火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

噴火現象と噴出物・岩石・鉱物

マグマ水蒸気爆発・水蒸気爆発


Question #98
Q 岩手山の活動についての質問です.仮に溶岩を噴出するような噴火が 西岩手カルデラ内で起こったとしたらカルデラ内の沼もしくは帯水層 との接触でマグマ水蒸気爆発が起きるでしょうか?それとも先に水が 枯れてしまって穏やかな溶岩噴出になるのでしょうか?沼はそんなに 深くないと聞きましたがどうなんでしょうか. (7/1/98)

センダ ヨシミチ:学生:21

A
 地下から上昇してくるマグマの温度は、化学組成などによって変わります が、およそ1000℃前後と考えられます。この高温の物体が地表面に到達する と、溶岩流が流れ出したりするわけです。
 しかし、地表に達する以前に地下水や湖水などと接触した場合、水は高温の マグマによって熱せられて、1000倍の体積の水蒸気に相変化し、その際に爆発 が発生することがあります。これがマグマ水蒸気爆発と呼ばれる噴火様式で す。ただし、マグマと水の割合によって爆発力はおおきく変化します。マグマ の割合が高く水が少ない場合や、マグマが少なく水が多い場合はそれ程ではあ りません。中間のちょうどよい割合で、しかも水蒸気が封じ込められると、よ り大きな爆発が発生します。
 西岩手カルデラ内には、御苗代湖や御釜湖の湖や大地獄谷などの噴気地帯が あり、地下水も豊富であると考えられます。高温のマグマが上昇してきた場合 には、水と接触しマグマ水蒸気爆発が発生することは多いにありうることだと 思います。マグマの関与は不明ですが、大正8年には大地獄谷に直径10mの火口 が生じ、周囲に礫が飛散したという記録もあります。
 御質問の、「マグマの熱によって水が蒸発し、枯れてしまってから穏やかな 溶岩噴出になる可能性」ですが、マグマの温度が低く少量で、上昇速度がきわ めて遅い場合には、確かにあるかもしれません。しかしながら、岩手山の場 合、これまでの地質調査結果からみると、地下から上昇してくるマグマの温度 は、それ程までには低くはないのではないかと想像します。
 なお、この西岩手カルデラの状況は「空撮岩手山のページ」にあるいくつか の写真をごらんになるのがいいかと思います。URLは、 http://www.geo.chs.nihon-u.ac.jp/tchiba/1wate/Iwate.html です。 (7/7/98)

千葉達朗(アジア航測(株)防災部)


Question #446
Q はじめまして、素人ながら地学関係の勉強をしています。
有珠山噴火のニュースで専門家の方が解説していたのですが、その中で「水蒸気爆発」と
「マグマ水蒸気爆発」という用語が出てきました。
水蒸気爆発は普賢岳の噴火の時マスコミがあちこちで解説していたので理解しているつもりですが、マグマ水蒸気爆発は今まで聞いたことがないので、どういったものかわかりません。
水蒸気爆発と何が違うのかもし宜しければご回答いただけたらと思います。

(04/03/00)

のこのこ:派遣社員:23

A 有珠の噴火で「マグマ水蒸気爆発」もすっかり有名になりましたね.火山の火口から 火山灰などが爆発的に噴出される「火山爆発」には,大別すると次の3つの種類のも のがあります.その前に,火山爆発の主要なエネルギー源となっているのは,気体状 態の水蒸気が体積を猛烈に増加させるということです.その水蒸気の出所で分けると, 第一は,マグマそのものの中に溶け込んでいた水成分が気体状態の水蒸気になるマグ マ噴火(爆発)です.有珠でも心配されていたプリニー式噴火はその一例です.そし て第二が,地下水や湖海水など,マグマの外にあった水がマグマに熱せられて水蒸気 になる噴火で,これが水蒸気爆発です.第三が問題のマグマ水蒸気爆発でして,水は 水蒸気爆発の場合と同じくマグマの外にあったものですが,それがマグマと直接触れ ることにより,マグマ本体も同時に細かく砕かれて,水蒸気といっしょに出てくるも のです.高温の天ぷら油に落とした水滴が瞬間的に蒸発して油(マグマに相当)と水 蒸気が一緒に飛び出してくる現象に似ています.水蒸気爆発とは,マグマの破片も一 緒に出てくるところが異なります.また,爆発の強さもマグマ水蒸気爆発の方がはる かにまさっています. (4/11/00)

三宅康幸(信州大学理学部地質科学)


Question #668
Q 水蒸気爆発ではマグマは噴出しないで、その周りの岩体の物質が噴出するそうですが、マグマ水蒸気爆発でもマグマがふんしゅつしないことはあるのですか?

