火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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小中学生から多い質問

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

身近の火山:北関東・甲信越地方

富士山・宝永火口


Question #66
Q 富士山の生成した歴史や構造を調べたいと思います。何か参考となる書籍がありますか? (3/8/98)

しげ:会社員:34

A Question#64の回答でも取り上げましたが,
 つじよしのぶ著「富士山の噴火―万葉集から現代まで」築地書館が格好の入 門書だと思います.肩の凝らない読み物です.ただし,この本は歴史時代のみ を扱っていますから,それ以前の歴史や構造のことが知りたければ,
 町田 洋著「火山灰は語る」蒼樹書房
 諏訪 彰編「富士山―その自然のすべて」同文書院あたりがよいと思いま す.ただし,火山学はいま伸び盛りの学問ですから,これらの本の内容は今後 の研究の進展によって大幅に塗り替えられていく性質のものであることに注意 してください.(3/9/98)

小山真人(静岡大学教育学部)


Question #64
Q
 先日火山地帯を貫くトンネルとして安房トンネルが開通しました。そこで、馬鹿な質問ですが、富士山のど真ん中を貫くトンネルを掘るとすると、どのような事態が生じ、どのような工事になると想像されますか?お教え下さい。 (1/8/98)

火山学者になりたかったなー:公務員:41

A
 「ど真ん中」というと山頂火口の真下かしら.あまり,ぞっとしませんね.
 現在の富士山に顕著な地熱地帯の存在は知られていませんが,かつて山頂火 口には荒巻と呼ばれる地熱地帯があり,卵をゆでて売っていたそうです.その 場所の噴気の温度が1928年に80度,1954年に50度の測定記録もあります.この 地熱地帯は,1963年にもわずかに熱気があったそうですが,現在は無くなりま した.ただし,それは地表での話であり,トンネルを貫く場所の地下はまだ熱 い状態でしょう.仮に山頂火口の下を横断するトンネルを掘るとなれば,間違 いなく高温の地熱地帯を貫くことになり,つねに熱水・高温蒸気の噴き出しや 水蒸気爆発の危険と隣り合せる難工事になることは間違いありません.
 富士山の山頂の地熱地帯の変遷や噴火の歴史にくわしい以下の本の一読をお 勧めします.
 つじよしのぶ著「富士山の噴火―万葉集から現代まで」築地書館 (1/10/97)

小山真人(静岡大学・教育学部)


Question #88
Q 岩手山の噴火は近々あるのか (6/10/98)

TS:会社員:48

A No.76の回答を参考にして下さい. その当時(5月中旬)と状況は特に変わっていませんが,関係者は噴火が起こ りうることを念頭において対処しています. (6/10/98)

中田節也(東大・火山センター)


Question #204
Q 富士山では、年に数回低周波地震が観測されていますが、その原因、火山活動との関連及び最近の状況について教えて下さい。
 近年頻発している新島、神津島近海の地震は、伊豆半島東方沖のようにマグマとの動きとの関連があるのか、現在判明している範囲で教えて下さい。
 よろしくおねがいします。 (4/2/99)

冨永:団体職員:33

A 富士山の低周波地震は、深さ10〜20kmという地殻の中程で発生しています。 このように、火山直下の地殻のやや深いところからマントルの最上部で、低周波 地震が発生していることは、1980年代からわかり始めました。噴火に呼応して、 活発化する場合もあることから、地下のマグマの動きと関連して発生しているこ とは間違いないでしょうが、その詳細は不明です。

富士山では、観測網が整備された1980年以後、1年間に10〜20回程度の割合 での低周波地震活動が観測されています。静穏期や頻発期があるものの、現在も この傾向は変わっていません。 (4/5/99)

鵜川元雄(科学技術庁・防災科学技術研究所)


Question #198
Q
 東大病院の院内学級に勤務している者です。お忙しいところ申し訳ありません。
 よろしくお願いします。
 
 理科の授業で関東ローム層を教えている時に次のような質問がありました。


 (1)「富士山はいつ頃噴火したの?」
 (2)「どうやったら噴火した時期が分かるの?」


 ぼく自身地学が専門ではないため、(1)についてきちんと答えてあげることができませんでした。 また、(2)についても「地層を関東ローム層と、上下の地層の年代を比べて年代を調べたんだよ」と しか答えられませんでした。いろいろ調べたのですがよく分からなかったので、質問したいのですが、 次のことについて教えていただけるでしょうか?
  1;関東ローム層は、富士山の火山灰が噴火してつもった地層という事で良いですよね。 2;富士山は何年前〜何年前ぐらいに噴火したのでしょうか?年代はいつ頃でしょうか? 3;関東ローム層の上下の地層は何年前〜何年前つもったのでしょうか?上下の地層が積もったとき 関東はどの様な様子だったのでしょうか?


 簡単な質問で恥ずかしいのですか、よろしくお願いします。 (3/6/99)

土屋忠之(都立北養護学校 東大こだま分教室勤務):教員:30

A (1)
 より厳密には,「関東ローム層は,富士山,箱根山,浅間山などの,おもに関東 平野西方に位置する火山の噴火によって地表にもたらされた火山灰が,大気中を運 ばれて降り積もった地層」です.火山灰の大気中での移動方法としては,噴火時の 噴煙によって直接運搬されることもあれば,噴火休止期に火山山麓の荒れ地や河川 敷などから強風によって少しずつ運ばれることもあります.前者の運搬方法を主と みるか,後者を主とみるかで,まだ学者間に議論があります. (2)
 富士山は,およそ10万年ほど前から噴火を始め(かつて8万年前とよく言われま したが,最近の年代測定研究の進歩によって若干遡っています),歴史時代にもた びたび噴火を起こしている活火山です.最近では1707年(宝永四年)に大規模な噴 火を起こしています.なお,1707年以後もまったく静かであった保証はなく,1708 〜09年,1770年,1854年にも小規模な噴火を起こした疑いがあり,現在研究が進め られています.
 富士山の歴史時代の火山活動については,以下のページが参考になるでしょう. http://sk01.ed.shizuoka.ac.jp/koyama/public_html/Fuji/fujid/0index.html (3)
 関東ローム層の最下部をしめる地層は,およそ40〜50万年前の堆積物です.そし て,関東ローム層の最上部(つまり現在の地表面)には,いまでも少しずつ堆積物 が堆積し続けています.風の強い日に荒れ地や河川敷・畑などから砂ぼこりが大量 に舞い上がり,それがわずかずつ地面をかさ上げしているのです(あるいは,上述 した富士山の1707年噴火の際に関東平野に灰が降り積もったことからわかるように, 火山噴火による降灰でかさ上げされることもあります).縄文・弥生時代や歴史時 代の遺跡が土中に埋もれているのはそのためです.
 関東ローム層は乾いた陸上(湖や川や湿地帯ではないという意味です)で堆積し た地層です.つまり,関東ローム層がつもった場所はいまの武蔵野台地のような台 地の上です.しかし,関東平野全体に関東ローム層が分布しているわけではありま せん.たとえば,千葉県の北部には低い丘陵地帯が広がっていますが,そこには40 〜50万年前の海でたまった砂や泥が分布しています.つまり,関東ローム層が堆積 し始めた頃には,いまの東京湾から九十九里浜にかけて洋々とした海原が広がって いたのです. (3/10/99)

