火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

身近の火山:東北地方

岩手山


Question #76
Q 岩手山の火山性地震が頻発しています。今後、噴火の可能性はどの程度あるのでしょうか。私は記者として現在、岩手山の火山活動を取材中ですが、今後の見通しがわからず悩んでいます.良き見解をお示し下さるようよろしくお願いいたします。 (5/12/98)

ゆうき:記者:25

A
 噴火の具体的可能性を言うのはかなり難しい問題です.桜島火山のような頻 繁に噴火を繰り返す火山においては,度重なる観測結果の蓄積から,噴火と地 殻変動・地震活動の規則性がある程度導かれています.そのような極めて限ら れた(噴火経歴と観測が豊富な)火山においては,噴火や爆発の可能性をある 程度言うことができるようになってきています.一方,火山ごとに噴火のパタ ーンが違うように,噴火の前兆現象も火山ごとに少しづつ異なります.そのた め,桜島のパターンをそのまま岩手山に当てはめるわけにはいきません.
 岩手山は東北大学と気象庁などが中心となって,以前から地震活動や地殻変 動の観測を続けており,今年3月頃から次第に活動レベルが上がってきている ことを指摘していました.地震活動が活発化し地殻変動が起こっていることか ら,マグマが地表に接近してきていることは明らかです.
 岩手山では有史時代の噴火が何回かありますが,噴火の観測をした経験が蓄 積されているわけではありません.このため,噴火する可能性がありうるとし か,現状では言いようがないと思います.岩手山でいったい噴火がおこるの かどうかは,新聞記者のみならず国民全体の興味かもしれません.しかし,そ の可能性や見通しを数値や時期などでいうことは今のところ不可能です.
 火山研究者にとっては,今の現象を科学的にできるだけ正確に理解すること と,過去の噴火例や地質を調べ,ひとたび噴火が起きたらどうような噴火様式 でどのような災害が起きうるかを調査することが重要になっています. (5/13/98)

中田節也(東大・火山センター)


Question #99
Q イタリアのシチリア島の火山が噴火した事の詳細を、お教え願えればと思い、 メールいたしました 妹が旅行に行くようで、詳しいことを知りたいとのことだす 宜しくお願いいたします (7/3/98)

妹:OL:25

A
 シシリー島にあるエトナ山(標高3350m)はしばしば噴火を繰り返していま す.1995年夏頃からも新たな活動を始め,シャワーのように溶岩のしぶきが火 口から飛び散るストロンボリ式噴火をしばしば繰り返し,火口の外にも溶岩が 流れ出ています.この7月1日夜にもやや活発な噴火をしました.質問は,こ の噴火シーンがテレビで放映されたことだと思います.現在,エトナ山の火口 付近への接近は巨大な火山弾が飛来する可能性があるので極めて危険ですが, 火口へ近づかないのであれば特に問題はありません.どこまで登れるかは地元 の観光局におたずね下さい. イタリアの火山については,このコーナーの回答者である小山さんの本が参考 になるかもしれません.
 小山真人著「ヨーロッパ火山紀行」ちくま新書

(7/4/98)

中田節也(東大・地震研・火山センター)


Question #98
Q 岩手山の活動についての質問です.仮に溶岩を噴出するような噴火が 西岩手カルデラ内で起こったとしたらカルデラ内の沼もしくは帯水層 との接触でマグマ水蒸気爆発が起きるでしょうか?それとも先に水が 枯れてしまって穏やかな溶岩噴出になるのでしょうか?沼はそんなに 深くないと聞きましたがどうなんでしょうか. (7/1/98)

