火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

身近の火山:伊豆・伊豆諸島・小笠原

三宅島・雄山


Question #364
Q 連続の質問お許し下さい。
私は幼い頃から火山に興味を持ち得に三宅島には魅せられ5.6回通ってるのですがその三宅島について質問させて下さい。
@ここの所、噴火が21年周期になっています。実際『次の噴火もそろそろなのでは』とおっしゃる島民の方もいました。これに関して気象台で2004年付近に焦点を合わせ観測体性を強める・・っと言った事は行われるのでしょうか。それとも21年周期説は偶然による全く意味のないものなのでしょうか
A伊豆、伊ガ谷地区で近年ほとんど噴火がおきてないのは何か理由があるのでしょうか
B幾つかの83年噴火の記録本をみると”最後のバスが阿古地区を去ろうとした時、真上の鉄砲場に火柱があがった。”という記載があります。しかし正式な記録にはその辺には火口は書かれてないし、実際に行ってみてもその辺りに火口地形は見当たりません。実際の所、阿古の真上で噴火が起こったという事実はあるのでしょうか。
C伊豆大島の噴火割れ目が富士山のと同じですべて一定方向を向いてるのに対し三宅島の割れ目は放射状に分布しています。この違いはどうして起こるのでしょうか。

  以上、よろしくお願いします。 (12/29/99)

yoshiaki:大学生:24

A (1)過去4回の噴火が22年プラスマイナス2年で発生しているという事実を,偶然と いってしまうのは大変難しいと思います.したがって,2004年をにらんで観測体制を 強めるということはもちろん着々と行われています.東京都,東大地震研究所を中心 とした大学のチーム,防災科学研究所,気象庁などが,21世紀初頭の噴火を想定して ,三宅島の監視を強めています.最近のデータでも,地下でのマグマの蓄積が,前の 噴火以降,順調に進んでいることが明らかになっています. (2)放射状に並んだ側火口列のうちのどの方向が活発に活動するのか.それは、ど のようなメカニズムによるものなのか,まだ,観測期間が短いのでわかっていないと 思います.ただ,三宅島では同一方向の割れ目火口が,繰り返し活動する傾向がある ようです.1940年と1967年の火口列はほとんど同じ方向です. (3)1983年の割れ目火口列は村営牧場から新澪池にむかう,やや弓なりの直線上に 並んでおり,それ以外の火口は知られていません.少なくとも阿古の直上で噴火した という事実はないと思います.おそらく溶岩流の先端では次々に樹木に火がつきとき どき大きな火柱があがりましたから,それを見たのではないかと想像します.記録で も「火柱」とかいてあるので,正しい表現だと思います. (4)山体に全体に加わっている広域応力の違いが原因です.プレートの衝突境界に 近い富士山や伊豆大島では,それをのせているフィリッピン海プレートの進行方向で ある北北西南南東方向に圧縮する力が相対的に強いくなっています.そのため,それ に直交する方向の引っ張りの力が働き,進行方向と平行する割れ目噴火や割れ目火口 列が形成され安いようです.それに対して,広域応力があまり偏っていない三宅島で は,ほぼ放射方向に火口列が並んでいます.ただ,三宅島でも火口列を良く見ると, 南西方向に伸びる火口列は弓なりに曲がっています.これは広域応力を反映している といわれています. (1/5/00)

千葉達朗(アジア航測株式会社・防災部)


Question #376
Q 年末年始に三宅島を旅行し、通称「雄山サウナ」を見てきました。冬だけあって、噴気の勢いに一段と迫力がありました。この噴気は、ほとんど水蒸気だけだそうですね。地下の、熱源と地下水の仕組みについては解明されているのでしょうか? そもそも、この「雄山サウナ」は、何時から噴気を上げているのでしょうか? 1983年の噴火の時はどうだったのでしょうか? (01/14/00)

中西 喜一郎:会社員:39

A 中西さん,雄山のサウナを見られたそうですが,私も1980年以来雄山のサウナとは長 い付き合いがあります.雄山のサウナは,三宅島の山頂火口にできた噴気地帯です. 普通,火山の噴気地帯に行くと卵が腐ったような臭いがするものですが,ここでは「 サウナ」というだけあってほとんど臭いがありません.このようなほとんど臭いのな い噴気は伊豆大島の三原山にも見られます.

なぜ臭いがないのか?実は私も不思議でした.雄山の噴気は東京工業大学の平林教授 の調査によれば,90%以上が水蒸気で,わずかに炭酸ガスが含まれているだけで,多 くの火山の噴気に含まれている亜硫酸ガスや硫化水素ガスは含まれていません.その ため,ほとんど臭いがしないのですが,それには雄山の噴気活動を維持する熱源と構 造に秘密があったのです.雄山サウナの源は,電磁気探査の結果などから地下数100m の深さにある熱水溜りと考えられていますが,この溜りが地下深部と切り離されて孤 立しています.つまり,地下深部のマグマから高温の火山ガスが絶えず供給されてい るようなタイプの噴気活動ではないということです.

