火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

身近の火山:国外の火山

デカン高原


Question #43
Q デカン溶岩台地やコロンビア川溶岩台地を形作っている溶岩は、いったいどのような 噴火形態によって地表に噴出されたのでしょうか。溶岩が玄武岩質溶岩ということで すから、ホットスポット型火山或いは海嶺に関連した火山活動のどちらかに似ている のでしょうか。よろしくお願いします。 (9/22/97)

武藤君:学生:22

A
 インドのデカン高原を作る溶岩(約6千5百万年前)や合衆国のコロンビア川 平原を作る溶岩(約千6百万年前)は,短期間に大量に噴出した玄武岩(一部は 玄武岩質安山岩)マグマで,洪水玄武岩とも呼ばれています.これらは,極 めて高い噴出率で生じたことになります.おそらく,いくつもの長い割れ目か ら,高温で粘度の低い溶岩が一斉に噴出したものと推定されます.現在の火 山では,ハワイやアイスランドの割れ目噴火がどちらかというとこれに近いと 思いますが,もっと規模の大きい派手なものであったと考えられます.
 なお,溶岩が玄武岩質であるからといって,場所がホットスポットや海嶺に 限られる訳ではありません.誤解のないように.
 最近の研究では,これらの洪水玄武岩は通常のホットスポットよりは巨大な マントルプルームが上昇したために生じたと提案されています. (10/15/97)

中田節也(東大・火山センター)


Question #332
Q はじめまして。 洪水玄武岩とは何か、なぜできるのか、を教えて頂けませんか? お願いします。 (11/24/99)

鶴谷京子:大学生:19

A
 洪水玄武岩は,台地玄武岩とも呼ばれていて,膨大な量の玄武岩質溶岩が流れ出し, それの粘りけ(粘性)はたいへん低いものですから,既存の山谷地形を埋めて平坦な 地形を作り,それが現在では浸食に耐えて台地を作っているものです.なにしろその 量は想像を絶するものでして,インドのデカン溶岩台地を作るもの(約6千5百万年 前)は52万平方キロ,アメリカ北西部のコロンビア高原をつくるコロンビアリバー玄 武岩(約千六百万年前)は16万平方キロの面積を占めています(日本の領土面積は37 万平方キロ).地球の歴史でも幾度かしかおこらなかった大規模な玄武岩質の火山活 動の産物です.
 そんな大規模な溶岩は,多くは割れ目状の火口から噴出しました.その割れ目状火 口の長さは数十キロから二百キロメートルにおよぶものもあります.温度も高くて粘 性の低い溶岩は噴出口の位置をずらしながら幾度も幾度も噴出し,コロンビアリバー 玄武岩の場合は,総数三百枚もの溶岩が積み重なっています.長いものでは一枚の溶 岩が六百キロメートルも流れました.日本の地理で例えれば富士山から八ケ岳にいた る大割れ目から出た溶岩が中部・近畿地方を埋め尽くして岡山あたりまで流れたと想 像して下さい.一枚の溶岩はそれだけの距離を一週間程度(時速4キロ程度)で流れ たと考えられてきましたが,最近では,もっとゆっくりと,たとえばハワイの溶岩が 流れるのと同程度で時速百メートル程度かそれ以下の速度で,何ヶ月〜何年もかけて 流れたという説が有力になっています.どちらであるかは,ある時間内の溶岩の噴出 率の問題,ひいてはこの溶岩の噴出による地球寒冷化の程度の問題ともからんでくる だけに真剣に議論されているところです.
 それにしても,それだけ膨大なマグマが地下で生産されたこと自体がたいへん不思 議な現象です.地下のマントルが連続的に溶け続けるということが起こってこれだけ の量のマグマができたと考えられてきましたが,それにしては,溶岩の化学組成はい ろいろと説明つきにくい性質をもっていました.たとえば,溶岩の組成は一枚一枚で 相当ちがっていて,その違いかたも生成順に関係なくまちまちで,そしてマントルが 溶けてでてきたばかりのマグマ(初生マグマ)とは異なり,かなり地殻中で分化した と考えなければならないものであること,珪酸の量は結構高くて玄武岩と安山岩の中 間的なものが多いこと,などです.最近は,マントル深部にあった玄武岩質な部分が 上昇してきて溶融してできたマグマであるという説が唱えられています.その玄武岩 質な部分というものは沈み込んだ海洋地殻がマントル中で集積したものであるという 考えに関連しています. (12/1/99)

