火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

身近の火山:北陸地方

医王山


Question #50
Q 山が生きているという神秘性と今は静かな美しい火山が過去にそして未来に噴火を起こす。 という自然美と自然の怖さという神秘性に魅せられ小学校のころから火山に興味を持ってきました。
 前回の質問では、即刻、丁寧にご回答していだだき、ありがとうございました。 再度の質問ですがよろしくお願いします。

石川と富山県境の医王山の火山記録について。
  医王山は火山とききましたが、過去の噴火はどのような噴火だったのでしょうか。? 火砕流、火山灰、溶岩流などの過去の記録として残る、現存の火山活動の跡は、 どのようなところにあるのでしょうか。 また、石川県側から登った時、奥医王山頂までの小さなピークに小さな池がいくつかありましたが これは火口湖と考えていいのでしょうか。
  富山県側の医王山北西部ふもとに「桑山」という小さな山がありますが、小矢部市南部からみると 側火山(寄生火山)の痕跡に見えるのですが、それともただの山でしょうか?
  石川県側の戸室山にいくつか池がありますが、これは前述したような火口湖と考えていいでしょうか?

(10/20/97)

火山研究サラリーマン:会社員:38

A >>石川と富山県境の医王山の火山記録について。医王山は火山とききました が、過去の噴火はどのような噴火だったのでしょうか。? (答え)流紋岩質の溶岩と火山灰を噴出する激しい活動でした。

>>火砕流、火山灰、溶岩流などの過去の記録として残る、現存の火山活動の跡 は、どのようなところにあるのでしょうか。 (答え)医王山全体が火砕流や火山灰、溶岩流などでできています。夕霧峠に は流紋岩溶岩が見られますし、黒瀑山周辺には黒曜岩ないし真珠岩の溶岩がみ られます。しかし、最も量が多いのは、火山灰や軽石が降り積もった流紋岩質 凝灰岩で、夕霧峠から石川県側へ下る林道沿いによく見られます。医王山累層 と呼ばれるこの火山岩の地層の厚さは1000m以上あります。

>>また、石川県側から登った時、奥医王山頂までの小さなピークに小さな池が いくつかありましたが、これは火口湖と考えていいのでしょうか。 (答え)これらは火口湖ではないと思います。医王山の火山活動が起きたのは 1500万年程度前で、既に火山体は深く浸食され、もとの火山地形をとどめ ている所はどこにもありません。

>>富山県側の医王山北西部ふもとに「桑山」という小さな山がありますが、 小矢部市南部からみると側火山(寄生火山)の痕跡に見えるのですが、それと もただの山でしょうか? (答え)「桑山」というのが地図に載っていないので、どの山かよくわかりま せんが、上の答えと同じ理由で側火山ではないと思います。そもそも、現在の 医王山の山頂付近が火山体の中心であったかどうかはわかりません。

>>石川県側の戸室山にいくつか池がありますが、これは前述したような火口湖 と考えていいでしょうか? (答え)戸室山とキゴ山は比較的新しい火山で、清水他(1988)の年代測定によ ると43-61万年前とされています。そして、戸室山は2〜5万年前に大崩壊し て、周囲に岩屑流(岩なだれ)を押し出しました。市営放牧場や金沢ゴルフ場 付近の池の一部は、この岩屑流にせき止められてできたものかもしれません。 しかし、見上峠や医王の里付近の池は、南北方向の活断層の運動に関係してで きた可能性があります。個々の池について詳しく調べたわけではないので、上 で述べたことはあくまでも全体の地質からみた推論です。 (10/21/97)

石渡 明(金沢大学理学部) 


Question #327
Q
 はじめまして。石川県金沢市付近の火山について教えて下さい。
 わたしは金沢市内で小学校の教員をしているのですが、理科の学習でいくつか疑問が でてきました。
 1.医王山山系の山以外にも火口があったのではないかという話を聞きました。具体的には
   犀川の上流の方や鶴来につながる山々の方とのことですが、それは本当でしょうか?
 2.金沢の地下のボーリング資料を見ると、金沢のかなり広い部分に凝灰岩層は広がって
   いるのでしょうか?(ボーリング資料に凝灰岩の層が含まれているのでしょうか?)
   また、それらの凝灰岩は医王山の噴火に起因するものと考えていいのでしょうか?
 3.こういった金沢市の地史について書かれた文献はないでしょうか?ぜひ紹介して下さい。


 どうぞよろしくお願いいたします。 (11/23/99)

TEG:小学校の教員:39

A 1.医王山以外にも火口があるか.

