火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

噴火現象と噴出物・岩石・鉱物

空振・衝撃波


Question #37
Q 空震によって建物の窓が割れることがあるということを火山に関する書籍で読みましたが、実際にはどの程度の破壊力があるのでしょうか。 (9/2/97)

野元洋一:会社員:29歳

A
 桜島や浅間山などのように火山活動が爆発的な場合、火口から衝撃波が発生 し、周囲の空気中を伝わって行きます。火口から離れるに従い衝撃波は減衰 し、音波に変化します。火山学では、これら空気中を伝わる圧力波のことを空 振(空気振動)とよんでいます。伝わる過程において周囲にある家屋の窓ガラ スなどを破壊することがあります。圧力波の有する破壊力は、通常、波の衝撃 圧によって評価されます。各地点における波の衝撃圧は、爆発エネルギー量と 火口からの距離によって大ざっぱには定まります。火山の場合、どれくらいの 圧力条件下で窓ガラスが破損するかの正確な調査はありませんが、人工爆発に よる実験結果を参考にすると、0.01気圧位の過剰な圧力が加わると窓ガラスは 破損するものと考えられます。しかし実際には、ガラスのサイズ、歪みぐわ い、受圧方向なども破損か否かを左右しており、あまり簡単な問題ではないよ うです。もちろん、同一地点であっても爆発エネルギー量がもっと大きい場合 、あるいは同一エネルギー量であってももっと火口に近い場合、衝撃圧はもっ と大きくなり、十分に家屋そのものや樹木を根こそぎにしたりするようになり ます。(9/2/97)

谷口宏充(東北大学・東北アジア研究センター)


Question #38
Q 空震について再び質問なんですが、回答していただいた文章の中に各地点での衝撃圧は爆発エネルギーと火口からの距離によって大ざっぱに定まるとされているのですが、実際にはどのような関係があるのか具体的に教えていただけないでしょうか。 (9/3/97)

野元洋一:会社員:29

A
 爆発エネルギー量:Q(kgTNT)、火口からの実距離:R(m)、火口からのス ケール化距離:λ(m/kgTNT**1/3)とすると、cube-rootscaling則により、
  λ≒R/Q**1/3 が成立します。
 スケール化距離と衝撃圧(ΔP、bar)との間にはTNT爆発実験にもとづき、例え ば次のような実験式が与えられています。
  ΔP=6.91×λ**-1.69 ...  (ただし、ΔP≒0.2〜0.7、λ≒4〜8の間で成立する) (9/3/97)

谷口宏充(東北大・東北アジア研究センター)


Question #152
Q 空震とは、どのようなものを言うのでしょうか。震度計と空震計は、どうちがうのでしょうか。また空震と噴火の関係(火山性微動と火山性地震の関係も)を教えてください。 (10/27/98)

Taka:公務員:33

A
 空震(空振)とは,火山の爆発や火砕流の発生により火口周辺の空気が 動かされ,その振動が遠くまで伝わる現象です.噴火の衝撃で窓ガラスが 震えたりするのも,この空振が発生するからです.空振計のセンサーは基 本的にはマイクロフォンです.風が強いとその振動が記録されます.


 一方,震度は,地震によって地面が揺れる強さを階級で示したもので す.この階級(震度2とか震度3とか)は,かつては気象台職員などが各 自の体感で決めていました.が,最近では,地面が揺れる際の加速度を計 測し,それを基に客観的に震度を決める計器が用いられるようになりまし た.これが震度計です.加速度や地面の変位そのものを測るのは,地震計 と呼ばれています.


 まとめると,空気の振動を測るのが空振計,地面の振動を測るのが地震 計,地震計のデータをもとに震度を決めるのが震度計,ということになり ます.それぞれの機械は,名前は似ていますが,測ろうとする振動現象の 種類や設置する目的が異なっているんです.設置する場所なども,当然な がら違ってきます.


 さて,空振に戻ります.火山の噴火は,地下の物質を空気中に放出する 現象ですから,結果として周囲の空気を乱すことになります.爆発的な噴 火が起きれば,衝撃的な空気振動が生じます(ボンという音を想像してく ださい).一般的には,爆発が大きければ空振も大きくなります.です が,噴火現象は単純ではないので,厳密な比例関係は成り立ちませんが. また,噴煙柱が立ち登るような噴火では,空振は衝撃的なものではなく, 連続的な振動になります(ゴーという音を想像してください).


 火山性地震,火山性微動は,いずれも火山の活動に関連した地面の振動 です.これまでの話に関連させると,空振計ではなく地震計で記録される 振動ということになります.地震と微動の区別は,主に振動の継続時間に よってなされることになります.火山性地震は単発的な振動で,地下でな んらかの破壊現象が起きて発生すると考えられています.一方火山性微動 は,振動が数十秒から数分,時には何時間も継続する現象で,地下のマグ マやガス,熱水といった流体の移動が原因ではないかと考えられていま す.


