆風,噴石などにより12000人.それ以外は餓死.VEI7 |
1822.10.8-12 |
ガルンガン(インドネシア) |
4011 |
大爆発,泥流.村落114全壊.VEI5 |
1845.2.19 |
ネバドデルルイス(コロンビア) |
1000 |
泥流.VEI3 |
1856.3.2 |
アウ(インドネシア) |
2806 |
ラハール |
1883.8.26-28 |
クラカトア(インドネシア) |
36417 |
大爆発,津波.農地壊滅,村落全壊165.VEI6 |
1892.6.7 |
アウ(インドネシア) |
1532 |
ラハール.VEI3 |
1902.5.7 |
スフリエール(西インド諸島) |
1680 |
火山灰,火砕流.VEI4 |
1902.5.8 |
プレー(西インド諸島) |
28000 |
火砕流によりサンピエール全滅 |
1902.8.30 |
プレー(西インド諸島) |
2000 |
火砕流 |
1911.1.30 |
タール(フィリピン) |
1332 |
マグマ水蒸気爆発,ベースサージ,津波.VEI4 |
1919.5.19-20 |
クルー(インドネシア) |
5100 |
ラハール.家屋9000,家畜1571.VEI4 |
1930.12.18 |
メラピ(インドネシア) |
1369 |
火砕流,ラハール.家屋1369,家畜2140.VEI3 |
1951.1.21 |
ラミントン(パプアニューギニア) |
2942 |
火砕流,降下火砕物.VEI4 |
1963.2.19-5.16 |
アグン(インドネシア) |
1148 |
火砕流,ラハール.VEI4 |
1982.3.28-4.4 |
エルチチョン(メキシコ) |
2000 |
巨大な噴煙,火砕流.VEI5 |
1985.11.13 |
ネバドデルルイス(コロンビア) |
24740 |
融水による泥流.家屋5680.VEI3 |
1986.8.21 |
ニオス湖(カメルーン) |
1700 |
谷に沿ったCO<2Sガスの流下.家畜3000 |
災害がどの範囲まで及ぶかは,火山の大きさや地形の特徴,噴火の規模や様式,噴火発生時の気象条件などに依存する.噴石の飛来や爆風に伴う災害は,火山地域やその近傍に限定される.溶岩流,火砕流,岩屑流,土石流,泥流は,地形に拘束されて低い方に向かうので,被災もその流域に偏る.流れに襲われる範囲は,火山の山腹から山麓に及び,そこに存在する生命,建造物,道路,田畑を含めて,ほとんど全てが破壊される.火山ガスの濃集する場所も地形に拘束されるが,生命に危険な程の濃集が起こるかどうかは,風の状態に依存する.噴煙とともに上昇したテフラは,火山の風下側の広い範囲に分散し,降下火砕物は,火山から遥かに離れた地域にも堆積する.成層圏に上がったエアロゾルの影響は,全世界に及ぶ.
3.セント・ヘレンズ山の山体崩壊
大災害をもたらす噴火に,山が崩れてなだれ落ちる山体崩壊がある.1792年には雲仙岳の眉山が山体崩壊を起こし,岩屑流を有明海に注ぎこんで,津波を発生させた.津波などによって15,000人の死者が出て,日本の火山災害史上で最悪の惨事となった.1888年に磐梯山で発生した山体崩壊は,山麓の村落を埋め立て,461人を死亡させた.
米国のセント・ヘレンズ山では,1980年に山体崩壊が発生したが,文明国における最近の出来事であったために,噴火の経過や災害が詳しく調べられた.セント・ヘレンズ山は,噴火前は富士山型の美しい成層火山であったが,山体崩壊により山頂部がえぐり取られ,馬蹄形の崩壊カルデラがあとに残された(図1).
図2. 山体崩壊を起こしたセントヘレンズ山の山頂部. |
前兆的な火山の活動は一ヶ月半前の水蒸気爆発に始まり,標高2950mの山頂の北部で,100mを越える隆起が観測された.5月18日には,地震とともに,この部分から山体崩壊と地滑りが発生した.その直後に爆発が起こり,爆風(ブラスト)は山の北30kmの範囲を襲って,樹木などをなぎ倒し(図2),57人を死亡させた.崩落した物質は岩屑流となって約20km先まで達した(図3).爆発的な噴火は,噴煙を19kmの高さに上げ,東方に多量の火山灰を降らせた.また,直前に形成された岩屑流堆積物の上に,火砕流を流し出した.岩屑流は,融水,湖水,河川の水を混入して泥流となり,120km先のコロンビア川まで到達した.泥流のために,船による物資の輸送が長期間途絶えた.この噴火から一カ月ほど経つと,崩壊カルデラ内部に溶岩ドームが成長し始めた.以後数年以上にわたって,溶岩ドームの成長と,爆発による破壊が繰り返された.
