火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

現在,諸般の事情により質問の受付を停止しております. 再開に向け準備を進めておりますので,いましばらくお待ちください.
トピック項目表示

QA番号順表示

小中学生から多い質問

指定のQ&A番号へ飛ぶ
(半角数字で入力)

「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


VSJ HOME


Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

噴火現象と噴出物・岩石・鉱物

岩屑流・岩屑なだれ


Question #1844
Q 岩屑流・火砕流のような火山性の破壊と「山崩れ」のような非火山性の破壊は、なぜ
火山性のものの方が非火山性に比べ、遠くまで移動する傾向があるのでしょうか? (08/24/01)

ザッキ〜:大学院生:23

A 岩屑なだれ(岩屑流)の場合は,同じ規模では火山性の岩屑なだれと非火山性の岩屑 なだれを比較すると火山性の方が遠くまで流れる(流動性が高い)傾向があります. また規模が大きいほどより遠くまで流れます.おそらく火山性の物質の方がより細粒 の物質を含んでいるため,流れ全体を維持するための境界層の流動性が高くなるため ではないでしょうか? 岩屑なだれの流動機構に関しては多くのモデルが提唱されて おり,まださまざまな議論が続いています.
 (10/15/2001)

宝田晋治(産業技術総合研究所・北海道地質調査連携研究体)


Question #2218
Q 磐梯山の岩屑なだれ堆積物や地形を見る機会があり、火山のエネルギーにびっくりした次第です。ところで、このような岩屑なだれはいろんな火山で起きた現象と思いますが、磐梯山に近い吾妻連峰でも大規模な岩屑なだれは知られているのでしょうか。吾妻連峰の大まかな形成史と岩屑なだれ堆積物の概要が判りましたら教えてください。 (05/07/02)

初老のやまひめ:会社員:50

A 初老のやまひめ様
 岩屑なだれ,という用語を知っておられるということは,かなり火山の地質や噴火 現象に詳しい方だと思います.すでにご存じでしょうが,岩屑なだれは,火山噴火が 直接,間接的な引き金となって,すでに存在する火山体を大規模に崩壊させ,バラバ ラになった山体構成物,つまり,溶岩や火砕岩の破片が,なだれをうって流れ下る現 象を指します.このような現象は,歴史上の噴火でもしばしばみられます.1792年, 雲仙火山の眉山の崩壊によるものは,島原大変,肥後迷惑と呼ばれる,大津波を引き 起こしました.また,1980年アメリカ合衆国のセントへレンズ火山で起こったものは ,当時,全世界の人たちの目を釘付けにしました.初老のやまひめさんもご記憶のこ とと思います.
 さて,吾妻連峰についてですが,火山体としてみますと,東吾妻火山,中吾妻火山 ,西吾妻火山の3火山が東西に配列したものと見ることができます.茨城大学の火山 研究グループ(鴨志田;1991手記,野口;1995手記,齋藤;2002手記)でも10年近く 地質や岩石を調べていますが,今のところ明らかになっている形成史は次のようなも のです.今後,正確な年代測定値がでると,もっと説得力のある「改訂版」が出せる と思います.
 約150万年前頃,東吾妻火山の東部に初期の山体が形成されていました.東吾妻火 山北東部の形成は60万年前頃まで続きました.一方で,60万年前頃,中吾妻火山では 継森および箕輪周辺の山体,西吾妻では西吾妻,中大巓,籐十郎の山体が形成されま した.50-40万年前頃には東吾妻火山では,今のつばくろ谷から高湯温泉あたりの地 形を作っている溶岩流や,東吾妻山ができました.この時期,西吾妻火山では西大巓 の下部が形成されています.ついで約35万年前頃,東吾妻火山では高山周辺の山体が でき,中吾妻火山では東大巓や中吾妻山が形成され,西吾妻火山では西大巓の山頂が できました.この頃に中吾妻,西吾妻両火山は活動をほぼ終息しました.30万年前頃 ,東吾妻火山の一切経山が形成されました.その後,28-8万年前の間のいつかに今の 浄土平を中心に,東側に開口する大規模な山体崩壊が起こり,岩屑なだれが,今のあ づま競技場などがある東麓に下りました.そして,8万年前頃から浄土平周辺を噴出 口として,溶岩や火砕物の噴出が起こり,約5千年前には吾妻小富士や桶沼ができま した.
 上で述べましたように,岩屑なだれは東吾妻火山の大崩壊で東麓に堆積物を残しま した.しかし,その後の堆積物によってほとんどが埋積されてしまい,直接露頭で観 察できるところはほとんどありません.10年ほど前,東麓の竹の森産廃場建設時に地 表面下10数メートルの所にこの岩屑なだれによると思われる堆積物を見つけました.
 (05/08/02)

藤縄明彦(茨城大学・理学部・地球生命環境科学科) --