雄山のサウナはいつからあるか?この質問に答えるには雄山のサウナがどういう場所 にできているかを説明する必要があります.三宅島は1983年に噴火する前に1962年と 1940年に噴火しています.三宅島が1940年に噴火する以前,山頂にはほぼ東西に並ぶ 3つの火口があり,このうち最も西側の一番浅い火口を上段火口と呼んでいました. ところが,1940年に三宅島の北東山腹で割れ目噴火が起き,続いて山頂で噴火が始ま りました.この時の噴火で上段火口の南東側に火砕丘ができ,火口は溶岩流でほぼ埋 められてしまいました.サウナの前にたたずむと目の前に溶岩の壁が見えますが,こ の溶岩の壁はその時の溶岩流の先端なのです.現在のサウナは埋められた上段火口の 縁に沿って円弧状に噴気地帯が伸びています.したがって,現在私達が見るようなサ ウナの情景は1940年の噴火後にできたと言えます.しかし,1940年以前に上段火口の 中に噴気がなかったかと聞かれるとよくわかりません.おそらく噴気はあったと思い ます.

雄山のサウナが1983年の噴火前後にどうであったかという質問ですが,実はこの噴気 地帯は大変興味深い挙動を示しています.1962年に三宅島は北東山腹で割れ目噴火を 起こしました.1940年の噴火のように山頂で噴火が起きるかと注目されましたが,噴 火は起きず,その代わり,噴火の後,旧上段火口の縁に沿って噴気活動が次第に拡大 する現象が観測されました.この拡大は1963年ころまで続き,やがて活動は縮小して いきました.では,1983年の噴火の時はどうだったでしょうか?雄山の噴気温度は気 象庁の三宅島測候所によって1975年以降観測されていました.そのデータを解析する と噴気温度は1983年の噴火直後の10月半ばまで1年に1℃くらいの割合でずっと低下し つづけていることがわかりました.引き続き山頂噴火があるか?噴気地帯の拡大はあ るか?という問題に答えるために私達地震研のグループも噴火直後から調査を行いま した.その結果,10月半ば以降,温度は上昇に転じ,1985年頃まで噴気地帯が拡大す る現象を捉えることができました.この現象は,雄山サウナの源である熱水溜りに一 時的にマグマの熱が供給されたために起きたものと考えられています.現在,雄山サ ウナはその時のエネルギーを少しずつ放出し,縮小している段階なのです.三宅島は 21世紀初頭に次の噴火があると考えられています.それまでに観測体制を整え,火山 学をもっと進歩させたいと私達は考えていますし,ちゃんとした情報が島民に伝わる システム作りに関係の方々が努力されるように希望しています.詳しく知りたい方は ,火山学会から出ている三宅島噴火特集号をご覧ください. (1/21/00)

鍵山恒臣(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #718
Q 有珠山の場合、噴火までに時間がかかると言われていました。一方で三宅島の場合は、数時間以内に噴火するだろうと言われていました。
このことは何を意味しているのでしょうか。教えてください。

(06/29/00)

あい:大学生(1回):19

A
 有珠山と三宅島は噴火と噴火の間がそれぞれ30年ぐらいから20年ぐらいと比較的短 い火山です。このため、現在までに何回も噴火が観測された経験があります。それら の記録に基づいて次の噴火がいつ来るのかおおよその目安をつけることができます。 これに基づいて、有珠山や三宅島では、地震や地殻変動の観測が強化されていました 。
 有珠山の場合は、地震活動が始まってから早くて1日あまり、遅い場合で数ヶ月で 噴火が起こるという癖がありました。そして、3月の噴火も地震が起こりはじめて4 日ほどで噴火しました。一方、三宅島の場合には遅くても6時間くらいの短さで噴火 が起こる癖がありました。今回は、「噴火と思われる現象」が起こるまでには半日程 度もかかりました。
 一方、噴火の経験が少ない火山では、地震活動が起こってから噴火が起こるまでの 時間をきちんと予想することができません。例えば、雲仙普賢岳では地震活動が起こ ってから噴火が始まるまでには1年近くもかかっていますし、岩手山では地震活動が ここ数年続いていますがまだ噴火は起きていません。
 このように、地震が起こり始めてから噴火が起こるまでの時間の長さは火山ごとに 異なります。この原因は、マグマの性質(粘り気など)、岩盤の性質(地下水が多少 など)、そして、火山のある場所におよぶ地殻内部の力などが複雑に関係しているの だと考えられています。ひとつの火山であれば、前の噴火と比較的よく似た性質のマ グマが次も噴出することが多いので、噴火前の地震などの現象もよく似た状態で起こ ると考えられる訳です。 (6/30/00)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #678
Q 私は鹿児島に住む元理科の教師です。
今回の有珠山の噴火については,
近くに桜島という火山もあることもあって,大変興味深くニュースなど
見てまいりました。
さて,質問ですが,
有珠山は約30年に1回の周期で噴火しているという話を聞きました。
しかし,今回の噴火は23年目ということで,いつもの周期より若干早いように思います。
そこで,今回噴火の周期が早まったのは,
噴火の規模や場所に関係があるのでしょうか?
お教え下さい。 (06/20/00)