小山真人(静岡大学・教育学部・総合科学)


Question #365
Q さらに連続の質問ですいません
山梨県の地形図を見ると富士山を取り囲むように赤石山脈と御坂山地が円弧を描いています。得に御坂山地の稜線はは富士山の底面の円と相似形の円弧を描いてるので(うまく表現できないのですが)いかにも富士山を中央火口丘(!)に持った外輪山のようにも見えてきてしまいます。これは全くの偶然なのでしょうか。また偶然だとしても御坂山地が外輪山の一部を思わせる、綺麗な円弧を描いているのは何故なのでしょうか (12/29/99)

yoshiaki:大学生:24

A
 まず地形的に,「取り囲んでいる」かですが,御坂山地から富士川谷にかけての山 地は,たしかに円弧状をしているように見えます.しかし,東側の丹沢山地の尾根の 方向は東西で,富士山を取り囲む方向とは直交します.また,南側にはそのような地 形は全くありません.富士山を取り囲むきれいな円弧状の地形があるというには非常 に無理があります.次に,地質学的には,御坂山地から富士川谷にかけては、新第三 紀の海成層や火山岩類が分布しています.富士山や小御岳から噴出した火砕流などは 分布していません.また富士山を取り囲むような、環状の正断層も知られていません .したがって,富士山のまわりにカルデラがあるというのは,地形学的にも地質学的 にもまったく支持できないと思います.
 では,なぜ円弧を描いているかですが、富士山は、二つのプレートの衝突境界のほ ぼ真上に位置しており特に地殻の厚い伊豆バーと呼ばれる部分が,日本列島側に楔状 に食い込んだ位置にあります.そのため,その北側や西側には,主に海底火山の噴火 でできた厚い地層が日本列島側に次々と衝突することによって押しつけられ圧縮され 変形した地層が分布しています.全体として東西方向に軸を持つ褶曲構造が発達しつ つ,やや北に凸に曲がっていることも知られています.
 また,最近の地殻変動で考えると,御坂山地の北に位置する甲府盆地は,ほぼ三角 形をしており,最近数十万年間に急激に沈降していることが知られています.また, 盆地の南側には東西性で南傾斜,南側隆起の逆断層があります.大まかにいえば御坂 山地全体が,甲府盆地側すなわち北側に移動しつつ隆起ていることを意味します.こ れは御坂山地が北に凸の弧状をなしていることと調和的です. (1/5/00)

千葉達朗(アジア航測株式会社・防災部)


Question #381
Q 最近ネットで富士山の形成史を見てわいた疑問です.富士山は小御岳,古富士,新富士の3つの火山から形成されているとありますが,何をもって別の火山とするのでしょう?供給源のマグマ溜まりが違うのですか?八ヶ岳や榛名火山はどうなのでしょう?割れ目噴火でたくさんの円頂丘が形成された場合は?(ちなみに,その様な噴火様式は現実にありますか?)何となく思った疑問ですが,教えて下さい. (01/17/00)

一応地質屋:会社員:27

A
 大変本質的で難しい御質問です。専門家が困る素朴ですがよい御質問といえますね 。そんな馬鹿なことがと思うかもしれませんが、実は厳密な意味でのひとつの火山の 定義とは定まっていないのです。現実には漠然とひとつの空間的なまとまりをもった 火山体に対して、ひとつの火山としてある名称を与えるケースが多いようです。給源 のマグマ溜りで分けるなどといったことがわかるほど、マグマ溜りのことについてよ くわかっているわけではないのです。
 富士火山の場合、古富士と新富士は空間的に重複し、時間的にも連続したまとまり のある分布をしていますので、両者を合わせて富士火山とよびます。小御岳火山は中 心が富士火山と比べて北側にずれており、侵食も進んでいて両者の間には時間間隙が 存在しているので、別の火山と認定されています。
 古富士・新富士の違いはあまり明瞭ではありません。最初に新富士・古富士を命名 した津屋弘達氏は、富士火山の北側山腹の一部にみられるやや侵食の進んだ火山体や 、爆発的噴火を繰り返して厚いテフラ層を堆積させたり、山麓にかつて繰り返し火山 泥流を供給した火山体のことを古富士火山とよびました。その上を覆って、現在の山 体の主要部を構成しているのが新富士火山です。新富士火山の方が溶岩流の占める割 合が多く、より静かな噴火活動と考えたようです。しかし、確かによく検討してみる と、漠然としていてあまり厳密な定義ではありません。
 その後、町田 洋氏は富士火山のテフラを詳細に検討し、約5000年前の富士黒土層 を境にして、古期富士火山と新期富士火山に再区分しました。黒土層は噴火が休止し た時期に堆積した一種の土壌です。この時期に活動間隙があると考えて区分したわけ です。津屋氏の区分とは一致しませんが、合理的な区分ではあります。
 新富士火山の形成史を詳細に明かにした宮地直道氏は、大量の溶岩噴出へと噴出様 式が大きく変化する時期を境に新富士と古富士を分けるという津屋氏の区分を、再び 採用しています。噴出様式が大きく変化するという意味では、噴出様式の違いに基づ く新富士、古富士という区分も捨て難いものがあります。
 榛名火山は全体としてひとつの空間的まとまりを示しているので、これをひとつの 火山とよんでもあまり抵抗はないかもしれませんが、八ヶ岳火山は、ひとつの火山と よぶのは躊躇するかもしれません。事実、八ヶ岳は複数の小型〜中型成層火山や溶岩 流、溶岩ドームなどの集合体で、小型成層火山には赤岳火山などといった名称がそれ ぞれつけられています。八ヶ岳の場合は、八ヶ岳火山群とよぶのがふさわしいでしょ う。
 割れ目噴火で沢山の火山体が形成されるケースはもちろんあります。伊豆半島の大 室山や1989年に海底噴火した伊東沖の手石海丘などで有名な東伊豆単成火山群は、小 型の沢山の単成火山からなる群を作っています。この場合、群全体で富士火山のよう なひとつの成層火山体に相当するわけです。東伊豆単成火山群の中で手石海丘を除き 最も新しい噴火活動の産物のひとつである伊雄山ー岩ノ山火山列は、ほぼ同時期に一 連の割れ目から噴出したスコリア丘や溶岩ドームからなっています。しかし、こうし た火山群に対してある固有の名称をつけるにはまだ至っていないようです。
 専門家がドキッとするような大変難しい御質問でしたが、このくらいで御勘弁下さ い。ひとつの火山の定義って、本当にどうしたらよいのでしょう。 (1/17/00)

高橋正樹(茨城大学・理学部・地球生命環境科学)


