火山周辺に湧出する温泉や地下水は,火山活動に伴って様々な変化を示すことがあ
ります.火山活動に伴って温泉や地下水に異常が認めらた場合,以下のことが考えら
れます.
(a)火山活動に伴いマグマから放出された熱や火山ガスなどが帯水層に影響を与え
る.
−>温度上昇,水質変化,水位変化.
(b)マグマの移動・発泡などにより地殻が変形する.
−>水位変化.
(c)噴火活動の際,激しい地震動によって帯水層が乱される.
−>水位変化,水質変化.
(d)マグマの移動・貫入等に伴い火口や断裂帯等が形成される.
−>新たに熱泥水や温泉,地下水が噴出.
予想される変化を比較して見ますと,(a)は温度上昇や水質変化が主で,場合に
よっては水位変化が生じることもあります.異常は噴火後しばらくしてから現れる場
合の多いのが特徴です.それに対し,(b)と(c)は主に水位変化として短時間に
発生します.(d)はそれまで温泉や地下水が湧出していなかった場所に新たに出現
します.
火山活動や噴火によって生じる温泉や地下水の異常は多くの火山で観測されていま
す.
北海道での比較的最近の事例を取り上げますと,十勝岳1989年の噴火活動の際,山
麓の温泉では泉温上昇,塩化物イオン濃度やナトリウムイオン濃度が顕著に増加しま
した.この噴火では,それまでは低温で利用できなかった泉源が泉温上昇により浴用
可能となり,吹上温泉として多くの観光客が訪れる露天風呂(無料)として人気を博
しています.昨年,噴火した有珠山では,山体を中心とした広い範囲で噴火前に水位
異常が観測されました.この現象は,噴火の前兆として注目されました.有珠山北麓
の洞爺湖温泉・壮瞥温泉では,噴火後には100mにも及ぶ水位上昇が観測されたり,顕
著な泉温上昇や水質変化も観測され,現時点でも噴火前の状況には戻っていません.
ご質問の北海道駒ヶ岳山麓でも1996年の噴火後,深度700〜1500mのボーリング井か
ら汲み上げられている温泉の水質が変化したことが報告されています.しかし,深部
ボーリングにより開発された温泉源は,井戸障害による水位変化や水温変化,更には
水質変化を引き起こす場合もありますので,注意する必要があります.駒ヶ岳周辺で
は浅部(深度300〜600m程度)で25〜35℃前後の良好な帯水層が発達する地域もある
ため,実際に井戸障害により浅部帯水層から低温水が流入して水位上昇,泉温低下,
泉質変化が生じている温泉井戸もあります.したがって,ご質問に正確にお答えする
には,該当する井戸の掘削位置,井戸構造,もし定期的に観測しているのであれば水
位や水温等のデータがあれば,より明確な回答が可能になると思います.
更に,詳しいことをお知りになりたければ地質研の秋田(011-747-2211 ext432)
まで直接問い合わせ下さい.
(05/25/01)
秋田藤夫(北海道立地質研究所・ 環境地質部)
|