ash:主婦:30

A
 有珠山は2万年〜1万5000年前ころから活動をはじめ,玄武岩質〜安山岩質の溶岩, スコリアが小さな富士山型の山体をつくったあと,7000〜8000年ほど前に山頂部が崩 壊し,岩なだれを発生しました.その後長い休止期間をおいて,江戸時代の1663年に 噴火活動が再開し,デイサイト質〜流紋岩質のマグマを噴出しました.それ以降1769 年(前の噴火の終了から105年),1822年(同52年),1853年(同30年), 1910年( 同56年),1943年(同33年),1977年(同32年),そして今回2000年(同22年)に噴 火をしました.


 御質問にあるように,確かに,江戸時代以降では過去3回,30数年の間隔をおいて 噴火することがありましたから今回の噴火の前から,多くの火山研究者も経験からこ の先10年以内に噴火の可能性が高く,注意深く観測する必要があるとは考えていまし たが,やはり噴火するのはもう少し先だと思っていた人が多かったと思います.


 さて,噴火の間隔の規則性について,残念ながら現在,そのしくみを充分説明がで きているわけではありません. 一般に噴火がおこるのは, 1. マグマ溜まりの中には,もっと深いところから絶えず少しづつマグマが供給され るが,マグマの圧力がたかまり,耐えきれなくなったところで,地表に達する通り道 を作って,噴火する. 2. マグマ溜まりの中のマグマが過剰でなくても,火山活動以外の理由(たとえば広 い範囲にわたる地殻変動)によって,マグマ溜りにかかる力が増してしぼりだされて 噴火に至る. 3. 火山活動以外の理由(たとえば広い範囲にわたる地殻変動)によって,逆にマグ マの通り道にかかる力が弱くなって容易に上昇できるようになって噴火に至る、など の場合が,考えられます.


 1.のようなしくみが続いていて,しかもマグマの供給量が一定ならば,噴火が同 じような間隔をおいて起こることは理解しやすいと思います.
 そこで,今回の有珠山の噴火を考えてみます.
 もし,最近の有珠山のマグマの供給量自体が増加して1.のしくみで噴火に至った とすれば.噴火の規模(噴火にかかわるマグマの量)は特別に小さいということはな いと考えられます.
 また,2または3の理由で噴火したとすれば(かつマグマの供給量が一定ならば), 前の噴火以降マグマ溜りの中に蓄えられていたマグマの量は少ないと考えられるので ,全体としてやや小規模な噴火で終わる可能性もあります.
 マグマはその時その時に最も楽な(仕事要の少ない)出口(通り道)を探して上昇 すると考えられますので,噴火の間隔と火口の場所はあまり関係がないのではないで しょうか.


 ついでながら,三宅島火山では21〜22年(あるいはその2倍,3倍にあたる40数年, 60数年)の間隔をおいて噴火した例が多く,前回1983年から21年後の2004-5年前後に 噴火するのではないかと注目されています. (6/21/00)

津久井雅志(千葉大学・理学部・地球科学)


Question #769
Q 小生、三宅島に住んでおります。 きょう(2000.7.22)現在不安な日々を過ごしております。
さて、今回の噴火に関する火山噴火予知連絡会の記者会見資料の中で、「三宅島島内の重力の時間変化」というのがありますが、重力って地球上どこでも一定ではないのですか。 時間や場所で変わる物なのですか。 また重力を調べることがどうして噴火の予知につながるのですか。
よろしくおねがいします。

(07/22/00)

さだぞう:自営業:38

A 最初の問に対するお答え. 重力は時間や場所で変わるものであり,「地球上どこでも一定」ではありません.お そらく,それに人類が気づいたのは1672年のフランス人リシェーの振子時計に関する 報告が最初でしょう.振子の周期Tは重力加速度の平方根に反比例します.場所によ って重力が違うなら,振子の周期も場所によって異なるはずです.実際,フランスで 正確に調整した時計を赤道地方にもっていくと,振子の周期が延びてしまい,時計が 1日あたり2分28秒も遅れてしまうのです.

第2の問(火山活動と重力変化の関係)に対するお答え. 火道のような空隙を伝わって,重いマグマが地下深部から上昇してきたと想定しまし ょう.ここで高校の物理学でならうようにニュートンの万有引力の法則がはたらくこ とを思い出しましょう.つまり2つの物体の間には引力がはたらき,その大きさは質 量に比例し,距離に反比例します.ですからマグマに近いところには大きな引力が働 き,遠いところには小さな引力がはたらきます.引力の変化は重力の変化としてとら えられます.したがって,地上の重力変化をくまなく測定するとマグマの水平位置や 深さ,質量などを推定することができます.逆にマグマが地下深くに戻っていくとき には,重力の大きな減少が認められるはずです.7/22の資料にはこのような減少がみ とめられています. (8/05/00)

大久保修平(東京大学・地震研究所)


Question #742
Q 先日は質問に答えていただきありがとうございました。
さて,今回は6月26日から始まった三宅島の活動についておしえてください。
今回7月8日の雄山での噴火はあまり火山灰が出ていないのに,
大きく山の頂上が陥没していました。
カルデラが出来る時,中のマグマやガスがたくさん出て,
空洞ができて陥没するというのは知っていますが,
今回の雄山では,あまり噴出物が多くないのに,大きく陥没したのはなぜですか?
また,三宅島の火山活動は海に移動したと発表されていましたが,
今回雄山で噴火活動が見られたのはなぜですか?

