身近の火山:九州・南西諸島
阿蘇カルデラ・阿蘇火砕流 |
|
Question #15
|
Q |
火砕流が海にまでとどいたらどうなるのですか?
(4/25/97)
田中(小):学生:24
|
|
A |
火砕流が海に達した場合,火砕流の密度によって異なった現象が起こりま
す.密度が海水よりも大きな火砕流はそのまま海中に流れ込んでしまいます
し,密度が海水より小さな火砕流は海面の上を走り続けるということが起こり
ます.雲仙普賢岳で見られたブロック・アンド・アッシュフロー(blockand
ashflow)と呼ばれるような火砕流が海に達した場合にはそのまま海中に流入
してしまいますが,カルデラを造るときに発生するような大規模な火砕流は海
面上を走り続けると考えられます.海面上を走る火砕流は,地表との摩擦がな
いことに加え,海面から供給される水蒸気によって流動化が保持されるので陸
上を流走するよりも遠くまで到達します.たとえば,阿蘇火山から約9万年前
噴出した阿蘇-4火砕流は瀬戸内海をこえて山口県でも見つかっています.
火砕流が海中に流入すると,そこで水蒸気爆発が起こることがあります.そ
のような例はニュージーランドや1929年の北海道駒ヶ岳の噴火で知られていま
す.
井村隆介(鹿児島大学理学部)
|
|
Question #72
|
Q |
初めて質問します。
私は、今社会科の時間に火山と人々の生活について調べています。
そこで、初歩的な疑問がわきました。
歴史上、最も大きな噴火はいつ、どこでおこったのですが。
もちろんわかっている範囲でかまいませんのでよろしくお願いします。
(5/3/98)
松田 さおり:中学2年生:13
|
|
A |
人間の歴史に残る最も大きな噴火は,インドネシアのスンバワ島にあるタン
ボラ火山で1815年におきました.タンボラ火山は直径60km海抜2850mの火山で,
この噴火でできた直径6km深さ1kmのカルデラが山頂にあります.1812年から噴
火を始め,15年4月に大きな爆発を起こし7月まで続きました.この時の噴火の
爆発音は1800km離れた場所にまで聞こえたと言います.また,火山の周辺で
は,噴火後3日間は,昼でも真っ暗であったといいます.この噴火の際に放出
された火山灰や軽石の量は150立方kmにも達すると見積もられています.この噴
火で約1万人が死亡し,そのあと餓死・病死者がスンバワ島で38,000人,隣のロ
ンボク島で44,000人が出るなど,死者の総計は92,000人にも達しました.犠牲
者の数でも史上最大でした.また,翌年の北半球の夏は平均気温が0.7度低くな
ったといいます.
これと同じような規模の噴火は,今から約6,400年前の日本でも起きました.
鹿児島の南の海中にある鬼界カルデラを作った噴火です.また,もっと古く
は,鹿児島湾の姶良カルデラ(約22,000年前)や阿蘇カルデラ(約8万年前)を
作った噴火がさらに大きい規模の噴火でした.
(5/5/98)
中田節也(東大・火山センター)
|
|
Question #771
|
Q |
阿蘇のカルデラを形成したときの火砕流は島原半島や宇部市付近まで到達していると聞きましたがこれからもこんなに大きな火砕流が発生する可能性はあるのでしょうか。また、今後これほどの火砕流が発生しそうな火山はどこの火山でしょうか
(07/23/00)
テツヤ:高校生:15
|
|
A |
海を越えて島原半島や山口県まで到達した火砕流とは、約9万年前に噴出した阿蘇
-4火砕流堆積物のことですね。今後も、これほどの規模の火砕流が発生するかどう
か、すなわち阿蘇-5火砕流のイベントがあるかどうかは、現在の火山学では全く分か
らないと言った方がよいでしょう。かつての日本列島では、このような巨大噴火は、
九州、北海道、東北地方で比較的多く見られました。しかし、近い将来、これほどの
火砕流が発生しそうな火山を特定することは、できません。数万年前から数十万年前
までの火山噴出物の研究から知りえた知識をもとに、未来の噴火を予想することは、
大変に難しいのが現状です。
(9/28/00)
鎌田浩毅 (京都大学・総合人間学部・地球科学分野)
|
|
Question #1996
|
Q |
初めまして。
今、火山について調べています。それで、阿蘇山について調べているのですが
阿蘇山は噴火前の高さは富士山を越えていたと聞いた事があります。
その話しは本当なのでしょうか。
本当ならばどのくらいの高さだと言われているのでしょうか。
また、それにまつわるエピソードなどあれば教えてください。お願いします。
(11/05/01)
井上 由香:学生:15
|
|
A |
これまでもよく聞かれた質問です.
