良いところにふるさとをお持ちですね.おっしゃっている橋杭岩の岩脈は熊野酸性岩
という名前の巨大な火成岩体と良く似た岩石からなっていますので一連の火山活動の
産物と考えることができます.
さてこの橋杭岩というのはその名のとおり,紀伊半島から紀伊大島にわたす橋の杭の
ように見えます.つまり,ほぼ南北方向に伸びていて,そこだけ堅いので周囲の軟質
の堆積岩の波食台上にそびえているわけです.何作目かの「必殺仕置人」のバックタ
イトルにもなって全国区の知名度がありますよね.北は,奈良県まで?というご質問
ですが,橋杭岩を作る岩脈自体はそんなには伸びていません.せいぜい1kmくらい
でなくなってしまいます.でも,同じ南北方向の似たような大きさの岩脈は10本以
上あって,かれこれ20kmくらい北の古座川町笠置山のあたりまで散在していま
す.さらにその北,和歌山県本宮町から奈良県天川村に至る南北の細長い地域には比
較的近い時代の大峯酸性岩という火成岩体がとぎれとぎれに分布しています.その意
味から,似たような火山活動がこの南北に伸びた地域で,約1500万年前ころに起
こっていたことが判っています.ちょうど紀伊半島のど真ん中にこんな帯状の火山活
動地域があったということは何を意味しているのか,興味深い問題ですね.
さて,橋杭岩から南に目を転じて,紀伊大島にもあるかということですが,紀伊大島
と潮岬には,潮岬火成複合岩体という,これまた似たような時代の火成岩があるので
す.玄武岩やはんれい岩に加えてカリ長石を持たない花崗岩質岩石や流紋岩からなり
ます.この潮岬火成複合岩類は,熊野酸性岩や大峯酸性岩とはずいぶん性格が違って
いるためにそれらとは区別されています.ただし,大島の昔の船着き場の北にある権
現島は,橋杭岩の延長です.弘法大師も実は大島に橋の杭を作ることには成功してい
たんですね.そのほか,最近の研究によれば,紀伊大島と潮岬には,そのほかにも熊
野酸性岩と似た性格(カリ長石を含むなど)の岩石がかなりあることが発見されつつ
あります.
(02/24/03)
三宅康幸(信州大学・理学部・地質科学教室)
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