医王山は確かに「火山岩」(流紋岩の溶岩や凝灰岩)でできてい ますが,約1500万年も前の地層なので,「火口」はもう残っていま せん.「火山」は地表付近のマグマ活動によって生じた地形(山や 凹み)のことを言うので,既に火山地形が完全に失われている医 王山は「火山」ではありません.なお,医王山と同じ地層(「医王山 累層」)は,確かに犀川上流から鶴来,そして更に小松市南方, 加賀市南方を経て福井市付近まで続いています.しかし,これらの 火山岩を噴出した「火口」がどこにあったのかは,まだわかってい ません.ところで,医王山山系の金沢市側にある戸室山やキゴ山 は約50万年前の火山ですが,これらは溶岩円頂丘で,表面に はっきりした「火口」はありません.

2.金沢の地下に凝灰岩層は広がっているか

金沢の地下には多量の凝灰岩層があります.上で述べた医王山 累層(厚さ1000m)は日本海側へ傾斜しており,金沢市の下にも 広がっています.また,医王山累層の上には「砂子坂凝灰質互層」 (170m),七曲凝灰岩層(100m),下荒谷凝灰岩層(30m)などの 凝灰岩の地層が重なっていて,これらは湯涌温泉へ行く道沿いに 露出しています.これらの地層は,金沢市中心部の直下では, 卯辰山層・大桑層・高窪層など泥岩・砂岩の地層の下,地下約 300-500m付近にあるものと思われますが,森本断層より海側で は,それより更に500m以上深くにあるでしょう.これらの凝灰岩層 を作った火山灰を噴出した火口がどこにあったかは,残念ながら まだわかっていません.石川県内のボーリング資料をまとめた 本は金沢大学にありますが,上の数字は私の大雑把な推定です. もし正確に知りたい場合は,大学にいらして下さい.

3.金沢市の地史について書かれた文献

一般向けの本としては,次のようなものがあります(発行年順).

今井功「5万分の1地質図幅 金沢 および説明書」通産省地質
  調査所,1959年(絶版です.図書館・大学でどうぞ) かせ野義夫編著「北陸の地質をめぐって(日曜の地学6)」
  築地書館,1979年(絶版です.図書館・大学でどうぞ) 石川県理科教育研究協議会・石川県理科協会編「石川の理科
  ものがたり」日本標準,1981年(販売中.小学生向け) 藤則雄監修「理解しやすく・親しめる石川の地形・地質案内 
  野外観察のガイド」東京法令出版,1985年(販売中) 日本地質学会第97年学術大会(富山)見学旅行案内書.1990
  (専門家向き.石川県内のコースもあり.大学でどうぞ) 北國新聞社出版局編「徹底検証地震と防災 石川は安全か」
  北國新聞社出版局, 1995年(販売中) 石川県化学教育研究会編「科学風土記 加賀・能登のサイエンス」
  裳華房ポピュラーサイエンス,1997年(販売中) 相馬恒雄「富山のジオロジー 富山の大地の成り立ちを探る」
  シー・エー・ビー(とやまライブラリー5),1997年(販売中,隣
  の県ですが,地元の地史を様々な学説と結びつけて説明) 北村晃寿文,夏目義一絵「暖かい地球と寒い地球」福音館書店,
  1998年(販売中,大桑層に関する小学校中・高学年用絵本) 鹿野和彦ほか「20万分の1地質図幅 金沢」通産省地質調査所
  1999年(販売中,裏に詳しい説明あり.地図専門店でどうぞ)

なお,私のホームページ もご覧下さい. (11/27/99)

石渡 明(金沢大・理学部・地球科学科)