(07/09/00)

ash:主婦:30

A
 7月8日の夕方に起こった三宅島山頂部の陥没事件は、陥没した量に比べて、火山灰 などの噴出物の量が非常に少ないので、陥没前に地下に空洞ができたために地表部分 が落っこちたと考えられています。また、噴出物には今回の一連の活動を引き起こし たと考えられるマグマ物質(新鮮な溶岩の破片)は含まれていません。空洞ができた 理由は完全にはまだ分かっていませんが、地上には出なかったマグマが島の西側に移 動したためや、地下に引き戻されたためであろうと考えられています。伊豆大島の 1986年の噴火の1年後に、三原山の火口が大きく陥没したことがあります。これは一 旦火口を満たした溶岩が地下に戻ったため空洞ができたためと解釈されています。
 それでも、今回の事件では陥没量をマグマの引き戻しだけでは完全には説明できな いので、あらかじめ空洞か空隙の多い部分が山頂の地下にあったのかもしれないと考 えられています。 (7/11/00)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #1047
Q 今、現在の三宅島雄山の噴煙の状態、風向・風速等が知りたいのですが、HP等あれば教えていただけないでしょうか。火山性ガスがどの方向へ流れていくのか、だいたいの予測を知りたいのです。日本気象協会のサイトの「アメマメ分布図」は、ある時間に噴煙があったと想定して、の拡散予想図で、リアルタイムでの状況から計算したものではないようですので。 (09/22/00)

水本 みか::

A 三宅島から放出される火山ガスは,風下側に流されて関東や遠くは阪神地区にまで異 臭騒ぎをもたらしていますね.

三宅島の風向などの現状を報告しているサイトは残念ながらないようです.一日前の 予測ですが,気象庁は前日に発表される火山観測情報で,翌日の風向・風速予報を出 しています.また噴煙の状態については,御蔵島に設置されている東大地震研究所の 御蔵島カメラ(はちろうカメラ)が公開されているものでは唯一でしょう. 三宅島火山監視カメラ(御蔵島カメラ)

また1時間おきですし,曇っていると必ずしもうまくいくとは限りませんが,気象衛 星「ひまわり」の可視光画像を使うと,三宅島からの噴煙がどちらに流されているか がわかることがあります.日本気象協会webページのひまわり映像から「日本(可視) 」を選ぶと,1時間おき24枚前の画像まで見られます.同じく可視画像の日本周辺の 拡大したものは,高知大学気象情報頁にあります. 日本気象協会ひまわり画像 高知大学気象情報頁 (9/22/00)

川辺禎久(工業技術院・地質調査所・火山地質)


Question #1209
Q 三宅島の雄山の火山の形は,成層火山,盾状火山のどちらに分類されているのでしょうか。
中学校の教科書では,ハワイのキラウエア火山と同じ分類で,溶岩のねばりけが少ないグループに入っています。HP上の文献では成層火山とされています。
どちらを生徒に教えればよいでしょうか。 (10/31/00)

木村 紳一:塾講師:50

A
 三宅島は玄武岩溶岩からなる成層火山です。盾状火山とは、古代ヨーロッパの兵士 が手に持っていた盾(今の日本では機動隊が持っているジュラルミンの盾?)をちょ うど伏せたように、傾斜が数度程度の非常に緩い斜面からなる火山のことで、その典 型がハワイのキラウエアと紹介されています。これは粘り気のたいへん小さな(低 い)玄武岩溶岩が山の中央にある火口から四方八方に流れてできたものです。三宅島 の溶岩はキラウエアの溶岩ほど粘り気が小さくはありませんが、桜島や雲仙に噴出す 安山岩やデイサイトの溶岩よりは粘り気のない玄武岩です。溶岩が流れる時の粘り気 は、溶岩の化学組成、温度、含まれる結晶や気泡の量などによって大きく異なりま す。 (11/06/00)

中田節也(東大・地震研究所・火山センター)