Question #1350
Q
 はじめまして。お忙しいところ、失礼します。現在私は愛知県に住んでいるのですがごく最近、実家である静岡の家族から以下のような話を聞きました。それは、富士山の頂上の積雪が以前より非常に少なく、これは富士山のマグマ活動が始まったためだと地元の新聞で報じられていたというのです。(実際私もネット上で確認しました。)実家は富士市近辺ですので非常に心配です。そのうえ最近ではあちらこちらで地震が絶えません。静岡県中部でも小規模な地震が増えているように思います。昔からいつか東海大地震がまた来ると言われていますし、地震を引き金とした火山噴火も十分考えられると思います。そこで富士山の現在のマグマ活動と積雪の減少の関係について詳しく知りたいのでよろしくお願いします。また、そのような最新情報をネット上で公開しているところがありましたらぜひ教えてください。

(12/17/00)

Zitrone:大学生:21

A
 富士山の積雪が,ついこの間まで平年より少なかったことは事実でしょう(その後 12月10日に降った雪で今はすっかり真っ白になりましたが).おかげで今年は12月上 旬でも5合目付近の地質調査ができました.また,富士山の地下10〜20km付近で定常 的に起きている長周期地震(おそらくマグマ活動に起因する地震)の回数が,今年 10月頃より多くなっていることも事実です.このことは気象庁から公表されている資 料で見ることができますから,それにもとづいた報道もなされたのでしょう.
 しかし,それをもって積雪の少なさを火山活動と関連づけるのは,あまりに短絡的 なものの見方だと思います.富士山下の長周期地震は観測開始以来,年に十数回から 数十回程度起きている定常的なものです.つまり,もともと富士山のマグマ活動は地 下深くでずっと起きてきたのです.10月よりその回数が多くなったというだけです.
 もちろん科学技術庁や気象庁では活動の推移を注意深く見守っていますが,その深 さは別に浅くなってきてはいませんし,それ以外の山体の膨らみなどの異常も今のと ころ起きていません.現時点では富士山下のマグマが上昇を始めた証拠はありません. 活動は地下深部にとどまっています.
 ですから,今の段階で「非常に心配」するのは,明らかに心配のし過ぎです.ちな みに,初冬の富士山には積雪が少ない年もありますし,積雪の多い年もあります.も し雪を溶かすほど地熱活動が高まれば,積雪の少なさだけにとどまらない様々な異常 が発見されるでしょうが,そういう報告は今のところ一切ありません.
 なお,「静岡県中部で小規模な地震が増えている」というのは事実ではありません. むしろ,ここ2〜3年逆に地震が少なくて地震学者に注目されています.東海地震と富 士山噴火の間にはおそらく密接な関係があると私も思いますが,東海地震自体がそれ ほど差し迫っておらず,おそらく21世紀なかばに南海地震と一緒に起きるだろうと考 えている地震学者が(あまり表には出ませんが)数多くいます.
 おそらく今一番大切なことは,この機会に富士山が生きている火山であることを再 認識し,当面はそれほど心配ないとしても,将来いつかは起きるであろう噴火に備え た防災対策やまちづくりを着実に進めていくことだと思います.
 なお,残念なことに気象庁や気象協会はネット上での情報発信にそれほど積極的で はなく,今のところ三宅島などの特定の火山を除いた活火山(富士山をふくむ)の最 新情報をネット上には掲載していないと思います.こういうところは早急に改善して いってもらいたいものです. (12/22/00)

小山真人(静岡大学・教育学部・総合科学教室)


Question #1537
Q
 生徒に「富士山の低周波地震って,何?」と質問され,答えに窮してしまいました。
どんなものなのか教えてください。 (02/06/01)

ビッグ・ボイス:中学校教員:27

A
 富士山の最近の地震活動や噴火の可能性などについて、この質問を含んで数多く寄 せられました。ここでは地震活動についてだけまとめて回答します。
 低周波地震ですが、文字の通りに、低周波(長周期)の地震波を放出する地震のこ とです。普通の地震は1秒間に10回以上揺れてすぐに終わるのですが、低周波地震で は1秒間に数回しか揺れず、しかも長く継続するのが特徴です。低周波地震はマグマ の活動に関係あると言われてはいますが、どうして低周波地震が発生するのかはきち んと解明されていません。
 約2年前このQ&Aのコーナーに、富士山の低周波地震に関する質問(#204)に対し て、富士山の地震を研究を続けていらっしゃる鵜川元雄(科学技術庁・防災科学技術 研究所)さんは以下のようにお答えになっています。「富士山の低周波地震は、深さ 10〜20kmという地殻の中程で発生しています。このように、火山直下の地殻のやや深 いところからマントルの最上部で、低周波地震が発生していることは、1980年代から わかり始めました。噴火に呼応して、活発化する場合もあることから、地下のマグマ の動きと関連して発生していることは間違いないでしょうが、その詳細は不明です。 富士山では、観測網が整備された1980年以後、1年間に10〜20回程度の割合での 低周波地震活動が観測されています。静穏期や頻発期があるものの、現在もこの傾向 は変わっていません。(1999年4月5日)」
 気象庁によると富士山では、昨年10月から年末にかけて、低周波地震の発生頻度が 月回数で100〜200回と急に増え、最近20年間の観測のなかでは最も多いものでした。 しかしこのこと以外、特に地下のマグマが活発化したことを示す兆候は今のところ捕 らえられていません。


 富士山が噴火した場合については、このコーナーの#1350、#1405の回答も参考に して下さい。
 また、富士山の噴火に関するホームページがいくつかありますのでそちらも参考に して下さい。
 静岡大学小山さんのページ
 静岡県防災局小澤さんのページ
 地質調査所東宮さんのページ (02/19/01)

ホームページ管理者


Question #1405
Q はじめまして。埼玉で塾の講師をしている学生です。
先日、高校生から「富士山が噴火するとどんな被害があるの?」と聞かれました。学校の授業でレポ−トを書かされるようなのです。質問を受け、私も火山に興味があったので調べましたが、良い資料が無く困っています。噴煙による被害や火砕流など、富士山が噴火してから起こると予想される被害を詳しく教えてください。出来れば資料のあるHPも教えていただけると幸いです。よろしくお願いします。 (01/12/01)

ヒロ:大学生:21

A 富士山の火山災害予測についてはいまだにお寒い状況であり,いわゆるハザードマッ プ(火山災害予測図)についてもきちんとした形で作成・公表されたものはありませ ん.富士山のまわりには観光依存度の高い自治体が多く,観光への悪影響を懸念する がゆえに災害予測図の作成がタブー視されてきました.昨年あたりから状況が好転し つつありますが,災害予測の作業はまだ具体化されていません.したがって,現時点 では残念ながら「良い資料」はありませんので,不十分ながら以下の資料を参考にし ていただく以外にないと思います.

