ハワイから西に続く海山列はおよそ7000万年前までさかのぼれます.それより古い部
分はアリューシャン海溝に沈んでしまっているため,ハワイホットスポットは少なく
とも7千万年間は活動しているとしかお答えできません.
海嶺での涌き出しと海溝での沈み込みといったプレート運動のような対流によっては
放出しきれない地球内部のエネルギーを逃がすしくみの一つが,プルームと呼ばれる
円柱状の上昇流です.このプルームが地表の火成活動を引き起こしているところをホ
ットスポットと呼びます.
プルームがどこから来るのかは,現在でも活発な論争になっている問題ですが,マン
トル深部の熱境界層に由来するという考えが一般的です.具体的には,深さ660kmあ
たりの上部マントルと下部マントルの境めや,深さ2900kmあたりの下部マントルと外
核の境めあたりです.このあたりにたまった熱が通常のマントル対流や熱伝導では解
消しきれなくなると,この部分の物質が熱膨張による十分に大きな浮力を得て上昇を
開始します.これがプルームの誕生です.
プルーム成長についての室内実験や数値実験の結果から,プルームはマントル内部を
上昇していくにつてれ,大きな頭とそれに続く細い軸からなる形になってゆくと考え
られています.よくマッシュルーム状などと形容されますが,キノコを縦割りにした
ときの大きなカサの部分と細い軸の部分を想像してみてください.
このカサ部分が地球表層に到達すると,例えばデカン高原などに見られるような大規
模な火成活動が引き起こされますが,この継続時間はせいぜい数百万年と考えられて
います.それ以降の弱いながらも継続的な火成活動は,プルームの細い軸の部分が地
球表層に到達することによってもたらされたものと考えられています.例えば,イン
ド洋のマスカレン海台からレユニオン島に続く火山列の形成がこれにあたります.
現在知られている幾つかのホットスポットにおいて,活動の開始点に溶岩台地などの
大規模な火成活動の痕跡の存在が確認されています.代表的なものとしては,北海沿
岸とグリーンランドに広がる火成活動域は現在のアイスランドホットスポットが活動
を開始した時に作られたものですし,南米のパラナ洪水玄武岩台地は南大西洋のトリ
スタン・ダ・クーニャホットスポットの活動開始点です.ただし,ホットスポットの
過去の活動痕跡を遡ることは容易なことではありません.プレートの運動方向や速度
についての情報や火成活動の年代がわからなければならないからです.したがって,
現在知られているすべてのホットスポットについて,活動開始の時期や場所が特定で
きているわけではありません.
ホットスポットの寿命(=プルームの寿命)が何で決まるかついては,まだ明解な答
えは得られていません.一億年を越えて活動を続けているプルームもあれば(例えば
インド洋のケルゲレンホットスポットや南大西洋のトリスタン・ダ・クーニャホット
スポット),一千万年以下で活動を終えてしまったもの(例えばシベリアントラップ
)もあります.レユニオンホットスポットは活動開始から6500万年になります.プル
ームの発生源の位置,そこからの熱や物質の供給に関する差が,このような寿命の違
いになってあらわれているものと思われます.このことをはっきりさせるためには,
様々なホットスポットについて比較研究を行い,プルームの発生源の違いをより詳し
く調べてゆく必要があります.
(09/03/02)
安田 敦(東京大学・地震研究所・地球ダイナミクス)
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