火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

身近の火山:中国・四国

三瓶山


Question #95
Q 私は時々ですが、家族を連れて三瓶山に出かけます。三瓶山の火山活動については、学生時代に林・三浦(1987)や松井・井上(1971)の研究論文を読んだ記憶があります。しかしその後は、職業がらそういった研究に触れる機会がありません。 そこでお尋ねしたいのですが、三瓶山の火山活動について、最近10年でどのようなことが明らかになってきているでしょうか。できましたら、参考文献とともに教えていただければ幸いです。

(6/24/98)

かつて地質学を専攻していた会社員:小売業:33

A
 ご質問ありがとうございます.
 さて,ご質問の三瓶火山に関する研究ですが,最近以下のようなことがわか ってきました.
 ご存じのように,三瓶火山では,男三瓶山,女三瓶山,子三瓶山,孫三瓶山 の4つの峰々がほぼ円形に並び,そのあいだに窪地(室ノ内火口)がありま す.これらの峰々の成因として2通りの考え方がありました.1つはそれぞれの 峰が独立の溶岩ドームとして形成されたとの考えです.もう1つの考えは,も ともと1個の大きな溶岩ドームであったものが,その後の噴火や侵食により見 かけ上4つに見えるだけである,との考えです.最近の研究では,これらの4 つの溶岩ドームには,それぞれ固有の化学組成と斑晶量があることがわかり, 別々の溶岩ドームである可能性が高くなりました(松元,1994).
 また,三瓶カルデラについて詳しい重力測定が行われました(小室ほか, 1996).その結果,三瓶カルデラには明瞭な低重力異常が存在し,その形は多 角形状であることが判明しました.
 そのほかに三瓶山本体ではありませんが,三瓶山に由来するテフラ(火山灰や 軽石)が,中国地方のみならず,最近では北陸や東北地方でも確認されていま す.個々の文献はここではあげませんが,町田・新井(1992)や第四紀学会編 (1996)を参考にして下さい.


 文 献

松元拓朗(1994)三瓶火山円頂丘溶岩の化学組成.地質学雑誌,vol.100, p.639-641. 小室裕明・志知龍一・和田浩之・糸井理樹(1996)重力異常からみた三瓶カルデ ラの基盤形態.火山,vol.41,p.1-10. 町田 洋・新井房夫(1992)火山灰アトラス-日本列島とその周辺.東大出版 会,276pp. 第四紀学会編(1996)第四紀露頭集-日本のテフラ.352pp.

(6/27/98)

星住英夫(工業技術院・地質調査所・地質部)


Question #103
Q この前、三瓶山に関する質問をされている方がいらっしゃいました。私も島根県に住んでいるので、興味深く拝見しました。 ところで、その質問に対する回答の中に「重力測定」とか「低重力異常」という用語が出てくるのですが、専門の知識がない私にはこれらの意味が全くわかりません。お手数ですが、できるだけ分かりやすく解説していただければ幸いです。 また、回答の中に「明瞭な低重力異常が存在し、その形は多角形状である」とありますが、このことからどのような言えるのでしょうか。こちらの方も、よろしくお願いいたします。

(7/15/98)

やみぞ:会社員:30

A
 わかりにくい回答をしていまい,失礼をいたしました. このように,回答 に対する質問も歓迎しております. 


 重力測定とは,重力の強さ(や方向)を測ることです.また,低重力異常と は,重力の強度が周囲よりも低くなっていることをいいます.(重力異常とい っても人に体で感じるほど違う訳ではなく,ごくわずかなものです).重力異 常の主な原因としては,その土地の地下を構成する岩石の密度に違いにありま す.すなわち,地下に密度の高い岩石があれば重力は強く,密度の低い岩石が あれば重力は弱くなります. 


  さて,三瓶火山は,4×6kmほどの凹地(三瓶カルデラ)とその内側の溶岩ド ーム群からなります.このカルデラについて重力測定を行ったところ,はっき りとした重力の低異常がみつかりました(小室ほか,1996).すなわち,三瓶カ ルデラは地表に凹地形があるだけではなく,基盤をなす花崗岩にもへこみがあ り,そのへこみを密度の低い火山岩が埋めているのです.その低異常の地域の 広がりは四角い形をしていました.なぜ,四角いのかについては,はっきりし たことはわかっていません.1つの案としては,カルデラができる前にマグマ の上昇によってこの地域一帯に隆起が起こり,その時にブロック状に陥没が起 こったためではないか,と小室ほか(1996)では推察しています. (7/21/98)

