火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

火山のできる場所と地球の大構造

大陸地殻・海洋地殻・マントル


Question #63
Q 大陸地殻を形成している岩石が花崗岩と言う事を授業で習いました。また、花崗岩は玄武岩質マグマの結晶分化作用で作られる事も習いました。しかし、この2つの事と同時に、大陸地殻に存在する大量の花崗岩全てが玄武岩マグマの結晶分化作用で作られたのではないと言う事も習いました。それでは、一体どのようなプロセスを経て、大陸地殻を形成している花崗岩は作られたのでしょうか?授業では、明確な説明がなされなかったのでよろしくお願いします。ただ、花崗岩化作用なる物が存在すると言う事だけ先生から聞き出せました。 (12/21/97)

地学選択の勇気ある高校生:高校生:17

A
 学校では大陸地殻は上部を占める花崗岩層と下部を占める玄武岩層からでき ていると習いますが,大陸地殻がどのようにして形成されたかは,まだはっき りとは解明されていません.また,花崗岩層の平均組成は「花崗岩」というよ りは安山岩(あるいは閃緑岩)に近いものです.
 大陸地殻の大半を占める安定地塊は始生代などの古い時代に形成されたもの です.始生代の地球の温度構造は現在とは大きく異なっており,地下増温率も 現在よりは高かったと考えられています.そこでは海洋プレートの沈み込むに よって,直接,安山岩質のマグマができる可能性や,沈み込む海洋プレート (玄武岩)自身が融解して,安山岩やデイサイト(安山岩と流紋岩の中間的な もの)マグマができる可能性などが指摘されています.
 花崗岩化作用は,大陸地殻が侵食されてたまった堆積岩などが,融解しない で直接花崗岩になるというモデルです.大陸地殻形成にはマグマが関与してい るはずですから,花崗岩化作用は地殻形成には直接は関係がないでしょう. (12/21/97)

中田節也(東大・火山センター)


Question #532
Q 地球科学系の本を読んでいると「地殻」という言葉と「プレート」という言葉を
よく目にします。それぞれの意味は、本などの説明からだいたいわかるのですが、
「地殻」と「プレート」の違いについてイマイチわかりません。
この2つのものは、同じもの、つまり
「地殻」=「プレート」
として構わないものなのですか?それとも、厳密には違うものなのですか?

この点について、教えていただけますか。お願いいたします。 (05/02/00)

ライアン:大学生:21

A
 どうも読んだ本の書き方がまずかったようですね.
 「地殻」と「プレート」は全く違う概念です.単純に言えばプレート=岩石圏(リ ソスフェア)であり,言いかえればプレート=地殻+最上部マントルです.地表から モホ面までが地殻で,厚さは海洋地域で約5km,大陸地域で約30kmです.その下がマ ントルですが,地下約100kmの深さのマントル中に地震波の速度が数%遅くなる柔ら かい層(低速度層)があり,それより上が硬いプレートです.低速度層はアセノスフ ェア(軟弱圏,軟流圏,岩流圏などと訳す)とも呼ばれます.海嶺や島弧の下では, プレートが薄くてアセノスフェアが地殻の直下まで上昇してきている場所があり,そ こでは地殻=プレートということになりますが,他の多くの場所ではプレートはもっ と厚くて,100km程度の厚さがあるということです.
 地殻は長石を主とした花崗岩や玄武岩・斑レイ岩でできていますが,最上部マント ルは長石を含まないカンラン岩でできています.低速度層ではカンラン岩が部分的に 溶けていると言われています. (5/09/00)

石渡 明(金沢大学・理学部・地球学教室)


Question #2276
Q 突然ですが、マグマと溶岩とマントルと海洋プレートの関係を教えてください。
特に、マグマとマントルの違いが、良く分からないのですが・・・・・
あるHPで、「中央海嶺では、実に地球上で発生するマグマの80%が生産されています。」という記載があったのですが、マグマはマントルなんでしょうか。
中央海嶺とは、プレートが裂けて、マントルが見えているところなのでしょうか。
マグマが冷えると、即プレートになるのでしょうか。
固さだけの違い?なのでしょうか??? (06/05/02)

りょん:会社員:34

A
 基本的には,あたたかくてやわらかいマントルと冷たくてかたいプレートという認 識で いいのですが,マグマのことを考える場合には,若干の修正が必要です.


 まず,マントルとマグマの関係ですが, マントルは固体ですが,圧力が低くなったり温度が高くなったりすると 部分的に融けてしまい,マグマを生み出します. たとえていうなら,マントルとマグマの関係は,かちかちに固まった シャーベットがマントルで,半分とけかけたシャーベットの果汁部分がマグマです.


 マグマとは,地球内部で岩石がどろどろに融けた状態のもの全般をさす呼び名で, マントルがとけてもマグマが生じますし,地殻がとけてもマグマが生じます. これに対し,溶岩は,マグマが地表に流れ出てきたものです. ただし,融けて流れている状態のものも冷え固まった状態のものも, いずれも溶岩とよびます.


