火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

噴火現象と噴出物・岩石・鉱物

火山岩(溶岩・スコリア・火山灰)の色


Question #78
Q 質問は2点ありますがよろしくお願いします。 1.南極の氷雪のボーリング結果について 1年前の新聞報道かと思いますが、 南極の氷雪をボーリングした結果、過去何十万年間の氷雪の中から 数万年間隔で火山灰の堆積が見つかったとのことですが、 火山灰を調査することにより、火山を判明、断定することはできるのでしょうか。また、その中に日本列島に属する火山もある可能性はありますか?
 また、このように、南極の氷雪にまで痕跡を残すような火山の噴火レベルはいかようなものなのでしょうか?

2.九州の霧島高千穂峰について 高千穂峰の美しさに魅せられて今年も御鉢火口までですが、登りました。前回も質問しましたが、レストハウスから火口までに赤色の軽に混在して、かなり大きめの黒灰色の岩石がありましたが、軽石と同じに噴火した堆積物なのでしょうか。それとも噴火した年代が異なるのでしょうか? (5/22/98)

火山研究サラリーマン:会社員:39

A 1.南極の氷雪のボーリング結果について 申し訳ありません.私はその新聞記事を読んでいませんので,氷床のボーリン グコアを用いた火山噴火の研究の一般的なことについて答えたいと思います. 地球規模の環境変遷を研究するために極地の氷床コアを用いるのは1970年代か ら盛んに行われるようになりました.夏と冬に降る雪(降水)の酸素同位体比 が違うために,氷には(目には見えませんが)年縞というのができます.その 数を数えることによって,±1年くらいの精度でその氷がいつ形成されたかわ かるのです.そして氷に閉じこめられた大気や氷そのものを分析することによ って過去の環境が精度よく復元できるというわけです.氷床コア中に火山灰粒 子が見つかったら,その粒子を分析することによって噴出源を特定できること があります.しかし,火山灰は近いところに落ちてしまいますので,火山灰が 見つかるのは氷床に比較的近い火山で起こった噴火に限られるようです.一 方,大規模な噴火が起こると,火山灰以外に大量の硫酸エアロゾルが大気中に 放出されます.硫酸エアロゾルは何年にもわたって大気中にとどまり,全地球 に広がっていきます.そのため,その時代にできた氷は水素イオンや硫酸イオ ンに富むことになります.氷床コアから検出される過去の火山噴火は,ほとん どの場合,水素イオン濃度,硫酸イオン濃度の高い層準の年代とこれまでに知 られている大規模噴火の年代を比較して決められています.それゆえ,候補と なる噴火がいくつもあったり,全く候補の見つからないものもあります.日本 と同じ北半球にあるグリーンランドの氷床コア中には,日本で起こった噴火が 原因と考えられる,水素イオン濃度,硫酸イオン濃度のピークがいくつか見つ かっています.鬼界-アカホヤ噴火や十和田a噴火などVEI=7〜6のものから,北 海道駒ヶ岳1640噴火や開聞岳874噴火などVEI=5〜4クラスの噴火まで噴火の規 模にはかなり幅があります.南極の氷床で日本の噴火を示すピークが見つかっ たという話は(私の不勉強かも知れませんが)まだ聞いていません.

2.九州の霧島高千穂峰について 御鉢の登山道で地表付近に見られる噴出物は,ほとんど同じ時(13世紀)の噴 出物です.スコリアが赤いか黒いかは,鉄の酸化の仕方の違いによります. Fe2O3になっていれば赤く,FeOだと黒くなります.それぞれどのような条件で あったか考えてみて下さい.質問には黒灰色の岩石とありますから,おそらく 発泡していない緻密な岩石のことだと思います.同じ噴火の時にマグマが急冷 されてガラス質になったもの(黒光りするように見える)が放出されたのだと 思います.ただ,御鉢は13世紀の噴火以降もたくさん噴火を繰り返しています から,その後の噴火の時に飛んできたものかもしれません.周りのスコリアと の関係などを詳しく調べる必要があります. (6/3/98)

井村隆介(鹿児島大・理学部)


