(1)岩石の破壊はマグマにとって至って簡単です.たとえば,地面を見ても道路で
も壁でも割れ目は沢山あります.問題は,マグマは割れ目を作りながらどの方向に移
動するかです.中央火口の下は,マグマが上昇する確率が高い場所です.そのまま上
に移動すれば中央火口からの噴火,横に移動すれば山腹噴火になるのです.一般に,
マグマの移動の原動力は,浮力と応力勾配です.
中央火口ではより爆発的な噴火(プリニー式噴火など)が起こり,山腹ではより穏
やかな噴火が起こる場合があります.これを,浮力の効果で説明します.マグマが十
分発泡するか,さらには,マグマ自体が粉砕し軽石状になると,マグマは軽くなり,
中心火道を上昇して中央火口から噴火します.しかし,マグマの発泡度が低ければ,
または,マグマ中に十分な揮発性成分が無ければ,マグマは中心火道内を上に移動で
きずに,山体内を横に移動して山腹噴火をします.火山ガスや水蒸気など軽い気体
は,中心火道中を上に容易に移動します.しかし,重いマグマは,発泡がうまく進行
し軽くならないと,上昇できません.ビニール袋(火道周辺の地殻)に水(マグマ)
を満たす場合,亀裂があれば水は漏れて水位(火道中のマグマの高さ)は上昇しませ
ん.
次に,中央火口と山腹で同じようなタイプの噴火を起こすことがよくあります.こ
の場合は,応力勾配の効果で説明します.応力勾配は,浮力が小さくなる浅所で有効
に働きます.これにより,マグマは,より圧縮力を受けている場所からより引張力を
うけている場所に移動します.さて,火山体は,発泡した熔岩とスコリア(黒い軽
石)からなり,マグマに比べて重くはないのです.このとき,玄武岩質マグマは中央
火口に至る前に浮力を失い,山体を押し広げて板状に横方向に貫入し(これを岩脈と
いう),山腹で噴火を起こします.例えば,幅1mの岩脈は,周囲の山体を1m押し
広げているのです.山腹噴火の繰り返しによる多くの岩脈貫入で,山体がより圧縮的
となり,マグマは,山体を押し広げられなくなります.そのとき,マグマは,浮力を
十分獲得できなくても中央火道中を上昇して,中央火口で噴火します.ビニール袋
(火道周辺の地殻)に水(マグマ)を満たす場合,亀裂を手でつまんで(周辺の地殻
をより圧縮的にする)ふさげば,水位(火道中のマグマの高さ)は上昇します.
(2)山腹噴火をもたらした岩脈は,一般には中心火道周辺からマグマが横に移動し
て形成されたものなので,連続的なマグマの供給が止まると,中央火道から遮断され
ます.その結果,割れ目に充填されたマグマも短時間で固結してしまいます.
中央火口の下は,マグマの上昇する確率が高い場所で,長い時間かけて多くの噴火
により形成されたマグマの通り道,中心火道があります.爆発的噴火は中心火道形成
により効果的です.ここは,噴火していないときでも,深所のマグマから分離してき
た火山ガスやより浅所の地下水起源の水蒸気などの軽い気体の放出路として生き残り
ます.中心火道周辺は,複数の噴火を経験し力学的に破砕されているだけでなく,熱
水変質もうけているので,軽い気体は上昇しやすいのです.
(8/07/01)
高田 亮(産業技術総合研究所地質調査総合センター)
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