(06/15/00)

ねこすけ:大学生:20

A
 ねこすけさんの質問は大事なポイントなのです.水蒸気爆発とマグマ水蒸気爆発の 違いは,#446の質問で答えたとおりですが,実際に眼前でおこっている爆発が, どちらであるのかを決めるためには,噴出してきた火山灰や噴石などのなかに,マグ マ由来の物質が含まれているかどうかで判断します.ですから,有珠山の場合でも, #530の質問への回答にあるような努力がはらわれているわけです.で,地下のマ グマが水に触れて,マグマ水蒸気爆発が起こっているにもかかわらず,マグマ由来の 物質は噴出してこない,ということが起こりうるかというご質問ですね.
 うーん,意地悪い質問ですが,マグマ水蒸気爆発であれば,丹念に良く探せば,マ グマ由来物質は見つかるはずだと,多くの火山学者は考えています.なぜならば,こ の爆発の場合には,マグマの外の水にたくさんの熱を急速に与えて,水の沸点よりも はるかに高い温度にまで熱しているのです.そのためには,マグマから水への熱の移 動が急速に起こる必要があり,そのためには,マグマと水の接触面積が大きくなくて はならなくて,従って,マグマは非常に細かく粉砕されます.ですから,そのマグマ の細かい粒は,外に噴出してきているはずだと考えられます.ただし,有珠などの場 合に,どれがマグマ由来のものかを見極めるのはたいへん難しい問題です. (6/16/00)

三宅康幸(信州大学・理学部・地質科学教室)


Question #530
Q 最近はテレビにあまり有珠山の噴火についての話題も少なくなってきましたが
有珠山の噴火はもう終わったのでしょうか。
今回の噴火は新しいマグマが関係していると聞いたんですが
それはどうやってわかったのですか?

(05/01/00)

北高に合格しました:高校生:15

A
 有珠山では,現在も,噴煙を活発に上げる活動がまだ続いています.報道される頻 度が減ったのは火山活動がおさまったからではありません.ニュース(特にスクープ )として流したいほどの大きな変化が見られていないためです.火山活動が長期化す ると報道される頻度が減るということは4年以上続いた雲仙普賢岳の噴火でもあった ことです.
 噴火でしばしば起こる水蒸気爆発では,マグマが直接地表には噴出せず,水蒸気と 一緒に火口付近の古い堆積物が粉々になって吹き飛ばされると考えられています.今 度の有珠山の噴火では,初期(3月31日)の噴出物に新しいマグマが含まれているこ とが分かりました.これは,噴火直後に降ってきた灰や湖岸に流れ着いた漂流物の中 に泡の空いた軽石が含まれていたためです.軽石はいってみればマグマのしぶきのよ うなものです.当初,火口のそばにあった古い軽石が水蒸気爆発で吹き飛ばされたの ではないか,との疑いもありましたが,詳しく調べた結果,全く新しい物質であるこ とが分かりました.3月31日の噴火では,勢いのあるモクモクの火山灰噴煙が高さ 3.5kmまで上昇しました.これは新しいマグマが混ざっていて温度が高かったためで あるというわけです.その後1ヶ月間の活動では,マグマのしぶきがほとんど入って いないようです.今回のマグマに関する詳細は,いくつかのホームページで公開され ていますので参考にして下さい.例えば,工業技術院地質調査所に以下があります. http://www.gsj.go.jp/~tomiya/magma2000.html, http://www.gsj.go.jp/~imiyagi/Works/Event/Usu2000/petrol/0331/sum/ (5/1/00)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #1063
Q 先ほど質問いたしました「ふくろう」です。わかりづらかったように思いますので、もう一度質問します。
質問:火山灰とは、上昇してきたマグマの破砕(ガス成分が発泡c張することによる破砕)によって吹き飛ばされたマグマの小さな(2mm以下の)かけらが空気中で冷やされて固まった粒子であると考えて良いのでしょうか。マグマ由来ではなく、すでに火口にたまっていた火山灰も同時に吹き飛ばされたり、火口付近の山体の一部が破壊され粉々になって火山灰となる(?)こともあるのでしょうか。また、降下してきた火山灰がマグマ由来か、すでに火口にたまっていた火山灰が吹き飛ばされたものかはわかるのでしょうか。
それから、火山灰の各粒子は、どんな物質であるのか。
お願いします。 (09/27/00)

