噴火現象と噴出物・岩石・鉱物
火山ガス・噴気・二酸化硫黄・二酸化炭素(炭酸ガス)・硫化水素 |
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Question #74
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Q |
初めて質問させていただきます。場違いな質問かもしれませんが、お許し下さい。
私の住む熊本の阿蘇山は観光地として大変親しまれているのですが、火山ガス(主に亜硫酸ガス)による事故死が数年に一人とわずかではありますが、
絶えません。昨年も2件の事故死が起きたことから、火口周辺への立ち入り規制が厳しくなりました。
そこで他県ではどういった火山周辺への立ち入り規制がされているのか、調べたいのですが教えて頂けないでしょうか。
また、参考になる書籍等がありましたら推薦して下さい。
よろしくお願いします。
(5/7/98)
これ:大学院生:26
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A |
阿蘇山のガス事故の原因になった亜硫酸ガスは、喘息の人が吸うと、ごく微
量(通常人の警戒値の1/100)でも発作を引き起こす性質があります。そのた
め、阿蘇山のロープウエーの乗り場や駐車場には、「喘息の方はご遠慮くださ
い」という看板が前から出ていました。この注意が、必ずしも徹底されていな
かったために、今回の悲劇が発生したと理解しています。喘息のひとや心臓疾
患のあるひと、高齢者などの『ハイリスクパースンについては、特別な扱いを
する』という社会全体のコンセンサスがあまりなかったのが、いけなかったの
でしょう。ただ、今回のように、ハイリスク群の警戒値をすべての人に適用す
るのは、どうかとおもいます。しかし、よく考えて見れば、すべての人が安心
して訪問できることになるので、やっぱり歓迎すべきかな。
ほかの火山の例
(1)群馬県の草津白根山には、東京工業大学の観測所があります。火山ガス
地帯で、硫化水素ガス濃度の連続測定が行われており、決められた警戒値を超
えると、警報が出され避難を促すシステムができています。
(2)富山県の立山の地獄谷では、ガスの多い地帯には柵が設けられており、
危険なので外にでないようにという、看板があります。しかし、冬など風の凪
いだ時には、柵の外でも息苦しいほどです。時々事故もあるようですが、特に
連続観測や警報システムなどはまだないようです。
(3)福島県の安達太良山では、昨年硫化水素ガスで一度に4名もの登山者が
亡くなりました。かなり、登山道からはずれた場所であり、すべての危険箇所
に看板を立てたり、ロープをはったりすることは難しいようです。最近になっ
て、沼ノ平登山ルートそのものが廃止になりました。したがって、対登山者警
報用のセンサーなどはありません。
(4)伊豆大島三原山では、1986-87年の噴火以来、火口周辺への立ち入りが禁
止されてきましたが、10年目の1996年に規制が解除されました。登山道の両側
には柵やロープがあり、火口周辺を自由に歩き回れるようにはなっていませ
ん。この規制は、火山ガスだけが理由ではないとおもいます。
参考書・雑誌
宇井忠英編(1997)火山噴火と災害,東大出版会,217p.
ルポ:安達太良山の遭難から-火山ガスの警笛-
「岳人」1997年11月号(No.605),92-96.
緊急企画:火山ガスその見えない恐怖
検証:9月15日安達太良山・沼ノ平で何が起こったのか(長谷川哲)
解説:火山ガスの特性と対応策を知る(羽根田治)小坂丈予先生に取材
「山と渓谷」1997年11月号(No.748),143-147.
(5/14/98)
千葉達朗(アジア航測(株)防災部)
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Question #83
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Q |
昨年、鹿児島県の鰻温泉に行ってきました。集落というか民家の裏手からも噴気が有りびっくりしました。通常、観光地などでは噴気地帯は立ち入り制限などが有るようですが、とても心配でした。と同時に、噴気の大好きな私は、大変うらやましく思いました。住んでいるひとは大変かもしれませんが。
鰻温泉の場合は、多分先に噴気があってそこに人が住むようになったのかと思いますが、逆に、何もなかったところから噴気や火山が始まりつつあるところは、どこかに有るのでしょうか?火山に寿命があるとすれば、生まれたての火山もあるような気がします。できれば、大草原や町中で小さな噴気が始まりつつあるところを見物したいのですが、そんな場所はあるのでしょうか?
(5/26/98)
島田太平:研究員:34
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A |
噴気が好きだなんて物好きですね。噴気に巻き込まれるとガス中毒の恐れが
あるので十分に注意してください。私も火山ガスの研究を専門としているので
噴気は大好きです。
1943年に始まる昭和新山の活動はなんの変哲もない畑に地割れが生じて
噴気が現れたのが始まりだったそうです。また1990年11月には雲仙岳の
山頂から突然噴気が現れやがて噴火につながりました。このように噴火の初期
にはなにもなかったところから噴気があらわれることがあります。昭和新山や
雲仙岳の溶岩の種類はデイサイトという粘性の高い溶岩です。このような溶岩
はゆっくりと地表にあがってくるので噴火の前に噴気の出現などの現象が観察
されるのかも知れません。逆に粘性の低い伊豆大島のような溶岩の場合は亀裂
が生じて一気に上がってくるので噴気の出現が観察されるいとまがないのかも
知れません。
現在のところ残念ながら私はそのような現象がおきつつある火山は知りませ
ん。もしあったら火山学者が駆けつけていると思います。
(5/27/98)
大場 武(東工大・草津白根火山観測所)
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Question #179
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Q |
十勝岳に登った時、地面が熱かったり、くさいけむりが出ていました。どうして地面があつかったり、けむりがくさかったりしたのかを教えてください。
(1/14/99)
みきみきみっきー:小学生:10
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A |
これは火山ガスが地面から出ているからです。火山ガスは主に水蒸気からなりますが
二酸化硫黄(SO2),硫化水素(H2S),塩化水素(HCl)などのガスを含んでいます
。水蒸気が地面に出てきて,空気で冷やされて水になるとき熱を発生します。このた
めに地面が熱くなるのです。くさいにおいは二酸化硫黄(SO2),硫化水素(H2S),
塩化水素(HCl)などのガスのためです。これらのガスはとても臭いが強いのです。
またこれらのガスは有毒で体に悪いので火山に登って臭い場所に入ったらなるべくは
やくその場所を立ち去るようにして下さい。
ちなみに火山ガスはもともと地下のマグマに溶けていた成分です。火山ガスが出てい
るということは地下でマグマが活動している証拠といえます。
(1/15/99)
大場 武(東京工業大学・草津白根火山観測所)
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Question #234
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Q |
火山ガスの成分は95%以上が水蒸気とのことですが、他の硫化水素、亜硫酸ガス、二酸化炭素の濃度はどの程度なのでしょうか?
