火山の形状と地形
単成火山・複合火山 |
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Question #44
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Q |
単成火山に興味があります。夏休み、小値賀島に行ってきました。壱岐
には温泉がありますが、小値賀島を中心とする周りの諸島には温泉が噴出していません。
阿武火山、青野山火山の周辺には温泉があります。また徳山北方にも
あります。小値賀島に温泉がないのはなぜでしょうか?
(9/22/97)
平木 英治:会社員:48
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A |
温泉の成因には第一に熱源が必要です。日本の温泉分布を見てみると、ほと
んどの温泉が第四紀や新第三紀の火山周辺に密集しているので、火山が温泉の
熱源となっていると考えられます(非火山性の熱源もあります)。平木さんが
挙げられた小値賀島、阿武火山、青野火山群(青野山)などは第四紀の火山
で、温泉の熱源となる母岩があることは十分に考えられます。
また、温泉の分布は地質条件によっても支配されます。温泉水は、地下深く
から断層や割れ目に沿って上昇して、湧出したり、浅所の透水性の地層に滞留
したりします。ですから、断層、割れ目、透水性の地層の有無や位置関係とい
った局所的な地質構造によって温泉の分布はきまります。
さて、小値賀島の場合、現在も熱源となりうる母岩が存在するかどうかはわ
かりませんが、局所的な地質構造が影響して温泉が湧出してないことも十分に
考えられると思います。
ちなみに、小値賀島から南に20kmの新魚目町(中通島)には新魚目温泉
という、単純泉(源泉での温度が27度)の温泉があるそうです。(この温泉
が平木さんの「温泉」に該当するかは分かりませんが...)
(9/27/97)
森 俊哉(東京大・理学部)
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Question #42
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Q |
火山帯に属さない、単成火山というものがあると聞きましたが、具体的にはどのようなものなのでしょうか、なぜ、そのような火山ができたのでしょうか教えてもらえないでしょうか
(9/18/97)
山口:会社員:34
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A |
プレートテクトニクスの登場以来,「火山帯」という漠然とした言葉はあま
り使われなくなりました.おそらく,日本付近のような島弧火山列(帯状の火
山密集帯)をさして「火山帯」と呼ばれておられるのだと思いますので,その
観点からお答えします.
おっしゃる通り,通常の「火山帯」とは異なる中国,オーストラリア,フラ
ンス,ドイツのような大陸の内部に点々と火山が分布する例があります.それ
らの多くは単成火山です.
単成火山は,1回きりの噴火(通常は数年以内)を起こし,それ以降は二度
と噴火しない火山のことです.単成火山の噴火の結果として,小さな(通常は
直径数km以内)火山体や火口が作られます.
大陸地域に点々と分布する火山がなぜそこに存在するかについては,(1)そ
の場所の地殻に引っ張りの力が加わっている,(2)その場所に地下深くから
マントルの流れがわき上がっている,などの原因が考えられています.
ただし,単成火山自体は大陸地域特有のものではなく,日本のような「火山
帯」にも存在します.お住まいの近くでは日本海側にある阿武単成火山群がそ
の例です.
(9/19/97)
小山真人(静岡大・教育)
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Question #79
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Q |
広島県に住んでいますが、なかなか火山に縁がなく近隣の県に観光を兼ねて見物に行っています。山口県の萩市に世界最小のカルデラを持つ「笠山」がありますが、近くの日本海に浮かぶ島々が「台状火山」と思われますがよく分かりません。これらの属する火山帯名と近隣に死火山の多いことについて教えてください。
(5/24/98)
水木 祥子:公務員:42
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A |
中国地方には大山を除くと大きな火山はありません.でも小さな火山はたくさ
んあります.萩市の北から東北東にかけても,小さな溶岩流やスコリアが積も
ってできた丘が点々と分布しています.この小さな火山をまとめて,阿武単成
火山群と呼んでいます.単成火山というのは,富士山や伊豆大島のように同じ
火口から何回も噴火を繰り返して大きくなった複成火山とは異なり,1回の噴
火で作られた火山で,ひとつひとつはそれほど大きくはありません.単成火山
ができる理由は,その場所の地殻に引っ張りの力が働いているなどの原因が考
えられています.単成火山群については,このページのバックナンバーにあ
る,Q47に対する静岡大学小山さんの回答をご覧ください.