・富士山火山防災ハンドブック
 国土交通省(旧建設省)富士砂防工事事務所・山梨県・静岡県が昨年作成した26ペ ージのカラーパンフレットで,火山災害についての一般的解説,火山としての富士山 の特徴や過去の歴史などがよくまとめられています.ただし,災害予測までは至って いません.現時点での入手方法については,国土交通省富士砂防工事事務所調査課, 山梨県砂防課,静岡県砂防室に問い合わせてください.

・海洋出版発行の「月刊地球」2000年8月号(特集号:富士火山の活動史と噴火災害 ).富士山の火山災害予測をテーマとし,火山学・火山災害の専門家の論説を集めた 特集号.富士山の火山災害予測についての現状や問題点を知るのに最適です.書店で 注文できます.

・損害保険料率算定会発行の報告書「火山災害の研究」(地震保険調査研究42)
 火山災害の整理・解説,火山災害予測・評価の実例についての311ページにわたる 詳しい報告書(1997年発行)です.富士山の災害予測の実例も載せられています.入 手については損害保険料率算定会に問い合わせてください.大きな図書館や大学図書 館で探すとあるかもしれません.

・国土庁防災局(現内閣府防災担当)発行の「火山噴火災害危険区域予測図作成指針 」
 自治体向けに火山災害予測図の作成方法を説明したマニュアル(183ページ+付図 31葉).作成例として富士山の災害予測の実例もいくつか載せられています.1992年 発行とやや古いため,入手可能かどうか不明です.大きな図書館や大学図書館で探す とあるかもしれません.

なお,富士山の将来を予測する上で鍵となるのは,富士山の生い立ちや過去の噴火災 害履歴です.それを知る上で,以下のようなHPや本が参考になるでしょう.

インパク静岡県パビリオン(火山の郷): http://www.7000m.com/inpaku/top.html 火山としての富士山: http://sk01.ed.shizuoka.ac.jp/koyama/public_html/Fuji/Fuji.html 富士山の歴史時代の噴火: http://sk01.ed.shizuoka.ac.jp/koyama/public_html/Fuji/fujid/0index.html 町田洋・白尾元理著「写真でみる火山の自然史」東大出版会(1998) 町田洋著「火山灰は語る」蒼樹書房(1977) 諏訪彰編著「富士山―その自然のすべて」同文書院(1992) (01/16/01)

小山真人(静岡大学・教育学部・総合科学教室)


Question #1539
Q 一時岩手山に臨時火山情報が出されていましたが、その後どうなっているのでしょう。噴火に至らなかった理由は何なんでしょう。また、最近富士山のことが話題になっていますが、最新の情報を教えて下さい。 (02/06/01)

みやちゃん:公務員:44

A 岩手山では,1998年2月下旬から火山性地震が増加し,3月には歪み計や傾斜計にも変 化が現れました.その後1998年6月23日に低周波地震,火山性微動が発生,火山性地 震もさらに増加したため,盛岡地方気象台が臨時火山情報第2号を発表し,噴火の可 能性を示しました.その後,地殻変動なども観測され,噴火の可能性があるとして, 観測体制の強化や,地元自治体などの対応体制整備,ハザードマップの配布などが行 われました.9月3日にM6.1の地震が岩手山西部で発生し,被害がありましたが,その 後地震活動,地殻変動とも落ち着いてきて,噴火は起こらずに現在に至っています. 地殻変動で,岩手山が南北に広がるような動きが観測されていましたし,岩手山の西 では,これまでなかったところに噴気地帯ができたりしています.地下でマグマや熱 水などの動きがあったのは,まず間違いありません.しかし噴火が起こらなかったの は,上昇したマグマの量や浮力が足りなかったり,M6.1の地震の影響があったのかも しれませんが,はっきりした理由はわかっていません.富士山でも低周波地震が昨年 秋に増加しましたが,今のところ火山性地震の活発化や,地殻変動は観測されていま せん.低周波地震も今年に入ってから減っています. (02/21/01)

川辺禎久(産業技術総合研究所・地質調査所・火山地質)


Question #2004
Q こんにちは。

この夏、富士山に登ったのですが、須走下山道を降りて行くと、砂走りがおわったあたりに、
富士山の山頂火口のミニチュアみたいな大きなくぼみがありました。
それに対して、いっしょにいった仲間の間で、これは、「側火山の火口だ」
「いや、単なる侵食された穴だ」という意見に分かれました。
これが側火山かどうかはともかく、宝永火口以外に、見てわかりやすい
(ついでにできれば見にいきやすい)側火山はありますでしょうか。
よろしくお願いします。 (11/09/01)

富士山クライマー3世:会社員:29

A
 富士山は宝永火口以外にも100以上の側火山があることが知られています。富士山 の側火山の多くはスコリアという黒い火山礫が積み重なった小さな山で、スコリア丘 と呼ばれています。この他に山頂火口や宝永火口のよう大きな穴だけが開いた爆裂火 口と呼ばれる火口もあります。スコリア丘は北西麓では大室山、南東麓では日本ラン ド遊園地の中にあるカンス山が大きなものです。このうちカンス山は火口周辺が自転 車周遊道路になっていて火口一帯の断面を観察することができます。スコリアよりも さらに柔らかい溶岩の破片(スパター)が積もった丘をスパター丘と言いますが、富 士スバルラインの御庭というところにはこれらのスパター丘がいくつも連なっている 様子を観察できます。御庭の駐車場からは山頂側にハイキングコースがあり、これら のスパター丘とその中の火口を見ることができます。側火山の火口からは火山礫やス パターが周辺に積もっていたり溶岩が流れ出しており、火口から吹き出した噴出物が 有るか無いかが火口を見分ける鍵となります。
 ご質問の須走口下山道の穴ですが、この穴の断面には溶岩や雪崩で流されてきてた まった砂礫が重なっているものの、この穴から吹き出したと思われる噴出物は穴の周 辺で見つかりません。このため、この穴は浸食によりできた谷と思われます。
 さて、富士山の側火山の多くは富士山の北西ー南東方向に分布しますが、この穴の ある富士山の北東斜面にも多数の側火山があることが最近判ってきました。しかし、 これらの側火山がいつどのような噴火をしたのか、もっと他の地域にも側火山はない のか、といった点は判っていません。
 日本一の富士山は調べれば調べるほど新たな疑問が生まれる不思議な山でもありま す。
 (01/11/21)

宮地直道(野菜茶業研究所・葉根菜研究部・土壌肥料研究室)


Question #2266
Q 富士山の側火山である宝永山について二点ほど質問です。

その1
以前宝永山に登った時に、その巨大な火口と同時に、山頂付近の赤い岩が印象に残りました。
後で調べたところ、その赤い岩は古富士火山の一部だという記述を目にしました。
ということは、宝永の噴火以前にも富士山の山腹には宝永山の元になるような出っ張りや
側火山があったということでしょうか?それとも宝永山は宝永の噴火の一度で形成され、
赤い岩は噴火に起因する何らかの原因で押し上げられて地表に現れたのでしょうか?
もしくは、その赤い岩は古富士火山とは全く関係の無いものでしょうか?

