火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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小中学生から多い質問

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

噴火現象と噴出物・岩石・鉱物

花崗岩


Question #57
Q 初めて質問します。 先日屋久島に登山に行ったのですが、その屋久島に関して2つ質問させて下さい。 1。数千年前に、島を覆い尽くすような火砕流が海を越えてやってきて、
  屋久島を襲い植生の大部分を焼いてしまったという話を聞いたのですが、
  本当でしょうか?  2。屋久島の山体の大部分を構成する花崗岩は、異様に大きな長石(?)の結晶が
  ごろごろしていました。「屋久島花崗岩」などと呼ばれているらしいのですが、
  通常の花崗岩と、その生成プロセスにどのような違いがあったのでしょうか? 以上、よろしくお願いします。 (11/22/97)

山好きな人:会社員:27

A (1)ちょうど今開聞岳周辺の地質調査を行っているところです.天気が良い 日は屋久島が海の上に見えます.屋久島の右手,屋久島からは北西の方向に2 つの島影が見えます.竹島と薩摩硫黄島です.この二つの島は屋久島を約6300 年前に覆った火砕流が噴出してできた鬼界カルデラの縁にあたる島です.鬼 界カルデラは大部分が海面下にありますが,ここから噴出した幸屋(こうや)火 砕流は雲仙・普賢岳の火砕流の1000倍にも達しようかという量で,屋久島や, 鹿児島県南部を広く覆いました.この火砕流の中には火砕流の熱で蒸し焼きに された木片をあちこちで見ることが出来ますから,当時の植生に大きな影響を 与えたことでしょう.薩摩半島南部の被災地域では,幸屋火砕流の上下で縄文 式土器の様式が異なり,当時住んでいた縄文人の社会にも大きな被害をもたら したようです.なおこの火砕流噴火と同時に吹き上げられた細かい火山灰(ア カホヤ火山灰)は,日本の広い範囲に降り積もり,約6300年前を示す地層の中 のマーカーとして,地質学,考古学の分野でよく使われています.(川辺禎 久) (11/23/97)

(2)マグマの性質と冷却の仕方によって,同じ種類の結晶でも成長の仕方が 異なります.例えば,マグマが急激に冷えた場合には,細かい結晶が数多くで き,ゆっくり冷えた場合には大きな結晶だけが数少なく育ちます.屋久島花崗 岩に大きな結晶として見られるようなカリ長石は,水を多く含んで珪酸分に富 むマグマを適当な条件で冷やしてやると,非常に大きく成長します.このた め,屋久島の花崗岩が,特に,他の花崗岩と大きく異なる環境で生成されたと いうことではないようです.(中田節也) (11/24/97)

川辺禎久(工業技術院・地質調査所),中田節也(東大・火山センター)


Question #54
Q 高校の授業で、マグマの分類の一つの方法として二酸化珪素の濃度による分類を学びました。それによると、玄武岩質マグマ(二酸化珪素45−52%)・安山岩質マグマ(52−66%)・流紋岩質マグマ(66%以上)となっていたのですが、他の一般向けの火山の書籍を読んでいた所、同じ方法に基づくと思われる分類で石英安山岩質マグマというのが出てきました。このマグマと前述の3種類のマグマの関係について説明して下さい。よろしくお願いします。 (11/13/97)

地学選択の高校生:高校生:17

A 中学・高校ではご質問のような火山岩およびマグマの分類が教えられていると 思います.また,それらに対応する,斑れい岩,閃緑岩,花崗岩という深成岩 の岩石名も覚えておられると思います(忘れていたら,逆順に「かこ」んで 「せん」こう,「はん」ごろし.と覚えましょう).おっしゃるように,二酸 化珪素の濃度によるマグマの分類は研究者の中でもよく用いられていますが, 中学・高校で教えられるよりももっと細分されています.その細分された分類 の上では,”石英安山岩”は現在ではデイサイトと呼ばれています.雲仙普賢 岳で1991年に出現した溶岩ドームもこの石でした.デイサイトの二酸化珪素濃 度は,細分された分類上での安山岩と流紋岩の中間の量です.日本のものでは 63−72%程度です.ただし,アルカリ元素の量(Na2OとK2Oの総 和)が約7%程度より多い岩石は粗面岩または粗面デイサイトと呼ばれていま す.なお,デイサイトの岩石名はルーマニアのDaciaの地名にちなんでいます .日本で石英安山岩と呼ばれたのはデイサイトの日本語訳として明治時代に地 質調査所で使われたのが最初です.しかし,この岩石名は石英の”斑晶”を含 む安山岩(実際のデイサイトは含まないことが多い)という意味と誤解される ため,現在では使われません. 新版地学事典(平凡社,1996年刊行)の別冊31ページに上記の関係を示 した図があります. (11/19/97)

三宅康幸(信州大学・理)