三宅康幸(信州大学・理学部・地質科学教室)


Question #2561
Q ホット・スポットについて質問したいのですが、
@、ハワイホット・スポットから西に続く海山列を見ると、何千年(もしかして何億年?)も前から火山活動が続いているようですが、ハワイのようなホット・スポットは一体いつ、どのようにして誕生したのでしょうか?
A、インドのデカン高原はインドのはるか南方沖にある、レユニオンホット・スポット(レユニオン島)の活動により形成されたそうですが、他のホット・スポットでも(例えばハワイホット・スポット等でも)デカン高原のような大規模な溶岩台地が形成されたことはあるのでしょうか?
B、ハワイなどのホット・スポットの寿命はどのくらいあるのでしょうか?例えばレユニオンホット・スポットの活動を見るとデカン高原を形成したころに比べればだいぶ弱まっているような気がしますが、このまま下火になりやがて消滅してしまうことはないのでしょうか?
以上、3つの質問ですが、よろしくお願いします。
PS、以前の私の質問に答えて下さった先生方、本当にありがとうございました。 (08/29/02)

しろしろ:フリーター:24歳

A

ハワイから西に続く海山列はおよそ7000万年前までさかのぼれます.それより古い部 分はアリューシャン海溝に沈んでしまっているため,ハワイホットスポットは少なく とも7千万年間は活動しているとしかお答えできません.

海嶺での涌き出しと海溝での沈み込みといったプレート運動のような対流によっては 放出しきれない地球内部のエネルギーを逃がすしくみの一つが,プルームと呼ばれる 円柱状の上昇流です.このプルームが地表の火成活動を引き起こしているところをホ ットスポットと呼びます. プルームがどこから来るのかは,現在でも活発な論争になっている問題ですが,マン トル深部の熱境界層に由来するという考えが一般的です.具体的には,深さ660kmあ たりの上部マントルと下部マントルの境めや,深さ2900kmあたりの下部マントルと外 核の境めあたりです.このあたりにたまった熱が通常のマントル対流や熱伝導では解 消しきれなくなると,この部分の物質が熱膨張による十分に大きな浮力を得て上昇を 開始します.これがプルームの誕生です.

プルーム成長についての室内実験や数値実験の結果から,プルームはマントル内部を 上昇していくにつてれ,大きな頭とそれに続く細い軸からなる形になってゆくと考え られています.よくマッシュルーム状などと形容されますが,キノコを縦割りにした ときの大きなカサの部分と細い軸の部分を想像してみてください. このカサ部分が地球表層に到達すると,例えばデカン高原などに見られるような大規 模な火成活動が引き起こされますが,この継続時間はせいぜい数百万年と考えられて います.それ以降の弱いながらも継続的な火成活動は,プルームの細い軸の部分が地 球表層に到達することによってもたらされたものと考えられています.例えば,イン ド洋のマスカレン海台からレユニオン島に続く火山列の形成がこれにあたります.

現在知られている幾つかのホットスポットにおいて,活動の開始点に溶岩台地などの 大規模な火成活動の痕跡の存在が確認されています.代表的なものとしては,北海沿 岸とグリーンランドに広がる火成活動域は現在のアイスランドホットスポットが活動 を開始した時に作られたものですし,南米のパラナ洪水玄武岩台地は南大西洋のトリ スタン・ダ・クーニャホットスポットの活動開始点です.ただし,ホットスポットの 過去の活動痕跡を遡ることは容易なことではありません.プレートの運動方向や速度 についての情報や火成活動の年代がわからなければならないからです.したがって, 現在知られているすべてのホットスポットについて,活動開始の時期や場所が特定で きているわけではありません.

ホットスポットの寿命(=プルームの寿命)が何で決まるかついては,まだ明解な答 えは得られていません.一億年を越えて活動を続けているプルームもあれば(例えば インド洋のケルゲレンホットスポットや南大西洋のトリスタン・ダ・クーニャホット スポット),一千万年以下で活動を終えてしまったもの(例えばシベリアントラップ )もあります.レユニオンホットスポットは活動開始から6500万年になります.プル ームの発生源の位置,そこからの熱や物質の供給に関する差が,このような寿命の違 いになってあらわれているものと思われます.このことをはっきりさせるためには, 様々なホットスポットについて比較研究を行い,プルームの発生源の違いをより詳し く調べてゆく必要があります. (09/03/02)

安田 敦(東京大学・地震研究所・地球ダイナミクス)