その2
宝永噴火の後で、宝永火口で噴気などの何らかの火山活動はあったのでしょうか?
また、宝永火口から再び噴火が起こる可能性はあるのでしょうか?

以上ですがどうかよろしくお願いします。 (05/30/02)

静岡人:学生:18

A (その1)
 たしかに宝永山に露出する赤い岩(赤岩)は,現在の富士山(新富士火山)をつく る噴火堆積物とは特徴の異なる赤褐色火山れき・火山灰層からできており,古富士火 山の一部と考えられています.この点については,学者の間にあまり異論はないと思 います.
 宝永山自体は,さまざまな古記録に「噴火でできた」「噴火の後に見つけた」など と書かれています.また,地形的にみると,宝永火口のうちの初期にできたものの一 部が,宝永山の隆起によって変形しているように見えます.以上のことから,宝永山 は宝永噴火の最中に隆起してできたとする解釈が一般的です.しかし,かたや宝永火 口で爆発的な噴火をしながら,そのすぐわきで隆起を起こさせるメカニズムが不明な ので,宝永山という出っ張りの成因についてはまだ再検証する余地があると思ってい ます.

(その2)
 宝永噴火の翌年の1708年に宝永火口の方角から鳴動が聞こえたという古文書が,麓 の小山町に残されています.しかし,その真偽は不明であり,本当だとしても後始末 的な崩落によるものではないかと想像します.その他には,宝永火口の再噴火や噴気 などの記録は知られていません.
 宝永火口に限らず,富士山の側火山はすべて岩脈貫入によって噴火した単成火山で すので,山頂火口のようにマグマだまりに直結する太いパイプをもっていません.よ って,将来たまたま別の岩脈がその場所に貫入しない限りは,完全に同一の火口から 噴火が生じることはないと考えられます.実際に,山頂火口以外の側火山が再噴火し た例も見つかっていません.
 (6/02/02)

小山真人(静岡大学・教育学部・総合科学教室) --


Question #2342
Q 富士山の最近の噴火はいずれも側噴火だと聞きますがなぜなのでしょうか、もう中央火口からは噴火しないのでしょうか? また、マグマが上昇するためには重力に逆らわなければならないと思うのですが、そのためにマグマが上昇して噴火に至る限界高度というものがあるのでしょうか? (06/23/02)

しろしろ:フリーター:24

A
 富士山の最近の噴火でどうして側噴火が多かったのかはあまりよく分かっていませ ん.マグマがいろんな方向に入って側噴火を繰り返しているうちに,ついにはマグマ の入る余裕がなくなって中央(山頂)火口から噴火せざるを得なくなるという考え方 もあります.富士山の長い歴史の中では,側噴火と山頂噴火を一定の長さで繰り返し て起きているようです.次の噴火が側噴火なのか山頂噴火なのかははっきり分かりま せん.
 マグマの上昇限界についてですが,原理的には,地下でマグマのたまっている場所 (マグマ溜まり)の「マグマの圧力」と,マグマが溜まりから火口までつながって作 る「マグマ柱」が作る荷重(負荷)とが釣り合う高さまで,マグマは上昇することが できます.この高さは,「マグマの圧力」の周囲の岩石より余分に持つ圧力(過剰 圧)と「マグマ柱」の密度によって変わります.標高が高い火山でも,マグマが泡立 つなどしてその密度が小さく(軽く)なればより高く上昇することができます.
 ハワイのマウナロアは標高4000mを越えてもマグマが勢いよく噴き出していま す.中部アンデスの火山は標高6000mを越えています.これは過去には6000 mを越えて噴火したことを物語っています.地球上ではこの辺が高さの限界でしょ う.
 (07/23/02)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター) --


Question #2494
Q こんにちは 私は小学4年生です。夏休みに富士山と浅間山に行きました。浅間山の鬼押し出し溶岩は約200年前に出来たそうですが、これから何千年も経つと富士山の樹海のようになるのですか?また富士山と浅間山について調べていますが、溶岩の違いについても教えて下さい。お願いします。 (08/17/02)

響ちゃん:小学生:10歳

A 響ちゃん,こんにちは. 浅間山の鬼押出溶岩は,たしかに何千年もたつと富士山の樹海のようになります.富 士山の樹海で有名な“青木ヶ原溶岩”は,今から1100年ぐらい前の大噴火の時に流れ 出たもので,噴火のすぐ後は黒っぽい溶岩の原っぱみたいになったのでしょう.それ が今ではうっそうとしたジャングルのようになっていますね.浅間山でも,鬼押出よ り前の大噴火(今から900年ぐらい前)の時に流れ出た溶岩は樹海のようになってい ます.日本のような気候では,だいたいどの火山でも,噴火がおさまるとすぐに草木 が生えてきて,時間がたつにつれうっそうとしてきます.植物の力はすごいですね.
 ところで今から220年ほど前に流れ出た鬼押出溶岩には,すでに樹海のようになっ ている場所があります.鬼押出溶岩は,噴火口のある高さ2500m以上(海面からの高 さ)の浅間山のてっぺんから1200mぐらいのところまで流れ下りました.溶岩の上を 歩き回ってみると,浅間園や鬼押出園のある1400mぐらいのところより低い場所で は,けっこうジャングルのようになっているのです.生える草木の種類や数は高さに よって違っていて,あんまり高くなると,草木はほとんど生えなくなります.浅間山 のてっぺんの方を眺めると,草木はほとんど見あたらないですよね?浅間山以外の火 山では、伊豆大島や桜島にも,鬼押出と同じ今から220年ぐらい前に流れ出た溶岩が あります.どちらも溶岩が流れた場所の高さは鬼押出よりずっと低くて,かなり草木 におおわれています.伊豆大島や桜島は浅間山のある高原に比べると気温が高くて雨 も多いので,草木がどんどん成長して,同じ時代の溶岩でも早く樹海になってしまう のでしょう.
 富士山と浅間山の溶岩の違いはいろいろありますが,富士山の溶岩の方がねばり気 が少なくて,浅間山の方がねばっこいのが大きな違いです.富士山の溶岩の方が流れ やすくて,火口から何10kmも流れたことがありますが,浅間山の方は数kmぐらいで す.富士山の溶岩は,厚さが数mほどで,表面がつるんとしていたり,あるいは,い がいがのあるパパイヤぐらいの大きさの石でしきつめられたようになっています.青 木ヶ原溶岩でも足元をよーく見てみると,そういった様子を見ることができます.浅 間山の溶岩の方は,厚さが何10mもある,つぶれたカマボコのような形をしていて (鬼押出は浅間園のところで厚さが60m以上もあります),表面には巨大なサイコロ のような岩がごろごろ転がっています.富士山の溶岩の石の名前は玄武岩(げんぶが ん),浅間山の方は安山岩(あんざんがん)といいます.二種類の石の詳しいことに ついては,この質問コーナーの検索(けんさく)機能などで調べてみて下さいね.
 (08/19/02)

