火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

火山の恵み・火山活動の影響

火山活動と気候変化


Question #18
Q 火山活動と気候変化について教えてください。 (5/18/97)

中倉:学生2回生:20

A
 爆発的な火山噴火は,大量の火山灰・火山ガスを大気中にもたらします.細 粒の火山灰は成層圏を漂い,一時的に日射量を減少させますが,やがてその大 半は地表に舞い降りてしまいます.一方,火山ガス中にふくまれる二酸化イオ ウは,光化学反応によって硫酸液滴となって数年程度成層圏に滞留し,太陽放 射を散乱・吸収して地表温度を低下させる要因となり得ます.これに対し,火 山ガス中にふくまれる二酸化炭素は地表面からの赤外放射をさえぎるため,そ の量が大量であれば長期にわたって大気温度を高める温室効果をもたらし得ま す.
 このように火山噴火がもたらす物質には,地表温度を高める要因となり得る ものと低める要因となり得るものとがふくまれ,その中には短期的な効果をも たらすものと長期的な効果をもたらすものとがあります.それぞれの物質の割 合や量は,火山によって,あるいは個々の噴火によって異なるのが普通です.
 実際に大規模な火山噴火と時を同じくして気候変化があったかどうかを歴史 記録や考古学的・地質学的記録から調べると,広域的な気候変化(とくに数年 程度の寒冷化)と相関がみられる例がありますが(たとえば,1783年のアイス ランドのラカギガル割れ目噴火や1815年のインドネシアのタンボラ火山の噴火 にともなう広域的な寒冷化),必ずしもそうでない例もあります.もちろん気 候変化の要因は火山噴火だけではなく,エルニーニョなどの海洋変動や,人間 活動に起因する物質の放出が原因となる場合もありますから,火山噴火と気候 変化の関係を調べる際には注意が必要です.

小山真人(静岡大学教育学部)


Question #137
Q フィリピンのピナツボ山や磐梯山が噴火した際、その噴出物によって日射量が 減少し、地球規模で異常気象になったと聞いています。その程度の噴火で異常気象に なるのなら、支笏カルデラや姶良カルデラができたころの気象変化はすさまじいもの ではないかと思えるのですが、過去にそのような火山噴火が原因の激しい気象変動は あったのでしょうか。また、恐竜絶滅の原因として有力視されている巨大隕石の 衝突による気象変動とどちらが激しいのでしょうか。 (10/8/98)

TOKU:会社員:26

A
 まず,問題を整理しておきます.Question#18の回答にも書いたように,気候変化 が起きるためには,日射をさえぎる物質が火山噴火によって成層圏に大量に注入され る必要があります.また,火山灰よりもむしろ二酸化硫黄などのガスの方が,長期間 にわたって気候に影響をあたえやすいことがわかっています.よって,火山噴火と気 候変化の関係を考えるためには,ある噴火について (1)どのくらいの噴出物が地表に出たか(噴出量) (2)噴出物中に,気候変化の原因となるガスがどのくらいの割合で含まれていたか の2点が重要となります.
 世界中の火山で過去に起きた噴火の噴出量を調べるためには,群馬大学早川研究室の http://www.edu.gunma-u.ac.jp/~hayakawa/catalog/index.html  http://www.edu.gunma-u.ac.jp/~hayakawa/catalog/index2.html  が便利です.ここには各噴火の噴火量が「噴火マグニチュードM」として示されてい ます.Mは,噴出量(kg)の対数から7を減じた値です.
 歴史上,実際に気候に顕著な変化(寒冷化)をあたえた噴火として,インドネシア のタンボラ火山の1815年噴火(M=7.1)やアイスランドのラキ山の1783年噴火(M =6.4)が有名です.ピナツボ火山の1991年噴火はM=5.8です.
 ご指摘の姶良カルデラの2万6000年前の噴火はM=8.3,支笏カルデラの4万1000年 前の噴火はM=7.2と巨大ですから,当然気候変化との関係が疑われます.しかし, 最初に述べたように,噴出物中に気候変化の原因物質がどのくらい含まれていたかが 重要ですから,噴出量だけから単純に判断するわけにはいきません.
 噴火時にどの程度の原因物質が含まれていたかの推定には,熟練した測定技術が必 要です.また,実際に気候変化があったかどうかについての記録を地層や氷床中から 調べる研究にも,さまざまな困難がともないます.このようなテーマを研究する研究 者の数も不足しています.
 以上のような理由から,火山噴火と気候変化の関係については,いまだに一級の研 究テーマであり,古い時代のことほど情報が不足している現状です.ご指摘の姶良や 支笏の噴火についても未解明の部分が多く,まだ確固とした答が得られていないと思 います.
 また,ご指摘のような恐竜に代表される多数の生物種を絶滅させた気候変動は,個 々の火山噴火が起こすものよりも,長く深刻なものであったと考えられます.なぜな ら,その時点を境として世界中の地層中の化石種の構成が変化しているからです.こ のような生物相の大きな変化は,ここ数万年間の火山噴火にともなったものとしては 知られていません.
 なお,1995年頃までの研究成果は,
  新版地学教育講座2「地震と火山」東海大学出版会,160-164ページ  によくまとめられていますので,ご覧ください.また,ご指摘の磐梯山の1888年噴火 は,M=3.4の水蒸気爆発と山体崩壊を主とする噴火であり,地球規模の気候変化は 起こしていないとみられます. (10/8/98)

小山真人(静岡大学・教育学部)


Question #5395
Q はじめまして。大学で文学を専攻している者です。
卒業論文のテーマに宮澤賢治の「グスコーブドリの伝記」を選び、
研究しているのですが、火山についての知識がありませんので、お教え頂ければ幸いです。
火山の噴火は太陽を遮断し、地球の気温を下げてしまうことは、
承知の上でお聞きしたいのですが、
もし地球を覆う火山灰を取り除くような技術が存在したとして、
炭酸瓦斯が地球に充満したとしたら、地球の温暖化は可能でしょうか?
それとも、灰以外にも温室効果を妨げる物質が含まれているのでしょうか?
よろしくお願い致します。 (12/21/03)

学生:高校生/大学生:23

A 火山噴火で異常気象の原因となるのは火山灰や二酸化炭素というよりは、亜硫酸ガスが水蒸気中で硫酸ミストとなり、それがエアロゾル(大気中に浮遊する微 粒子)となって太陽光を遮ることによって引き起こされるといわれています。 このようなエアロゾルには日傘効果と温室効果の両方があると言われています。前者は太陽光を遮り地上の温度低下を引き起こすのに対し、後者は地表からの 放射を吸収し温度を引き上げます。このような相反する二つの効果がありますが、太陽光を受ける量の多少が地球の温度に第一に効きます。火山噴火の場合も まず日傘効果の方が効くわけです。 炭酸ガスは温室効果の代表のように言われていますが、最も温室効果のあるのは炭酸ガスより水蒸気のようです。 ホームページで「火山噴火 温室効果 エアロゾル」などと同時に検索するともっと多くの知識を得ることができます。
 (12/21/03)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)