火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

身近の火山:北海道・千島

知床硫黄山


Question #192
Q 色々な火山がある中で、噴出物も色々と変わってくると本で読みました。先日、北海道の硫黄山に行ったんですが、岩っぽいものが出てくるのは想像に難しくないのですが、硫黄が出てくるのはなんだか考え辛いです。一体どうして、硫黄だけが流れて来ることがあるんですか?たまたま地下で硫黄が集まっているところで火山ができるとあんな風になるのか、と思っても、箱根とかでもなにかとよく硫黄があるので偶然とも考え辛いなぁ、と思っています。教えて下さい。よろしくお願いします。 (2/7/99)

イガイガ:大学生:20

A イガイガさんが訪れた北海道の硫黄山というのは、恐らく"知床硫黄山"のことだと 思います。この火山は、前回1936年の噴火の際、溶けた硫黄を噴出したことで世 界的にも有名です。このときの硫黄の総噴出量は、約20万トンにのぼったそうで す。この火山では過去の噴火でも硫黄を流出するような噴火がありました。世界で も知床硫黄山のように、大量の硫黄を流出する火山は珍しく、他にはチリ北部にあ るLastarria火山が知られています。

火山で見られる硫黄は、もともとはマグマ中に溶け込んでいたものです。マグマが 上昇し、圧力が減少するのに伴い、硫黄などの揮発性成分がマグマから抜け出し、 火山ガスとして地表へと上昇します。火山ガス中の硫黄はSO2, H2S, S2の形で存 在します(S2の存在度は他の二つのガス成分に比べ非常に小さい)。これらの硫黄 のガスは、火山ガスが地表に近づき温度が低くなると(例えば100℃くらい)、一部 が硫黄の結晶として晶出します。箱根などで噴気孔の周りに見られる、黄色い結晶 が、晶出した硫黄です。このような硫黄の晶出は、噴気孔の周りだけでなく、火山 ガスが上昇してくる地下のガスの通り道でも起こっているのです。

さて、硫黄を晶出するような噴気活動が長期にわたって続くと、結果的に相当量の 硫黄が噴気地帯やその地下に蓄えられることになります。知床硫黄山の場合、長年 にわたって蓄積された硫黄が、火山活動の活発化に伴う温度上昇とともに融解し (下の「硫黄の性質」を見てください)、火口内にたまり、それが地下の水蒸気圧の 増大ともに噴出したと考えられます。つまり、知床硫黄山で噴出した硫黄は、たま たま硫黄が存在するところに火山ができたのではなく、火山活動の過程で蓄積した 硫黄なのです。

ちなみに、先に大量の硫黄を流出する火山は珍しいと書きましたが、小規模の溶融 硫黄噴出は噴気地帯では時々見られる現象です。硫黄の性質硫黄の融点は約113℃ です。160℃になると、水のようにさらさらの流体になります。(それ以上の温度 になると、逆に粘性が急激にたかくなる) (2/15/99)

森 俊哉(東京大学・大学院理学研究科・地殻化学実験施設)


Question #4105
Q 知床の硫黄山について、教えてください。「噴火の際に溶岩以外の鉱物を多量に噴出する火山は世界に3つしかなく、硫黄を噴出する硫黄山の他には、チリのEl Laco火山(鉄酸化物)、タンザニアのOl Doinyo Lengai火山(カーボナタイト)である」と、手元にあるパンフレットにあるのですが、これらは本当のことでしょうか?なにぶんパンフレットなので、元の文献が分かりません。硫黄山が、「世界の希少火山」であると、言ってしまってもよいでしょうか?
また、硫黄山が硫黄を噴出するメカニズムを初心者にもわかりやすく紹介した文献などがあれば、紹介してください。よろしくお願いします。 (07/23/03)

鈴木さんは新人:会社員:27

A 「鈴木さんは新人」さん、こんにちは

パンフレットは少し誤解があるようです。溶岩の定義はマグマが地表あるいは地表近 くで固まったもので、マグマとは「地下の岩石が溶融したもの」です。通常は二酸化 ケイ素を主要な成分とするのがほとんどなのですが、それ以外のものもあります。で すから地下の硫黄や鉄鉱物の溶融体が流出し、それが固まったものも広い意味では溶 岩と呼んでもいいものです。特にカーボナタイトはマントルの溶融で生じうる立派な 溶岩の仲間です。しかしそれらが珍しい「溶 岩」あるいは「マグマ」であることは 間違いありません。

さて知床硫黄山(他の硫黄山と区別するために、我々はこのように呼んでいます)は 大規模に硫黄を流出する火山として世界的に有名です。小規模な硫黄の流出や、記録 に残っていない噴火で硫黄を流出した火山は他にもあるでしょうが、ごく最近 (1936年)に大規模に硫黄が流出したのは知床硫黄山だけです。そして硫黄流出の経 緯が専門家によって詳細に観察された、ということで「希少火山」と呼んでいいと思 います。

硫黄の流出に関して記述し説明した文献ですが 渡邊武男・下斗米俊夫(1937)北見国知床硫黄山ー特に昭和11年の活動に就いてー 火山,第1集,3巻,213-262 があります。これは実際の硫黄噴出を観察して、周辺の地質も考慮して、硫黄流出の メカニズムを考察しているすぐれた論文です。これ以外ではいい文献はないと思いま す。

その説明を要約してみます。まず観察事実として、硫黄は温泉水と共に間歇的に噴出 しました。つまり硫黄噴出は、間欠泉のメカニズムと同じように考えればいいことに なります。間欠泉は地下の空洞に温泉水が溜まり、その蒸気圧が空洞内で次第に上昇 し、その圧力で地表に温泉水を勢い良く放出すると考えられています。知床硫黄山の 場合は温泉水ともに溶けた硫黄が地下の空洞に溜まっていたと考えられます。硫黄は 「普通のマグマ」に含まれており、それが地表近くでマグマから分離し、それがガス として大気中に放出されたり、あるいは温度低下で硫黄として濃集して火山体表面や 内部に析出します。よく温泉地帯や地熱地帯で黄色く硫黄が析出しているのを御覧に なったことがあると思います。硫黄の融点は約120度ですから、地熱地帯では簡単に 硫黄は溶けます。 知床硫黄山では溶けた硫黄が温泉水とともに地下の空洞に溜まっ たと考えられます。空洞では下の方に硫黄が、その上に温泉水が溜まっていたのでし ょう。そして温泉水の蒸気圧が高まって「間欠泉」のように硫黄が噴出したのでしょ う。

1936年に硫黄を噴出した火口は現在でも噴気活動が活発で、硫黄も普通に観察されま す。地下では空洞に溶融硫黄の蓄積が現在も進行中かもしれません。次の噴火でも硫 黄の流出が観察される可能性が高いと考えています。
 (08/09/03)

中川光弘(北海道大学大学院・理学研究科・地球惑星科学専攻)