火山の形状と地形
マール |
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Question #36
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Q |
この前、指宿方面に行って、数多くある火山地形を観察してきました。そこには、山川港や鰻池など”マール”と呼ばれるものがたくさんありました。この、”マール”はどういう仕組みになっているのですか?また、ほかの火山地形にも必ず多く見られるのですか?
(8/28/97)
まつ:高校生:16
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A |
マグマが地下水と急激に反応すると,水蒸気マグマ爆発と呼ばれる,激しい
爆発が起こります.マグマと水の接触の割合によって,その爆発力は連続的に
変化しますが,その中でも激しい爆発が起こったときに作られる火山地形がマ
ールです.爆発力が強いために大きな火口が作られますが,噴出物は広い範囲
にまき散らされるので火口の周りにはごくわずかの堆積物しか残しません.地
下から上昇してきたマグマと地下水が接触して爆発が起こるので,その爆発は
地下水面(地下水の上面)よりも下で起こります(つまり火口の底は地下水面
より低い).そのため,噴火が終わると火口は速やかに地下水で満たされま
す.
マールの形成には,マグマと水の接触の割合が関係していますから,どこの
火山でも見られるという火山地形ではありません.指宿地域は日本でマールが
多く見られる地域として有名ですが,この他に秋田県男鹿半島の一の目潟や二
の目潟,伊豆大島の波浮港などが代表的なマールの例としてよく知られていま
す.地下水の豊富な海岸付近に比較的多いようです.
(9/1/97)
井村隆介(鹿児島大・理)
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Question #91
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Q |
鹿児島県の鰻温泉の東に池底というところがあります。地形的にみて
マールのようですが、何か溶岩、スコリアなど火山的な特徴が
残っているかご存知のかたは教えて下さい。
(6/17/98)
平木 :会社員:49
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A |
鰻温泉の「北西側」の間違いですね.ご指摘のように,鰻池の北西に池底と呼
ばれる円形の窪地があります.この窪みが火口地形であることは間違いないの
ですが,その成因についてはよくわかっていません.次の三つのアイデアが考
えられています.(1)付近に分布する池底岳溶岩を噴出した火口,(2)その
南東にある鰻池と同様の爆裂火口,(3)成川,山川(港)と同様のマール.
今のところこの火口から直接噴出したと思われる噴出物は知られていません.
(6/19/98)
井村隆介(鹿児島大学・理学部)
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Question #94
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Q |
鹿児島大学の井村先生にできればおたずねします。実は私も鹿児島大学
法文学部(昭和46年卒)です。よろしくお願いします。
質問ついでにもう少し教えて下さい。
(1)指宿の近くの成川はマール、とありますが噴出物は残っていますか?
地図で見ても地形がよくわかりません。
(2)山川港は伊豆大島の波浮港と同じ成因でしょうか?
爆裂火口跡と覚えています。
(3)加治木の西の方にある住吉池、米丸もマールですが、噴出物は
ありますか?
(6/24/98)
平木 英治:会社員:49
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A |
そうですか.開かれた大学を目指しておりますので,鹿児島においでになるこ
とがありましたら,お立ち寄り下さい.さて,ご質問にお答えいたしましょ
う.
(1)成川マールはきれいな円形の火口を残していませんが,そこから出たベー
スサジ堆積物が指宿市の西部に分布していることが知られています.ベース
サージ堆積物中の様々な堆積構造から,成川付近から来たことがわかるので
す.この噴火は池田湖を作った池田火砕流とほぼ同時(5000から4500年くらい
前)に起こったものです.
(2)山川港も波浮港も,上昇してきたマグマと海水が反応して激しい爆発を起
こして作られた火口地形です.爆裂火口の定義は研究者によって違うようです
が,私は出てきたマグマよりふきとばされた既存の岩体の量が多い,既存の岩
体の上に開いた火口について爆裂火口と言ってはどうかと思っています.
(3)住吉池,米丸のマールの噴出物はその周辺でベースサージ堆積物が見られ
る他,米丸マールの火山灰は東南東に約30km離れた福山町の遺跡でも見つかっ
ています.住吉池,米丸マールの噴火はいずれも7500年くらい前に起こったと
考えられています.
(7/3/98)
井村隆介(鹿児島大学・理学部)
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Question #201
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Q |
鹿児島県の加治木町の近くに、住吉池と米丸という、マールがあります。
これらのマールの霧島山と姶良火山との関連、噴出時期、成因につき教えて下さい。
(3/17/99)
平木 英治:会社員:50
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A |
以前にも住吉池・米丸マールの噴出物とその年代についてお答えしたことがあると思
います(Question#-94).これらのマールは,霧島火山と姶良火山の間にあります
が,実際のところ両火山との関連についてはよくわかっていません.米丸・住吉池マ
ールは地形的に見た姶良カルデラ縁の外側に位置しますが,姶良火山の側火山的なも
のかもしれません.付近には(時代は古くなりますが)火山の痕跡(貫入岩)がたく
さん見られます.マールの成因についてはQuestion#-36をご覧いただくとして,住
吉池・米丸マールが噴火した7500年前という時代が,今よりも海水準が2〜3m高かっ
た(いわゆる縄文海進)時代であることが重要です.現在は陸地になっている米丸・
住吉池付近まで海が進入したことによって水蒸気マグマ噴火が起こり,これらのマー
ルをつくったと考えられています.
(3/24/99)
井村隆介(鹿児島大学・理学部・地球環境科学科)
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Question #1657
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Q |
東伊豆の一碧湖のことでお伺いいたします。これまで見た多くの本では、一碧湖は
火口湖、またはマールとして紹介されていますが、地元の方にお話を伺ったとき、
あれは間違いで本当はせき止め湖だというような意見を聞きました。
どちらが本当なのでしょうか。個人的には、奥の池の形状や、水深の浅さを
考えると火口湖には思えないのですが。
(04/12/01)
上田泰久:自営業:42
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A |
はい,たしかにかつて一碧湖はせき止め湖と考えられていた時代がありました.な
ぜそう考えられたかというと,およそ4000年前(注)に大室山から噴出した溶岩流の
一部が一碧湖の西の縁に接していることから,せき止め湖と判断されたのです.
しかし,一碧湖の周囲を詳しく調べた結果,火口のすぐ近くでしか見られないよう
な粗くて火山弾を多く含む堆積物が厚く分布していることがわかりました.この堆積
物の分布や重なり方を詳しく調査した結果,一碧湖はおよそ10万年前に起きた激しい
水蒸気マグマ爆発によってできた火口(マール)であることがわかりました.さら
に,この噴火によってできた火口は一碧湖だけでなく,北西―南東方向に配列した全
部で5つの火口列(門野,荻,一碧湖,東大池,梅木平)の同時噴火であったことも
わかりました.
その噴火から9万年以上も過ぎた頃に,一碧湖の南方で大室山が噴火し,流れてき
た溶岩の一部がたまたま一碧湖の西端をかすめたのです.ボーリング調査の資料から
も,一碧湖が大室山が噴火するずっと以前から湖あるいは湿地帯であったことが証明
されています.
(注)かつて5000年前と考えられていましたが,その後データが増え,4000年前頃と
考えるほうがもっともらしくなりました.
(04/13/01)
小山真人(静岡大学・教育学部・総合科学教室)
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