Question #1189
Q お忙しい中恐縮ですが、ご教示頂ければ幸いです。
本土における三宅島から排出される火山ガスの危険性についてお伺いします。
先日、一部週刊誌で三宅島からの火山ガス(二酸化硫黄)が首都圏に健康被害をもたらすとの趣旨の記事が掲載されていました。
私自身、噴火以後、(気のせいかもしれませんが)街中で「硫黄臭い」と感じることが多くなった他、
噴火が激しくなった時期に、搭乗中の旅客機から三宅島方面をみると、その方向から多量の黄色い雲が関東方面に流れているのが観察できました。
気象庁の火山情報では、日量2〜4万トンの二酸化硫黄が排出されているとのことでしたが、この排出量は私のように首都圏に住む者にも影響が出るようなものなのでしょうか。
被災された方に比べれば大したことではないのでしょうが、我が家に幼児がいまして喘息などの影響がでることが気がかりです。
そこで、
1.風向・降雨などにもよるのでしょうが、どれぐらいの排出量となれば我々は注意せねばならないのでしょうか(あるいは既に要注意なのか)?
2.火山ガスが流れてきた場合、どのような対策をとればいいのでしょうか?
3.三宅島の火山ガスに対する注意報・警報などは発令される(あるいは情報提供される)システムは本土にあるのでしょうか?
4.上記の情報については、どこに問い合わせればよいのでしょうか?
すべて杞憂であれば良いのですが、不用心な地域での二次災害を防ぐ意味からもお教えいただければ幸いです。 (10/24/00)

MINE:会社員:33

A
 8月下旬から南から南東の風に乗って,三宅島から放出された火山ガスが本州方面 に流れ込むことが起きはじめています.問題となる火山ガスは二酸化硫黄(SO2)と硫 化水素(H2S)です.
 このうちSO2は大気汚染要因として,各自治体などで測定されていますが,東京周 辺でも最も多いときで,1ppm近くに達したことがわかっています.日本のSO2の大気 汚染環境基準値は0.1ppm(1時間値)ですから,それの約10倍の濃度なります.三宅島 島内での測定では,噴煙の風下で5ppm近くに達することもあるようです.また腐った 卵やドブくさい臭いを感じるのはおそらくH2Sだと思われます.三宅島周辺での測定 では,H2SはSO2の1/4から1/10程度含まれるようです.


 1日数万トンのSO2が放出されている現状では,排出量よりは風向きに気をつけたほ うがよいでしょう.三宅島島内でも,風上や噴煙からちょっと離れると問題にならな いレベルの濃度に下がります.
 健康被害という点について述べると,SO2もH2Sも急性毒性が問題になるのは数百 ppmの濃度であることから,少なくとも本土では,健康な人が急性毒性を気にするレ ベルにはならないと思っていいでしょう.ただし喘息など呼吸器に疾病を持つ方は, SO2濃度が1ppm程度でも発作を起こすことがありえますので,注意は必要です.
 9月上旬までの異臭騒ぎを受けて,環境庁などでは環境基準を超えるSO2濃度が連日 観測されている場合には,念のため次のような対処法を呼びかけています.

(1) 外出はなるべく控えること (2) 外から戻ったときには、目を洗ったり、うがいをすること (3) 目に刺激を感じたり、咳が出たりした場合は、医療機関に相談すること


 また,喘息等の呼吸器系疾患を持つ方々については,外出中に硫黄臭などを感じた ときは,以下の事項を緊急避難的に行うことも薦めています. ・近くの建物などに入ること ・近くに建物などがないときは,タオル等を水で濡らし,口や鼻を覆うこと


 本州や三宅島周辺の島には,風向きしだいで火山ガスが到達する可能性があるの で,例えば本州なら南よりの風が吹くような天気の場合には,注意したほうがよいで しょう.天気予報などで風向き予報を確認してください.


 SO2濃度については,関東地方なら環境庁の連続測定値が公開されていますから, そちらを参照してみてください.また他の地域に関しては,各県,自治体の大気保全 担当部局に問い合わせるようにとのことです.自治体によっては観測値をリアルタイ ムで公開しているところもあります. 環境庁大気汚染物質広域監視システム(そらまめ君) (10/24/00)

川辺禎久(工業技術院・地質調査所・環境地質部)


Question #1114
Q 初めまして。化学系の研究者ですが、地球科学にも大変興味を持つ者です。

今回、三宅島の雄山から大量のSO2ガスが噴出しましたが、これは雄山の噴火史からして
異例の出来事なのでしょうか?また、そうであるなら今回に限ってその様な事が生じた
原因(メカニズム)はどの様なものなのでしょうか?ご教示お願いします。

(10/11/00)

地震雲:公務員:42

A 火山ガスは記録に残りにくいのですが,それを考慮しても三宅島ではこれほど大量の 火山ガスが放出されたという噴火歴史記録はありません.1ヶ月以上一日1-5万トンの SO2が放出されるのは,三宅島に限らず,世界的に見ても前例がありません.ただし 1回の噴火で放出されたSO2量としては,数十万から数千万トンのものもあります.