Question #102
Q
 5月に霧島山高千穂峰を登山し、天候不順のため御鉢火口までしか行けなかったので、7月に再度挑戦し、高千穂峰山頂まで行きました。
 御鉢火口の縁を歩いていて気がついたのですが、スコリアの堆積が赤い部分と黒い部分とではっきり違いが見受けられます。背門丘側の方が黒いスコリアが多いのはなぜでしょうか?
 高千穂峰は、成層火山の山頂にあった火口が溶岩ドームで覆われているとのことですが、御鉢火口は、この溶岩ドームのためにマグマが高千穂火山の弱線上に噴火したと考えていいでしょうか?また、火山学的に高千穂峰の溶岩ドームで覆われた火口が噴火することは将来的にあるのでしょうか?
 御鉢火口直下の登山道に赤いスコリアに混ざり少し緑灰色の硬い岩類が見受けられますが、私の感では溶岩流に思えるのですが正解ですか?
 少し、長くなりましたがよろしくお願いします。

(7/12/98)

火山研究サラリーマン(北陸在住):会社員:39

A
 ご質問には「背門丘の方が」とありますが,どこと較べられているかがわか りませんので,十分にお答えできませんが,以前お答えしました(Question #-78)ように,スコリアの赤/黒は含まれる鉄の酸化の状態によります.一般 には酸素が十分にある状態でゆっくりと冷えると赤くなります.大きなスコリ ア粒子の中には,(空気に接していた)外側が赤く,(酸素がほとんどない状 態で冷えた)中心部が黒いものが見られます. また,厚いスコリア層では地面と大気に接した下部と上部が赤く,その中央部 が黒いという事もあります.背門丘は御鉢火口の東側ですね,どのような状態 でスコリアが堆積したか考えてみて下さい.
 高千穂峰に溶岩ドームという「栓」があったために御鉢が現在の位置にでき たかどうかについては,よくわかりません.ただ,高千穂峰の山群は,東から 二子石,古高千穂,高千穂峰,御鉢と,東西に並んだ4つの火山体で構成され ており,その年代は東から西に向かって若いということがわかっていますの で,「栓」が原因と考えなくてもよいのかも知れません.東西に並んだ火山列 からわかるように,このならびにマグマの出やすいところがあるようです.将 来,御鉢の西麓の高千穂河原に新しい火山ができるかも知れません.火口をふ さいだ溶岩ドームを吹き飛ばして噴火が起こるということは珍しいことではあ りませんから,将来的に高千穂峰で噴火が起こらないとは言い切れません.
 どこの登山道のどのあたりのことかわかりませんので,質問に直接お答えで きませんが,高千穂河原から御鉢へ登山道の1200m付近より上では,登山道の 南側に大きな窪みがあって,それが御鉢の火口縁まで続いているのをご存じで しょうか?実はこの窪みは溶岩の通った跡なのです.御鉢の火口縁は西側が最 も低く,溶岩はそこから溢れ出して西斜面を流下したのです.登山道はこの溶 岩流が作った堤防の上についています.登山道脇のこの窪みの中には厚さが1m 以下の薄い緻密な溶岩が見られます. (7/17/98)

井村隆介(鹿児島大学・理学部)


Question #86
Q 先日、ハワイのキラウエア火山にいってまいりました。黒い溶岩を眺めているうちにふと気がついた のですが、日本の黒い溶岩と違います。なぜ、キラウエア火山の溶岩は緑色の光沢を持っているの でしょうか? 教えてください。 (6/8/98)

熊本のお姉さん:主婦:25

A
 これは困りました。私はハワイに行ったことがないし、緑色の光沢といって もそれだけではどんなものか想像がつきません。たまたま熱水変質を受けて、 緑色になった部分を見たのかもしれないし、ガラス質の溶岩の表面近くでの光 の散乱のために偶然緑色に見える溶岩なのかもしれないし、かんらん石の斑晶 を多量に含む溶岩で、その部分が緑色に見えるのかもしれないし、はたまた、 表面にコケ類や菌類がへばりついていて緑色に見えるのかもしれません。


 明るい緑なのか、暗い緑なのか、割った面が緑なのか、自然の面が緑なの か、緑色の粒が多量に入っていて緑に見えるのか、更に割っても中まで緑なの か、その辺の、もう少し詳しい観察がないと、私には、この質問には答えられ ません。大学にあるハワイの溶岩の標本は、普通の黒い玄武岩です。 (6/8/98)

石渡 明(金沢大学・理学部)


Question #51
Q 軽石を観察すると黄色や灰色など,色に違いがありますが,その色を決定する要因にはどの様なものがあるのでしょうか?また,この件について参考になるような文献がありましたら紹介して下さい。 (10/22/97)