安井真也(日本大学・文理学部・地球システム科学科) --


Question #2519
Q 富士山と浅間山のことで質問した響ちゃんです。この前はありがとうございました。浅間山のことにもっと興味がわいてきたので教えて下さい。湖と洞穴のことを質問します。青木ヶ原には、風穴・氷穴・コウモリ穴のような洞穴がいっぱいありますが浅間山にはないのですか?私は溶岩が富士山よりもドロドロしていて厚くなっていて流れる距離も富士山と比べて短いから洞穴が出来なかったのかなぁと思いました。また浅間山には湖が一つもないのが不思議です。昔はあったのでしょうか?教えてください。 (08/22/02)

ペンネーム響ちゃん:小学生:10歳

A 1)前回(#2494)、富士山の溶岩は浅間山の溶岩より流れやすいという話をしまし た。コウモリ穴のような洞穴は溶岩のトンネルの跡と考えられています。地表に出た 熱い溶岩が空気にふれると、一番上の部分が冷えてカサブタのようになって流れにく くなります。けれども内側はまだ熱くて流れやすいために、下流に抜けていってしま い、筒のような形のトンネルができます。いちどトンネルができると、あとから来た 溶岩もその中を流れます。20年近く噴火を続けているハワイ島のキラウエア火山で は、溶岩トンネルの天井(てんじょう)のところどころに穴があいていて、そこから トンネルの中を川のように流れる溶岩を見ることができます。浅間山では洞穴は見つ かっていません。響ちゃんが考えたように、厚くて流れにくい溶岩にはトンネルはで きにくいようです。 2)浅間山のまわりの湖ですが、1〜2万年前ごろにはありました。軽井沢駅の南側 のあたりはとてもひらたくて、地面の下には、砂や泥に小枝や植物のかけらが混じっ た地層(ちそう)が何枚も重なっています。この地層は湖の底にたまってできたもの です。湿原にたまる泥炭(でいたん)という地層もはさまっています。2万年前頃に は浅間山の一部が壊れてこの地域に流れてきました。その後も噴火のたびに火山灰が 降りつもったり、火砕流(かさいりゅう)が流れてきたこともありました。 流れて きた土砂や降ってきた火山灰が川をふさいで浅い湖ができ、噴火のない時には干上が っていくということを繰り返したようです。
 (8/31/02)

安井真也(日本大学・文理学部・地球システム科学) --


Question #2639
Q 富士山のマグマ溜まりについて質問します。
以前、富士山で低周波地震が多発したとき、富士山のマグマ溜まりは低周波地震が発生している地下10〜20キロメートルより、さらに下の地下25キロメートル付近にあると聞き大変驚きました。なぜなら日本の他の主な火山のマグマ溜まりの位置は浅いもので地下数キロメートル、深いもので地下10キロメートル前後と思っていたからです。
そこで質問なのですが、実際に富士山のマグマ溜まりは日本の他の火山のマグマ溜まりに比べて深いのでしょうか?また、もしそうならどうしてでしょうか? (09/11/02)

しろしろ:フリーター:24歳

A
 富士山のマグマ溜まりについてお答えする前に、マグマ溜まりがどうしてできるか を考えてみます。
 火山の下にマグマが貯蔵されているマグマ溜まりのあることは確かだと考えられて います。日本のような島弧の火山では、海洋プレートの沈み込みによって、100kmか ら150kmの深さでマグマが作られます。このマグマはまわりの岩石より軽いので上昇 しはじめますが、まわりの岩石の密度は浅くなるにつれて小さく(軽く)なるのでだ んだん密度の差がなくなってきます。このため、マグマはついには上昇し続けること ができず、一旦、上昇を止めて集まります。この場所にマグマの溜まりができます。 ここでマグマのなかの比較的重い成分が結晶となって取り除かれ、液体のマグマは軽 くなり、再び上昇をはじめます。マグマが地表に達して噴火するまでには、何回も一 時停止しては軽くなるはずなので、マグマの溜まりは1カ所ではなく、何カ所にもで きると考えられています。
 地中を目で見ることができないので、マグマ溜まりの探すのは簡単ではありませ ん。火山学者は火山の下を調べる方法として、地震波の伝わる速度や吸収のされ方に 注目しています。マグマがたくさん溜まっているところでは、地震波の伝わる速度が 小さくなったり、地震波のエネルギーがたくさん吸収されてしまうので、地震波の伝 わる様子を詳細に調べればマグマ溜まりのありそうな場所の見当をつけることができ そうだからです。
 1990年ころに行われた研究では、富士山の下、深さ25kmくらいの深さに地震波が周 辺よりゆっくり伝わる領域が見つかりました。この地震波速度の小さい領域がマグマ の溜まりの可能性があります。それよりも浅いところにマグマ溜まりがあるかどうか は、富士山の山体に地震観測点がまだまだ少なく、はっきりしたことがわかりませ ん。現在、富士山の観測点が強化されていますので、富士山直下の浅い場所の様子も 分かってくることが期待できます。
 他の火山のマグマ溜まりも、まだ、その大きさや深さがはっきりわかっている例は ほとんどなく、マグマ溜まりの姿を明らかにすることは、21世紀の火山研究の重要 な課題になっています。
 (09/16/02)

鵜川元雄(防災科学技術研究所・固体地球研究部門) --


Question #3184
Q 冨士火山は伊豆半島が楔のように食い込んだ先に発達した火山のように見えますが、この場所に日本では桁外れに大きな火山が出来たのは、伊豆半島のプレートへの潜り込みが関係しているのでしょうか?、日本列島に付加された陸塊ではこのような所はほかにないのでしょうか?北上山地や阿武隈山地も似ているように見えますが。

(11/01/02)

ぼるけの:会社員:40

A
 ご指摘のように伊豆半島は本州に対して楔のように食い込んでみえます.このこと は海底地形をふくめて眺めるともっと明瞭になります.伊豆半島の西側では,フィリ ピン海プレートの沈み込み境界である南海トラフの延長にあたる駿河トラフが,伊豆 半島と平行するように北上し,富士川河口付近で陸側に上陸しています.一方伊豆半 島の東側では日本海溝から分岐した,やはりフィリピン海プレートの沈み込み境界で ある相模トラフが,伊豆半島と平行するように北上し,国府津付近で陸側に上陸して います.これらのプレート沈み込み境界の海洋側にあたる伊豆半島は,フィリピン海 プレートの上にのっているわけです.伊豆半島には沢山の火山があります.伊豆半島 の南の延長は,伊豆大島,三宅島,八丈島などの火山島からなる,伊豆・小笠原火山 弧を形成しています.火山弧の地下のマントルからは灼熱したマグマが上昇してくる ために,火山弧では,固化したマグマによってマントルよりも軽い地殻の厚さが厚く なるとともに,その熱によって全体として密度が小さくなります.そのために,軽い 伊豆・小笠原火山弧はフィリピン海プレートといっしょにマントルへと沈み込むこと ができず,沈み込まれる側である本州島と衝突してしまったわけです.伊豆半島は現 在も衝突を続けており,丹沢山地はそのために隆起していると考えられています.伊 豆半島が衝突して沈み込むことができないため,そこを固定点として東側のフィリピ ン海プレートは北東へ,西側のフィリピン海プレートは西側へ沈み込んでおり,いわ ば生き別れ状態になっています.このために,沈み込んだ両者の間には裂け目ができ ているという考えがあります.この裂け目はちょうど富士山の直下付近を通過してい ます.そのためにそこではマントルで発生したマグマが上昇しやすく,富士山直下の 地下に大量に溜まっているという見方もあります.富士山が日本列島では桁外れに大 きい玄武岩質の火山であるのはそのためかもしれません.いずれにしても,富士山が 置かれている場所が,日本列島ではここにしかない大変ユニークな場所であることだ けは間違いありません.伊豆半島付近では,火山弧と火山弧がT字型に衝突していま す.このようなタイプの衝突帯は現在の地球上ではきわめてまれなのです.北上山地 や阿武隈山地の一部には中生代という古い時代に付加した古い陸塊が含まれてはいる のですが,現在も衝突帯であるというわけではありません.
 (11/12/02)