三宅島と似た玄武岩質マグマを噴出する伊豆大島では,山頂での噴火の後,山頂火口 からH2O,SO2などの火山ガスを放出することがあります.伊豆大島では割れ目噴火の 1年後の1987年噴火後から1990年ごろまで,今回の三宅島の1/100程度の量ですが,三 原山山頂火口から一日あたり数百トンのSO2が放出されていました.一方割れ目火口 からの火山ガスは,山頂火口からのものに比べると極めて少ない量でした.また 1950-51年噴火の後もカルデラ内に立ちこめるほどの火山ガスが放出されていたと聞 きます.伊豆大島のカルデラ内に植生がなく砂漠と呼ばれるのは,火山ガスによって 植生が破壊されることも原因の一つです.

伊豆大島の例などからみると,おそらくすぐに火道が閉塞してしまう割れ目噴火の火 道と違い,比較的安定して存在する山頂火道では,火山ガスの放出が安定して起こり うるということなのでしょう.これまで三宅島で火山ガスの放出があまり起きなかっ た理由として,少なくとも最近約500年間は,三宅島山頂から大規模な噴火がなく, 山腹からの割れ目噴火が主な噴火様式だったからと考えられます.今回は山頂部に大 きな陥没カルデラが作られたため,火道径が大きいこともあって,大量の火山ガスが 放出されやすくなっていると考えられます.

三宅島でも山頂噴火が起きていた500年以上前は,山頂火口からの火山ガスの放出が あった可能性は高いですが,なにぶん歴史記録もなく,堆積物として残らないもので すから,はっきりとしたことは今のところ言えません. (10/12/00)

川辺禎久(工業技術院・地質調査所・環境地質部)


Question #1436
Q いつもご丁寧な解説ありがとうございます。
三宅島のスオウ穴ですがある時期から水がたまって池になっていますよね。火口湖が出来るには単に窪んでるだけではなく地下水の供給が必要と聞いたことがありますが、今回の噴火で地下水系に変化があってああなってると考えてよろしいのでしょうか。よろしくお願いします。 (01/17/01)

ya-ka:医師:25

A
 火口に水が溜るための条件は何か?ということですね.
 まず,一般に,ある場所−水が溜るためには地形的に低いところ−の水の収支(出 入り)を考える必要があるでしょう.水の供給源(入りの方)としては,降水や,地 表水・地下水などの流入が考えられます.一方,流出する(出の方)のは,地下への 浸透,大気へ蒸発,地形的な窪みから溢れて下流へ(たとえば河川として)流出する 場合などが考えられます.これらの収支の全体のバランスを見た時に,湖あるいは水 溜りを維持できるかどうか,という問題を考えればよいわけです.
 三宅島のスオウ穴について考えてみましょう.この火口は今からおよそ1200〜 1300年前の割れ目噴火の時に開いた火口で,2000年の噴火の前には水たまりはありま せんでした.普通,火山体は,スコリアなど火砕物が多く,がさがさで,目の粗い” ざる”に例えることができます.このような場合,いくら水が流入してもすぐに浸透 して(ぬけ去って)水は溜りません.スオウ穴もこのような状態であったと思われま す.しかし,7/14-15の噴火で細粒の火山灰がスオウ穴周辺で50cmないしそれ以上の 厚さで降り積もりました(大学総合観測班  http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/nakada/ash.htmlのデータ参照;スオウ穴の北にある 火口には25cm程度〜それ以下でした).その結果,”目詰まりしたざる”の状態にな って,地下への浸透が悪くなり,降水による流入量が勝って,7月下旬以降,水溜り ができるようになった,と考えることができます.
 カルデラの南東にある,おそらく西暦1535年の割れ目噴火の際にできた火口や,カ ルデラの底にも水溜りはできています.
 大量の水のある火口(あるいはカルデラ)湖で噴火がおこると,爆発的なマグマ水 蒸気噴火を起こす可能性があります.三宅島でも将来カルデラ湖が形成される可能性 は高く,防災上,予め留意しておく必要があります. (01/18/01)

津久井雅志(千葉大学・理学部・地球科学教室)


Question #1829
Q 三宅島にアカコッコが戻ってきたと聞きちょっと安心しています。ようやく火山ガスの勢いも下火になってきたのでしょうか?
三宅島について二つ質問です。カルデラの種類には火砕流を伴うクレーターレイク型、大量の溶岩流出を伴うハワイ型、イエローストーンに代表される環状型、荒船山周辺のコールドロンなど幾つかのタイプがあり、三宅島のかつての八丁平カルデラや桑木平カルデラは伊豆大島とともに「ハワイ型」であると聞いたことがあります。しかし今回の噴火で出来たカルデラはほとんど溶岩を噴出してませんよね(よく逆噴火と形容されてましたが)。多分前例が無いことだと思うのですがこのタイプのカルデラを新たに「三宅型カルデラ」の様に新たに分類される可能性はあるのでしょうか。
次に現在も続く火山ガスの大量放出についてですがよく「火口直下にマグマが上がって来ていてマグマ溜まりと対流をおこしその過程でガスが放出されている」と聞きます。こういう現象はキラウエアなどの様に常に火口底にマグマが顔を出してるタイプの火山では起きないのでしょうか。(僕は他の火山に比べて三宅島の中央火道が極端に太いからこの様なマグマの対流〜火山ガス大量放出が起きてると考えてるのですが・・)
よろしくお願いします。 (07/31/01)

アマンタジン:医師:26

A
 三宅島の噴火活動が始まってから,もう1年が過ぎました.ヘリコプターから観察 していても,茶色く変色している木々から,緑の新芽が出ているところもあり,少し ずつですが元の姿を取り戻しつつあるようです.