濃度は場所、時間によりかなり異なると思うのですが・・・・。よろしくお願いします。
(仕事の関係で温泉地の硫化水素の影響について調べています。)
(6/21/99)
門田 勝利:技術職:38
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A |
水蒸気以外のガスで一番多いのは二酸化炭素(CO2)です。CO2が水以外のガスの中で
50%以上を占め残りの部分にH2SやSO2等が含まれる場合が多いようです。だだしこれ
はガスがマグマから大して変化を受けずに地表に出てきた場合です。ガスのソースが
地下深いところにあると比較的反応性の乏しいCO2以外のSO2やH2Sは地殻物質との相
互作用で失われてしまい,結果としてCO2に富んだガスが形成されます。またガスの
ソースと地表の間に帯水層などが存在すると水に溶けやすいSO2が減少します。この
ようにガスの組成は複数の要因により変動するので一概に代表的な成分を示すことは
困難です。
(6/23/99)
大場 武(東京工業大学・草津白根火山観測所)
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Question #376
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Q |
年末年始に三宅島を旅行し、通称「雄山サウナ」を見てきました。冬だけあって、噴気の勢いに一段と迫力がありました。この噴気は、ほとんど水蒸気だけだそうですね。地下の、熱源と地下水の仕組みについては解明されているのでしょうか? そもそも、この「雄山サウナ」は、何時から噴気を上げているのでしょうか? 1983年の噴火の時はどうだったのでしょうか?
(01/14/00)
中西 喜一郎:会社員:39
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A |
中西さん,雄山のサウナを見られたそうですが,私も1980年以来雄山のサウナとは長
い付き合いがあります.雄山のサウナは,三宅島の山頂火口にできた噴気地帯です.
普通,火山の噴気地帯に行くと卵が腐ったような臭いがするものですが,ここでは「
サウナ」というだけあってほとんど臭いがありません.このようなほとんど臭いのな
い噴気は伊豆大島の三原山にも見られます.
なぜ臭いがないのか?実は私も不思議でした.雄山の噴気は東京工業大学の平林教授
の調査によれば,90%以上が水蒸気で,わずかに炭酸ガスが含まれているだけで,多
くの火山の噴気に含まれている亜硫酸ガスや硫化水素ガスは含まれていません.その
ため,ほとんど臭いがしないのですが,それには雄山の噴気活動を維持する熱源と構
造に秘密があったのです.雄山サウナの源は,電磁気探査の結果などから地下数100m
の深さにある熱水溜りと考えられていますが,この溜りが地下深部と切り離されて孤
立しています.つまり,地下深部のマグマから高温の火山ガスが絶えず供給されてい
るようなタイプの噴気活動ではないということです.
雄山のサウナはいつからあるか?この質問に答えるには雄山のサウナがどういう場所
にできているかを説明する必要があります.三宅島は1983年に噴火する前に1962年と
1940年に噴火しています.三宅島が1940年に噴火する以前,山頂にはほぼ東西に並ぶ
3つの火口があり,このうち最も西側の一番浅い火口を上段火口と呼んでいました.
ところが,1940年に三宅島の北東山腹で割れ目噴火が起き,続いて山頂で噴火が始ま
りました.この時の噴火で上段火口の南東側に火砕丘ができ,火口は溶岩流でほぼ埋
められてしまいました.サウナの前にたたずむと目の前に溶岩の壁が見えますが,こ
の溶岩の壁はその時の溶岩流の先端なのです.現在のサウナは埋められた上段火口の
縁に沿って円弧状に噴気地帯が伸びています.したがって,現在私達が見るようなサ
ウナの情景は1940年の噴火後にできたと言えます.しかし,1940年以前に上段火口の
中に噴気がなかったかと聞かれるとよくわかりません.おそらく噴気はあったと思い
ます.
雄山のサウナが1983年の噴火前後にどうであったかという質問ですが,実はこの噴気
地帯は大変興味深い挙動を示しています.1962年に三宅島は北東山腹で割れ目噴火を
起こしました.1940年の噴火のように山頂で噴火が起きるかと注目されましたが,噴
火は起きず,その代わり,噴火の後,旧上段火口の縁に沿って噴気活動が次第に拡大
する現象が観測されました.この拡大は1963年ころまで続き,やがて活動は縮小して
いきました.では,1983年の噴火の時はどうだったでしょうか?雄山の噴気温度は気
象庁の三宅島測候所によって1975年以降観測されていました.そのデータを解析する
と噴気温度は1983年の噴火直後の10月半ばまで1年に1℃くらいの割合でずっと低下し
つづけていることがわかりました.引き続き山頂噴火があるか?噴気地帯の拡大はあ
るか?という問題に答えるために私達地震研のグループも噴火直後から調査を行いま
した.その結果,10月半ば以降,温度は上昇に転じ,1985年頃まで噴気地帯が拡大す
る現象を捉えることができました.この現象は,雄山サウナの源である熱水溜りに一
時的にマグマの熱が供給されたために起きたものと考えられています.現在,雄山サ
ウナはその時のエネルギーを少しずつ放出し,縮小している段階なのです.三宅島は
21世紀初頭に次の噴火があると考えられています.それまでに観測体制を整え,火山
学をもっと進歩させたいと私達は考えていますし,ちゃんとした情報が島民に伝わる
システム作りに関係の方々が努力されるように希望しています.詳しく知りたい方は
,火山学会から出ている三宅島噴火特集号をご覧ください.
(1/21/00)
鍵山恒臣(東京大学・地震研究所・火山センター)
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Question #662
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Q |
小学6年生の娘が、火山のガスって何? と聞くのですが、なんと答えたらよくわかるのでしょうか。
(06/11/00)
後藤 チーママ:福祉施設職員:37歳
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A |
ちょっと汚い例えで申し訳ありませんが,火山から流れ出る溶岩は,いわば地球の
ウンチのようなものです。これに対し火山ガスは地球のオナラです。
火山ガスとは活火山から立ち昇る噴煙のことです。火山の噴煙は主に水蒸気と火山
灰の混合物です。火山ガスは正確には火山灰以外の気体の部分を指します。今年の有
珠山の噴火では,噴火の初期のころに黒いきのこ雲が出ましたが,あれは火山ガスと
火山灰が混ざったものです。最近の噴煙は白くてほとんどが火山ガスであり火山灰は
ごく僅かしか含まれていません。
火山ガスはマグマから抜け出てきた気体と,マグマの熱で地下水が沸騰して発生し
た水蒸気が混ざったものです。噴火中の火山でなくとも,例えば箱根の大湧谷のよう
に噴気がでている火山もあります。それも火山ガスです。
火山ガスは主に水蒸気からなりますが,二酸化炭素や二酸化硫黄,硫化水素などが
含まれ人体に悪影響があるので,火山ガスが出ているところへは近づかないように注
意して下さい。
(6/12/00)
大場 武(東京工業大学・火山流体研究センター)
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Question #1189
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Q |
お忙しい中恐縮ですが、ご教示頂ければ幸いです。
本土における三宅島から排出される火山ガスの危険性についてお伺いします。
先日、一部週刊誌で三宅島からの火山ガス(二酸化硫黄)が首都圏に健康被害をもたらすとの趣旨の記事が掲載されていました。
私自身、噴火以後、(気のせいかもしれませんが)街中で「硫黄臭い」と感じることが多くなった他、
噴火が激しくなった時期に、搭乗中の旅客機から三宅島方面をみると、その方向から多量の黄色い雲が関東方面に流れているのが観察できました。
気象庁の火山情報では、日量2〜4万トンの二酸化硫黄が排出されているとのことでしたが、この排出量は私のように首都圏に住む者にも影響が出るようなものなのでしょうか。
被災された方に比べれば大したことではないのでしょうが、我が家に幼児がいまして喘息などの影響がでることが気がかりです。
そこで、
1.風向・降雨などにもよるのでしょうが、どれぐらいの排出量となれば我々は注意せねばならないのでしょうか(あるいは既に要注意なのか)?
2.火山ガスが流れてきた場合、どのような対策をとればいいのでしょうか?