Question #63
Q 大陸地殻を形成している岩石が花崗岩と言う事を授業で習いました。また、花崗岩は玄武岩質マグマの結晶分化作用で作られる事も習いました。しかし、この2つの事と同時に、大陸地殻に存在する大量の花崗岩全てが玄武岩マグマの結晶分化作用で作られたのではないと言う事も習いました。それでは、一体どのようなプロセスを経て、大陸地殻を形成している花崗岩は作られたのでしょうか?授業では、明確な説明がなされなかったのでよろしくお願いします。ただ、花崗岩化作用なる物が存在すると言う事だけ先生から聞き出せました。 (12/21/97)

地学選択の勇気ある高校生:高校生:17

A
 学校では大陸地殻は上部を占める花崗岩層と下部を占める玄武岩層からでき ていると習いますが,大陸地殻がどのようにして形成されたかは,まだはっき りとは解明されていません.また,花崗岩層の平均組成は「花崗岩」というよ りは安山岩(あるいは閃緑岩)に近いものです.
 大陸地殻の大半を占める安定地塊は始生代などの古い時代に形成されたもの です.始生代の地球の温度構造は現在とは大きく異なっており,地下増温率も 現在よりは高かったと考えられています.そこでは海洋プレートの沈み込むに よって,直接,安山岩質のマグマができる可能性や,沈み込む海洋プレート (玄武岩)自身が融解して,安山岩やデイサイト(安山岩と流紋岩の中間的な もの)マグマができる可能性などが指摘されています.
 花崗岩化作用は,大陸地殻が侵食されてたまった堆積岩などが,融解しない で直接花崗岩になるというモデルです.大陸地殻形成にはマグマが関与してい るはずですから,花崗岩化作用は地殻形成には直接は関係がないでしょう. (12/21/97)

中田節也(東大・火山センター)


Question #191
Q 火山の質問箱をはみ出すのかも知れませんが、学校以来、あの火山岩−半深成岩−深成岩(縦軸)と珪長質−苦鉄質(横軸)の表を何回も 見る機会があります。そこで質問ですが、火山岩の代表として安山岩、深成岩の代表として花崗岩が日本全体ないし県規模の地質図では地表 分布面積が多いようにおもいます。安山岩は地表火山熔岩として地質時代も噴出していたというのはわかるような気がしますが、一方、広大な 面積や点分布をしている花崗岩は、地下深所(10〜15kmぐらい?)でゆっくり冷却したと理解しています。とすると、花崗岩はどういう理由で地 表火山になれなくて地下深所にとどまったものなのでしょうか。また、現在花崗岩が冷却生成中の場所の見当がついているのでしょうか。また、 地殻変動・隆起浸食作用で花崗岩を現在、地質図の地表地質としてみているのでしょうか。 (2/5/99)

市井では地質の”プロ”と称して生計を立てているおじさん:会社員:45

A
  広義の花崗岩(花崗閃緑岩や石英閃緑岩を含む)は,全く独立した深成岩体とし て産する場合もありますが,火山・深成複合岩体として産する場合も多く,例えば 「コールドロン」がその例です.コールドロンでは,溶岩や凝灰岩からなる成層火 山のカルデラ状陥没体の中心部や,環状の陥没断層に沿う周縁部に花崗岩類が貫入 しています.これは,火山体を形成したマグマ溜まりそのものが,地下数kmの浅い ところまで上昇してきたことを示します.例えば,米国カリフォルニア州のLong Valley Caldera (長径30km)の中心部には再生ドームがあり,その直下数kmには 「現在冷却・生成中の」花崗岩体の存在が推定されています.大きなカルデラをも つ安山岩〜流紋岩質の火山の下には,必ず花崗岩体が形成されつつあると見てよい でしょう.


 「花崗岩はどういう理由で地表火山になれなくて地下深所にとどまったものな の」かはわかりませんが,マグマにとっては,地表に噴き出すよりも地下にいる方 が楽(エネルギーが少なくて済む)でしょう.しかし,そればかりでなく,実際地 表に火山体を作ったけれど,それが既に侵食されてしまった場合も多いと考えられ ます.例えば,九州の大崩山コールドロンでは,火山岩は一部残っているのみで, 基盤岩に貫入した花崗岩体や環状岩脈が広く露出しています.しかし,前述のLong Valleyや愛知県の設楽コールドロンでは,まだ花崗岩は露出していません.これは 単に侵食・削剥のレベルの違いであると思われます.飛騨山地では約100万年前に 形成された花崗岩体が既に地表に露出している例が知られており,これは世界で一 番若い花崗岩体として有名です.侵食速度は結構速いのです.日本の花崗岩の多く は5000万年〜1億年前のものですから,既に火山体は完全に侵食され,深成岩体が 地表に出ていても不思議はありません.