K.F.:学生:22

A <噴出する溶岩の化学組成(ケイ酸分と鉄分などの量)によって,軽石の色が 黒や灰色から白っぽい色へと変化します.一般に,ケイ酸分の多い溶岩は鉄分 などが少なく,多孔質の軽石になると白っぽくなります.それに加えて黄色や 赤色などに見える原因について以下で簡単に説明します.>

恐らく一番影響があるのは軽石に含まれる鉄の酸化状態と思われます。軽石を 含んで,火山岩中で鉄は主に2価のイオンで存在すると考えられます。しか し,地表で大気酸素に曝されると酸化され3価のイオンに変化する場合があり ます。こうなると色調が黄色くなったり赤くなったりします。 文献はすぐには思いつきません。 (10/24/97)

大場 武(東京工業大学草津白根火山観測所)


Question #1217
Q 初めまして、授業で火成岩についてやったのですが、岩の色について教えてください
色は岩中の鉱物の石英、黒雲母、輝石、長石、角閃石、カンラン石の量に関係して決まるそうですが
その鉱物の色を出している物質、黒雲母だったらどんな物質が黒色、緑色の原因になっているのか
青色だったら銅とか赤だったら第二酸化水銀などを教えてください

(10/31/00)

会長:学生:14

A
 ある鉱物や岩石がどんな色を示すかは,様々な要因が複雑にからみ合って決まりま す.元素の種類だけでは決まりません.例えば,かんらん石や輝石は「有色鉱物」と いうことになっていますが,これは地球表層部のかなり酸化的な環境での話しで,例 えば隕石中のかんらん石や輝石は,地球に落ちてきた直後は真っ白です.地球上で色 が出る原因になっている元素は鉄で,鉄が少ないかんらん石や輝石は,地球の岩石で も淡緑色〜灰色です.流紋岩は鉄を含まない石英や長石が多いので,結晶質の場合は 白色の岩石ですが,ガラス質の場合は半透明で,岩石内部で光が吸収されてしまうた めに黒く見えます(黒曜石など).長石も微細な赤鉄鉱の包有物を含む場合は濃い赤 色になりますし(赤色花崗岩など).無色透明の長石でも,内部の細かな層状構造の ために光が干渉して青色に見えることがあります(月長石).放射線の照射によって も無色透明の鉱物に色がつくことがあります(黒水晶など).
 まとめると,通常の岩石を造っている鉱物(造岩鉱物)の色を決めている元素は何 かと言われれば,それは多くの場合「鉄」ですが,磁鉄鉱Fe3O4(黒色)または赤鉄 鉱Fe2O3(赤色)の細かい結晶を含んでいるために色が出る場合と,鉱物の結晶構造 の中に組み込まれている鉄イオンが色を出す場合とがあるということになります.も っと詳しく知りたい場合は,「地球色変化 〜鉄とウランの地球化学〜 叢書名:近 未来科学ライブラリ− 中嶋悟 近未来社」を読んで下さい. (11/1/00)

石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科)


Question #1747
Q 初めて質問します。浅間山ふもとに転がっていた石についてです。軽石のようにとっても軽く驚いてしまいました。でも色は市販の軽石のように白くなく、どちらかといえば黒や赤っぽい色でした。これは火山の噴火の時に出来るものなのでしょうか?火山の噴火といえばドロドロのマグマのイメージが先行しますが。またこの石は空気の穴がたくさんあるのですね。どうしてドロドロマグマがこのような軽い石までできるのか不思議です。こういった石は火山岩と呼ぶのでしょうか?つらつら書きましたが、浅間山で私が拾ってきた石について呼び方や特徴などを是非教えて下さい。出来ましたらメールアドレスまでお返事くださると大変助かります。 (06/07/01)