3.三宅島の火山ガスに対する注意報・警報などは発令される(あるいは情報提供される)システムは本土にあるのでしょうか?
4.上記の情報については、どこに問い合わせればよいのでしょうか?
すべて杞憂であれば良いのですが、不用心な地域での二次災害を防ぐ意味からもお教えいただければ幸いです。
(10/24/00)
MINE:会社員:33
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A |
8月下旬から南から南東の風に乗って,三宅島から放出された火山ガスが本州方面
に流れ込むことが起きはじめています.問題となる火山ガスは二酸化硫黄(SO2)と硫
化水素(H2S)です.
このうちSO2は大気汚染要因として,各自治体などで測定されていますが,東京周
辺でも最も多いときで,1ppm近くに達したことがわかっています.日本のSO2の大気
汚染環境基準値は0.1ppm(1時間値)ですから,それの約10倍の濃度なります.三宅島
島内での測定では,噴煙の風下で5ppm近くに達することもあるようです.また腐った
卵やドブくさい臭いを感じるのはおそらくH2Sだと思われます.三宅島周辺での測定
では,H2SはSO2の1/4から1/10程度含まれるようです.
1日数万トンのSO2が放出されている現状では,排出量よりは風向きに気をつけたほ
うがよいでしょう.三宅島島内でも,風上や噴煙からちょっと離れると問題にならな
いレベルの濃度に下がります.
健康被害という点について述べると,SO2もH2Sも急性毒性が問題になるのは数百
ppmの濃度であることから,少なくとも本土では,健康な人が急性毒性を気にするレ
ベルにはならないと思っていいでしょう.ただし喘息など呼吸器に疾病を持つ方は,
SO2濃度が1ppm程度でも発作を起こすことがありえますので,注意は必要です.
9月上旬までの異臭騒ぎを受けて,環境庁などでは環境基準を超えるSO2濃度が連日
観測されている場合には,念のため次のような対処法を呼びかけています.
(1) 外出はなるべく控えること
(2) 外から戻ったときには、目を洗ったり、うがいをすること
(3) 目に刺激を感じたり、咳が出たりした場合は、医療機関に相談すること
また,喘息等の呼吸器系疾患を持つ方々については,外出中に硫黄臭などを感じた
ときは,以下の事項を緊急避難的に行うことも薦めています.
・近くの建物などに入ること
・近くに建物などがないときは,タオル等を水で濡らし,口や鼻を覆うこと
本州や三宅島周辺の島には,風向きしだいで火山ガスが到達する可能性があるの
で,例えば本州なら南よりの風が吹くような天気の場合には,注意したほうがよいで
しょう.天気予報などで風向き予報を確認してください.
SO2濃度については,関東地方なら環境庁の連続測定値が公開されていますから,
そちらを参照してみてください.また他の地域に関しては,各県,自治体の大気保全
担当部局に問い合わせるようにとのことです.自治体によっては観測値をリアルタイ
ムで公開しているところもあります.
環境庁大気汚染物質広域監視システム(そらまめ君)
(10/24/00)
川辺禎久(工業技術院・地質調査所・環境地質部)
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Question #1114
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Q |
初めまして。化学系の研究者ですが、地球科学にも大変興味を持つ者です。
今回、三宅島の雄山から大量のSO2ガスが噴出しましたが、これは雄山の噴火史からして
異例の出来事なのでしょうか?また、そうであるなら今回に限ってその様な事が生じた
原因(メカニズム)はどの様なものなのでしょうか?ご教示お願いします。
(10/11/00)
地震雲:公務員:42
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A |
火山ガスは記録に残りにくいのですが,それを考慮しても三宅島ではこれほど大量の
火山ガスが放出されたという噴火歴史記録はありません.1ヶ月以上一日1-5万トンの
SO2が放出されるのは,三宅島に限らず,世界的に見ても前例がありません.ただし
1回の噴火で放出されたSO2量としては,数十万から数千万トンのものもあります.
三宅島と似た玄武岩質マグマを噴出する伊豆大島では,山頂での噴火の後,山頂火口
からH2O,SO2などの火山ガスを放出することがあります.伊豆大島では割れ目噴火の
1年後の1987年噴火後から1990年ごろまで,今回の三宅島の1/100程度の量ですが,三
原山山頂火口から一日あたり数百トンのSO2が放出されていました.一方割れ目火口
からの火山ガスは,山頂火口からのものに比べると極めて少ない量でした.また
1950-51年噴火の後もカルデラ内に立ちこめるほどの火山ガスが放出されていたと聞
きます.伊豆大島のカルデラ内に植生がなく砂漠と呼ばれるのは,火山ガスによって
植生が破壊されることも原因の一つです.
伊豆大島の例などからみると,おそらくすぐに火道が閉塞してしまう割れ目噴火の火
道と違い,比較的安定して存在する山頂火道では,火山ガスの放出が安定して起こり
うるということなのでしょう.これまで三宅島で火山ガスの放出があまり起きなかっ
た理由として,少なくとも最近約500年間は,三宅島山頂から大規模な噴火がなく,
山腹からの割れ目噴火が主な噴火様式だったからと考えられます.今回は山頂部に大
きな陥没カルデラが作られたため,火道径が大きいこともあって,大量の火山ガスが
放出されやすくなっていると考えられます.
三宅島でも山頂噴火が起きていた500年以上前は,山頂火口からの火山ガスの放出が
あった可能性は高いですが,なにぶん歴史記録もなく,堆積物として残らないもので
すから,はっきりとしたことは今のところ言えません.
(10/12/00)
川辺禎久(工業技術院・地質調査所・環境地質部)
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Question #33
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Q |
自衛隊員が死亡した八甲田山のガス穴と火山活動の関係を教えて下さい。
(7/18/97)
ぷわぷわ:学生:21
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A |
自衛隊員の死亡原因は高濃度の炭酸ガスを吸引したためです。その炭酸ガスを
採取して分析したところ火山から放出される炭酸ガスであることが判明しまし
た。八甲田山は有史の噴火の記録はないものの周囲に多数の温泉水が湧出して
いることから活火山であることは明らかです。一般に火山活動と言うと噴火と
か火山性地震とか想起されますが温泉の湧出も火山活動の一つです。そのよう
な意味では今回の事故はもとをただせば火山活動が原因といえるでしょう。
大場 武(東工大・草津白根火山観測所)
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Question #424
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Q |
はじめまして。
植物を研究している大学生です。
二酸化炭素の濃度変化と植物の応答について興味があります。
火山ガスには高濃度で二酸化炭素が含まれていると知り、
火山ガスの発生している付近での植生の特徴を知りたいと考えています。
そこで、硫化水素などがあまり含まれなくて、なるべく純粋な二酸化炭素
が噴出している場所(マップ)についての情報を教えてください。
よろしくお願いします。
(03/27/00)
PECO:学生:22
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A |
青森県青森市の八甲田山北東に位置する八甲田温泉および田代平高原付近には二酸
化炭素が放出されている窪地があり1997年7月12日に自衛隊員が訓練中に窪地
に落ちて中毒死する事故がありました。この付近には窪地でなくとも土壌ガスには高
濃度で二酸化炭素が含まれている可能性があるのでテストフィールドとしては好適で
しょう。この一帯のガスに関して弘前大学の鶴見実先生が調査を行っているのであな
たの指導教官を通じて情報の提供を要請してください。実際に調査を行う際は以下の
点に注意してください。
1)地元の警察あるいは役場で立ち入り禁止地区を確認しそこへは絶対に入らない。
2)一人で単独行動しない。
3)立ち入り禁止地域以外でも空気がよどむような窪地には入らない。
4)可能ならポータブル式の酸欠モニター,二酸化炭素センサーを携帯する。
高濃度の二酸化炭素を含んだ空気を吸うと即死に近い状態に陥る可能性があります。
十分に注意してください。
(3/28/00)
大場 武(東京工業大学・草津白根火山観測所)
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Question #1829
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Q |
三宅島にアカコッコが戻ってきたと聞きちょっと安心しています。ようやく火山ガスの勢いも下火になってきたのでしょうか?