高橋正樹(日本大学・文理学部・地球システム科学科) --


Question #3943
Q いつも御丁寧な回答ありがとうございます。2つの質問があります。
@イタリアのエトナ山は外見や玄武岩質である事に加えて噴出量が極端に多い事も富士山によく似ていると思います。エトナはホットスポット火山であるがゆえあれだけ膨大な噴出量を誇ると聞きます。富士山については地下にホットスポット云々とは聞かないため島弧火山列の中に不自然なほど巨大な玄武岩質火山があるのを常々不思議に思ってましたが、最近「フィリピン海プレートは北東側と西側に沈みこんでるため結果として中央部が割け富士山から八ヶ岳の間はプレートが存在しない状態になっている(フィールドガイド。日本の火山@)」という記載を見つけました。この「プレートが割けている状態」と富士山の膨大な量の玄武岩は関係があると考えてよろしいのでしょうか。

A伊豆大島から八丈島をこえさらに南の方まで(新島〜神津島を除いて)これまた島弧火山でありながら玄武岩質の火山が連なっています。特に大島、三宅島、八丈島は割れ目噴火をおこしたりキラウエア型のカルデラを持つ点でも兄弟の様に似ていると思います。同じ「火のリング」でありながらアメリカのカスケード地方の火山群に比べて伊豆諸島の島々の溶岩がサラサラしているのは理由があるのでしょうか(何となく陸の火山の溶岩はネバネバしていて島の火山の溶岩はサラサラしている様に思えます)。

以上、よろしくお願いします (04/27/03)

アマンタジン:医師:28

A 2つの質問ですが,いずれも関連がないわけではないのでまとめてお答えします.

日本列島のような沈み込み帯の火山は,SiO2成分が多い安山岩,デイサイト質マグマ の噴出が多く,玄武岩質マグマだけを噴出している火山は少ないです.この特徴は世 界中の沈み込み帯の火山に共通して見られますが,より詳しく調べてみると,沈み込 み帯の島弧地殻や大陸地殻が厚ければ安山岩質マグマが卓越し,薄ければ玄武岩質マ グマが卓越する傾向があることが知られています.伊豆大島や三宅島がある伊豆-小 笠原弧は,大部分が海底にあることからわかるように,島弧地殻の厚さが本州などに 比べて薄く,玄武岩質マグマが多く噴出する島弧の一つです.

マントルが溶けてできる初生マグマは大部分が玄武岩質マグマであると考えられてい ます.島弧に玄武岩質マグマの火山が少ないのは,島弧に安山岩質マグマの火山がな ぜ多いのかということにつながります.安山岩質マグマの成因として,地殻内のマグ マ溜まり内での玄武岩質マグマの結晶分化作用や,地殻が玄武岩質マグマの熱で溶け てできたSiO2の多いマグマと玄武岩質マグマの混合などが挙げられます.いずれも地 殻が厚ければより容易に安山岩質マグマを作りやすくなるのが理由と考えられていま す.

富士山の地下では,地殻下部が構成する沈み込んでいるフィリピン海プレートが富士 山の直下で裂け,そこを埋めるようにマントルから玄武岩質マグマが上昇しやすくな っているという考えがあります.つまり局部的に地殻が薄くなっているのと同じこと が起きているというわけです.富士山の場合,開いていくことで強制的にマントル物 質が上昇することもあって,大量の玄武岩質マグマが地表に噴出していると考えられ ます.
 (03/5/20)

川邉禎久(産業技術総合研究所・地球科学情報部門) --


Question #4135
Q 先日初めて富士山に登ってきました。そこでいくつか浮かんだ疑問が気になって仕方ないのでよろしくお願いいたします。河口湖方面から登ったのですが、下山時、日が昇って辺りが見えるようになってくると足下の石や山の肌が赤みを帯びていていることに気がつきました。これはスコリアが酸化したものと考えてよろしいのでしょうか。また、赤みを帯びた石に混じってかなり青み(緑色)を帯びた石もありましたがどうしてあのような色をしていたのでしょうか。 (08/14/03)

若葉登山者:会社員:28

A
 富士山に登ったことがある人なら、このような疑問を持つ方も多いかと思います。
 富士山の5合目より上の斜面には拳くらいの大きさの赤いスコリアが広く分布しています。これらのスコリアは粒子が大きいため高温状態を保ったまま地表 付近で空気と接し、中に含まれる磁鉄鉱などの鉄鉱物は酸化して赤色のヘマタイトという鉱物ができます。このような現象を「高温酸化」と言い、高温酸化し たスコリアは赤く見えます。同じくらいの大きさで黒いスコリアもありますが、これは厚いスコリア層の中心付近に堆積したもので、地表の酸素が達しなくて 高温酸化が生じなかったスコリアです。
 登山道沿いに見えるスコリアの多くは富士山の山頂から約2200-2300年前に噴出したものです。ただし、富士山でも東側斜面は一面黒色をしていま す。南東側ルートの御殿場口登山道を通って下山された方はピンポン球くらいの大きさの黒いスコリアが厚く堆積していて歩き易かったと思います。このスコ リアは1707年の噴火(宝永噴火)の噴出物です。宝永噴火は大爆発だったためスコリアが粉々に砕け、温度が低下してしまったため高温酸化が生じず、黒 色スコリアが作られました。
 「青み(緑色)を帯びた石」についてはどの石を指すのか判らないので正確にお答えすることができません。ただ、黒色スコリアは堆積後、内部の高温なガ スが吹き出し表面が再溶融して薄いガラスの皮が生じることがあります。太陽光がこのガラスに反射して緑がかって見える場合があります。黒色の溶岩でも同 様なことが生じるので、このようなスコリアや溶岩のかけらを御覧になったのかもしれません。
 (08/23/03)

宮地直道(日本大学・文理学部・地球システム科学科)


Question #4134
Q 静岡県富士宮市にある富士山の地震観測点はかつて水資源確保のために掘られたトンネルだそうですが、トンネル内部を見学することはできるのですか? (08/13/03)