川口かえる:会社員:28

A
 かえるさんは浅間山で拾ってこられた石について,とてもするどい観察をなさいま したね.特に,たくさんの穴があることに目をつけられましたが,これには大きなヒ ントが隠されています.かえるさんが観察された“空気の穴”は,噴火の時に“ドロ ドロマグマ”の中に溶けこんでいたガス成分(大部分はH2O)がマグマから抜け出し てあぶくを作り,さらにそのガスがあぶくの中から空気中に逃げ出していった跡なの です.ですので,かえるさんの石は軽くて穴だらけだとは思いますが,火山の噴火の 時に出来た,れっきとした火山岩といえます.ドロドロのマグマが川のように流れる 噴火もありますが,あぶくだらけのマグマがばらばらに砕けて勢いよく噴き出す噴火 もあるのです.炭酸飲料の入った瓶の栓を開けた時に,あぶくがいっせいにできて, はじける様子を思い浮かべていただければよいかと思います.
 さて浅間山で拾ってこられた石の呼び名ですが,火山岩を化学的な性質から分けた 場合の呼び名としては,安山岩だと思われます.ふもとのどこで拾ったかにもよりま すが,浅間山の石の大半は安山岩なので,おそらくそうだと思います.
 また,噴火の時にマグマが砕けて固まったものの呼び名もいろいろあります.かえ るさんの石の場合は次のような理由でちょっと難しいです.火山学では,穴が多くて 白いものを“軽石”,黒いものを“スコリア”と呼びます.白いとか黒いとかの色の 違いは,マグマの化学成分の違いとだいたい対応していて,シリカ(二酸化ケイ素) 成分が多いほど白く,少ないほど黒くなります.例えば,有珠山の軽石は市販のそれ のように白いですが,富士山のスコリアはとても黒いです.ところが浅間山のマグマ は,化学成分が有珠山と富士山の中間ぐらいで,浅間山では焦げ茶や薄茶,あるいは ねずみ色の石が見つかります.そのような色の石を何と呼んだらよいか困るわけで す.さらにやっかいなことに,富士山と同じようなマグマが噴き出すハワイでは,黒 っぽいねずみ色のものが軽石と呼ばれています.山全体が真っ黒に近いハワイでは, ねずみ色は白く見えるということでしょうか.このような訳で,白と黒の中間色の時 は呼び方に困ってしまうのです.私自身は浅間山の穴だらけの石を研究しています が,いろんな色の石があるので,どちらかというと黒っぽい時はスコリア,ねずみ色 っぽい白の時は軽石と呼んでいます.なお,赤っぽい石はマグマ中の鉄分が酸化した ものと思われます.鉄錆びのようなものです. (6/12/01)

安井真也(日本大学・文理学部・地球システム科学科)


Question #1925
Q 黒いケイ素と酸素が結びつくとなぜ無色の石英になるのですか? (08/15/01)

ミッチ−:中学生:14

A (HPの管理の都合で掲載が遅れました)


 これはトンチ問題みたいですね.私の知識ではこの問題にまと もに答えることはできないので,問題の周囲を回るだけにしたい と思います.
 まず珪素が黒いかどうかですが,純粋な珪素の結晶は金属 光沢を持っていて,表面は「銀色」です.理化学辞典によると 結晶質のものは「暗青灰色」,無定形のものは「褐色」と書いて あります.鉄,銀,亜鉛などの金属元素に比べて,色が濃いこと は確かなようです.ただし,例えば炭素の結晶も,石墨(セキボク, グラファイト)は真っ黒ですが,ダイヤモンドは無色透明であるよう に,同じ元素でも結晶構造によって色は大きく変化します.
 次に酸素が結びつくと無色になるという点ですが,酸化物の 色は様々です.酸化アルミニウム,酸化マグネシウム,酸化 亜鉛などは白色ですが,鉄は酸化すると黒い磁鉄鉱になり, 更に酸化すると赤い赤鉄鉱になります.マンガンの酸化物も, 酸素とマンガンの割合によって,黒,緑,赤など様々な色を呈し ます.そもそも,酸素自身が必ずしも無色ではなく,例えば酸素 を冷却して液体にすると,青い色になるそうです.オゾンも酸素 だけでできているガスですが,やや青みを帯びていて,冷却固 化させると黒紫色になるそうです.
 要するに物質の色というのは元素の種類だけでは決まらず, 元素の結合の状態によって大きく変わります.これは,物質を通 過する(または反射される)光の性質は,その物質をつくる原子 の一番外側の電子に影響されていて,隣の原子との結合状態 を決めているのもこの外側の電子だからです.石英もわずかな 不純物の存在や放射線を照射することによって黒,紫,黄など 様々な色を呈します.物質の色の問題は不思議で,だれでも 疑問に思うことですが,きちんと説明するのは難しいことです.
 (10/11/01)

石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) 


Question #1922
Q ・一回の噴火で、どれくらいのマグマや火山灰が出るんですか。(量)
・火山灰にはなぜたくさんの色があるんですか。また何種類ぐらい色があるんですか。
・私達が調べた火山灰は磁石に少しくっつきました。火山灰の中にはくっつくような石が入っているんですか。 (10/17/01)

