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薩摩硫黄島火山の硫黄岳山頂火口には、1997年頃から深い縦穴の火孔が形成し、そこから火山ガスと共に火山灰が放出されています。しかし、火山灰
は、過去に火山ガスによって変質を受けてできたケイ石を主体としていて、新鮮なマグマは出ていません。おっしゃるように、火口の下に堆積している昔の噴
出物の変質したものが、火山ガスにより噴き上げられている、と言えます。
通常、火口から火山ガス以外(マグマ、岩石など)が噴出する現象を噴火と呼びます。では、火山ガスの勢いで周囲の火山灰が吹き飛ばされるだけの現象も
噴火と呼ぶかというと、定義上は呼べないことはありませんが、通常は呼びません。しかし、硫黄岳の火山灰の放出は間欠的で数百mもの高さの噴煙を上げる
こともあり、単にガスの勢いだけで吹き飛ばされているわけではないので、噴火として見なされています。とはいえ典型的な噴火とは異なり、定義上も曖昧な
部分だと思います。自然はアナログなものですから、定義によりきれいに二分出来るとは限らないのです。
このような硫黄岳の噴火を分類する典型的な用語もありません。強いて言えば新鮮なマグマの噴出がないことから水蒸気噴火と呼べるかもしれませんが、高
温の火山ガスが連続的に放出している火孔からの噴火なので、通常の水蒸気噴火とは全く異なります。Gas
eruption(ガス噴火)という用語が、MacDonald(1972)のVolcanoesという教科書に載っています。これが最も適当な用語で
すが、一般的には使われておりません。
ストロンボリ式噴火は高温のマグマが間欠的に吹き上がる噴火ですので、全く異なります。
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薩摩硫黄島の場合は噴火の判断は、噴煙と降灰の有無が基準であり、地震は直接考慮されていません。ただし、噴煙も降灰も注意して観測している方が小さ
な噴火でも検知できますので、噴火の回数の増加にはそのような要素も含まれてはいます。しかし、1997〜98年以降に降灰の量が多くなったのも事実で
す。
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三宅島でも、毎日火山ガスが集落に流れてきているわけではなく、年に何日か、かなり濃厚な火山ガスが集落に到達することがあり、それが問題になってい
ます。三宅島の場合は西風によって東側の集落に高濃度の火山ガスが到達する頻度が多いです。薩摩硫黄島でも火山ガスは東側に流れることが多いのですが、
集落は山頂の南西側に位置するため高濃度の火山ガスが到達することはほとんどありません。
また、三宅島は山が比較的なだらかなため、風が強いと噴煙が山肌に沿って流れ下ることが頻繁にあります。硫黄岳は斜面がずっと急であるため、この風の吹
き下ろしは三宅島ほど頻繁に起きません。それに加え、薩摩硫黄島からの火山ガスの放出量はSO2の量で毎日500トン程度であり、三宅島からのSO2の
放出量の日量数千トンの約十分の一です。これらの条件が総合されて、三宅島では未だに高濃度の火山ガスが集落で観測されていると考えられます。
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ケイ石の採掘は1997年頃まで続けられましたが、現在では行っておりません。
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硫黄岳山頂火口内の火孔は、1997年頃に形成されて以来、火山灰を放出しながら拡大しています。現在では直径は100m以上の大きな火孔になってお
り、ここから火山ガスと火山灰が継続的に放出されています。火山ガスの放出が活発な間は、爆発的な噴火などを起こすためのエネルギーは溜まりにくいと考
えられます。しかし、このまま火孔が拡大し、深くなった後に何が起きるかを予測することは困難です。
最近、火孔が形成し火山灰が放出されているとはいえ、火山ガスの放出量や地震活動のエネルギーが特に変化しているわけではありません。そのため、今起き
ている変化は地表近くだけの変化であり、地下のマグマの動きやガス放出の過程は数十年前から余り変わっていないとも考えられています。そうだとすると、
山頂からの火山ガス・火山灰の放出と火孔の拡大は続くかもしれませんが、それ以上大きな変化は起きない、ということも考えられます。いずれにしても、今
の硫黄岳のような活動を観測した例はほとんど無いため、今後の活動の推移を見守ることが大事です。
(03/29/04)
篠原宏志(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)
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