 まず玄武岩質火山の山頂部に形成されるカルデラは,ハワイ型よりはキラウエア型 カルデラと呼ぶことが多いです.キラウエア型カルデラは,クレーターレイク型カル デラなどのカルデラ形成に伴う噴火の噴出量と,陥没量がほぼ見合うカルデラと異な り,噴出量より陥没量がずっと大きいことから,成因について議論ありました.
 さて今回のカルデラ形成は,三宅島では数千年に一度程度の比較的珍しい現象です が,他の火山で似たような事例が過去に観察されていなかったわけではありません. 例えば1924年のハワイ・キラウエア火山のハレマウマウ火口の陥没事件や,1968年ガ ラパゴス・フェルナンディナ火山のカルデラ形成事件などです.これらは玄武岩質火 山で地表への溶岩噴出量よりはるかに大きい陥没が,爆発的な噴火を伴って起きた例 で,今回の三宅島とよく似ています.
 これらのカルデラ形成事件では,いずれも地下側方へのマグマの移動が起きていた ことが知られており,それにより密度の大きな山頂部が陥没したという考えが有力で す.移動したマグマの大部分は地下にあり,地表には出てきていないので,噴出量と 陥没量が食い違うのも説明できるというわけです.今回の三宅島の噴火は,新たに三 宅型カルデラと呼ぶよりは,最もよく観測がなされている中で起きたキラウエア型カ ルデラ形成事件ということになると思います.


 次にマグマ対流による火山ガス放出モデルですが,おっしゃるように火道の実効径 がずっと大きいことが,今回大量の火山ガスを放出している原因と考えていいと思い ます.玄武岩マグマ程度の粘性の流体をぐるぐると移動させるだけなら,径3mの円筒 で大丈夫という計算があります.一方,対流させるには上昇したマグマの密度が大き くなる必要がありますが,これにはマグマからガスがどれだけ効率よく分離するかが 効いてきます.ガスの分離効率には火道の断面積が重要で,伊豆大島の例(一日数百 トンのSO2放出量)で計算した例では,実効火道径約9m強で対流しているとすると説明 できます.今回の三宅島では,放出量が伊豆大島の約100倍ですから,実効火道径は 10倍程度あることになります.陥没初期の変形せずに陥没している部分の大きさは少 なくとも径300m程度はありましたから,考えられない大きさではないと思います.
 (8/07/01)

川辺禎久(産業技術総合研究所地球科学情報部門)


Question #3191
Q 三宅島火山噴火について質問します。
Q1.火山噴火後の土地の様子は?また、なぜそのような土地になったのですか?
以上です。
質問に至った理由は、学校で上のような調べ学習をしているからです。 (11/03/02)

ユキ:小学生:12

A 三宅島では2000年の噴火によって山の地形が大きく変化しました。山頂が直径約 1.6キロメートルに渡って400メートルほど陥没しました。そのような窪地をカ ルデラといいます。また、陥没した火口の中や周囲には、れきや火山灰が厚く堆積し ました。カルデラができたのは、三宅島の地下にあった大量のマグマが神津島方向に 吸い寄せられたために、そこに大きなすき間ができて地上の岩石がそこに落ち込んだ せいであると考えられています。また、陥没の途中に大きな爆発が繰り返して起きた ために、れきや火山灰が火口のそばに降り注ぎました。
 (11/04/02)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター) --


Question #3734
Q 2000年噴火前の三宅島のハザードマップを見た事がありますが海岸線で水蒸気爆発を起こしやすい地域と比較的起こしにくい地域にわけられていました。前者は阿古から坪田にかけてで実際20年前にも起こしています。起こしにくいとされていた島の反対側では昭和15年、37年とも海底噴火を起こしてますがいずれも水蒸気爆発は伴っていなかったと思われます。地下水系の違いとかでこの差が生まれるのでしょうか。よろしくお願いします。 (12/31/02)

アマンタジン:医師:27

A
 三宅島の二酸化硫黄などの火山ガスは,減ってきたとはいえ依然高いレベル にあ り,まだ安心して帰島できる状況になく,島民の皆さんは,引き続き辛 い思いを続け られていることと思います.


