身近の火山:伊豆・伊豆諸島・小笠原
東伊豆単成火山群 |
|
Question #381
|
Q |
最近ネットで富士山の形成史を見てわいた疑問です.富士山は小御岳,古富士,新富士の3つの火山から形成されているとありますが,何をもって別の火山とするのでしょう?供給源のマグマ溜まりが違うのですか?八ヶ岳や榛名火山はどうなのでしょう?割れ目噴火でたくさんの円頂丘が形成された場合は?(ちなみに,その様な噴火様式は現実にありますか?)何となく思った疑問ですが,教えて下さい.
(01/17/00)
一応地質屋:会社員:27
|
|
A |
大変本質的で難しい御質問です。専門家が困る素朴ですがよい御質問といえますね
。そんな馬鹿なことがと思うかもしれませんが、実は厳密な意味でのひとつの火山の
定義とは定まっていないのです。現実には漠然とひとつの空間的なまとまりをもった
火山体に対して、ひとつの火山としてある名称を与えるケースが多いようです。給源
のマグマ溜りで分けるなどといったことがわかるほど、マグマ溜りのことについてよ
くわかっているわけではないのです。
富士火山の場合、古富士と新富士は空間的に重複し、時間的にも連続したまとまり
のある分布をしていますので、両者を合わせて富士火山とよびます。小御岳火山は中
心が富士火山と比べて北側にずれており、侵食も進んでいて両者の間には時間間隙が
存在しているので、別の火山と認定されています。
古富士・新富士の違いはあまり明瞭ではありません。最初に新富士・古富士を命名
した津屋弘達氏は、富士火山の北側山腹の一部にみられるやや侵食の進んだ火山体や
、爆発的噴火を繰り返して厚いテフラ層を堆積させたり、山麓にかつて繰り返し火山
泥流を供給した火山体のことを古富士火山とよびました。その上を覆って、現在の山
体の主要部を構成しているのが新富士火山です。新富士火山の方が溶岩流の占める割
合が多く、より静かな噴火活動と考えたようです。しかし、確かによく検討してみる
と、漠然としていてあまり厳密な定義ではありません。
その後、町田 洋氏は富士火山のテフラを詳細に検討し、約5000年前の富士黒土層
を境にして、古期富士火山と新期富士火山に再区分しました。黒土層は噴火が休止し
た時期に堆積した一種の土壌です。この時期に活動間隙があると考えて区分したわけ
です。津屋氏の区分とは一致しませんが、合理的な区分ではあります。
新富士火山の形成史を詳細に明かにした宮地直道氏は、大量の溶岩噴出へと噴出様
式が大きく変化する時期を境に新富士と古富士を分けるという津屋氏の区分を、再び
採用しています。噴出様式が大きく変化するという意味では、噴出様式の違いに基づ
く新富士、古富士という区分も捨て難いものがあります。
榛名火山は全体としてひとつの空間的まとまりを示しているので、これをひとつの
火山とよんでもあまり抵抗はないかもしれませんが、八ヶ岳火山は、ひとつの火山と
よぶのは躊躇するかもしれません。事実、八ヶ岳は複数の小型〜中型成層火山や溶岩
流、溶岩ドームなどの集合体で、小型成層火山には赤岳火山などといった名称がそれ
ぞれつけられています。八ヶ岳の場合は、八ヶ岳火山群とよぶのがふさわしいでしょ
う。
割れ目噴火で沢山の火山体が形成されるケースはもちろんあります。伊豆半島の大
室山や1989年に海底噴火した伊東沖の手石海丘などで有名な東伊豆単成火山群は、小
型の沢山の単成火山からなる群を作っています。この場合、群全体で富士火山のよう
なひとつの成層火山体に相当するわけです。東伊豆単成火山群の中で手石海丘を除き
最も新しい噴火活動の産物のひとつである伊雄山ー岩ノ山火山列は、ほぼ同時期に一
連の割れ目から噴出したスコリア丘や溶岩ドームからなっています。しかし、こうし
た火山群に対してある固有の名称をつけるにはまだ至っていないようです。
専門家がドキッとするような大変難しい御質問でしたが、このくらいで御勘弁下さ
い。ひとつの火山の定義って、本当にどうしたらよいのでしょう。
(1/17/00)
高橋正樹(茨城大学・理学部・地球生命環境科学)
|
|
Question #1635
|
Q |
はじめまして。
東伊豆単成火山群について質問があります。
僕は東伊豆町の稲取に住んでいるため、東伊豆単成火山群は近くにあるのですが、その中に三筋山(812m)という山があり時々この山には遊びに行くのですが、山のふもとには細野湿原群といわれる湿原が点在しています。この細野湿原群についての町の資料を昔読んだとき、三筋山が22000〜23000年前に噴火したときの火山灰がふもとに厚く積もり、長い間に赤土に変化し「稲取泥流層」になったが、この泥流層は水を通しにくいので水がたまり湿原になったと説明されていました。ところが、最近インターネットで資料を探してみたら、どう探しても三筋山の噴火と稲取泥流層については何も資料がないのです。ローカルな質問ですいませんが、東伊豆町内の火山灰や三筋山についてのことを教えてください。
(03/24/01)
内山 義政:中学生:14
|
|
A |
火山の地元におられる若い方に興味をもっていただき,大変ありがとうございます.