 以上,似たような単語が並んでわかりにくいかもしれませんが,ご理解 いただけましたでしょうか.ご不明な点があれば,またご質問ください. また今後は,できれば質問だけでなく,その背景(どうして知りたくなっ たのか)を少しでも書いていただけると嬉しいです.こちらもお答えしや すいし,応答ももっと楽しくなると思います. (10/28/98)

西村裕一(北海道大学・理・有珠火山観測所)


Question #370
Q はじめて質問します。よろしくお願いします。
火山噴出物についてなのですが、火山からどれくらい離れた位置では、どれくらいの大きさの噴出物が、どれくらいの速度で被弾する。といった想定データというのは何かありますか。(もちろんケースバイケースなのでしょうが、、、、、、)
私は建築設計をしており、浅間山の南東約10キロの位置(中軽井沢付近)に病院の計画をしております。病院という建物の性格上、ある程度の噴火時にも機能を確保しなければならないため、ガラス窓等に被弾対策を施さなければならないと考えています。
とはいうものの、どれくらいのものが飛んでくるのか想定しないと対策もできないので、何かヒントがあればお知らせ下さい。
「ここに聞きなさい」とか「これを読みなさい」といったお答えでもかまいません。
よろしくお願いします。

(01/04/00)

漆間 一浩:建築設計:31

A
 実際のデータに基づいて主に噴石の大きさや種類についてお答えします.1900〜60 年頃の浅間山は頻繁に爆発を繰り返しましたが,1935年4月20日の爆発の調査では, 火口から3km以内で50cm-1m以上の岩塊(見かけの密度が最大2500kg/m3程度の緻密な 安山岩)が多数発見されました.これらの17個について落下地点,落下角,射出角な どに基づいた落下速度が133-198m/s (空気抵抗を考慮した場合) と見積もられていま す.しかし火山灰が降下した東南東側では,火口から15-20kmの距離にも10cm程度の 岩塊が発見されました.径が小さい噴石は空気抵抗や風の影響を受けるので挙動の詳 細を決めるには難しい点が多くあります.1973年の爆発では,火口の東南東方向で 降ってきた石の最大直径が,峯の茶屋 (火口距離4.4km) から塩壷付近(7.5km)の範 囲で20cm,横川3cm (20km),安中1cm (35km)でした.この時は,軽井沢町で噴石の落 下によりフロントガラスが割れた車が5台あった他,屋根・壁の破損,電話線・電灯 線の断線が起きました.噴石の温度が高い場合には,山火事や家屋の火災(1920年代 には東北東6kmの分去茶屋が焼失)なども起きます(以上,水上, 1940; 村井, 1974 等による).
 一方,天明3年クラスの噴火の場合はさらに大きな被害が予想されますが,1900年 代の活動とは事情が少し異なります.それは過去の大噴火の地層を調べると発泡のよ い軽石(見かけの密度が500-1200kg/m3程度)の層が出てくるので,次の噴火でも軽 石が降ってくる可能性が高いためです.現在,塩壷温泉付近(南東7.5km)では軽石 の最大直径が約6cmの天明3年の軽石層 (厚さ12cm) が認められます.天明の時は噴煙 が上空の風で東南東方向へ強く流されたので塩壷付近より北方で大量の軽石が降りま したが(現在,万山望付近で厚さ1.7m以上),古文書によると少量の軽石や石が中軽 井沢にも降ったようです.中軽井沢駅の北方800m付近では平安時代や5世紀の軽石層 が見つかるので,天明以前の噴火でも同じように軽石が降ったことがわかります.こ のような軽石層には平均的な軽石より桁外れに大きい軽石が時々入っています.天明 の場合は,南東4kmの大窪沢付近で60cm位,東南東13kmの熊野神社付近でも10cm位の 大きい軽石が見つかります.噴火当時の軽井沢宿での焼石による焼失家屋は約50軒と みられています.軽石は衝突の衝撃でそれ自体が割れやすいこともあり,衝突による 破壊力は大きくないと思われますが,大きい軽石は火災の原因になる可能性がありま す. (1/6/00)

安井真也(日本大学・文理学部・地球システム科学科)


 火口から10 km も離れている中軽井沢では,落下角はほとんど垂直に近いと推定さ れます(風が強ければその分だけ斜めに落下しますが).したがって窓ガラスは余り 問題ではなく,屋根の強度が問題になります.通常の強度で充分であるとは思います が.屋根の強度の問題は,降下火砕物物の量に直接関係し,有珠火山1977 年噴火の 例では,わずか40cm 軽石が堆積しただけで,ラーメン構造の陸屋根が変形しまし た.しかし屋根が破壊する前に人々は避難すると思います.
 一方,衝撃波(空振)による窓ガラスの破壊がかなりの被害を与える可能性があり ます(国土庁,1992参照).中軽井沢ではかなりの被害実績がありますが,私の個人 的データ(未発表)によると,破損は複雑な要素によって決定されるようです.コン クリートに直接固定されたガラスが最も破損しやすいようです.鬼押し出し園駐車場 における被害実績が参考になります.
 天明クラスでも空振が重要だと思います.建物が振動して,重しの石が屋根から落 ちるという古文書の記述が多く,これは空振によるものと思われます.
  国土庁;火山噴火災害危険区域予測図作成指針,1992 (1/6/00)

荒牧重雄(日本大学・文理学部・地球システム科学科)