 アマンタジンさんの御質問はマグマ−水蒸気爆発についてですが,まず,三 宅村が 平成6年に発行した三宅島火山防災マップに示された”マグマ−水蒸気 爆発が発生す る可能性が高い地域”を確認しましょう.このように表示され た地域は,火口が生じ る可能性が高い地域(図上では1962年,1940年, 1874年の噴火割れ目がのびた島の北 東地域と1983年,1763年,1712年の噴火 割れ目がのびた阿古,薄木,粟辺など南西地 域)と火口が生じる可能性がや や高い地域(図上では1595年,1535年の噴火割れ目が のびた坪田や三池など 南東〜東地域)のうち,海岸沿いの標高がおよそ200m以下の地 域が相当しま す.
 この図の作成者の意図は,(割れ目)火口が開口してマグマが上昇してくる 可能性 が高く,かつ,地下水や海水など豊富な水と接触できる範囲を”マグ マ−水蒸気爆発 が発生する可能性が高い地域”として示したものだと理解で きます.標高200m以下と した理由は三宅島の過去のマグマ−水蒸気爆発によ ってできた爆裂火口の地形が存在 することや地下水の存在の状態から地下に 豊富な水があると判断したと考えられま す.また浅い海底(水深100m以浅) でもマグマ-水蒸気爆発は起こりますから,海側 へも範囲は拡げて示してあり ます.
 それでは,マグマが水と接触すれば必ず爆発的なマグマ−水蒸気爆発が起こ るか? というと実はそうではないのです.接触する水とマグマの比率は任意 の割合いを考え ることができますが,その比率がある範囲にある場合に特に 爆発的になるのです.水 /マグマの重量比がが0.3〜1くらいのとき最も爆発の 効率がよいという研究もありま す.ですから.同じ場所で噴火が起こって も,マグマ自身の噴出率によって水とマグ マの接触の割合が変わり,爆発の 規模も異なる,というのがふつうです.一回の噴火 の中でも時間の経過(マ グマの噴出率の変化)とともにマグマ噴火からマグマ−水蒸 気噴火になった り,その逆が起こることも珍しくありません.1940年,1962年には幸 いにも 水とマグマの比率が規模の大きなマグマ−水蒸気爆発につながらないものだっ たのでしょう.しかし,この2回の噴火の溶岩で埋め立てられた赤場暁湾自体 は過去 にマグマ−水蒸気爆発で開いた火口の跡だったらしいのです.
 なお,工学の分野では火山のマグマ−水蒸気爆発に類似した現象として,高 温の溶 融体が低温の溶融体と接触して爆発的に蒸気が発生する”蒸気爆発” が知られていま す.一例として,原子力発電所の炉心溶融事故に伴っておこ りうる現象でもあり,最 悪の場合,圧力容器の破壊に至る可能性もあるとさ れ,実験を含め詳しく研究されて います.
 (01/06/03)

津久井雅志(千葉大学・理学部・地球科学科) --


Question #4116
Q 三宅島の『特異体質』についてこれまで色々御教授頂きました。また、もう一つよろしくお願いします。
以前「三宅島の火道は極端に太い≒極端に放出ガスが多い」という事を教えて頂きましたが(#1829)もうこの火山の特徴として「極端に前兆現象の出現から噴火までの時間が短い(事もある)」という事があったと思います。常にガス抜き孔が口を開けている伊豆大島でさえ1986年の噴火の時は数カ月前から前兆があったと聞きます。三宅島の場合、1940年は一ヶ月の前兆がありましたがその後の2回の割れ目噴火の時は前兆現象の出現から噴火まで数十時間程度だったと聞きますし2000年の噴火にしても前兆の出現から最初の海底噴火までは10数時間だったと記憶しています。三宅島の前兆の極端な短さは「太い(であろう)火道」と関係があると考えてよろしいでしょうか。
よろしくお願いします (08/01/03)

アマンタジン(いつもありがとうございます):医師:28

A 前回述べた太い火道は2000年噴火時のカルデラ陥没事件で形成されたもので,それが現在まで続く大量の火山ガス放出につながっていると考えています. 歴史記録に残っている噴火14回のうち,山頂噴火が起きているのは不確実なものを含めても5回に過ぎず,山頂につながる火道は,伊豆大島と違っておそら くほとんど閉塞していたのではないかと考えられます.

伊豆大島の山頂噴火の場合,ほとんど地震,つまり岩石の破壊を伴わずに噴火に至ります.これは火道をわざわざ新たに破壊しながら作る必要がなかったこと を示していると考えられます.伊豆大島1986年の噴火の場合,初めて火山性微動が観測されたのは同年7月ですが,マグマが三原山火口に出現したのはそ れから4ヶ月後でした.それだけゆっくりと上昇してきたと言えます.むしろゆっくりとしか上昇できないのに,火道が確立していたので上昇できたのかもし れません.

一方,伊豆大島でも1986年噴火の山腹噴火の前兆は,三宅島の割れ目噴火と同じく,噴火の数時間前から始まった地震活動でした.三宅島の割れ目噴火と 同じくマグマが岩石を割りながら急速に上昇してきたのでしょう.おそらく,新しく割れ目を作って噴火に至るには,それだけ急速なマグマの上昇が必要で, その結果として前兆から噴火までの時間が短いのかもしれません.

なかなか難しい質問で,まだ断定はできませんが,こういう風に考えてみてはどうかと思います.
 (09/05/03)

川邉禎久(産業技術総合研究所・地球科学情報部門)