富士山部3年生:会社員:35

A
 このトンネルは,富士山南西山麓の開拓に必要な水資源の開発を目的として,富士総合開発株式会社により昭和34年から3年余を費やして掘削されました が,期待された水脈に達しませんでした.その後,火山噴火予知計画にもとづき,昭和57年度に富士山の火山活動観測を開始する際に,トンネルの一部(約 100m)が観測のために東京大学地震研究所に提供されたものです.
 平成12〜13年に富士山直下の深部で低周波地震活動が活発化したため,トンネル内の観測環境を改善し,広帯域地震計や傾斜計などによる観測を強化し ました.これらの観測を高精度に行うためには,温度変化などの擾乱をできるだけ避ける必要があります.このため,現在,観測機器の保守以外ではトンネル 内にはできるだけ立ち入らないようにしております.このような事情ですので,見学はできません.
 (08/16/03)

渡辺秀文(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #4179
Q 学校の先生に富士山は玄武岩質だと聞いたんですがでは何故富士山は楯状火山ではなく、形の綺麗な成層火山になったのですか??先生も分からなかったので教えてください。富士山の岩はどちらかというと玄武岩というよりは安山岩に近いのかな??という意見も出たのですがこれは正しいのでしょうか?? (08/24/03)

中本 伸志:高校生:16

A 一口に玄武岩と言っても,その粘性(ねばりけ)には幅があります.富士山は,たとえば1万年前ころのように,粘性が小さいために薄く広くひろがる溶岩 (パホイホイ溶岩と呼ばれるハワイでよく見られるタイプの溶岩)を大量に流出した時期もありましたが,その後はやや粘性を増したアア溶岩というタイプの 溶岩を多く噴出するようになりました.アア溶岩はパホイホイ溶岩に比べて厚く,火口からさほど遠方まで流れないため,火口付近を高くして山を成長させま す.富士山の西側に切れ込む大沢崩れの断面を観察すると何十枚ものアア溶岩が積み重なっており,富士山が溶岩を流出しながら高度を増していった様子がよ くわかります.パホイホイ溶岩やアア溶岩の写真や詳しい説明については,たとえば

http://www.edu.gunma-u.ac.jp/~hayakawa/fieldguide/book/073.html http://www.edu.gunma-u.ac.jp/~hayakawa/fieldguide/book/072.html

をごらんください.ネット検索すれば他にも色々なページが見つかると思います.
 (08/29/03)

小山真人(静岡大学・教育学部・総合科学教室)


Question #5347
Q 富士、箱根山の形成史に興味があるのですが、これは現在のプレート理論で合理的に説明できているのでしょうか?つまり、両山の形成は伊豆半島の衝突と無関係ではないと思うのですが、伊豆半島の衝突を時間的に追跡しながら、箱根、富士の形成史を、その爆発の規模に至るまで、順を追ってプレート理論で逐一説明している本を見たことがありません。私が知らないだけかもしれませんが、大変興味があるので教えて頂けないでしょうか? (11/30/03)

埼玉県民:社会人:45

A
 プレート理論そのものはスケールの大きな現象に適用されるもので,富士山や箱根 火山の形成史といった局所的現象に直接結びつくものではありません.しかしなが ら,個別的な火山の形成史が,その場所の局所的なテクトニクス場を反映している可 能性は高いものと思われます.その意味で,等しく伊豆半島の衝突テクトニクス場に おかれてはいるものの,富士山と箱根では局所的テクトニクス場には大きな違いがみ られ,両者の形成史がそれを色濃く反映していることは十分に考えられます.以下に 富士山と箱根のテクトニクス場と形成史・活動様式の違いについての個人的見解を述 べてみることにします.これは確立された見方ではなく,ひとつの仮説だと思って聞 いてください.
 富士山の直下では,西側の駿河トラフから西方に沈み込んでいるフィリピン海プレ ート(東海スラブとよばれています)と東側の相模トラフから東方に沈み込んでいる フィリピン海プレート(関東スラブとよばれています)が東西に引き裂かれる形で開 いているものと考えられます(ただし,裂けていないとする考えもありますが).富 士山直下に沈み込んでいるフィリピン海プレートの上面の深さは,地震の震源の分布 からおよそ15km程度と考えられています.そうすると,富士山の直下では深さ15km以 深の下部地殻に相当する部分がフィリピン海プレートであり,しかも東西に拡大して いることになります.例えてみれば,プレートの生産される中央海嶺の小規模なもの みたいなものです.そのために,マントルで生成された玄武岩マグマが容易に下部地 殻まで上昇し,そこで大量に蓄えられた後噴火することが考えられます.富士山は巨 大な火山であり,ほとんど玄武岩マグマばかりを,しかもきわめて大量に噴出してい る日本列島では特異な火山といえますが,その性質はこうした局所的テクトニクス場 を仮定すれば容易に説明できると思われます.
 箱根火山も特異な火山です.現在ではその中央部を丹那ー平山断層という左横ずれ 活断層が縦断しています.小山真人氏は,現在の伊豆半島東北部には,伊豆東部火山 群(東伊豆単成火山群)を拡大境界として,西側を丹那ー平山断層(トランスフォー ム断層),東側を西相模湾断裂(トランスフォーム断層)で境され,足柄平野の東部 の国府津ー松田断層を沈み込み境界とする,「真鶴マイクロプレート」なるものが存 在することを主張しています.現在の箱根火山(中央火口丘)は,ちょうどこの丹那 ー平山断層のプルアパート部に位置するものと考えられます.プルアパート部という のは2本の横ずれ断層のつなぎ目にできる拡大空間です.この地下の拡大空間を満た す形で火山直下のマグマ溜りが形成されているものと思われます.こうしたテクトニ クス場に箱根火山がおかれていたのは約15万年前以降で,新期外輪山形成期以降と推 定されます.それ以前は,25万年前以降箱根火山は独立単成火山群が発達しており, 現在の東伊豆単成火山群と類似した活動を行っていたものと思われます.この時は, 箱根火山自体が真鶴マイクロプレートの拡大境界であった可能性が高いと考えられま す.25万年前以前には,真鶴マイクロプレートはまだ存在せず,複数の成層火山から なる箱根火山群が存在していました.このように,箱根火山の形成史は,この地域の おかれている特殊なテクトニクス場の変化を反映して,きわめて複雑なものとなって いると思われます.
 関心があれば,以下の論文を参考にしてください.
・小山真人(1995): 西相模湾断裂の再検討と相模湾北西部の地震テクトニクス.地学 雑誌,104, 45-68.
・高橋正樹・長井雅史・内藤昌平・中村直子(1999): 箱根火山の形成史と広域テクトニ クス場.月刊地球, 21, 437-445.
・高橋正樹(2000): 富士火山のマグマ供給システムとテクトニクス場ーミニ拡大海嶺モ デルー.月刊地球,22, 516-523.
 (12/02/03)

高橋正樹(日本大学・文理学部・地球システム科学科)