阿蘇山のガス事故の原因になった亜硫酸ガスは、喘息の人が吸うと、ごく微
量(通常人の警戒値の1/100)でも発作を引き起こす性質があります。そのた
め、阿蘇山のロープウエーの乗り場や駐車場には、「喘息の方はご遠慮くださ
い」という看板が前から出ていました。この注意が、必ずしも徹底されていな
かったために、今回の悲劇が発生したと理解しています。喘息のひとや心臓疾
患のあるひと、高齢者などの『ハイリスクパースンについては、特別な扱いを
する』という社会全体のコンセンサスがあまりなかったのが、いけなかったの
でしょう。ただ、今回のように、ハイリスク群の警戒値をすべての人に適用す
るのは、どうかとおもいます。しかし、よく考えて見れば、すべての人が安心
して訪問できることになるので、やっぱり歓迎すべきかな。
ほかの火山の例
(1)群馬県の草津白根山には、東京工業大学の観測所があります。火山ガス
地帯で、硫化水素ガス濃度の連続測定が行われており、決められた警戒値を超
えると、警報が出され避難を促すシステムができています。
(2)富山県の立山の地獄谷では、ガスの多い地帯には柵が設けられており、
危険なので外にでないようにという、看板があります。しかし、冬など風の凪
いだ時には、柵の外でも息苦しいほどです。時々事故もあるようですが、特に
連続観測や警報システムなどはまだないようです。
(3)福島県の安達太良山では、昨年硫化水素ガスで一度に4名もの登山者が
亡くなりました。かなり、登山道からはずれた場所であり、すべての危険箇所
に看板を立てたり、ロープをはったりすることは難しいようです。最近になっ
て、沼ノ平登山ルートそのものが廃止になりました。したがって、対登山者警
報用のセンサーなどはありません。
(4)伊豆大島三原山では、1986-87年の噴火以来、火口周辺への立ち入りが禁
止されてきましたが、10年目の1996年に規制が解除されました。登山道の両側
には柵やロープがあり、火口周辺を自由に歩き回れるようにはなっていませ
ん。この規制は、火山ガスだけが理由ではないとおもいます。
参考書・雑誌
宇井忠英編(1997)火山噴火と災害,東大出版会,217p.
ルポ:安達太良山の遭難から-火山ガスの警笛-
「岳人」1997年11月号(No.605),92-96.
緊急企画:火山ガスその見えない恐怖
検証:9月15日安達太良山・沼ノ平で何が起こったのか(長谷川哲)
解説:火山ガスの特性と対応策を知る(羽根田治)小坂丈予先生に取材
「山と渓谷」1997年11月号(No.748),143-147.
(5/14/98)
千葉達朗(アジア航測(株)防災部)
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