三宅島について二つ質問です。カルデラの種類には火砕流を伴うクレーターレイク型、大量の溶岩流出を伴うハワイ型、イエローストーンに代表される環状型、荒船山周辺のコールドロンなど幾つかのタイプがあり、三宅島のかつての八丁平カルデラや桑木平カルデラは伊豆大島とともに「ハワイ型」であると聞いたことがあります。しかし今回の噴火で出来たカルデラはほとんど溶岩を噴出してませんよね(よく逆噴火と形容されてましたが)。多分前例が無いことだと思うのですがこのタイプのカルデラを新たに「三宅型カルデラ」の様に新たに分類される可能性はあるのでしょうか。
次に現在も続く火山ガスの大量放出についてですがよく「火口直下にマグマが上がって来ていてマグマ溜まりと対流をおこしその過程でガスが放出されている」と聞きます。こういう現象はキラウエアなどの様に常に火口底にマグマが顔を出してるタイプの火山では起きないのでしょうか。(僕は他の火山に比べて三宅島の中央火道が極端に太いからこの様なマグマの対流〜火山ガス大量放出が起きてると考えてるのですが・・)
よろしくお願いします。
(07/31/01)
アマンタジン:医師:26
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A |
三宅島の噴火活動が始まってから,もう1年が過ぎました.ヘリコプターから観察
していても,茶色く変色している木々から,緑の新芽が出ているところもあり,少し
ずつですが元の姿を取り戻しつつあるようです.
まず玄武岩質火山の山頂部に形成されるカルデラは,ハワイ型よりはキラウエア型
カルデラと呼ぶことが多いです.キラウエア型カルデラは,クレーターレイク型カル
デラなどのカルデラ形成に伴う噴火の噴出量と,陥没量がほぼ見合うカルデラと異な
り,噴出量より陥没量がずっと大きいことから,成因について議論ありました.
さて今回のカルデラ形成は,三宅島では数千年に一度程度の比較的珍しい現象です
が,他の火山で似たような事例が過去に観察されていなかったわけではありません.
例えば1924年のハワイ・キラウエア火山のハレマウマウ火口の陥没事件や,1968年ガ
ラパゴス・フェルナンディナ火山のカルデラ形成事件などです.これらは玄武岩質火
山で地表への溶岩噴出量よりはるかに大きい陥没が,爆発的な噴火を伴って起きた例
で,今回の三宅島とよく似ています.
これらのカルデラ形成事件では,いずれも地下側方へのマグマの移動が起きていた
ことが知られており,それにより密度の大きな山頂部が陥没したという考えが有力で
す.移動したマグマの大部分は地下にあり,地表には出てきていないので,噴出量と
陥没量が食い違うのも説明できるというわけです.今回の三宅島の噴火は,新たに三
宅型カルデラと呼ぶよりは,最もよく観測がなされている中で起きたキラウエア型カ
ルデラ形成事件ということになると思います.
次にマグマ対流による火山ガス放出モデルですが,おっしゃるように火道の実効径
がずっと大きいことが,今回大量の火山ガスを放出している原因と考えていいと思い
ます.玄武岩マグマ程度の粘性の流体をぐるぐると移動させるだけなら,径3mの円筒
で大丈夫という計算があります.一方,対流させるには上昇したマグマの密度が大き
くなる必要がありますが,これにはマグマからガスがどれだけ効率よく分離するかが
効いてきます.ガスの分離効率には火道の断面積が重要で,伊豆大島の例(一日数百
トンのSO2放出量)で計算した例では,実効火道径約9m強で対流しているとすると説明
できます.今回の三宅島では,放出量が伊豆大島の約100倍ですから,実効火道径は
10倍程度あることになります.陥没初期の変形せずに陥没している部分の大きさは少
なくとも径300m程度はありましたから,考えられない大きさではないと思います.
(8/07/01)
川辺禎久(産業技術総合研究所地球科学情報部門)
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Question #1760
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Q |
最近大島の噴火が沈静化に向かっていると聞いて喜んでいるのですが、テレビなどの報道で二酸化硫黄噴出量の単位がトンと言っています。 一日何万トンという膨大な量が噴出しているのですが、濃度のppmでは無くてなぜ重さの単位を使っているのでしょうか?
そして、一日の噴出量をどのようにして計算しているのでしょうか?
忙しい中このような質問をしてしまって申し訳なく思っていますが、宜しくお願いいたします。
(06/14/01)
八木慎吾:公務員:28
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A |
質問の大島とは三宅島のことのようですね.
火山活動の状態をみるのに適しているのは放出量の方であって,濃度ではありませ
ん.しかし,人体等への影響については濃度が重要になります.つまり,どちらも実
は重要なのです.ですから,現在も,島内のSO2濃度と放出量は両方ともモニタリン
グする体制を気象庁が中心となって整えているわけです.
濃度は,場所によって違います.噴煙が垂れ下がってくると地表付近でも高濃度に
なりますが,上空を漂っているのであれば地表では濃度が高くなりません.これは,
主に量に依存しているのではなく,風速等の気象要素に大きく依存しているようで
す.
放出量の求め方についてですが,COSPECという遠隔観測装置を使っています.簡単
に言えば,この装置は,ある波長の紫外線(光)の強度を測定する装置です.青空の
散乱紫外光を光源として,SO2が存在すれば紫外線のある波長の紫外線強度が下がり
ます.それによって,紫外線が通過してくる線分上の積算されたSO2濃度がわかりま
す.したがって,噴煙を横切るようにスキャンして観測すると噴煙の断面積のSO2濃
度がわかります.これに噴煙の移動速度(=風速)を掛け合わせれば,単位時間あた
りSO2がどの程度移動しているのかわかります.これが放出量になります.現在,ヘ
リコプターに搭載したCOSPECを真上に向けて,噴煙の下をくぐり抜けることによりス
キャンしています.
(07/02/01)
風早康平(産業技術総合研究所・深部地質環境研究センター)
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Question #1968
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Q |
3週間ほど前高千穂の峰に登った時、お鉢火口で噴気を見ました。お鉢火口は確か昭和に入って活動していないし、自分も何度も登っていますが噴気を見たのは初めてです。噴火の前触れなのか、あるいは最近噴気が始まったのか。最新の情報を教えてください。
(10/30/01)
近藤ジュンスケ:高校教諭:41
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A |
霧島は地熱活動の活発な火山群であちこちに噴気地帯があります.特に新燃
岳,御鉢,硫黄山の3つの火山は歴史時代に噴火した火山で現在も噴気地帯があ
ります.御鉢には火口の一番深い部分の壁と火口の中段のテラスになった部分に
噴気がでています.さらに,火口壁の上部の南側にも噴気が出ていて,なぜわざ
わざこんな所からガスが出るのか不思議に思えます.微弱な噴気は気温が高い場
合,ほとんど見えないため気がつかないことが多く,気温が低くなったり,雨上
がりに気がつくことが多いものです.地震活動などに特に異常は出ていません.
