火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

身近の火山:近畿地方

橋杭岩


Question #3822
Q 地元に、熊野酸性岩体があります。
その近くには、橋杭岩という、石英安山岩(だと思われる)でできている岩脈があります。
おそらく、その岩脈は奈良の方まで続いていると考えたのですが、いかがなものでしょうか。
それに加え、その近傍には、潮岬複合岩体という塩基性岩が産出しています。2つの関係はどうなっているのでしょうか?
よろしくお願いします。 (02/05/03)

早く帰省したい…:学生:23

A 良いところにふるさとをお持ちですね.おっしゃっている橋杭岩の岩脈は熊野酸性岩 という名前の巨大な火成岩体と良く似た岩石からなっていますので一連の火山活動の 産物と考えることができます.

さてこの橋杭岩というのはその名のとおり,紀伊半島から紀伊大島にわたす橋の杭の ように見えます.つまり,ほぼ南北方向に伸びていて,そこだけ堅いので周囲の軟質 の堆積岩の波食台上にそびえているわけです.何作目かの「必殺仕置人」のバックタ イトルにもなって全国区の知名度がありますよね.北は,奈良県まで?というご質問 ですが,橋杭岩を作る岩脈自体はそんなには伸びていません.せいぜい1kmくらい でなくなってしまいます.でも,同じ南北方向の似たような大きさの岩脈は10本以 上あって,かれこれ20kmくらい北の古座川町笠置山のあたりまで散在していま す.さらにその北,和歌山県本宮町から奈良県天川村に至る南北の細長い地域には比 較的近い時代の大峯酸性岩という火成岩体がとぎれとぎれに分布しています.その意 味から,似たような火山活動がこの南北に伸びた地域で,約1500万年前ころに起 こっていたことが判っています.ちょうど紀伊半島のど真ん中にこんな帯状の火山活 動地域があったということは何を意味しているのか,興味深い問題ですね.

さて,橋杭岩から南に目を転じて,紀伊大島にもあるかということですが,紀伊大島 と潮岬には,潮岬火成複合岩体という,これまた似たような時代の火成岩があるので す.玄武岩やはんれい岩に加えてカリ長石を持たない花崗岩質岩石や流紋岩からなり ます.この潮岬火成複合岩類は,熊野酸性岩や大峯酸性岩とはずいぶん性格が違って いるためにそれらとは区別されています.ただし,大島の昔の船着き場の北にある権 現島は,橋杭岩の延長です.弘法大師も実は大島に橋の杭を作ることには成功してい たんですね.そのほか,最近の研究によれば,紀伊大島と潮岬には,そのほかにも熊 野酸性岩と似た性格(カリ長石を含むなど)の岩石がかなりあることが発見されつつ あります.
 (02/24/03)

三宅康幸(信州大学・理学部・地質科学教室) --


Question #58
Q 今年の8月に和歌山県の湯の峰温泉に行ってきましたが、100度近いお湯が湧き出る「湯筒」というのがありました。このあたりには火山が全くないのにどうしてこんな熱い温泉が湧きだしているのでしょう。地質図を見るとこのあたりに火山岩が存在しているようですが、古い火山があるのでしょうか。近くの名勝の橋杭岩は火山岩が地表に出てきて冷えたものだと聞いた記憶があります。 (12/5/97)

中学生の時は火山学者を夢見てたおじさん。:公務員:41

A
 さすがに火山学者を夢見たロマンチストのおじさんでいらっしゃるだけあっ て,重要なポイントに興味をもたれましたね.和歌山県の温泉,特に龍神・湯 の峰・川湯などの温泉は温度の高いものです.これらの温泉の分布地域には何 千万年前の海底にたまった砂岩や泥岩が広く分布しているのですが,龍神・湯 の峰・川湯などの温泉のある一帯ではその岩石が白く変質しています.この変 質帯は果無山脈から大塔山の南まで南北に延びて帯をなしていて八丁涸漉(は っちょうこしか)変質帯と呼ばれています.この変質作用は熱をもった水によ るもので,しかもこの変質帯の中,およびその南延長上には石英斑岩という火 成岩の岩脈がだいたい南北にならんで分布しています.橋杭岩もその一つで す.これらの火成岩ができたのは千数百万年前ですので,この変質帯ができた のもそのころだと考えられています.
 で,湯の峰などの温泉の熱源なのですが,諸説ありまして,ひとつはこの千 数百万年前の火成岩の熱がまだ地下には残っているのだというものです.しか しこんなに長期間マグマの余熱が残っているということには懐疑的な学者もい て,昔マグマが上がってきた通り道であったこの地域は,今でも地下からの熱 を帯びた水や,地表から浸透した地下水の通り道になっているのであって,地 下深くからの熱がこれらの水にバトンタッチされながら運ばれてきているのだ という漠然とした考えもあります.
 疑問はつきませんが,湯の峰に限らずまわりには見かけ上火山がないのに高 温の温泉が出ているところは有馬温泉などほかにもあります.これらの成因を 探ることは重要な問題だと思います.火山学をさらに夢見てください. (12/30/97)

三宅康幸(信州大学・理学部)