北都さん こんにちわ。
千島列島は南側では2重弧(南側の歯舞−色丹島,北側の国後−択捉島)を作り,南
側の島々に新しい火山(数100万年前以降に活動した)がないのですが,北側の国後
島からカムチャッカ半島まで続く島々のうち,最北端の占守島を除く島々は新しい火
山活動の産物によって作られており,文字どうりの火山列島です。現在も活動中の火
山が多く,いわゆる北方領土の国後と択捉島だけでも,日本の気象庁の認定による10
もの活火山があります。
主な火山島を北からあげると,
1.アライド島,アライド火山(標高2339m):アライト島全体が火山です。1933-
34年に東麓の海岸で噴火が起こり,島を作りました。噴火を最初に確認した人の名前
をとって武富島と命名されています。
2.パラムシル島,チクラ火山(1815m):最近では1853年に比較的規模の大きな噴火
をし,その後も1958年,1961年,1964年と噴火を続けています。シリヤジリ火山
(1772m):1854年に噴火。
3.オンネコタン島,幽仙湖カルデラや富士山のような形をした黒石火山(1325m)
があります。
4.ハルムコタン島,ハルムコタン火山:1933年に山体崩壊を伴う噴火をしました。
5.マツワ島,芙蓉火山(1497m):活発な噴火活動を続けており,噴煙が常に上が
っています。
6.ケトイ島,島はケトイカルデラとカルデラ形成後の火山群から構成されており,
1846年まで断続的に噴火活動をしていたようです。
7.シンシル島,プロトン湾カルデラと橘湖カルデラなどのカルデラ火山や
シンシル富士火山(1361m)などがあります。橘湖カルデラ内では1957年に噴火が
おこりました。
8.ウルップ島,地獄山火山(1013m)やBerg火山など活発な噴気活動を続けている
火山があります。
9.エトロフ島:美しい山容のアトサヌプリ火山(1205m)が有名ですが,カルデラ
火山や噴気活動を続ける溶岩ドーム群など,ほぼ全域に新しい火山が分布しています。
10.クナシリ島,爺爺岳火山(1822m):外輪山と山頂火口内に形成された中央火口
丘からなります。1973年に噴火し,降灰は根室にまでおよびました。
千島列島の火山研究は戦前は日本の研究者によって,戦後も1960-70年代頃までは旧
ソ連の研究者によって活発な研究が行われてきました。しかしその後は旧ソ連の崩壊
により研究は停滞しています。最近になって千島列島の火山の噴火による噴煙で,東
側の北米−アジア航路を通る飛行機の運行に重大な支障をきたすことが予測され,ア
メリカを中心にアラスカ,アリューシャン,カムチャッカそして千島列島の火山観測
体制の強化の必要性が叫ばれています。日本の我々のような研究者にとっても,北方
領土の火山については日本,特に北海道の火山活動を理解するために興味ある研究対
象なのです。
昨年から北方4島でのロシア側とのビザなし交流の特別枠に専門家交流が組み込まれ
,今年の夏に国後島の爺爺岳を対象とした日ロの合同調査が行われました。回答者も
その中の火山地質班の1員として爺爺岳に登りました。メンバーは火山地質,火山物
理および火山化学の専門家から構成され,その他に植物学者も加わりました。今回の
調査はわずか4泊5日の調査であったため,その調査対象も1973年の山腹噴火と1812年
の山頂噴火に絞りました。その主な結果としては
1)1973年噴火は山体の北および南側の山麓から,それぞれマグマを噴出した珍しい
噴火であったことが確認できました。
2)噴火そのものが不確かな山頂火口での噴火ですが,1856年の北海道駒ケ岳の噴火
による火山灰のみに覆われる溶岩流を見い出し,1812年の噴火が溶岩流の流出を主体
とする噴火であることが明かになりました。
3)山頂火口からはその他にも多数の溶岩流が流出しているが確認でき,1856年の北
海道駒ケ岳の火山灰に加えて,1732年の樽前火山の火山灰にも覆われていたりするこ
とや,溶岩流の上の植生の発達の程度の違いから,最近の数百年の間に何回かの溶岩
流の流出を繰り返したりしていることが明かになりました。
今年の調査では同時に多数のサンプルを採取し,その分析・解析が現在進行中です。
我々はこれの結果をまだHPに載せていません。すみません。また千島全体についての
火山を紹介しているHPも私は知りません。ただ今回の調査および調査結果については
8-10月までの朝日新聞の北海道版で紹介されてきました。その記事は来年には「新
北の火の山」(小池省二著)として出版され,一般の書店に並ぶはずです。北都さん
は北海道の方ということでご紹介しますが,11/2-11に札幌のサッポロファクトリー
・レンガ館3Fの「コニカプラザ・サッポロ」において今回の調査の写真展が開催さ
れています。そこで爺爺岳の美しい山容を見ることができるでしょう。なおこの写真
展は来年には東京でも行われる予定です。
(11/2/99)
中川光弘(北海道大学大学院・理学研究科・地球惑星科学)
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