センダ ヨシミチ:学生:21

A
 地下から上昇してくるマグマの温度は、化学組成などによって変わります が、およそ1000℃前後と考えられます。この高温の物体が地表面に到達する と、溶岩流が流れ出したりするわけです。
 しかし、地表に達する以前に地下水や湖水などと接触した場合、水は高温の マグマによって熱せられて、1000倍の体積の水蒸気に相変化し、その際に爆発 が発生することがあります。これがマグマ水蒸気爆発と呼ばれる噴火様式で す。ただし、マグマと水の割合によって爆発力はおおきく変化します。マグマ の割合が高く水が少ない場合や、マグマが少なく水が多い場合はそれ程ではあ りません。中間のちょうどよい割合で、しかも水蒸気が封じ込められると、よ り大きな爆発が発生します。
 西岩手カルデラ内には、御苗代湖や御釜湖の湖や大地獄谷などの噴気地帯が あり、地下水も豊富であると考えられます。高温のマグマが上昇してきた場合 には、水と接触しマグマ水蒸気爆発が発生することは多いにありうることだと 思います。マグマの関与は不明ですが、大正8年には大地獄谷に直径10mの火口 が生じ、周囲に礫が飛散したという記録もあります。
 御質問の、「マグマの熱によって水が蒸発し、枯れてしまってから穏やかな 溶岩噴出になる可能性」ですが、マグマの温度が低く少量で、上昇速度がきわ めて遅い場合には、確かにあるかもしれません。しかしながら、岩手山の場 合、これまでの地質調査結果からみると、地下から上昇してくるマグマの温度 は、それ程までには低くはないのではないかと想像します。
 なお、この西岩手カルデラの状況は「空撮岩手山のページ」にあるいくつか の写真をごらんになるのがいいかと思います。URLは、 http://www.geo.chs.nihon-u.ac.jp/tchiba/1wate/Iwate.html です。 (7/7/98)

千葉達朗(アジア航測(株)防災部)


Question #97
Q 私は盛岡市に住んでいるので、岩手山の活動を注目しています。6月28日の火山性地震の震源が山の東側に変化したそうです。また、これまで数分程度だった火山性微動も10分以上続いたそうです。これらの変化をどうとらえたらいいのでしょうか。岩手山の東側は民家もあり、ちょっと心配です。 (6/29/98)

かつひこ:会社員:45才

A 岩手山の活動については,日本中の火山研究者も注目しています.

ご質問にお答えすると,この東側の地震は,そのまま地表の噴火地点を示すこ とはないように思います.理由は,比較的深いところで起きているからです. このような地震は,火山の深いところの構造を主に反映していると考えられて います.浅い地震が噴火地点を示す例は,北海道の有珠山など他の火山では報 告されています.しかし,これについても必ずしも一般的ではなく,どこの火 山でもそうだという訳ではありませんので,注意が必要です.

微動については,そもそも発生メカニズムがよくわかっていないのが現状で す.ですから,その継続時間が何を意味するのかは,今のところ不明としか言 えません.ただ,一般的には,継続時間が長くなったり振幅が大きくなったり するのは,火山活動の活発化を示すものだとは認識されています.

いずれにしましても,最近の地震や微動の起こり方が,火山活動の活発化を示 していることは確かです.現在,気象庁や東北大学で地震観測網をつくり,こ うした起こり方に注目しています.観測データは他のデータとともに十分に検 討され,大事なことは情報として気象庁から公表されます.今後はこれらの情 報に注意していていただきたいと思います. (6/30/98)

西村裕一(北海道大学・理学部・有珠火山観測所)


Question #96
Q 岩手山の件ですが、6/25に臨時火山情報が出され緊迫した状況であると感じております。 危険箇所が大地獄谷周辺と言われており、万が一噴火した際には、岩手山北側の方が 危険に感じられますが、どうなんでしょうか?南側は鬼ガ城と呼ばれる尾根があり、北側よりは 安全な感じがしますがどうでしょうか。 (6/28/98)

齊藤博士:会社員:25

A
 岩手山が噴火するかどうかは,現段階では可能性は大きくなりつつあるとは 言えても,確実なことはまだ言えないという状況であるということを念頭にお いて以下をお読みください.


 さて岩手山が噴火するとして,現状ではもっとも可能性が高いのが大地獄付 近での水蒸気爆発です.水蒸気爆発では,規模にもよりますが,おそらく火口 周辺の岩塊や火山灰の放出が起こるでしょう.
 大地獄は西岩手カルデラと呼ばれるところにあります.西岩手カルデラの南 側の鬼ヶ城と北側の屏風尾根では,屏風尾根のほうがやや低く,岩塊を遮る効 果もやや低いと言えそうです.ただ大きな岩塊はそう遠くまでは届きません. 桜島などの観測では,巨大な岩塊の飛散する距離は最大でも4kmほどです.幸 い大地獄から最も近い集落までは,約5kmほど離れていますから,爆発で吹き 飛ばされた岩塊による被害は,山頂付近にいない限りあまり考えなくてもよい でしょう.
 ただ細かい火山灰は周辺に風によって運ばれますから,地形にあまり左右さ れず広い範囲で降灰すると思われます.また火口付近では火山灰が大量に堆積 し,土石流が発生する可能性もあります.西岩手カルデラからは,焼切沢が北 西方向に流れ下っていますから,噴火が始まれば,焼切沢の流域では土石流に 注意したほうがよいでしょう.


