火山についてのQ&A |
≪前のQ&A≪ ≫次のQ&A≫
|
Question #1350 | |
Q |
はじめまして。お忙しいところ、失礼します。現在私は愛知県に住んでいるのですがごく最近、実家である静岡の家族から以下のような話を聞きました。それは、富士山の頂上の積雪が以前より非常に少なく、これは富士山のマグマ活動が始まったためだと地元の新聞で報じられていたというのです。(実際私もネット上で確認しました。)実家は富士市近辺ですので非常に心配です。そのうえ最近ではあちらこちらで地震が絶えません。静岡県中部でも小規模な地震が増えているように思います。昔からいつか東海大地震がまた来ると言われていますし、地震を引き金とした火山噴火も十分考えられると思います。そこで富士山の現在のマグマ活動と積雪の減少の関係について詳しく知りたいのでよろしくお願いします。また、そのような最新情報をネット上で公開しているところがありましたらぜひ教えてください。 (12/17/00) Zitrone:大学生:21 |
|
A |
富士山の積雪が,ついこの間まで平年より少なかったことは事実でしょう(その後 12月10日に降った雪で今はすっかり真っ白になりましたが).おかげで今年は12月上 旬でも5合目付近の地質調査ができました.また,富士山の地下10~20km付近で定常 的に起きている長周期地震(おそらくマグマ活動に起因する地震)の回数が,今年 10月頃より多くなっていることも事実です.このことは気象庁から公表されている資 料で見ることができますから,それにもとづいた報道もなされたのでしょう. しかし,それをもって積雪の少なさを火山活動と関連づけるのは,あまりに短絡的 なものの見方だと思います.富士山下の長周期地震は観測開始以来,年に十数回から 数十回程度起きている定常的なものです.つまり,もともと富士山のマグマ活動は地 下深くでずっと起きてきたのです.10月よりその回数が多くなったというだけです. もちろん科学技術庁や気象庁では活動の推移を注意深く見守っていますが,その深 さは別に浅くなってきてはいませんし,それ以外の山体の膨らみなどの異常も今のと ころ起きていません.現時点では富士山下のマグマが上昇を始めた証拠はありません. 活動は地下深部にとどまっています. ですから,今の段階で「非常に心配」するのは,明らかに心配のし過ぎです.ちな みに,初冬の富士山には積雪が少ない年もありますし,積雪の多い年もあります.も し雪を溶かすほど地熱活動が高まれば,積雪の少なさだけにとどまらない様々な異常 が発見されるでしょうが,そういう報告は今のところ一切ありません. なお,「静岡県中部で小規模な地震が増えている」というのは事実ではありません. むしろ,ここ2~3年逆に地震が少なくて地震学者に注目されています.東海地震と富 士山噴火の間にはおそらく密接な関係があると私も思いますが,東海地震自体がそれ ほど差し迫っておらず,おそらく21世紀なかばに南海地震と一緒に起きるだろうと考 えている地震学者が(あまり表には出ませんが)数多くいます. おそらく今一番大切なことは,この機会に富士山が生きている火山であることを再 認識し,当面はそれほど心配ないとしても,将来いつかは起きるであろう噴火に備え た防災対策やまちづくりを着実に進めていくことだと思います. なお,残念なことに気象庁や気象協会はネット上での情報発信にそれほど積極的で はなく,今のところ三宅島などの特定の火山を除いた活火山(富士山をふくむ)の最 新情報をネット上には掲載していないと思います.こういうところは早急に改善して いってもらいたいものです. (12/22/00) 小山真人(静岡大学・教育学部・総合科学教室) |