 さて,これらをふまえて,海洋プレートとマントルの関係に移りましょう. 中央海嶺は、マントル物質が上昇してきてプレートが作られているところです. プレートは左右に分かれて移動していくので,中央海嶺には深い谷状の地形が 形成されますが,そこでマントルそのものが見えるわけではありません. 上昇してきたマントルは,圧力が低くなるために部分的に融けてしまいます. 先ほどのシャーベットのたとえを借りるならば, ちょうどシャーベットを少し溶かしたたときに果汁の部分と氷の部分とができるよう に, 中央海嶺の地下深くにおいて,マントルにもとけた部分(マグマ)ととけのこり部分 が生じます. マグマ部分はとけのこり部分よりも軽いので,表層近くまで上がってきて 溶岩として海底に噴出したり,噴出できずに表層近くの地中で固まったりします. これが海洋地殻と呼ばれるもので,厚さが5〜10kmあり,海洋プレートの最上層を形 成します. その下側には厚さ30〜40km程度のとけのこり部分からなる層があります. その下にさらに厚さ数十km〜100kmの冷たい(したがって,固い)マントル物質の層 があり, これら全体として海洋プレートを構成します. つまり,おおざっぱに言うと海洋プレートは3層重ねで, 下から順に,マントルと同じ物質で温度が低いだけの層,マントル物質からマグマを 分離して しまった残りの物質の層,分離したマグマが冷え固まった層,からできているわけで す. (06/07/02)

安田 敦 (東大・地震研・地球ダイナミクス)


Question #5393
Q 以前、#2579で質問させていただいた者です。
遅ればせながら、大変わかりやすいご回答ありがとうございました。

文献等で「マグマは液体、マントルは個体」という記述を見かけます。
しかし「マントル対流」という用語があるように、
地球内部では、個体であるはずのマントルが
液体のように流動しているような印象を受けてしまいます。
私は「流動する個体」というイメージがどうしても湧かないのですが、
マントルって、一体どのような物理的性質を持った物なのでしょうか?

「流動する個体」といえば、地球上だと氷河がそうですよね。
氷は個体ですが、確かに流動(変形?)していますね。
マントルも氷のように、力を加えると徐々に変形する性質があるのでしょうか?
似たような性質としては、非常に硬い水飴やアスファルト(ピッチ)のようなものを
イメージすればいいのでしょうか?

もちろん、深度によって性質は大きく異なるのでしょうが、
マントルの比重や硬度などもふくめて、教えていただければ幸いです。

「生」のマントルを目にした人はおそらく地球上には存在しないと思います(笑)が、
仮に、溶解しないようにその場の圧力と温度を保持したまま
マントルのサンプルを採取することが可能だとしたら、
一体どんな物体として観察できるのでしょうか?
非常に硬い岩石ような物ですか?それとも、前述の水飴のような物ですか?

とりとめもなく書いてしまいましたが、
専門家の方々がマントルという物の性質をどのようにイメージしているのか、
教えて頂ければと思います。よろしくお願いします。

(12/19/03)

Takahashi:社会人:34

A 流動するマントルのイメージとして,氷河やアスファルトを思い浮かべるのはあながち間違ってはいません.マントルは短いタイムスケールでは「固い」弾性 体として振る舞いますが,長いタイムスケールでは流体として振る舞う粘弾性体です.ただし,氷や水飴とは違いマントルは何種類もの鉱物が集まった岩石か らできています.

地球の内部は,表層部に地殻(大陸では40km程度,海洋では7km程度の厚さ)が存在し,その下に深さ約2900kmまでマントルと呼ばれる領域が続 いています.こうした区分はもともとは地震波の伝わり方から決めらていました.すなわち,地下数十kmに地震波の伝わる速度が不連続に大きく増加すると ころ(これをモホ面と呼びます)が存在し,この上下で地殻とマントルを区分しています.

ではそうした地震波速度の違いを生じさせたマントルの物質が何かというと,それは「ペリドタイト」と呼ばれる岩石です.マントル全体についてはまだよくわかっていませんが,少なくとも最上部の深さ数百 キロメートルくらいまでの大部分のマントルはペリドタイトからできています.このことは,マントルの物質がプレート運動によって地表に押し上げられた 「オフィオライト」と呼ばれる岩体や火山の噴火によって地下深くから地表に運ばれたゼノリスと呼ばれる岩石片を調べることによって確かめられています. ペリドタイトの60〜70%程度はカンラン石と呼ばれるきれいなオリーブ色の鉱物で占められています.ペリドットという名前で宝石にもなっているので, ご覧になったこともあるかもしれません.

マントルの比重については,地球の自転や公転の速度といった測地学的方法や,地震波速度の解析から,かなりよくわかっています.それによると,比重は浅 いところで3.4程度,一番深くで5.6程度です.硬度についてはいろいろな表現の方法がありますが,その一つである流動性を表現するのに適した「粘性 率」という表現方法を用いると,暑い日のアスファルトの粘性率がおよそ1億〜100億パスカル・秒という大きさであるのに対してマントルの粘性率はその 1兆倍も大きく,とてもゆっくりとしか流れることができません.物質の粘性率は温度や圧力によっても変化するので,マントルの内部で粘性率が場所によっ てどのように変化しているのかは,まだはっきりとはわかっていませんが,プレート運動の解析などから,マントル内部でも数桁の粘性率の違いがあるだろう と考えられています.

余談になりますが,現在では,1ミリ立方にも満たない非常に小さな領域にすぎませんが地球の内部すべての温度圧力を再現できる実験装置が存在します.こ うした装置を用いて,適当な組成の物質を高温高圧の状態においてあげることによって,地球内部の物質の姿を調べることができるようになってきています. 地震波や重力といった様々な物理観測の結果と実験室で再現された高温高圧下の物質の性質を比較することによって,マントル深部がどんな物質でできている のかが,しだいに明らかになりつつあります. (12/20/2003)

安田 敦(東京大学・地震研究所・地球ダイナミクス)