まず三筋山ですが,現在の知識では天城火山の一部と考えられています.つまり,
数十万年〜100万年前の古い火山体の一部であり,東伊豆単成火山群には含められて
いません.
また,一般に「泥流層」と呼ばれる堆積物は,「火山灰が厚くたまって長い間に赤
土に変化したもの」ではなく,何らかの原因で山崩れが起き土石が一気に流れ下って
できたもの(土石流あるいは泥流堆積物)です.いわゆる「稲取泥流層」もそのよう
な堆積物と考えられます.たしかに約25000年前という年代値の報告がなされたこと
がありますが,「稲取泥流層」をつくった山崩れの原因が噴火であったという証拠は
まだ見つかっていません.したがって,「稲取泥流層」は今のところ東伊豆単成火山
群の一部に含められていません.
細野湿原群がどのようにできたかについて調査したことはありませんが,湿原の下
に土石流・泥流堆積物があるとすればふつう水はけが悪いので,湿原ができたとして
もおかしくないと思います.
(03/27/01)
小山真人(静岡大学・教育学部・総合科学教室)
|
|
Question #3950
|
Q |
初めまして。私は中年の内科の開業医です。
同じ質問が重複している可能性がありますが御容赦下さい。(前回送信されたのか否かが
確認できないためです。このページの初心者のためです)
伊豆単生火山群の矢筈山のあたりの地形図をみていると、特徴的な凹地が多数認められます。(溶岩ドームの周囲に多いようです)この地形の正式名称と成因について御教示いただければ幸いです。
私見では谷や沢の出口に溶岩ドームが出現したためその奥の谷間が凹地になったのではと考えています。
重複していたら申訳ありません。何十年も疑問におもっていた問題ですので宜しくお願いいたします
(05/01/03)
河路晃一:内科の開業医:47
|
|
A |
お問い合わせありがとうございます.マニアックな質問と鋭い洞察力に驚きました.
まったくご明察の通り,矢筈山溶岩ドームとその北西側に隣接する孔ノ山(あなのや
ま)溶岩ドームのまわりにある凹地の基本的な成因は,「谷や沢の出口に溶岩ドーム
が出現したためその奥の谷間が凹地になった」で結構だと思います.ただ,詳しい現
地調査がおこなっていないため,一部の凹地は溶岩ドーム出現の際に小規模な水蒸気
爆発を起こした跡かもしれません.
ちなみに,孔ノ山のさらに北西側に,2万5000分の1地形図で578mの独立標高点が書
かれている凹地があります.この凹地(孔ノ窪,あなのくぼ)は,隣接する溶岩ドー
ム群と同じ時期に水蒸気爆発でできた火口で,小規模な溶岩流も流出しています.
これらの溶岩ドーム群と火口は,東伊豆単成火山群(伊豆東部火山群)の一部であ
り,およそ2700年前に起きた割れ目噴火にともなって生じたものです.東伊豆単成火
山群の詳しい噴火史については以下のサイトを御覧ください.
http://sk01.ed.shizuoka.ac.jp/koyama/public_html/Izu/ItoShishi/ShishiKen1.html
なお,溶岩ドームが谷をふさいで作った凹地形をさす一般的な名称はないように思い
ます.
(05/02/03)
小山真人(静岡大学・教育学部・総合科学教室)
|