火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

噴火現象と噴出物・岩石・鉱物

到達距離・速度


Question #96
Q 岩手山の件ですが、6/25に臨時火山情報が出され緊迫した状況であると感じております。 危険箇所が大地獄谷周辺と言われており、万が一噴火した際には、岩手山北側の方が 危険に感じられますが、どうなんでしょうか?南側は鬼ガ城と呼ばれる尾根があり、北側よりは 安全な感じがしますがどうでしょうか。 (6/28/98)

齊藤博士:会社員:25

A
 岩手山が噴火するかどうかは,現段階では可能性は大きくなりつつあるとは 言えても,確実なことはまだ言えないという状況であるということを念頭にお いて以下をお読みください.


 さて岩手山が噴火するとして,現状ではもっとも可能性が高いのが大地獄付 近での水蒸気爆発です.水蒸気爆発では,規模にもよりますが,おそらく火口 周辺の岩塊や火山灰の放出が起こるでしょう.
 大地獄は西岩手カルデラと呼ばれるところにあります.西岩手カルデラの南 側の鬼ヶ城と北側の屏風尾根では,屏風尾根のほうがやや低く,岩塊を遮る効 果もやや低いと言えそうです.ただ大きな岩塊はそう遠くまでは届きません. 桜島などの観測では,巨大な岩塊の飛散する距離は最大でも4kmほどです.幸 い大地獄から最も近い集落までは,約5kmほど離れていますから,爆発で吹き 飛ばされた岩塊による被害は,山頂付近にいない限りあまり考えなくてもよい でしょう.
 ただ細かい火山灰は周辺に風によって運ばれますから,地形にあまり左右さ れず広い範囲で降灰すると思われます.また火口付近では火山灰が大量に堆積 し,土石流が発生する可能性もあります.西岩手カルデラからは,焼切沢が北 西方向に流れ下っていますから,噴火が始まれば,焼切沢の流域では土石流に 注意したほうがよいでしょう.


 火山災害は多くの場合地形に左右されます.特に溶岩流や火砕流,土石流は 地形の低い所つまり谷などを通ります.ですから予想される噴火口の位置と地 形を知ることができれば,危険が及びそうな範囲を推定することができます. 災害予測図(ハザードマップ)は,そのようにある火山について起こりそうな噴 火の種類と規模,火口の位置を推定してつくります.


 噴火が始まったときになにが起こりうるかは,地質調査などで過去の噴火を 調べるのが,役に立ちます.
 岩手山の過去の噴火活動について,地質調査所の伊藤順一さんがまとめられ たものが

http://www.aist.go.jp/GSJ/~jitoh/opn/iwate/index.html

にあります.

(6/29/98)

川辺禎久(工業技術院・地質調査所・環境地質部)


Question #370
Q はじめて質問します。よろしくお願いします。
火山噴出物についてなのですが、火山からどれくらい離れた位置では、どれくらいの大きさの噴出物が、どれくらいの速度で被弾する。といった想定データというのは何かありますか。(もちろんケースバイケースなのでしょうが、、、、、、)
私は建築設計をしており、浅間山の南東約10キロの位置(中軽井沢付近)に病院の計画をしております。病院という建物の性格上、ある程度の噴火時にも機能を確保しなければならないため、ガラス窓等に被弾対策を施さなければならないと考えています。
とはいうものの、どれくらいのものが飛んでくるのか想定しないと対策もできないので、何かヒントがあればお知らせ下さい。
「ここに聞きなさい」とか「これを読みなさい」といったお答えでもかまいません。
よろしくお願いします。

(01/04/00)

漆間 一浩:建築設計:31

A
 実際のデータに基づいて主に噴石の大きさや種類についてお答えします.1900〜60 年頃の浅間山は頻繁に爆発を繰り返しましたが,1935年4月20日の爆発の調査では, 火口から3km以内で50cm-1m以上の岩塊(見かけの密度が最大2500kg/m3程度の緻密な 安山岩)が多数発見されました.これらの17個について落下地点,落下角,射出角な どに基づいた落下速度が133-198m/s (空気抵抗を考慮した場合) と見積もられていま す.しかし火山灰が降下した東南東側では,火口から15-20kmの距離にも10cm程度の 岩塊が発見されました.径が小さい噴石は空気抵抗や風の影響を受けるので挙動の詳 細を決めるには難しい点が多くあります.1973年の爆発では,火口の東南東方向で 降ってきた石の最大直径が,峯の茶屋 (火口距離4.4km) から塩壷付近(7.5km)の範 囲で20cm,横川3cm (20km),安中1cm (35km)でした.この時は,軽井沢町で噴石の落 下によりフロントガラスが割れた車が5台あった他,屋根・壁の破損,電話線・電灯 線の断線が起きました.噴石の温度が高い場合には,山火事や家屋の火災(1920年代 には東北東6kmの分去茶屋が焼失)なども起きます(以上,水上, 1940; 村井, 1974 等による).
 一方,天明3年クラスの噴火の場合はさらに大きな被害が予想されますが,1900年 代の活動とは事情が少し異なります.それは過去の大噴火の地層を調べると発泡のよ い軽石(見かけの密度が500-1200kg/m3程度)の層が出てくるので,次の噴火でも軽 石が降ってくる可能性が高いためです.現在,塩壷温泉付近(南東7.5km)では軽石 の最大直径が約6cmの天明3年の軽石層 (厚さ12cm) が認められます.天明の時は噴煙 が上空の風で東南東方向へ強く流されたので塩壷付近より北方で大量の軽石が降りま したが(現在,万山望付近で厚さ1.7m以上),古文書によると少量の軽石や石が中軽 井沢にも降ったようです.中軽井沢駅の北方800m付近では平安時代や5世紀の軽石層 が見つかるので,天明以前の噴火でも同じように軽石が降ったことがわかります.こ のような軽石層には平均的な軽石より桁外れに大きい軽石が時々入っています.天明 の場合は,南東4kmの大窪沢付近で60cm位,東南東13kmの熊野神社付近でも10cm位の 大きい軽石が見つかります.噴火当時の軽井沢宿での焼石による焼失家屋は約50軒と みられています.軽石は衝突の衝撃でそれ自体が割れやすいこともあり,衝突による 破壊力は大きくないと思われますが,大きい軽石は火災の原因になる可能性がありま す. (1/6/00)