霧島にはこのほかにも大幡池で主として炭酸ガスが池の底からブクブクと出てい
たりします.
(10/30/01)
鍵山恒臣(東京大学・地震研究所・火山センター)
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Question #2106
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Q |
最近、学校の課題で火山ガスについて調べる
といった課題が出されて、いろいろ調べていると
火山ガスに含まれている物質で多いのがH2Oであることを
知ってとても驚いています。
そして、このことに興味を持ったのですが、
知識を得るところがなく困っています。
火山ガスと水についての関連性について、
専門家の知識、意見を教えていただければ
幸いです。
(01/28/02)
カイト:学生:20
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A |
火山と水は以下の点について密接に関係しています.
1)マグマ溶存成分
2)火山熱水系
3)マグマ水蒸気爆発
1)マグマにはH2O,CO2,硫黄成分などの気体になりやすい成分(=揮発性成分)が
溶けていて,マグマが上昇するにつれて泡となり分離します.この現象を脱ガスと言
います.泡が生じるとマグマは軽くなり,浮力によりますますマグマの上昇は加速
し,泡の膨張力も加わり,ついには地表に溶岩として噴出します.これは溶岩を放出
する噴火形式の基本原理で,マグマに溶けているH2O,CO2,硫黄成分などの脱ガスが
噴火の原動力です.
2)活火山ではマグマは必ずしも地表に現われず「活動」を続ける場合があります.
ここで「活動」とは具体的にはマグマからH2O,CO2,硫黄成分などの気体になりやす
い成分(=揮発性成分)が抜け出ること(=脱ガス)です.マグマから抜け出たこれ
らの成分は,地下水と混合し,温泉水や火山ガスなどとして地表に湧出します.この
仕組みのことを火山熱水系と言います.この場合,温泉水や火山ガスのH2Oは大部分
が 地下水起源ですが少量,マグマから抜け出たH2Oが含まれます.
3)溶岩が地下水や海水と直接接触する場合があります.この時,多量の水蒸気が発
生し激しい爆発を引き起こします.これがマグマ水蒸気爆発で,噴火としては最も激
しい形式です.
(2/04/02)
大場 武(東京工業大学・火山流体研究センター)
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Question #2461
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Q |
農業分野の研究員をしている者です。一昨年の三宅島噴火に遭遇し、現在は農地土壌や園芸作物に対する火山灰・火山ガスの影響等を調べています。火山灰の性質に関してお尋ねしたいことがあります。火山灰粒子表面における火山ガス吸着・放出についての研究例はあるのでしょうか。文献検索(DIALOG)では該当する報告は見あたりませんでした。知りたいのは、@地表への降下直後の火山灰からの火山ガス(特にSO2)放出という現象は起こりえるのか、A起こりえるならば、具体的な放出量、B凹地等に滞留した場合のガス濃度です。もちろん、できれば三宅島の例(推定でも結構です)がよいのですが、他の火山の場合でも構いません。
(08/05/02)
矢沢宏太:公務員:39
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A |
火山灰への火山ガスの吸着に関する研究は少ないのですが,実験室で鉱物表面とガ
スの反応を調べた例はあります.
火山灰に付着している火山ガスの成分は,HCl,SO2,HFなどの気体ですが,これら
のガスがそのままの化学種で付着しているわけではありません.これらのガスは純粋
な気体として火山灰表面に吸着しているのではなく,空気中の水蒸気と結合して極め
て細かい液滴(エーロゾル)を形成し,それが火山灰の鉱物表面に付着していると考
えられます.このエーロゾルは強い酸性を有し,鉱物表面と反応し,液滴中の水素イ
オンは鉱物のカチオンと交換し,液滴は中性に近づくと思われます.さらにSO2ガ
スについては,空気中の酸素で酸化され,液滴中ではSO4--イオンになっていると思
われます.SO2ガスの硫黄は+4価です.一方SO4--イオンの硫黄は+6価です.一度
SO4--イオンになった硫黄をSO2に戻すには強力な還元剤が必要ですが,地表環境では
そのような還元剤は考えられませんので,火山灰からSO2が発生する可能性はないと
思われます.火山灰の堆積する付近でSO2が観測されたとしたら, 灰と一緒に移動し
てきた火山ガスか,灰の間の空間に物理的に閉じ込められた火山ガスであると思われ
ます.
火山灰に付着する成分は,SO4--,Cl-イオンを含みますのでこれらが植物に影響を
与えるかもしれません.また灰の表面に付着した火山ガス成分と火山灰鉱物の間の反
応が十分でないと,ぬれた火山灰から浸出する水溶液が酸性を有するでしょう.これ
は植物に影響を与える危険性があります.
(08/06/02)
大場 武(東京工業大学・火山流体研究センター)
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Question #2510
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Q |
この間家族でうす山に行きました。その時とてもくさいにおいがしましたが、
なんのにおいですか?
歩いているととてもあつかったんですが、
ふんかのところにたまっている水はあついのですか?
かんたんなしつもんでごめんなさい。
(08/20/02)
小林愛美:小学3年生:9
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A |
においは,りゅうかすいそ(硫化水素,化学式ではH2S)か,にさんかいおう(二酸
化硫黄,化学式ではSO2)というガスのためだと思います.この二つのガスはかつか
ざんで発生し,すごいなにおいを出します.体によくないので,あまりたくさんすわ
ないで下さい.
うす山はかつかざんで,地面の下の深いところにはマグマがあります.このマグマに
よってあたためられた地下水が地面まで上がり,わきだすこともあります.そのよう
なところは沼のようになり,足がはまってヤケドすることがありますので,ちかよら
ないようにして,きをつけてください.
(08/20/02)
大場 武(東京工業大学・火山流体研究センター)
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Question #2692
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Q |
火山ガス噴出に伴うSPM(特にPM2.5)の挙動について教えてください。当方、行政で健康問題に携わっています。火山ガスのなかで二酸化硫黄はぜん息患者の健康に影響しますが、PM2.5が関与するとより悪い結果になるといわれています。自分なりに探したつもりですが、火山のSPMに関する資料が手に入りません。ご助言をお願いします。
(09/18/02)
SHIROGISU:公務員:42
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A |
三宅島や桜島など,大量の火山ガスを放出する火山では火口からたなびいた火山ガ
スから白い霧が分離して降下する様子がみられることがあります.この霧は火山ガス
のSO2と空気中の水分が結合してできた,硫酸の微小液滴(SPM,エアロゾル)だと考
えられてい ます.
私はこれまで火山ガスの化学的な研究を行ってきましたが,火山ガスから発生する
エアロゾルについては研究の経験がありませんでした.日本では火山性エアロゾルの
研究があまり行われていません.ここでは若干の文献調査を行い,ご質問にお答えし
たいと思います.
巨大火山噴火により成層圏でエアロゾルが発生し気候変動が起きることなどについ
てはいろいろ文献があるようですが,SHIROGISUさんの質問を読むと,そのような全
地球的な現象ではなく,火山ガスが火口から放出された直後に発生するようなエアロ
ゾルのことをお調べになっているようです.そのような研究に関する日本語の文献と
して1)があります.この文献の著者の木下紀正氏は鹿児島大学の教授で,火山ガス
の拡散現象に関してご研究をされています.文献1)に載っているデータを解析する
と,火口から東方に4.6 km離れた山麓で,SO2濃度 X (ppb) とSPMの濃度 Y
(microgram/m3) に以下のような正の相関が見出されました.
