(1)ちょうど今開聞岳周辺の地質調査を行っているところです.天気が良い
日は屋久島が海の上に見えます.屋久島の右手,屋久島からは北西の方向に2
つの島影が見えます.竹島と薩摩硫黄島です.この二つの島は屋久島を約6300
年前に覆った火砕流が噴出してできた鬼界カルデラの縁にあたる島です.鬼
界カルデラは大部分が海面下にありますが,ここから噴出した幸屋(こうや)火
砕流は雲仙・普賢岳の火砕流の1000倍にも達しようかという量で,屋久島や,
鹿児島県南部を広く覆いました.この火砕流の中には火砕流の熱で蒸し焼きに
された木片をあちこちで見ることが出来ますから,当時の植生に大きな影響を
与えたことでしょう.薩摩半島南部の被災地域では,幸屋火砕流の上下で縄文
式土器の様式が異なり,当時住んでいた縄文人の社会にも大きな被害をもたら
したようです.なおこの火砕流噴火と同時に吹き上げられた細かい火山灰(ア
カホヤ火山灰)は,日本の広い範囲に降り積もり,約6300年前を示す地層の中
のマーカーとして,地質学,考古学の分野でよく使われています.(川辺禎
久)
(11/23/97)
(2)マグマの性質と冷却の仕方によって,同じ種類の結晶でも成長の仕方が
異なります.例えば,マグマが急激に冷えた場合には,細かい結晶が数多くで
き,ゆっくり冷えた場合には大きな結晶だけが数少なく育ちます.屋久島花崗
岩に大きな結晶として見られるようなカリ長石は,水を多く含んで珪酸分に富
むマグマを適当な条件で冷やしてやると,非常に大きく成長します.このた
め,屋久島の花崗岩が,特に,他の花崗岩と大きく異なる環境で生成されたと
いうことではないようです.(中田節也)
(11/24/97)
川辺禎久(工業技術院・地質調査所),中田節也(東大・火山センター)
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