萩市の沖合いに浮かぶ大島や羽島などの島々や鶴江台,羽賀台などは,そんな1
回の噴火で流れ出した溶岩でできた島や台地です.なお「笠山」は溶岩流の上
に,スコリア丘が乗っているもので,残念ながらカルデラではありません.
噴火した時期は,それぞれの火山体の侵食の程度から2つに分けられると考え
られています.放射性年代もいくつか測られていますが,古いもので約300万
年前,新しいもので約18万年ほど前から1万年ほどです.活火山には含まれて
はいませんが,単成火山群の噴火間隔は比較的長いものもあるので,これから
も噴火する可能性はないとは言えないでしょう.
なお火山帯としては大山(白山)火山帯に属するのでしょうが,今はあまり火山
帯という言葉は使われなくなりました.
(5/29/98)
川辺禎久(工業技術院・地質調査所)
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Question #92
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Q |
単成火山に特に興味をもっています。昨年夏、五島列島の小値賀島に
行ってきましたが今年は福江島を訪問しようと思っています。福江市
西南にはホマーテが8つ以上地図で認められます。この狭い地域に
海上(黒島、黄島等)もふくめて全てホマーテであるのはなぜで
しょうか。
(6/18/98)
平木 英治:会社員:49
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A |
福江市の西南ではなくて南東には,鬼岳を含む複数のスコリア丘が密集した
玄武岩溶岩からなる地域があります.御指摘の小値賀島も同様にスコリア丘が
狭い場所に密集した玄武岩火山の地域です.これらのスコリア丘は伊豆半島の
大室山と同じような単成火山です.単成火山は地殻が引っ張られている場所に
よく出現します(質問42の小山さんの回答も参考にして下さい).福江島や
小値賀島にこのような単成火山が密集する理由は,五島列島周辺の地殻が部分
的に開いているためであると思います.なお,ホマテとは形の割に大きい
火口を持つ火山砕屑丘のことで古くに用いられた言葉ですが,アスピーテ・ト
ロイデ・ベロニーテなどと同様に,現在の火山学ではほとんど使用しません.
(6/20/98)
中田節也(東大・火山センター)
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Question #208
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Q |
山口県に住んでいます。小規模ながら、噴火時の凄まじさを想像させるに十分な単性火山群にとても興味があります。これまで、阿武(笠山・伏馬山等)や青野山(鍋山・野坂山)、長者原等の県近郊の山を訪れ、写真を撮ったり登ったりして楽しんでいます。参考図書もいろいろ拝見したのですが、質問とお願いがありまして投稿させて頂きました。『お願い:阿武火山群内の1つ1つについて調査した資料(噴火の過程やスコリア丘・溶岩流の位置・個数)が有れば教えてください。これまで『日本の自然 火山と地震の国(岩波書店)』『守屋以智雄先生著 日本の火山地形』『空中写真による日本の火山地形』『中国地方』等の良い冊子に巡り会えましたが、更に詳しいものを読んでみたいのです。』『質問:著書 日本の火山地形に記載されている「阿武火山の地形分類図」ですが、これて全てなのでしょうか?。国土地理院発行1/25,000地形図 「十種峰」では、嘉年上と津々良岳の間にある山や、高峰山北北西の412Mm峰も1員の様に見えてしまいます。1つ1つの山にドラマがあると思い、全てを訪ねてみたいのです。』以上、勝手なお願いですが宜しくお願いいたします。
(4/17/99)
川本 均:会社員:32
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A |
楽しい趣味をお持ちですね.県内の全ての火山が隈無く踏査され,徹底的に調べら
れているわけではありませんから,小惑星が時折発見されるように,新たな火山が見
つかる可能性もあります.過去の噴火に想いを馳せながらいろんな山に登ってご自分
の目で確かめて見て下さい.
1.阿武火山についてのもっとも詳しい資料としては,1995年に発行された下記
の見学旅行案内書があげられます.最近の知識がまとめられています.
角縁 進・永尾隆志・白木敬一(1995)山口の新生代火山岩類.
日本地質学会第102年学術大会見学旅行案内書,157-170.
この資料の入手については,山口大学理学部地球科学教室の今岡照喜(e-mail:im
aoka@po.cc.yamaguchi-u.ac.jp)に連絡下されば,コピーの送付など対応します.阿
武火山の年代については,下記にまとめられています.
