流動するマントルのイメージとして,氷河やアスファルトを思い浮かべるのはあながち間違ってはいません.マントルは短いタイムスケールでは「固い」弾性
体として振る舞いますが,長いタイムスケールでは流体として振る舞う粘弾性体です.ただし,氷や水飴とは違いマントルは何種類もの鉱物が集まった岩石か
らできています.
地球の内部は,表層部に地殻(大陸では40km程度,海洋では7km程度の厚さ)が存在し,その下に深さ約2900kmまでマントルと呼ばれる領域が続
いています.こうした区分はもともとは地震波の伝わり方から決めらていました.すなわち,地下数十kmに地震波の伝わる速度が不連続に大きく増加すると
ころ(これをモホ面と呼びます)が存在し,この上下で地殻とマントルを区分しています.
ではそうした地震波速度の違いを生じさせたマントルの物質が何かというと,それは「ペリドタイト」と呼ばれる岩石です.マントル全体についてはまだよくわかっていませんが,少なくとも最上部の深さ数百
キロメートルくらいまでの大部分のマントルはペリドタイトからできています.このことは,マントルの物質がプレート運動によって地表に押し上げられた
「オフィオライト」と呼ばれる岩体や火山の噴火によって地下深くから地表に運ばれたゼノリスと呼ばれる岩石片を調べることによって確かめられています.
ペリドタイトの60〜70%程度はカンラン石と呼ばれるきれいなオリーブ色の鉱物で占められています.ペリドットという名前で宝石にもなっているので,
ご覧になったこともあるかもしれません.
マントルの比重については,地球の自転や公転の速度といった測地学的方法や,地震波速度の解析から,かなりよくわかっています.それによると,比重は浅
いところで3.4程度,一番深くで5.6程度です.硬度についてはいろいろな表現の方法がありますが,その一つである流動性を表現するのに適した「粘性
率」という表現方法を用いると,暑い日のアスファルトの粘性率がおよそ1億〜100億パスカル・秒という大きさであるのに対してマントルの粘性率はその
1兆倍も大きく,とてもゆっくりとしか流れることができません.物質の粘性率は温度や圧力によっても変化するので,マントルの内部で粘性率が場所によっ
てどのように変化しているのかは,まだはっきりとはわかっていませんが,プレート運動の解析などから,マントル内部でも数桁の粘性率の違いがあるだろう
と考えられています.
余談になりますが,現在では,1ミリ立方にも満たない非常に小さな領域にすぎませんが地球の内部すべての温度圧力を再現できる実験装置が存在します.こ
うした装置を用いて,適当な組成の物質を高温高圧の状態においてあげることによって,地球内部の物質の姿を調べることができるようになってきています.
地震波や重力といった様々な物理観測の結果と実験室で再現された高温高圧下の物質の性質を比較することによって,マントル深部がどんな物質でできている
のかが,しだいに明らかになりつつあります.
(12/20/2003)
安田 敦(東京大学・地震研究所・地球ダイナミクス)
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