「鈴木さんは新人」さん、こんにちは
パンフレットは少し誤解があるようです。溶岩の定義はマグマが地表あるいは地表近
くで固まったもので、マグマとは「地下の岩石が溶融したもの」です。通常は二酸化
ケイ素を主要な成分とするのがほとんどなのですが、それ以外のものもあります。で
すから地下の硫黄や鉄鉱物の溶融体が流出し、それが固まったものも広い意味では溶
岩と呼んでもいいものです。特にカーボナタイトはマントルの溶融で生じうる立派な
溶岩の仲間です。しかしそれらが珍しい「溶 岩」あるいは「マグマ」であることは
間違いありません。
さて知床硫黄山(他の硫黄山と区別するために、我々はこのように呼んでいます)は
大規模に硫黄を流出する火山として世界的に有名です。小規模な硫黄の流出や、記録
に残っていない噴火で硫黄を流出した火山は他にもあるでしょうが、ごく最近
(1936年)に大規模に硫黄が流出したのは知床硫黄山だけです。そして硫黄流出の経
緯が専門家によって詳細に観察された、ということで「希少火山」と呼んでいいと思
います。
硫黄の流出に関して記述し説明した文献ですが
渡邊武男・下斗米俊夫(1937)北見国知床硫黄山ー特に昭和11年の活動に就いてー
火山,第1集,3巻,213-262
があります。これは実際の硫黄噴出を観察して、周辺の地質も考慮して、硫黄流出の
メカニズムを考察しているすぐれた論文です。これ以外ではいい文献はないと思いま
す。
その説明を要約してみます。まず観察事実として、硫黄は温泉水と共に間歇的に噴出
しました。つまり硫黄噴出は、間欠泉のメカニズムと同じように考えればいいことに
なります。間欠泉は地下の空洞に温泉水が溜まり、その蒸気圧が空洞内で次第に上昇
し、その圧力で地表に温泉水を勢い良く放出すると考えられています。知床硫黄山の
場合は温泉水ともに溶けた硫黄が地下の空洞に溜まっていたと考えられます。硫黄は
「普通のマグマ」に含まれており、それが地表近くでマグマから分離し、それがガス
として大気中に放出されたり、あるいは温度低下で硫黄として濃集して火山体表面や
内部に析出します。よく温泉地帯や地熱地帯で黄色く硫黄が析出しているのを御覧に
なったことがあると思います。硫黄の融点は約120度ですから、地熱地帯では簡単に
硫黄は溶けます。 知床硫黄山では溶けた硫黄が温泉水とともに地下の空洞に溜まっ
たと考えられます。空洞では下の方に硫黄が、その上に温泉水が溜まっていたのでし
ょう。そして温泉水の蒸気圧が高まって「間欠泉」のように硫黄が噴出したのでしょ
う。
1936年に硫黄を噴出した火口は現在でも噴気活動が活発で、硫黄も普通に観察されま
す。地下では空洞に溶融硫黄の蓄積が現在も進行中かもしれません。次の噴火でも硫
黄の流出が観察される可能性が高いと考えています。
(08/09/03)
中川光弘(北海道大学大学院・理学研究科・地球惑星科学専攻)
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