Y = 0.3638 X + 39.12
この関係はあくまでも桜島で得られたものであり,普遍性があると断言できません
が,他の事例の目安にはなると思われます.ここでSPMは10ミクロン以下のものを観
測しています.
海外の研究として文献2,3)を見つけました.この二つの文献はイタリアのエト
ナ火山で,火口から出た直後の火山ガスを地上からリモートセンシングで観測した研
究です.これによると火山灰を含まない,白っぽい噴煙の場合,エアロゾルの平均半
径は約0.8ミクロンです.ただ,この平均値は,観測可能なエアロゾルの半径範囲,
0.35〜1.6ミクロンの範囲での平均値なので,これよりも大きな SPMが存在している
可能性はあります.また噴煙に時折火山灰が混ざり,色が黒っぽくなると1ミクロン
よりも大きな分割が増加するとのことです.観測を行った期間で,観測に引っかかっ
たエアロゾルの総放出量は,400〜700 (ton/day) と推定されました.前述したよう
に,このエアロゾルは硫酸の液滴からなると推定されています.この観測期間のエト
ナ火山からのSO2ガスの放出量が論文中で示されていないので,あいまいな比較にな
りますが,別の論文から推定すると,同時期のSO2放出量は約5000 (ton/day) です.
火山起源の硫黄成分のかなりの部分がエアロゾルとして運ばれていることになりま
す.お示しした論文は専門的な内容ですが,多くの参考文献が載っています.
以上,はなはだ不十分な回答ですが,私はSHIROGISUさんの質問に回答を考える過
程で, 火山起源のエアロゾル(SPM)の研究が不十分な段階にあり,火山ガスの研究
者として真剣に取り組まなくてはならない課題だと認識しました.火山Q&Aの回答
者をやっていて良かったと思いました.
文献リスト
1)木下,他(1999)桜島火山周辺におけるエアロゾルと火山ガスの高濃度事象の
解析,鹿児島大学教育学部研究紀要,自然科学編,50,p11〜
2)Watson,I.M. and Oppenheimer,C. (2001) "Photometric observations of
Mt.Etna's different aerosol plumes", Atmospheric Environment, vol.35,
3561-3572.
3)Watson,I.M. and Oppenheimer,C. (2000) "Particle size distributions of
Mount Etna's aerosol plume constrained by Sun photometry", Journal of
Geophysical Research, vol.105(D8), 9823-9829.
(09/30/02)
大場 武(東京工業大学・火山流体研究センター)
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Question #3717
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Q |
火山と植生について質問させて下さい。夏に、伊豆大島の裏砂漠に行ったのですが、霧のようなものがでていましたがあれは火山ガスなのでしょうか?火山ガスと植生にはなにか関係があるのでしょうか?また、玄武岩質と植生についての関係もなにかあるのでしょうか?よろしくお願いします。
(12/22/02)
なっつ:学生:18
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A |
現在伊豆大島三原山の山頂火口からはほとんど火山ガスは出ていません.いく
つか噴気孔はありますが量的ごくわずかです.伊豆大島に限らず,夏の伊豆諸
島では山頂近くは雲がかかっていることが多く,ガスで視界が遮られる日が続
くことがしょっちゅうおこります.のどが痛くなったり,卵が腐ったようなに
おいがしなかったのであれば,まず間違いなく普通の霧や雲だと思います.な
お霧が出ると目標物がない裏砂漠では道に迷ってしまいがちです.気をつけて
くださいね.
植物の専門ではないので,玄武岩地帯に特有の植生があるのかについてはよく
わかりません.ただ火山ガスの影響を受けている三宅島をみても,もともと現
地性の植物は,比較的火山ガスに強いものが多く,人間が持ち込んだスギやク
ロマツは大きな影響を受けているようです.伊豆大島の裏砂漠は,噴火で降り
積もったスコリアや火山灰で植生がまず破壊され,その後のマグマ後退期に放
出される二酸化硫黄などの火山ガスの影響で植生の回復がさらに遅れることに
よるようです.伊豆大島のいわゆる砂漠の分布は,三原山の東北東側と南西側
に延びていますが,これは伊豆大島の卓越風の方向と一致します.風で火山ガ
スが流され酸性に弱い植物は定着できず,さらに地表のスコリアや火山灰が風
で移動することで植物が定着しにくいためと考えられます.なお,1986年噴火
のあと,火山ガスの放出はこれまでの噴火より早く終わったため,伊豆大島カ
ルデラ内の植生はより早く回復しているようです.
(12/25/02)
川辺禎久(産業技術総合研究所・地球科学情報部門)
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Question #2855
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Q |
先日、高校の研修旅行で大涌谷(兼箱根)に行ったのですが、その際ガスが噴出しているところから500m近くの距離がある水溜りのphを測ったところ、4以下のphが出ました。あまりの低さについついその水溜りを避けてしまったのですが、これは火山ガスの影響なのですか?もしそうならば大涌谷の火山ガスにはどのような成分が含まれているのですか?教えてください
(10/08/02)
みたらし:高校生:16
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A |
大涌谷でいろいろ測定されたようですね。とても良い体験だと思いますが、噴気地帯
はいろいろな危険がありますのでくれぐれも気をつけてください。
さて、大涌谷の地表にある水は酸性が強いですが、これは主に硫酸が含まれているこ
とが原因となっているようです。硫酸の起源はみたらしさんがお考えのように火山ガ
スだと考えられますが、どうして硫酸なのかというとちょっと難しい問題があるよう
です。火山ガスには二酸化硫黄(亜硫酸ガス;SO2)が含まれていておそらくこれが
硫酸の元となっていると考えられます。これが水と反応するとH2 SO3が出来るのです
が、これは亜硫酸というもので、硫酸ではありません。大涌谷の水を測定するとSO4
--(硫酸イオン)は検出されるのですが、S03 --(亜硫酸イオン)は検出されませ
ん。おそらく、火山ガスが水に溶け込むだけでなく、空気中の酸素が水に溶け込み亜
硫酸と反応することではじめて硫酸が出来るものと考えられます。
これがおおよその考え方ですが、硫酸イオンがどこで出来ているかというのを考えて
いくとちょっと話は難しくなります。硫酸イオンができるためには空気中の酸素が必
要だとする考え方で行くと、地下深くの温泉は空気に触れる機会がないと考えられる
ので硫酸イオンは含まれず亜硫酸イオンに富むことが予想されるのですが、現実には
地下の温泉も硫酸イオンに富んでいます。こうした観察を「表面の地下水は地下のか
なり深いところまで供給されているのだ」として説明する考え方がある一方で、「亜
硫酸の自己酸化によって硫酸が出来るのだ」とか、「硫酸は火山ガスの影響で出来た
硫化鉱物からもたらされたのだ」という説明もあります。興味があったらぜひいろい
ろと調べて硫酸の起源「みたらし」説を発表してください。
もうひとつ、大涌谷のガス成分ですが一般的に多くの火山でそうなのですがほとんど
(99%ちかく)が水蒸気です。水蒸気以外のガスで最も多いのは二酸化炭素、その次
が硫化水素で、二酸化硫黄はほとんど含まれていません。二酸化硫黄がほとんど含ま
れていないのは、大涌谷ではマグマから直接出てきたガスが噴出しているわけではな
く、地下水と反応したあとのガスが出てきているためです。二酸化硫黄は水に溶けや
すいので、大涌谷のように表層に水がたくさんある地域だと仮に二酸化硫黄の供給が