安井真也(日本大学・文理学部・地球システム科学科)


 火口から10 km も離れている中軽井沢では,落下角はほとんど垂直に近いと推定さ れます(風が強ければその分だけ斜めに落下しますが).したがって窓ガラスは余り 問題ではなく,屋根の強度が問題になります.通常の強度で充分であるとは思います が.屋根の強度の問題は,降下火砕物物の量に直接関係し,有珠火山1977 年噴火の 例では,わずか40cm 軽石が堆積しただけで,ラーメン構造の陸屋根が変形しまし た.しかし屋根が破壊する前に人々は避難すると思います.
 一方,衝撃波(空振)による窓ガラスの破壊がかなりの被害を与える可能性があり ます(国土庁,1992参照).中軽井沢ではかなりの被害実績がありますが,私の個人 的データ(未発表)によると,破損は複雑な要素によって決定されるようです.コン クリートに直接固定されたガラスが最も破損しやすいようです.鬼押し出し園駐車場 における被害実績が参考になります.
 天明クラスでも空振が重要だと思います.建物が振動して,重しの石が屋根から落 ちるという古文書の記述が多く,これは空振によるものと思われます.
  国土庁;火山噴火災害危険区域予測図作成指針,1992 (1/6/00)

荒牧重雄(日本大学・文理学部・地球システム科学科)


Question #1014
Q 静岡の友人と話しをしていて、もし富士山が噴火した場合、火山弾はどこまで飛ぶかと議論して結論が出ませんでした。
約3600mの山頂から8000m上空まで45度の角度で噴出したとしても、空気抵抗を無視して約20Km、初速度は秒速400m超です。
頭に当たると危険な大きさの火山弾は、実際どの程度離れたところまで飛ぶのでしょうか? (09/12/00)

Anonymous:ガラス技工:30

A 直径64mmより大きな岩が火山から飛んできた時に,それを火山岩塊と呼びます.また ,火山岩塊のうちで特徴的な形や内部構造(紡錘状,パン皮状など)をしたものを火 山弾と呼びます.このような大きな岩は,富士山に限らず,どこの火山でもおおよそ 5km以上飛ぶことはめったにないことが,経験上わかっています.

火山弾・火山岩塊は,その大きさ(>64mm)からわかるように,例外なく頭に当たれ ば危険です.一方,それより小さい火山礫(直径2〜64mm)であっても,頭に当たれ ば致命的な場合が当然あり得ます.この程度の大きさのものは,噴煙にのって上空高 く舞い上がった後に風に流されて落ちてくる場合がありますから,とくに風下におい て5kmをはるかに越えた範囲に落下することがあります.どこまで飛ぶかは,噴煙高 度,風力,岩の密度などによって違ってきます.たとえば,1707年富士山宝永噴火で は,直径2cmの岩片が20km程度風下に飛びました.

実際にどの程度の大きさの岩片が頭に致命傷を与えるかは,医学的な専門知識がない のではっきり答えられません.しかし,たとえば直径5cm,密度2500kg/立方mの岩片 の空気中の終端速度は毎秒数十mとのデータがありますので,そういうものが降って くる場所には行きたくありませんね. (9/28/00)

小山真人(静岡大学・教育学部・総合科学教室)


Question #3875
Q 溶岩の速さは、どのくらいなのですか?噴火のしかたで速さは、違うんですか?また、そのときの平均とかはどのくらいなのですか?あとマグマとか溶岩の温度を教えてください! (02/20/03)

川瀬里奈:小学生:12

A
 例えば、丸善から出版されている理科年表をみてみると、実測された溶岩の温度は 摂氏で約850から1200度程度までです。マグマとは地下にある状態ですから、冷えて おらずさらに高温であると考えられます。例えば、月の表面を作っている溶岩を実験 室で溶かすと約1400度でさらさらのマグマの状態となります。溶岩の流れる平均の速 さがどれだけかと言うことは簡単には言えません。その速さは溶岩の粘り気と斜面の 傾斜に大きく左右されます。火口を出た瞬間は時速数十キロメートルで流れていたも のでも、冷えて粘り気が増えるほど遅くなり、ついには止まります。アフリカの玄武 岩火山では流れる溶岩から車でも逃げるのが難しかったと言われています。ここでは 時速60km以上にもなったのでしょう。粘り気のある流紋岩などでは1日でも最高 でも数10mしか前進しないこともあります。
 (02/22/03)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター) --