川俣小学校の子供たち。6年5名:小学生:12

A
 一回の噴火でほうり出される火山灰の量は噴火によってまちまちです.火山灰は, 噴火の時にマグマがちぎれてできた「かけら」や,古い岩がくだかれてできた細かい 「はへん」です.1991年6月にフィリピンのピナツボ山で起こった噴火でほうり出さ れされた火山灰の量は数立方キロメートルにもなります.火山灰は約40kmも上空に舞 い上げられました.火山灰には,空から降った火山灰と,山はだを「かさいりゅう (火砕流)」となって流れたものとがありました.2000年8月に三宅島で起きた噴火 では約千5百万立方メートルの火山灰が一回にほうり出され,火山灰は約15kmもの高 さまで舞い上がりました.世の中には火山灰をほとんど出さずにすむ穏やかな噴火か ら,火山灰をたくさん出す大きな噴火までいろいろあります.9万年もまえに起きた 阿蘇山の噴火のように,大きなカルデラを作る噴火では,一回で数十立方キロメート ルものたくさんの火山灰がほうり出されることがあります.


 かたまったマグマ(つまり溶岩のこと)の色は,もとのマグマの組成や冷えるはや さによって黒くなったり灰色っぽくなったりします.マグマが泡だっている場合に は,もともと灰色っぽい溶岩であれば白っぽくなります.例えば,リュウモンガンと いう溶岩はふつうは白っぽい色ですが,水の中などで急に冷えたものは黒っぽい色を しています.また,火山灰は高温で焼かれるとすぐに赤っぽくなる性質があります. 古い岩であれば火口のそばに長い間あれば焼かれて赤くなったり,イオウなどが付着 して黄色っぽくなっていることもあります.さらに,マグマの中には結晶が入ってい ます.マグマがちぎれてたり岩石がこなごなになって火山灰ができるとき,結晶だけ のつぶができることがあります.このばあいは,結晶の色がつぶの色です.このよう に,いろいろな色の火山灰があるのは,もとのマグマの組成がちがったり,冷え方が ちがったり,結晶の混ざりかたがちがったり,泡の割合がちがったり,いくつもの岩 のはへんが入っていたりするせいです.


 マグマが冷えると「じてっこう(磁鉄鉱)」という磁石の力を持った結晶が産まれ てきます.鉄をたくさん含んだ結晶です.磁石にくっついたのは,恐らく,火山灰の 中にあった磁鉄鉱のつぶでしょう.
 (10/18/01)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #1867
Q 夏休みに虻田町の火山科学館に行ってきました。
1977年の噴火の時の火山灰と2000年の火山灰が展示されていましたが、色も形も違います
これは噴火の種類の違いによるものでしょうか? 1977年の噴火はプリニー型、2000年はマグマ水蒸気爆発と聞いておりA1997年のものはマグマが多く、2000年のものは火口付近の不純物が混じり、水蒸気で細かな石になったもの思いますがいかがでしょうか? (09/19/01)

Issei:高校1年:15

A その通りです.火山灰の色や形,含まれる粒子の種類は噴火のタイプによって決まっ てきます.

1977年の噴火では大小様々な爆発が起こりましたが,そのうち軽石を降らせるような 大きな爆発は"プリニー式噴火"というタイプの噴火でした.このタイプの噴火では, マグマがそれ自身含んでいたガス成分によって発泡(カルメ焼きができる場面を想像 してみて下さい)し,爆発的に噴火します.そのときに吹き飛ばされる火山灰は,発 泡した"マグマそのもの"のしぶきが急に冷やされて固まったものがほとんどで,それ らは良く見ると細かい気泡をたくさん含んでいたり,ガラスのように尖っていたりし ますし,色はマグマの組成を反映した色(有珠のようなデイサイト質マグマでは白〜 灰白色)になります.

一方,2000年の噴火は,"マグマ水蒸気爆発"あるいは"水蒸気爆発"というタイプの噴 火でした.このタイプの噴火では,基本的にはマグマが地下水に接触することによっ て地下水が急に沸騰させられて爆発(線香花火の火の玉をバケツの水に落としたとき の様子を想像してみて下さい)します.このときに吹き飛ばされる火山灰の多くは, マグマの通り道や火口付近の地層が砕かれて混じり込んだ様々な物質からなります. そのため,良く見ると火山灰粒子には様々な色・形のものが入り交じっています.有 珠火山2000年噴火の灰の場合,1977年のものに比べて全体に黒っぽく(場合によって は赤茶っぽく)見えたのではないでしょうか?