西村祐二郎・今岡照喜(1995)山口県放射年代年代図(1:150,000)
山口地学会発行
これについては県庁の刊行物センターあるいは山口県立博物館で入手できます.阿
武火山の成因については下記に解説があります.「山口県の岩石図鑑」に掲載されて
いる写真はすべて実物大ですから,山頂の岩石をこの図鑑で絵あわせすれば,その山
が火山であるか分かりますし,火山岩の鑑定もできます.
山口地学会(1991)山口県の岩石図鑑 第一学習社
2.「嘉年上」と「津々良岳」の間にある山は阿武単成火山の一つです.
「高峰山北北西の412m峰」は確かにきれいな丸い形をした山ですが,既存の資料
(新編島根県地質図20万分の1,1997年版)では錦層群の砂岩・頁岩となっています.
(4/27/99)
今岡照喜(山口大学・理学部.地球科学教室)
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Question #2758
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Q |
こんにちは。火山の分類についてお伺いします。日本の中学校では溶岩の粘性によって楯状、成層、釣鐘状火山の3つに分類していますが、外国ではFissure, Shield, Dome, Ash-Cinder, Composite, Calderaなどに分けて教えられているようです。これらもまた溶岩の粘性による分類なのでしょうか?分類の基準とその種類について教えてください。
(09/27/02)
ナオッグ:教師:27
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A |
こんにちはナオッグさん.火山の分類ということですね.
昔はもっぱら火山の地形だけで分類していました.例えばシュナイダー(1911)のコニ
ーデ,トロイデといった分類は今でもマスコミや観光地の説明などで残っています.
しかし今は表面の地形だけでは,その火山の成り立ちを必ずしも反映していないこと
がわかってきたので,シュナイダーの分類は学術用語としては使われません.現在で
は内部構造により注目した,成層火山,盾状火山などの用語が使われます.
盾状火山は粘性の低い,あまり爆発的噴火をしないマグマが,主に溶岩となって重な
り,傾斜が緩やかな山体を作った火山です.ハワイが盾状火山の典型で,英語では
Shield Volcanoです.一方,成層火山は粘性がやや高く,爆発的噴火による熱いマグ
マのしぶき(火砕物)の割合が多いため,溶岩と火砕物の互層からなる傾斜の大きな山
体を持つ火山です.英語ではStrato Volcanoです.成層火山はスコリア丘(Scoria
Cone, Cinder Cone)や溶岩ドーム(Lava Dome)などを火山体全体として含むことが多
いので,外国ではComposit Volcano(複合火山)と呼ぶことがあります.富士山や三宅
島など日本の火山の大部分はこの成層火山です.
釣鐘状火山というのは火山学用語では使われません.おそらく溶岩ドームのことだと
思いますが,粘性の大きなマグマが爆発的な噴火をすることなく地表に噴出してでき
ます.有珠山の昭和新山や雲仙の平成新山が典型例です.マグマが地下を移動すると
きは板状になって移動すると考えられていますが,この板状のマグマが地表に達する
と,割れ(Fissure)噴火を起こします.粘性の低いマグマの噴火に多く見られます.
1983年の三宅島噴火がその例です.
カルデラ(Caldera)は,噴火や崩壊でできた大きな火口状地形のことで,おおよそ直
径1.6-2km以上のものをいいます.大量のマグマが爆発的な噴火で一気に噴出してで
きたもの(例:阿蘇カルデラ)や,噴出物は多くないが地下でどこかにマグマが移動し
てしまってできたもの(例:2000年三宅島噴火のカルデラ)などがあります.
これらの火山の形の違いは,どんな噴火様式で,どんな噴出物を,どのくらいの噴出
率で噴火するかで決まってきます.その噴火様式を決める大きな要因としてマグマの
粘性がある,と理解されればいいかと思います.なお,Q&Aの#3010にもありますよう
に,自然は完全に分類できるものではなく,中間的なもの,複合したもの,例外的な
ものが少なからず存在します.学校の先生にはマグマの粘性だけで一意に火山の形が
決まるわけではないということも,頭の片隅にでも記憶にとどめておいていただける
と幸いです.
(10/29/02)
川邉禎久(産業技術総合研究所・地球科学情報部門)
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