図2. セントヘレンズ山の噴火(1980年5月18日)で、爆風(ブラスト)によってなぎ倒された樹木と岩屑流および泥流の跡. |
図3. セントヘレンズ山の噴火(1980年5月18日)に伴う火砕流、岩屑流、泥流の分布と爆風(ブラスト)による森林の倒壊方向(損害保険料率算定会「火山災害の研究」による). |
4.噴火予知
火山災害に有効な対策をとる上で,噴火がいつ起こるかを予測することは重要である.比較的大きな噴火になると,適当な火山観測がなされていれば,噴火前に何らかの異常が捉えられることが多い.例えば,火山の直下で地震の頻度が高まる.微小な地震ばかりでなく,規模の大きな地震も起こり出す.単調な波形をもつ火山性微動が発生し始める.マグマの蓄積や移動に伴って,火山体が膨張する.マグマの地下浅部への上昇に対応して,地熱の異常が温度や電磁気の観測にかかる.噴気の量が増えたり,火山ガスの化学組成に変化が見られる.
これらの前兆現象をうまく活用して,防災に役立てた例も少なくない.1991年に発生したピナツボ火山噴火への対応は,その成功例である.この噴火は,小規模な水蒸気爆発で4月2日に始まった.その3日後に,フィリッピン火山地震研究所は,米国地質調査所の協力を得て,地震計などを用いた臨時観測を開始した.また,今後想定される火山現象に対応して,どのような警報を出すかが決められた.警報は,重要度を表す6つのレベルで表現された(表3).次第に高まる火山活動を見ながら,6月5日にレベル3の警報が,7日にレベル4の警報が出された.予測通りに,かなり規模の大きな噴火が6月9日に発生し,西側の山腹を5kmにわたって火砕流が覆った.これに対応して,警報のレベルは5に上げられ,火口から20km以内に住む住民に避難勧告が出された.クラーク空軍基地から,兵士とその家族15,000人が避難を開始したのは,この時点であった.12日の噴火で警戒区域の範囲は更に30kmに拡大された.6月15日の大噴火が発生したのは,その後であった.
レベル |
基 準 |
意 味 |
---|---|---|
0 |
静穏 |
予測可能な期間内に噴火なし |
1 |
小規模の地震,噴気など |
マグマ,熱水,地殻の活動あり噴火は差し迫っていない |
2 |
中程度の地震などの活動にマグマの関与が認められる |
マグマの貫入の可能性いずれ噴火に至るかもしれない |
3 |
火山性地震,地盤変動の加速,噴気の増加など,高く上向きの活動 |
活動の上昇傾向が続くと,2週間以内に噴火が発生しうる |
4 |
ハーモニックな微動や低周波地震など,強度の活動 |
24時間以内に噴火が発生しうる |
5 |
噴火が進行中 |
噴火が進行中 |
この噴火で,警告によって避難がなされなければ,火山災害ははるかに悲惨なものになっただろう.しかし,噴火前に見られるのと類似の異常は,平常時にも表れることがよくあり,その検出から噴火が確実に起こるとは,一般に言い切れない.同じ基準を用いて,予知が空振りに終ったとしても不思議ではなく,予知の成功は多分に好運によるものだった.
現状では,火山の異常を察知しても,噴火が本当に起こるのか,起こるとしたらいつなのかを,正確に予測することは難しい.噴火の様式や規模に関して,また噴火がどう推移していつ終るかに関しては,過去の経験に頼るしかない.予測内容を抜本的に向上させるためには,地下に分布するマグマの量や状態を知り,その動向を物理的な計算から予測できるようにする必要がある.一方で,不完全な情報を最大限活用することも重要である.ピナツボ火山の例に見るように,観測データを警報のレベルと対応させることは,限界をわきまえれば,現実に役に立つ.情報の不完全さの程度を,確率で表現することも検討に値しよう.