なお,有珠火山2000年噴火の爆発の中では,一番最初の3月31日噴火だけは特別でし た.このときの"マグマ水蒸気爆発"では,火山灰のうち約半分も"マグマそのもの"が 含まれていました.このため,典型的な"マグマ水蒸気爆発"と"プリニー式噴火"の中 間的な性質を持つ噴火だったのではないかとの説が提案されています.

参考までに,"マグマそのもの"が固まったものは「本質物」と言い,混入物は「異質 物」とか「類質物」などと言います.火山灰を調べる時には,どの粒子が「本質物」 であるかを突き止めることがまず大事になります.
 (10/15/2001)

東宮昭彦(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)


Question #2451
Q 塾で理科の講師をしています。
理科は専門ではないので、まだ勉強中です。
私自身が疑問に思ったことは、子どもたちも疑問に思う可能性があるので質問します。
「大地の変化」の単元で、「マグマの粘り気が弱いと、火山噴出物の色は黒っぽい。
マグマの粘り気が強いと、火山噴出物の色は白っぽい。」とテキストに書いてありました。
どうしてマグマの粘性によって、火山噴出物の色が決まってくるのですか? (07/26/02)

塾講師:大学生:21

A
 マグマの粘り気と噴出物の色とは直接の因果関係はないので、質問の部分のテキス ト記述は正しくありません。「玄武岩には黒っぽいものが多く、薄く遠方まで流れた 溶岩(溶岩流)として見られることが多い。これに対して、流紋岩には白っぽいもの が多く、厚い溶岩の流れや盛り上がったドーム地形を作っていることが多い」という ことから生まれた誤解でしょう。例えば、厚みのある玄武岩溶岩はその中に細かい結 晶がたくさん含まれるために灰色をしています。黒曜石は流紋岩ですが黒っぽい色で す。この2例を見てもテキストの記述が正しくないことがおわかりいただけると思い ます。
 マグマの粘り気は液体部(メルト)の構造とそれに含まれる「固体や気泡部(結晶 や気泡)の量」に依存しています。メルトは結晶のように網目構造を持っており、そ の網目の変形の強さが「水の量」、「化学組成」、「温度」などによって大きく異な るために、粘り気が差が出てくるのです。水の量が多ければ粘り気は低下し、結晶の ような異物があれば粘り気は増加します。
 一方、噴出物の色は、溶岩の中に残っている気泡の量、結晶の量、ガラスの色など に依存します。これらの量は溶岩の冷え方や流れ方などに大きく依存します。ガラス の色は化学組成に依存します。鉄、マンガンなどがより多く含まれる玄武岩ガラスは 黒っぽくなります。
 テキストのように単純なものではないことがわかりましたか? (*一言メモ・・・「溶岩」とは地上やその付近にあるマグマやその固形物のことで す)
 (07/27/02)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター) --


Question #3193
Q この前父と群馬県の白根山に行ってきたのですが、湯釜はどうして酸性が強いのですか?sれで、どうしてエメラルドグリーンになったんですか?山肌が白いのはなぜですか? (11/04/02)

あやか:中学生:14

A
 湯釜が強酸性なのは,湯釜の底から熱水が湧いていて,それに塩酸(HCl),硫酸 (H2SO4)などが含まれるためです.これらの酸は,もともとマグマから発生した HClガス,SO2ガスが湯釜の地下で地下水に溶け込みできたものです.
 色がエメラルドグリーンなのは,湯釜の湖水に鉄イオンがとけていて,さらに硫黄 やいろいろな鉱物の微粒子が縣濁(ただよっていること)しているためだと思われま す.実際に湯釜の水を汲んで,光にすかしてみてもエメラルドグリーンではありませ ん.太陽光が湖水に入射するときに鉄イオンや微粒子の影響で「エメラルドグリーン の光」が反射して,われわれがその色を感じているのだと思います.これは海水が実 際には青い水ではないのに,天気が良いときは海が青くみえるのと同じ原理です.
 山肌が白いのは,草津白根山の噴火の際に地表に放出され降り積もった火山灰が白 っぽいためです.草津白根山の火山灰は,酸性の水と反応した岩石で構成されていま す.岩石は酸性の水に接していると,岩石に含まれている金属イオンが水に奪われ て,残りの岩石はシリカ(SiO2)の割合が増えます.シリカは白いので,岩石が酸性 の水と反応すると岩石は白っぽくなります.実はこれ以外にも複雑な現象がからんで いるのですが,概略としてはこのようなことです.地下で酸性の水と反応した岩石 が,噴火で地表に降り積もり山肌が白くなりました.
 (11/05/02)