あっても地表に出る前に水に溶け込んでしまうと考えられます。硫化水素は二酸化硫
黄と水が反応して出来たもので、箱根のように地表近くに水がたくさんあるところか
ら出てくる火山ガスとしては一般的な成分です。
(10/17/02)
萬年一剛・石坂信之(神奈川県温泉地学研究所)
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Question #2580
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Q |
火山のない埼玉で生まれ火山に憧れそして栃木に住み着いてから8年になります。日光、那須、高原と火山と温泉に恵まれていますが栃木の二つの活火山について質問があります。
@那須茶臼岳について
昭和28年頃最後の小噴火があったと聞きますがどの程度のものだったのでしょうか。現在山頂部は観光客でごった返してますが現在もし同程度の噴火があるとしたら事前予知はどの程度可能なのですか(水蒸気爆発は予測しにくいと言われるので少し不安です)。
A日光白根山について
最近まで前白根や五色山が外輪山で奥白根がカルデラの淵に出来た中央火口丘だと勘違いしてましたが両者は形成された時期が全く異なるそうですね。しかし現場にいってみるといかにも前白根、五色山の稜線は外輪山で五色沼は火口原湖に見えます。奥白根との関係はないとしてもこの『外輪山もどき』が古い時代の小カルデラのなごりという事はないのでしょうか。
以上2点、よろしくお願いします。
(09/03/02)
アマンタジン:医師:27
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A |
那須茶臼岳の最近の噴火としては,明治14年(1881年)の噴火が最大規模のもので
す.現在の山頂の西側直下にある無間火口から生じた水蒸気爆発で,茶臼岳周辺には
30cm余りの厚さで火山灰が降り積もり,噴石も飛来しました.茶臼岳周辺は一面灰色
の世界となり,多くの立木が枯れました.降灰は東方の白河市付近でもみられ,那珂
川では沢山の魚に被害があったということです.この規模の噴火が起きれば,ロープ
ウェイ山麓駅あたりまで,降灰や噴石で大きな被害を被り,観光客への人的災害もか
なりのものになると予想されます.昭和28年(1953年)の噴火では,やはり無間火口
で水蒸気爆発噴火があり,南方6kmまで降灰がみられました.この規模の噴火では,
噴石も山頂火口周辺には飛来したでしょうから,ロープウェイ山頂駅から上に観光客
がいれば,大きな人的災害をもたらすものと思われます.水蒸気爆発の予測は確かに
難しいところがありますが,噴気や火山ガス,火山性地震などのモニターをきちんと
やっていれば,ある程度の予測はできるのではないでしょうか.那須火山の観測体制
はこれまで必ずしも十分とはいえませんでしたが,最近になってかなり整備されつつ
あります.
前白根や五色山の稜線は新第三紀の古い火山岩類から構成されており,第四紀の火
山ではありません.これらの稜線が作る馬蹄型の地形はこの付近の山地によくみられ
る浸食地形であってカルデラではありません.
(09/04/02)
高橋正樹(日本大学・文理学部・地球システム科学)
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Question #4012
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Q |
先日、一切経山に出かけました。浄土平の名の如く神秘的で現実離れした風景と対象的に中腹の大穴火口の地獄絵のような光景、改めて活火山の魅力を再認識しましたが・・
大穴火口の向こう側に続く火口列を見てみたいという衝動にかられ風もある事だしとほんの数歩火口淵を歩いたところ初めて(硫化水素臭はよく遭遇しますが)二酸化硫黄の臭いを感じ直感的にヤバイと思いすぐルートに戻りました。
火山ガスによる事故も最近結構おきていると思います。もちろん、窪地に行かない、ルートを外れないといった行為がこれらの事故を予防する最低限の方法だと思いますが、私たちのような素人がふいに高濃度の火山ガスを吸い込みそうになってしまった時身を守るためにとるべき行為について(特に布で口を押さえるとしたら濡れていた方が良いのか乾いた方が良いのか)教えて頂けませんでしょうか。よろしくお願いします。
(06/14/03)
アマンタジン:医師:28
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A |
質問なさっておられる方が医師でいらっしゃるということで,ご質問の内容につい
ては,我々よりもずっと専門家でおられると思います.むしろ,硫化水素ガスや二酸
化炭素ガスによる「ガス中毒対策」ということで,「救命救急法」の一つとして,我
々にご教示いただけるとありがたい事項です.
我々の立場からしますと,先ず,一番大切,かつ有効なことは,「不意に高濃度の
ガスを吸いそうになる」状況こそを作らないようにすることです.ガスは見えません
し,多くの場合,嗅覚も危険度のあてになりません.有毒ガスに関しても,「君子危
うきに近寄らず」というのは生物である限り絶対的に必要なことでしょう.登山をな
されるときに,天気やルートを予め確認されるはずですが,噴気情報などでもインタ
ーネットや,地域(宿泊施設を含む)に配布した防災マップなどでもかなり手軽に入
手できるようになってきていますので,そういうチェックを,持ち物チェックと同様
に行う事を啓蒙する必要があるでしょう.さらに,行政なども二重三重の防災対策を
し,危険を回避するしかないと思います.万一,ご質問のような事態に遭遇しても,
多くの方の場合,「遭遇していること」自体にに気がつかない,あるいはにおいが気
になっても,危険濃度でないと思ってしまったまま,重大な事態に至ってしまうのが
実際だとおもいます.
大きな事故に至る火山ガス災害例では,ご案内のように,窪地,あるいは凹地にガ
スが滞留している状況の下,気がつかずに浸入し,事故に遭遇する場合が非常に多い
です.1997年,安達太良火山のガス事故の現地では,数mの距離内でガス濃度が急激
に変化していました.ですから,あえて危険な状況下で登山を行う場合,ガス発生源
に直接つながる窪地や谷沿い,特に,空気よりやや思いガスが貯まりやすい地形のと
ころを避けることです.ガスが希釈される,空気の通りの良いところ,あるいはガス
発生源の風上側などを選んで通過するしかありません.いったん,危険個所に踏み込
まれてしまった場合,ガス事故の場合,救助しようとして二重遭難に至ってしまうケ
ースがかなり多いようです.
ご質問の答えにはなっておりませんが,関連コメントとしてお受け取りいただける
と幸いです.
(06/23/03)
藤縄明彦(茨城大学・理学部・地球生命環境科学科)
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Question #4116
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Q |
三宅島の『特異体質』についてこれまで色々御教授頂きました。また、もう一つよろしくお願いします。
以前「三宅島の火道は極端に太い≒極端に放出ガスが多い」という事を教えて頂きましたが(#1829)もうこの火山の特徴として「極端に前兆現象の出現から噴火までの時間が短い(事もある)」という事があったと思います。常にガス抜き孔が口を開けている伊豆大島でさえ1986年の噴火の時は数カ月前から前兆があったと聞きます。三宅島の場合、1940年は一ヶ月の前兆がありましたがその後の2回の割れ目噴火の時は前兆現象の出現から噴火まで数十時間程度だったと聞きますし2000年の噴火にしても前兆の出現から最初の海底噴火までは10数時間だったと記憶しています。三宅島の前兆の極端な短さは「太い(であろう)火道」と関係があると考えてよろしいでしょうか。
よろしくお願いします
(08/01/03)
アマンタジン(いつもありがとうございます):医師:28
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A |
前回述べた太い火道は2000年噴火時のカルデラ陥没事件で形成されたもので,それが現在まで続く大量の火山ガス放出につながっていると考えています.