 火山災害は多くの場合地形に左右されます.特に溶岩流や火砕流,土石流は 地形の低い所つまり谷などを通ります.ですから予想される噴火口の位置と地 形を知ることができれば,危険が及びそうな範囲を推定することができます. 災害予測図(ハザードマップ)は,そのようにある火山について起こりそうな噴 火の種類と規模,火口の位置を推定してつくります.


 噴火が始まったときになにが起こりうるかは,地質調査などで過去の噴火を 調べるのが,役に立ちます.
 岩手山の過去の噴火活動について,地質調査所の伊藤順一さんがまとめられ たものが

http://www.aist.go.jp/GSJ/~jitoh/opn/iwate/index.html

にあります.

(6/29/98)

川辺禎久(工業技術院・地質調査所・環境地質部)


Question #104
Q 1 岩手山が噴火した場合、それはどのような形態の噴火となるので しょうか。 2 また、雲仙の時ほどの規模になる可能性はあるのでしょうか。 3 噴火した場合、どのような被害が予想されるのでしょうか。 (1) 火砕流 (2) 溶岩の流出・それに伴う火災 (3) 土石流 等の可能性は。? 4 今後の活動については。

(7/16/98)

T.O:公務員:30

A
 これまでの岩手山の観測経験が少なく,岩手山がこれから噴火が噴火するの かも含めて,確実なことを言うのはかなり難しいでしょう.ただ岩手山の過去 の歴史噴火記録が参考にするとある程度の推測はできます.
 これまで岩手山では比較的大きな噴火記録として,1686年と1732年の噴火が あります.1686年の噴火では,岩手山の山頂火口から噴火し,スコリアを放出 しました.噴火の初期にはマグマ水蒸気爆発を起こしたようです.このときは 盛岡市内にも降灰があったようです.まだ雪が残っている時期に噴火が起きた ため,噴火で融けた雪が泥流となって,岩手山東部山麓のいくつかの集落に被 害がありました.記録からは活発な噴火は1日ほどで終わり,その後は火山灰 を火口周辺に降らせる程度の噴火が半年ほど続いたとされています.
 1732年の噴火は,岩手山近傍で有感地震があったあと,岩手山北東山腹で側 火口が開いて,噴火が始まりました.側火口の数は4つで,最も低位置の火口 から,焼走り溶岩流が流れ出しています.地震で住民が避難したという記録は ありますが,噴火による直接の被害は生じていないようです.この活動も半年 ほどで終了しました.このほかそれほど規模は大きくありませんが,1919年に 西岩手の大地獄付近で,水蒸気爆発が起きています.
 地質学的な記録では,降下スコリアや溶岩流のほかに数万から数千年前に岩 屑なだれも起きています.


 現在浅い地震が起きているのは,岩手山の西側です.このことから噴火があ るとすると,大地獄周辺での水蒸気爆発が最も可能性が高いと思われます.水 蒸気爆発なら火口周辺に爆発による岩塊の放出,岩手山周辺への降灰などが考 えられます.
 これより大きな噴火になるかどうかは,現段階ではわからないというのが正 直な所だと思います.しかし大規模な噴火に至るには,地震活動の今まで以上 の活発化や,地殻変動が観測されると思われます.マグマが地表に達して噴火 が起きれば,スコリア・軽石の放出や降灰,溶岩流流出,火砕流もありえま す.ただ岩手山では大規模な火砕流はあまり知られていません.
 噴火や火山灰の堆積で土石流,泥流が沢や川沿いに発生する可能性もありま す.特に積雪時には注意したほうがよいでしょう.


 現在各機関,大学などで岩手山の観測を強化しつつあります.これらの観測 から得られた情報は気象庁から公表されますから,これらの情報に注意してい ただきたいと思います. (7/16/98)

川辺禎久(工業技術院・地質調査所・環境地質)


Question #156
Q 私は岩手県の盛岡市に住んでいるんですけど、 岩手山が噴火すると、どこまで被害が及ぶんですか? また、どんな被害を受けるんですか? (11/8/98)

hina:中学生:13

A 岩手山火山災害対策検討委員会が岩手山火山防災マップとハンドブックを10 月初めに出しました.これには噴火によっておこる災害の種類や範囲につい て分かりやすく示されています.恐らく盛岡市にお住まいであれば,御自宅 や学校にも配付されていると思います.これを是非参考にして下さい.ホー ムページでは防災マップを以下で見ることができます.