阿蘇火山は東西18 km,南北24 kmの非常に明瞭なカルデラ地形をもっています.この
カルデラは,約27万年前から9万年前までに起こった4回の巨大噴火による陥没で形成
されたものと考えられています.外輪山斜面の傾斜をそのまま内側に延ばすと,確か
に富士山のような巨大な成層火山があったのでは?と想像することはできます.しか
し,そうした事実を示す地質学的な証拠はこれまで見つかっていません.
阿蘇カルデラを取り囲む巨大な火山の裾野のように見える斜面は,4回の大規模噴火
時に放出された大量の火山灰や軽石(火砕流堆積物)が埋め立ててできたもので,阿
蘇火山の噴火前には,かなり凹凸のある地形をしていたと考えられます.カルデラの
外輪山を注意深くみると,周りからとび出して高い部分がありますが,これがその凹
凸の名残です.また,それらの高い部分とカルデラの壁には阿蘇火山よりも古い溶岩
が認められ,岩石の種類や年代は場所によって異なっています.これらの事実から,
阿蘇火山が噴火を起こす前(27万年よりも昔),この地域には一つの大きな火山では
なく,多くの独立した火山体があったことがわかっています.
阿蘇にはかつて富士山を越える高さの火山がそびえていた…・・何とも夢のある話で
すが,これまでわかっている地質
の調査結果から,そうした事実は残念ながらなさそうです.
(11/08/01)
宮縁育夫(森林総合研究所・九州支所)
|
|
Question #2343
|
Q |
過去、北海道や九州等のカルデラにおいて想像を絶する規模の噴火が起きていたと知り大変驚いていますが、日本で過去数十万年のうちで1番規模の大きかった噴火はどの噴火で、どれほどの噴出物を出したのでしょうか? また、この種の噴火では巨大な火砕流が発生し100km以上先にまで達することもあるそうですが、このような火口からはるか先にまで到達した火砕流でも、まだ高温を保っているのでしょうか?
(06/23/02)
しろしろ:フリーター:24歳
|
|
A |
「火山噴火の規模で、一番大きいのは何か」というご質問に答えるのは、実は、け
っこう難しいのです。地震と比べると、噴火現象はきわめて多様なので、規模を単純
に定義するのが簡単ではないからです。しかし、多くの場合、火山爆発指数
(Volcanic Explosivity Index)というのが、使われています。これは、おもに噴出
量によって、噴火の規模を段階別に分けたものです。この指数に従うと、日本で最大
級の噴火は、9万年前に阿蘇カルデラから出た阿蘇4火砕流や、2万5千年前に鹿児島湾
内の姶良(あいら)カルデラから出た入戸(いと)火砕流の噴火が、東西の横綱とい
えます。いずれも数100立方キロメートルの噴出物を出しています。
ただし、どちらが一番かと聞かれると、やはり悩みますね。というのは、比べるべ
き噴出量として、地上に残った堆積物以外に、空高く舞い上がった細かい火山灰の量
も考えなければならないので、その見積もりがたいへん難しいからです。そこで、こ
こでは、阿蘇4火砕流と入戸火砕流の両噴火が、最大級だと述べたわけです。
過去数十万年前までさかのぼると、90万年前に噴出したアズキ火山灰(今市火砕
流)や100万年前に出たピンク火山灰(耶馬溪(やばけい)火砕流)も同じくらい巨
大な噴火の痕跡を残しています。両者はいずれも、大分県の猪牟田(ししむた)カル
デラから噴出したものです。しかし、どちらも古い堆積物なので、いったいどれが最
大かを決めようとしても、なかなか決めがたいと言うのが実状です。火山の規模の決
め方に関しては、火山研究者の間でも様々な考え方があります。第1位を決めるの
は、それほど重要ではないのではないか、という気も、私にはしています。
上に挙げた阿蘇、入戸、今市、耶馬溪のいずれの火砕流も、巨大噴火の産物です。
大規模な火砕流が発生し、中には150キロメートル先まで流れ下ったものもありま
す。これらの堆積物は高温であったために、流れた先で溶結凝灰岩(ようけつぎょう
かいがん)となることもあります。つまり火山灰や軽石など、いったんバラバラの形
になった固体が、再び液体に近い状態となったのです。軽石や火山灰が溶結凝灰岩と
して固まるには、摂氏700度を超すような高温であったことが、分かっています。さ
らに興味があるようでしたら、最近私が書いた火山の入門書(『火山はすごい』
PHP新書)の「阿蘇山」の章を参考にしてみて下さい。
(07/23/02)
鎌田浩毅(京都大学・ 総合人間学部・地球科学分野)
--
|