星住英夫(工業技術院・地質調査所・地質部)


Question #1028
Q 楽しく拝見いたしています。
さて、
中国地方にある火山の形跡がある山を、教えていただけませんでしょうか?
分布図なんかあればベストです。
史跡巡りじゃないですが、火山跡巡りをしてみたいと思います。
是非、宜しくお願いいたします。 (09/17/00)

バイク好きなサラリーマン:会社員:26

A
 秋空のもと,楽しいプランですね。
 中国地方限定ということであれば,西日本火山帯を見学ということで,山陰側のコ ースをお薦めします。日本海に面した9号線をバイクで走るのは爽快でしょう。東か ら西へのコースとしては,大山→三瓶山→青野山→萩というのはいかがでしょうか。 大山(1729m)は鳥取・岡山県境にあって文字どおり中国地方で最も高い山です。三 瓶山は中国地方でもっとも新しい火山で,男三瓶,子三瓶,孫三瓶,女三瓶などのド ーム群があります。青野山付近には,9号線沿いに,お椀をふせたような形をした火 山がいくつか見られます。小さい火山が10以上あります。その分布図が「山口県地学 のガイド」の209頁に載っています。また,その風景は「山口県の岩石図鑑」の78頁 にカラー写真で紹介しています。黄金色の稲穂の実った田んぼの中を走る9号線から の風景は格別です。山口県では,萩市の笠山も小さいながら火山地形を良く保存して います。笠山山頂から日本海を展望すると,相島,羽島,尾島などの溶岩平頂丘(円 頂丘ではなく)が見られます(山口県の岩石図鑑の74頁)。一見の価値があります。 守屋以智雄著「日本の火山地形」の表紙裏には全国の火山分布図が掲載されています 。中国地方の火山について,詳細をお知りになりたい場合には,下記の本が役立ちま す。火山の生い立ちがわかれば,さらに楽しい旅になるでしょう。
               記 山口県の岩石図鑑 山口地学会編 第一学習社 日曜の地学-12 山口の地質をめぐって  山口地学会編 築地書館 日曜の地学-7 広島の地質をめぐって  鷹村 権 著 築地書館 日曜の地学-25 島根の自然をたずねて  「島根の自然」編集員会編 築地書館   山口県地学のガイド  山口地学会編 コロナ社 日本の火山地形  守屋以智雄著  東大出版 フィールドガイド日本の火山6 中部・近畿・中国の火山 高橋・小林編 築地書館 (9/23/00)

今岡照喜(山口大学・理学部・地球科学教室)


Question #1153
Q 最近、新聞で三瓶山の火山活動による埋没林が発見されたとの報道がありました。
今から4500年程前のものだとのことですが、地質学的にはつい最近のことだと
思います。将来、三瓶山では埋没林ができるほどの火山活動は起きるのでしょうか

(10/17/00)

山田 智広:病院職員:39

A 三瓶山さんは今から10万年前頃から活動を始めています。もっとも激しい活動は10万 年前の活動で,火山灰は青森まで飛び,また軽石は日本海を北上して,これまた青森 まで達しています。その後,休止期をはさんで,3万年-2万年前,1万5千年前に活動 しています。その後,さらに5千年前と4千年から3千700年前の噴火があります。埋没 林の炭素14年代は3500年前(実年代で3700年前)です。つまり,この時に樹木は死ん だのです。杉の巨木を埋没させた直接の原因は火砕流です。この時期発生した火砕流 を太平山火砕流と呼んでいます。この時,三瓶山の溶岩ド−ム(男,女,子,孫三瓶 山)もできました。この時の活動も激しいもので,神戸川沿いに分布する火砕流堆積 物(太平山から直線距離にして5.5kmも離れています)の定置温度は500℃を越えてい ます。この火砕流堆積物にはたくさんの炭化木片が含まれており,火砕流によってな ぎ倒されたものと考えています。この火砕流堆積物に覆われて縄文遺跡があります。 イタリアのポンペイと同じように,縄文人は大打撃を受けたことでしょう。 いずれにしても三瓶山は中国地方でもっとも若い火山です。3700年以降も小規模な噴 火はあった可能性があります。(ちなみに大山は1万数千年前に活動を停止しています) (10/23/00)

沢田順弘(島根大学・総合理工学部・地球資源環境学教室)