http://www.iwate-np.co.jp/news/hzmap1L.jpg

また,過去におきた山崩れの分布図も以下で参考にすることができます.

http://www.iwate-np.co.jp/news/Gansetsu.jpg (11/10/98)

中田節也(東大・地震研)


Question #159
Q
 11月17日付の朝日新聞での記事で東北・北海道の火山が活発化しているのは,94年の三陸はるか沖地震の影響ではないかという見方が有力であると書いてありました.
 どのようなメカニズムを仮定することで,プレート境界で起こる地震の影響で火山活動が活発化するといえるのか教えて下さい. (11/17/98)

かずね:主婦:25

A
 はっきり申し上げますと、「三陸はるか沖地震」のようなプレート境界型地震と 、そこからかなり離れた陸地の火山活動との関係をはっきりと物理的に証明した方 は居ないのではないかと思います。現時点では物理的なメカニズムというよりも「 統計的に見て」そのように見えるという事であると私は認識しております。「統計 的に・・」というのは、その背後のプロセスは問題ではなく、物事のつながりを経 験的に「なんでそうなるのかよくわからないけど、そのようになってしまうもの」 として見ているということです。
 ただ、物理的に考え得ることとしては、火山の地下のマグマ溜まりが地震以前か ら臨界状態にあって、(1)地震波の通過によってマグマ内部での相変化や脱ガスが促 進された、(2)地震発生後の広域応力の変化によってマグマ内部での相変化や脱ガス が促進された、の説などがあげられます。
 (1)については、地震波の通過は全体のなかでホンの一瞬(マグマが数キロのサイ ズでも数秒)のことですし、遠く離れた場所で発生した地震波の通過に伴う内部で の圧力変化はそれほど大きくないと考えられますので、時間的あるいは空間的なス ケール的には無理なようです。実際に、阿蘇火山の活動火口近傍で発破をかけても 火山活動はおろか、火山性微動にも目立った変化は現れませんでした。
 また、(2)の説については、たとえプレート境界の地震発生に伴う半永久的な応力 変化(応力解放)があったとしても、地震波ほど遠くまで伝わりません(ちなみに 地震波も一種の応力の揺らぎが伝播する現象です)。震源近傍ならともかく数百キ ロも離れた場所では、同じ震源から出た地震波の方が大きな応力変化になります。 先日の雫石の地震と岩手山程度の距離であれば、地震発生に伴う応力変化が火山活 動に影響を及ぼす可能性があるかもしれません。
 しかし、問題は地球の内部の構造です。地球の内部についてはまだ誰も見たこと がないわけですから、私たちが想像も出来ないような「何か」が両者を結びつけて いるかもしれません。 (12/2/98)

筒井智樹(京都大学・理学部・火山研究センター)


Question #1539
Q 一時岩手山に臨時火山情報が出されていましたが、その後どうなっているのでしょう。噴火に至らなかった理由は何なんでしょう。また、最近富士山のことが話題になっていますが、最新の情報を教えて下さい。 (02/06/01)

みやちゃん:公務員:44

A 岩手山では,1998年2月下旬から火山性地震が増加し,3月には歪み計や傾斜計にも変 化が現れました.その後1998年6月23日に低周波地震,火山性微動が発生,火山性地 震もさらに増加したため,盛岡地方気象台が臨時火山情報第2号を発表し,噴火の可 能性を示しました.その後,地殻変動なども観測され,噴火の可能性があるとして, 観測体制の強化や,地元自治体などの対応体制整備,ハザードマップの配布などが行 われました.9月3日にM6.1の地震が岩手山西部で発生し,被害がありましたが,その 後地震活動,地殻変動とも落ち着いてきて,噴火は起こらずに現在に至っています. 地殻変動で,岩手山が南北に広がるような動きが観測されていましたし,岩手山の西 では,これまでなかったところに噴気地帯ができたりしています.地下でマグマや熱 水などの動きがあったのは,まず間違いありません.しかし噴火が起こらなかったの は,上昇したマグマの量や浮力が足りなかったり,M6.1の地震の影響があったのかも しれませんが,はっきりした理由はわかっていません.富士山でも低周波地震が昨年 秋に増加しましたが,今のところ火山性地震の活発化や,地殻変動は観測されていま せん.低周波地震も今年に入ってから減っています. (02/21/01)

川辺禎久(産業技術総合研究所・地質調査所・火山地質)