大場 武(東京工業大学・火山流体研究センター) --


Question #2896
Q 先日箱根に研修旅行に行き、大湧谷というところでいろいろと実験をしました。そのなかで、白濁した水が流れている小川があり、そこの石がほかの石と違い、白や緑色をしていました。この白濁した水に何か影響を受けているように思うのですが、岩石のなかには、そのように色が変わるものがあるのでしょうか?もしそうだとしたら、それはどうしておこるのでしょうか?教えてください。よろしくお願いします。 (10/10/02)

パニックキャット:学生:16

A 大涌谷でどういう実験をしたのでしょうか? 今度ぜひ教えてください。さて、大涌 谷の表面にある岩石は神山や冠ヶ岳の溶岩が土砂崩れ等で流れてきたもので、とくに 変わった特徴のない安山岩です。大涌谷の表面を流れている水は酸性なのですが、岩 石がこの中に浸っていると、岩石の中に含まれる鉄やマグネシウムなどがとけて岩石 から失われてしまうのです。安山岩は灰色ですが、その「黒っぽさ」の原因は鉄にあ るようです。温泉に浸されて鉄が失われると、岩石は「白っぽく」なります。さて、 パニックキャットさんは「緑色」の岩石も発見されたようですね。私は大涌谷で緑色 の石を見たことがありません。というわけで、緑色の石に関しては回答できません。 申し訳ありません。もし、サンプリングなどをされているのであれば、まずは先生方 やお近くの博物館等にお問い合わせ下さい。
 (10/17/02)

萬年一剛(神奈川県温泉地学研究所)  --


Question #4135
Q 先日初めて富士山に登ってきました。そこでいくつか浮かんだ疑問が気になって仕方ないのでよろしくお願いいたします。河口湖方面から登ったのですが、下山時、日が昇って辺りが見えるようになってくると足下の石や山の肌が赤みを帯びていていることに気がつきました。これはスコリアが酸化したものと考えてよろしいのでしょうか。また、赤みを帯びた石に混じってかなり青み(緑色)を帯びた石もありましたがどうしてあのような色をしていたのでしょうか。 (08/14/03)

若葉登山者:会社員:28

A
 富士山に登ったことがある人なら、このような疑問を持つ方も多いかと思います。
 富士山の5合目より上の斜面には拳くらいの大きさの赤いスコリアが広く分布しています。これらのスコリアは粒子が大きいため高温状態を保ったまま地表 付近で空気と接し、中に含まれる磁鉄鉱などの鉄鉱物は酸化して赤色のヘマタイトという鉱物ができます。このような現象を「高温酸化」と言い、高温酸化し たスコリアは赤く見えます。同じくらいの大きさで黒いスコリアもありますが、これは厚いスコリア層の中心付近に堆積したもので、地表の酸素が達しなくて 高温酸化が生じなかったスコリアです。
 登山道沿いに見えるスコリアの多くは富士山の山頂から約2200-2300年前に噴出したものです。ただし、富士山でも東側斜面は一面黒色をしていま す。南東側ルートの御殿場口登山道を通って下山された方はピンポン球くらいの大きさの黒いスコリアが厚く堆積していて歩き易かったと思います。このスコ リアは1707年の噴火(宝永噴火)の噴出物です。宝永噴火は大爆発だったためスコリアが粉々に砕け、温度が低下してしまったため高温酸化が生じず、黒 色スコリアが作られました。
 「青み(緑色)を帯びた石」についてはどの石を指すのか判らないので正確にお答えすることができません。ただ、黒色スコリアは堆積後、内部の高温なガ スが吹き出し表面が再溶融して薄いガラスの皮が生じることがあります。太陽光がこのガラスに反射して緑がかって見える場合があります。黒色の溶岩でも同 様なことが生じるので、このようなスコリアや溶岩のかけらを御覧になったのかもしれません。
 (08/23/03)

宮地直道(日本大学・文理学部・地球システム科学科)