火山についてのQ&A |
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Question #292 | |
Q |
箱根についての質問です。先日、学校の旅行へ箱根へ行き、箱根が大きなカルデラであることを知りました。現在のようになるまでに、いろいろと噴火を繰り返したそうなのですが、それがいつ頃、どれくらいのものだったのかを知りたいです。あと、芦ノ湖スカイラインの三国山のあたりに、「命の泉」という涌き水があるところがあったのですが、なぜその様な高所に湧き水ができたのかもよければ教えてください。
(10/19/99) |
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A |
箱根火山の噴火の歴史について
箱根火山が噴火を始めたのは約50万年前ごろからとされています。そのころは 玄武岩質〜安山岩質のマグマが伊豆大島の1986年の噴火(ストロンボリ式噴火や サブ・プリニー式噴火と呼ばれるタイプ)や桜島でしばしば起こるような爆発 (ブルカノ式噴火)のような噴火をくりかえし、溶岩流やスコリア(穴のたくさ んあいた黒い火山れき)、火山灰の積み重なりからなる富士山に似た成層火山を つくっていたと考えられています。しかし、おおきな一つの火山というよりは、 金時山や明神ヶ岳などのやや小さい成層火山がいくつか集まった火山群であった ようです。スコリア丘(ストロンボリ式噴火でできた小さな丘)や溶岩ドームの 小さな火山もあちこちに沢山つくられました。 噴火のイメージとしては伊豆大島の1986年の噴火(ストロンボリ式噴火やサブ・ プリニー式噴火と呼ばれるタイプ)、桜島でしばしば起こるような爆発(ブルカ ノ式噴火)が挙げられると思います。 25万年くらい前になると、デイサイト(石英安山岩)質〜流紋岩質のマグマが 大規模で爆発的な噴火をおこなうようになりました。フィリピンのピナツボ火山 の1991年の噴火のように、噴出した軽石(穴のたくさんあいた白い火山れき)や 火山灰は雨のように降り積もったり(プリニー式噴火と呼ばれるタイプ)、大規 模な火砕流となって流れ下って裾野一帯を埋め尽くしたりしました。そのような 破局的な噴火が火山体の中央部で何回かおこなわれたために、地下の火道周辺の 岩盤やそれまでに出来ていた火山体は大きく破壊され、上に向かって開いた大き な窪地(カルデラ)が出来たとされています。火山体の破壊され残ったところが 古期外輪山と呼ばれる環状の山稜となりました。また、この時期にもカルデラの 外の古期外輪山の御殿場市側と真鶴町側の地域では玄武岩質〜デイサイト質マグ マの小規模な噴火が何回もおこっていて、スコリア丘や溶岩ドームの小さな火山 が沢山つくられています。 15万年くらい前から8万年くらい前までの間も軽石や火山灰を吹き上げるよう な噴火が続きましたが、カルデラを広げるような大きな噴火は下火になりまし た。また溶岩流も流出するようになり、カルデラの中は屏風山や鷹ノ巣山などの あたらしい火山体(新期外輪山と呼ばれます)で埋め立てられてしまいました。 8万年前から5万年前までの間にデイサイト質〜流紋岩質のマグマが大規模な爆 発的な噴火を数回おこない、新期外輪山の西部を破壊しふたたびカルデラを形成 しました。5万年前の大噴火の堆積物は良く調べられており、南関東一帯に軽石 が降り積もり(東京軽石層と呼ばれています)、火砕流は四方に流れ、60km以上 はなれた横浜市にまで達したことが知られています。 5万年前よりあとは安山岩質のマグマが噴出しカルデラ内に神山や駒ヶ岳、双 子山など溶岩流や溶岩ドームをたくさんつくりました(中央火口丘と呼ばれてい ます)。これらの溶岩が噴出する際、溶岩表面の岩塊が崩落してしばしば火砕流 が発生しました。 最後の溶岩の噴出は約3千年前とされています。このときはまず磐梯山の1888 年の噴火のように、神山の不安定な急斜面が大きく崩れ(水蒸気爆発がひきがね になったのではないかといわれています)、山崩れの堆積物は川をせき止め芦ノ 湖をつくりました。その後間をおいて(200年ぐらい)、崩壊でできた馬蹄形の 窪地のなかに、雲仙火山の1990年〜1995年の活動のように火砕流を発生しながら 溶岩ドームが成長して現在の冠ヶ岳をつくりました。 3千年前以降は、水蒸気爆発のような小規模な噴火のおきた可能性はあると考 えられますが、具体的な噴出物はしられていません。歴史時代に噴火の記録もな いようです。しかし現在も大涌谷などで激しくガスが噴出している姿をみると、 エネルギーを秘めた油断のならない火山であることが感じられるでしょう。 以上のような箱根火山の噴火の歴史は箱根での地質調査だけでなく、周辺、特 に風下に位置する大磯丘陵に降った火山灰の積み重なりの調査研究によって明ら かにされてきました。しかしなぜ噴火のしかたが複雑な変化をたどったのかはま だ分かっていません。 「命の泉」について 「命の泉」は私も調査で訪れたことがありますが、芦ノ湖スカイライン沿い、古 期外輪山の峯の一つである三国山の山頂から南南西へ300m程はなれたところにあ ります。ここでは風化した火山灰の層の上を安山岩質の溶岩流が覆っているのが 観察されます。火山灰の層の上部は溶岩流が覆ったときに熱で焼かれて赤くなっ ています。泉の水は溶岩と火山灰の境目から湧き出ているようです。風化した火 山灰層は粘土になっているので水を通しにくく、不透水層となっているのに対 し、溶岩のほうは割れ目がたくさんできているので水の通り道になっているので しょう。この境目は西に10〜15°位の角度で傾いています。おそらく三国山山頂 付近に降った雨水が地下ふかくまで浸み込む途中で不透水層に行き先をはばま れ、不透水層の上面にそって西へ向かって流れて涌き出したと考えられます。こ の泉に雨水を集める範囲は大きく見積もってもせいぜい400m四方ぐらいしかあり ませんが、それだけ箱根の高所は雨が多いということではないでしょうか。 (10/30/99) 長井雅史(東京大学・地震研究所)
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