歴史記録に残っている噴火14回のうち,山頂噴火が起きているのは不確実なものを含めても5回に過ぎず,山頂につながる火道は,伊豆大島と違っておそら
くほとんど閉塞していたのではないかと考えられます.
伊豆大島の山頂噴火の場合,ほとんど地震,つまり岩石の破壊を伴わずに噴火に至ります.これは火道をわざわざ新たに破壊しながら作る必要がなかったこと
を示していると考えられます.伊豆大島1986年の噴火の場合,初めて火山性微動が観測されたのは同年7月ですが,マグマが三原山火口に出現したのはそ
れから4ヶ月後でした.それだけゆっくりと上昇してきたと言えます.むしろゆっくりとしか上昇できないのに,火道が確立していたので上昇できたのかもし
れません.
一方,伊豆大島でも1986年噴火の山腹噴火の前兆は,三宅島の割れ目噴火と同じく,噴火の数時間前から始まった地震活動でした.三宅島の割れ目噴火と
同じくマグマが岩石を割りながら急速に上昇してきたのでしょう.おそらく,新しく割れ目を作って噴火に至るには,それだけ急速なマグマの上昇が必要で,
その結果として前兆から噴火までの時間が短いのかもしれません.
なかなか難しい質問で,まだ断定はできませんが,こういう風に考えてみてはどうかと思います.
(09/05/03)
川邉禎久(産業技術総合研究所・地球科学情報部門)
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Question #5465
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Q |
毎回楽しみに拝見させていただきます。
今回は薩摩硫黄島について質問させていただきます。
尚、全くの素人ですので考えに間違いがあるかもしれませんがご容赦下さい。
Q1、最近は小規模な噴火をしてるみたいですが、噴火の判断材料として白灰色の噴煙を
上げたり村に降灰があった場合と思います。
噴火とは思いますが、私のイメージでは噴気の勢いが強くなり火口近辺に積もってる
火山灰を吹き上げてるように思います(91を参照しました)が、これも噴火と判断する
のでしょうか?
又、噴火形態としてはストロンボリ式になるのでしょうか?
Q2、1998年以降に硫黄島の噴火が報じられるようになったと思います。
火山性地震・微動もよく発生してるみたいですが、これは硫黄島が活動が活発になった
のでしょうか?
それとも観測精度が上がったor噴火とする判断基準が変わったなどでしょうか?
Q3、三宅島で噴煙の為、帰島が遅れてますが硫黄島も離島で且つ噴気が活発な為、条件が
同じように思えます。
山肌とか見ますと火山ガスの影響もあると思いますが、ガスの成分・噴気形態など
三宅島との条件の違いが有りましたら教えて下さい。
Q4、記憶が確かではありませんが、硫黄島の火口では良質のケイ石(?)が採取できると
聞いてましたが、最近の活動が活発な状態でも行っているのでしょうか?
Q5、予測は難しいとは思いますが、最後に硫黄島の今後の活動の見通しを教えて下さい。
以上
(03/28/04)
松井:社会人:42
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A |
A1
薩摩硫黄島火山の硫黄岳山頂火口には、1997年頃から深い縦穴の火孔が形成し、そこから火山ガスと共に火山灰が放出されています。しかし、火山灰
は、過去に火山ガスによって変質を受けてできたケイ石を主体としていて、新鮮なマグマは出ていません。おっしゃるように、火口の下に堆積している昔の噴
出物の変質したものが、火山ガスにより噴き上げられている、と言えます。
通常、火口から火山ガス以外(マグマ、岩石など)が噴出する現象を噴火と呼びます。では、火山ガスの勢いで周囲の火山灰が吹き飛ばされるだけの現象も
噴火と呼ぶかというと、定義上は呼べないことはありませんが、通常は呼びません。しかし、硫黄岳の火山灰の放出は間欠的で数百mもの高さの噴煙を上げる
こともあり、単にガスの勢いだけで吹き飛ばされているわけではないので、噴火として見なされています。とはいえ典型的な噴火とは異なり、定義上も曖昧な
部分だと思います。自然はアナログなものですから、定義によりきれいに二分出来るとは限らないのです。
このような硫黄岳の噴火を分類する典型的な用語もありません。強いて言えば新鮮なマグマの噴出がないことから水蒸気噴火と呼べるかもしれませんが、高
温の火山ガスが連続的に放出している火孔からの噴火なので、通常の水蒸気噴火とは全く異なります。Gas
eruption(ガス噴火)という用語が、MacDonald(1972)のVolcanoesという教科書に載っています。これが最も適当な用語で
すが、一般的には使われておりません。
ストロンボリ式噴火は高温のマグマが間欠的に吹き上がる噴火ですので、全く異なります。
A2
薩摩硫黄島の場合は噴火の判断は、噴煙と降灰の有無が基準であり、地震は直接考慮されていません。ただし、噴煙も降灰も注意して観測している方が小さ
な噴火でも検知できますので、噴火の回数の増加にはそのような要素も含まれてはいます。しかし、1997〜98年以降に降灰の量が多くなったのも事実で
す。
A3
三宅島でも、毎日火山ガスが集落に流れてきているわけではなく、年に何日か、かなり濃厚な火山ガスが集落に到達することがあり、それが問題になってい
ます。三宅島の場合は西風によって東側の集落に高濃度の火山ガスが到達する頻度が多いです。薩摩硫黄島でも火山ガスは東側に流れることが多いのですが、
集落は山頂の南西側に位置するため高濃度の火山ガスが到達することはほとんどありません。
また、三宅島は山が比較的なだらかなため、風が強いと噴煙が山肌に沿って流れ下ることが頻繁にあります。硫黄岳は斜面がずっと急であるため、この風の吹
き下ろしは三宅島ほど頻繁に起きません。それに加え、薩摩硫黄島からの火山ガスの放出量はSO2の量で毎日500トン程度であり、三宅島からのSO2の
放出量の日量数千トンの約十分の一です。これらの条件が総合されて、三宅島では未だに高濃度の火山ガスが集落で観測されていると考えられます。
A4
ケイ石の採掘は1997年頃まで続けられましたが、現在では行っておりません。
A5
硫黄岳山頂火口内の火孔は、1997年頃に形成されて以来、火山灰を放出しながら拡大しています。現在では直径は100m以上の大きな火孔になってお
り、ここから火山ガスと火山灰が継続的に放出されています。火山ガスの放出が活発な間は、爆発的な噴火などを起こすためのエネルギーは溜まりにくいと考
えられます。しかし、このまま火孔が拡大し、深くなった後に何が起きるかを予測することは困難です。
最近、火孔が形成し火山灰が放出されているとはいえ、火山ガスの放出量や地震活動のエネルギーが特に変化しているわけではありません。そのため、今起き
ている変化は地表近くだけの変化であり、地下のマグマの動きやガス放出の過程は数十年前から余り変わっていないとも考えられています。そうだとすると、
山頂からの火山ガス・火山灰の放出と火孔の拡大は続くかもしれませんが、それ以上大きな変化は起きない、ということも考えられます。いずれにしても、今
の硫黄岳のような活動を観測した例はほとんど無いため、今後の活動の推移を見守ることが大事です。
(03/29/04)
篠原宏志(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)
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