ふくろう:教諭:33

A
 「ふくろう」さんの質問はかなり専門的ですが、大変重要なことで、有珠山や三宅 島噴火でも地質学研究者がマグマの関与を調べるためにしばしば検討していることで す。
 水蒸気爆発の場合にはマグマ由来の物質が含まれず、火口の下の既存の岩石が粉々 に破壊されて細かい火山灰が生産されます。岩石の破片が地上までの狭い通路を水蒸 気と一緒に勢いよく通過し、火口の中を行ったり来たりしている間に、岩石どおしが ぶつかり合って大変細かくなってしまうのです。一方、マグマ噴火の場合にはマグマ が爆発自身によって粉々になったり、同様に、マグマの破片どうしがぶつかってやは り粉々になります。この場合は一般に粗い粒子からなります。その中間的な噴火であ るマグマ水蒸気爆発の場合には、火山灰粒子を見てすぐにどれが噴火を起こしたマグ マの粒子かを言い当てることは簡単ではありません。
 古い岩石の破片であれば一般にやや変質の進んだ岩石(火山岩、深成岩、堆積岩) です。新鮮で気泡の入ったガラス質の破片があればマグマと疑ってみることができま す。ガラスは液体マグマが急激に冷やされたものです。でも、古い堆積物にもそのよ うな物が残っていることがありますので注意が必要です。新鮮な発泡したガラス質粒 子が時間とともに次第に多くなったり大きくなれば恐らく本当のマグマでしょう。粒 子一粒ごとのできた年齢を正確に測定できれば確実に判断できますが、残念ながら、 今のところそのような手法はまだ確立されていません。 (9/29/00)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #3734
Q 2000年噴火前の三宅島のハザードマップを見た事がありますが海岸線で水蒸気爆発を起こしやすい地域と比較的起こしにくい地域にわけられていました。前者は阿古から坪田にかけてで実際20年前にも起こしています。起こしにくいとされていた島の反対側では昭和15年、37年とも海底噴火を起こしてますがいずれも水蒸気爆発は伴っていなかったと思われます。地下水系の違いとかでこの差が生まれるのでしょうか。よろしくお願いします。 (12/31/02)

アマンタジン:医師:27

A
 三宅島の二酸化硫黄などの火山ガスは,減ってきたとはいえ依然高いレベル にあ り,まだ安心して帰島できる状況になく,島民の皆さんは,引き続き辛 い思いを続け られていることと思います.


 アマンタジンさんの御質問はマグマ−水蒸気爆発についてですが,まず,三 宅村が 平成6年に発行した三宅島火山防災マップに示された”マグマ−水蒸気 爆発が発生す る可能性が高い地域”を確認しましょう.このように表示され た地域は,火口が生じ る可能性が高い地域(図上では1962年,1940年, 1874年の噴火割れ目がのびた島の北 東地域と1983年,1763年,1712年の噴火 割れ目がのびた阿古,薄木,粟辺など南西地 域)と火口が生じる可能性がや や高い地域(図上では1595年,1535年の噴火割れ目が のびた坪田や三池など 南東〜東地域)のうち,海岸沿いの標高がおよそ200m以下の地 域が相当しま す.
 この図の作成者の意図は,(割れ目)火口が開口してマグマが上昇してくる 可能性 が高く,かつ,地下水や海水など豊富な水と接触できる範囲を”マグ マ−水蒸気爆発 が発生する可能性が高い地域”として示したものだと理解で きます.標高200m以下と した理由は三宅島の過去のマグマ−水蒸気爆発によ ってできた爆裂火口の地形が存在 することや地下水の存在の状態から地下に 豊富な水があると判断したと考えられま す.また浅い海底(水深100m以浅) でもマグマ-水蒸気爆発は起こりますから,海側 へも範囲は拡げて示してあり ます.
 それでは,マグマが水と接触すれば必ず爆発的なマグマ−水蒸気爆発が起こ るか? というと実はそうではないのです.接触する水とマグマの比率は任意 の割合いを考え ることができますが,その比率がある範囲にある場合に特に 爆発的になるのです.水 /マグマの重量比がが0.3〜1くらいのとき最も爆発の 効率がよいという研究もありま す.ですから.同じ場所で噴火が起こって も,マグマ自身の噴出率によって水とマグ マの接触の割合が変わり,爆発の 規模も異なる,というのがふつうです.一回の噴火 の中でも時間の経過(マ グマの噴出率の変化)とともにマグマ噴火からマグマ−水蒸 気噴火になった り,その逆が起こることも珍しくありません.1940年,1962年には幸 いにも 水とマグマの比率が規模の大きなマグマ−水蒸気爆発につながらないものだっ たのでしょう.しかし,この2回の噴火の溶岩で埋め立てられた赤場暁湾自体 は過去 にマグマ−水蒸気爆発で開いた火口の跡だったらしいのです.
 なお,工学の分野では火山のマグマ−水蒸気爆発に類似した現象として,高 温の溶 融体が低温の溶融体と接触して爆発的に蒸気が発生する”蒸気爆発” が知られていま す.一例として,原子力発電所の炉心溶融事故に伴っておこ りうる現象でもあり,最 悪の場合,圧力容器の破壊に至る可能性もあるとさ れ,実験を含め詳しく研究されて います.
 (01/06/03)

津久井雅志(千葉大学・理学部・地球科学科) --