 なお,花崗岩の貫入深度は,接触変成帯の鉱物組合せで,ある程度判断できま す.通常の泥質岩に菫青石が多く出てざくろ石があまり出ない接触変成帯を持つよ うな普通の花崗岩体は,だいたい地下10kmより浅いところに貫入したと見てよい でしょう.一方,ざくろ石が多くて菫青石がほとんどなければ,それより深かった と考えられます.ざくろ石と菫青石が共存している場合,温度が同じなら,圧力が 高いほどどちらも鉄が少なくなり,マグネシウムに富む傾向があります. (2/8/99)

石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科)


Question #1388
Q マグマの結晶分化についてご教示ください。教員をしておりますがkにマグマの結晶分化を教えるのが大変難しい。温度が下がるにつれ晶出してくる鉱物に規則的な順序があります。カンラン石→輝石→角閃石→黒雲母里最後に石英の順といわれていますがK則性を支配している法則性を知りたいのです。有色鉱物は]酸塩のネソ→1重鎖イノ→二十鎖イノ→フィロとなり四面体がx降下により単独からより重合していくのは納得します。しかしF鉱物のテクト珪酸塩である石英は最後の最後に晶出するので上の理屈でも合うのですが炎迴oします。上手く説明できません。生徒にわかりやすく説明する方法はないでしょうか。

 もう一つ。花崗岩は昔のマグマ溜が地表に露出したものだと思います。火山の地下にはマグマ溜があるはずなので}グマ溜は火山前線の地下に分布していると考えられます。そうすると白亜紀の花崗岩の分布から当時の火山前線、つまり当時の海溝の形を推定することができR前線との比較からプレ−トの運動の変化の様子が推定できるかなと思うのですが如何でしょうか。 (12/31/00)

迷える親父:教諭:53

A (1つ目の回答) まず、カンラン石→輝石→角閃石→黒雲母そして最後に石英の順ではありません。カ ンラン石→輝石→角閃石→黒雲母は鉄やマグネシウムを含んだ有色鉱物についての系 列で、これとは別に斜長石→石英→(カリ長石)という無色鉱物の系列があります。 また、こうした晶出順はいわば単純化されたきわめて概念的なものであり、いつでも こうなるというものではありません。鉄に富む還元的な雰囲気では珪酸分に富んだマ グマから鉄に富むカンラン石が石英と一緒に晶出しますし、水に乏しいマグマからは 角閃石は晶出しません。またカリウムに乏しいマグマからは黒雲母は晶出しません。 したがってこうした順序から法則性といったものを導き出すことはあまり意味がない かもしれません。こうした鉱物の晶出順序は基本的にマグマの組成に依存していると いえます。マグマの温度が低下すると結晶化が進行し、残液の組成は変化していきま す(結晶分化作用といいます)。カルクアルカリ系列とよばれる組成のマグマでは、 分化が進むと残液の組成は珪酸分に富むようになります。御指摘のように、珪酸分に 富むようになると四面体([SiO4]4-)の重合度が増すので、ネソ珪酸塩→一重鎖イ ノ珪酸塩→二重鎖イノ珪酸塩→フィロ珪酸塩と重合度の大きな珪酸塩が出来やすくな るでしょう。また、他の成分に対して珪酸分が十分に多くなると重合度が大きくて珪 酸だけからなる石英が長石とともに晶出するようになります。何れにしても鉱物の晶 出順は温度のみならず水なども含んだマグマの組成に大きく依存します。カンラン石 →輝石→角閃石→黒雲母といった晶出順序を一般的な法則であるとして絶対視しない 方が無難といえるのではないでしょうか。 (2つ目の回答) 御指摘の通りです。ある時代の花こう岩が出現しなくなる線を結んでいけば、当時の マグマ(火山)前線が描けます。こうしたマグマ前線の移動から過去のプレート運動 を復元するという仕事はごく普通に行われています。 (01/15/01)

高橋正樹(茨城大学・理学部・地球生命環境科学)


Question #1352
Q 初めて質問します。先日私の研究室の教授から<花こう岩を研究するのはなぜか?>という質問がありました。
地質学を専攻しているのですがその問題はあまりにも簡単なようで難しいです。自分なりに考えたのですが他の
意見も聞きたいので考えを教えてください。また火山との関係からの意見も聞きたいです。 (12/18/00)

MAKOTO:学生:21

A よい質問を受けましたね。まずは自分で考えてみるのが一番ですが、あくまで参考の ために私の意見を少しだけ述べてみます。
 花こう岩は花こう岩マグマ(珪長質マグマ:珪酸分に富んだマグマ)が地下でゆっ くりと冷えて固まったものです。すなわち、固まる前は一種のマグマ溜りだったわけ です。したがって、花こう岩を調べると珪長質マグマ溜り内でどのような現象が起き ていたのかがわかるかもしれません。実際、浅い場所に貫入した花こう岩は火山岩を ともなっていることが多く、大量の火砕流の噴出によって形成された大規模なカルデ ラの底部で形成されたと考えられているものが結構あります。また、花こう岩は珪長 質マグマが地殻内を移動し貫入して形成されるわけですから、花こう岩の貫入メカニ ズムを調べることで、珪長質マグマが地殻内部をどのように輸送されるかがわかるか もしれません。さらに、大陸地殻の上部地殻とよばれている場所は大部分花こう岩で 出来ていると考えられていますので、花こう岩の成因を調べることは大陸地殻の形成 プロセスを明らかにすることにつながっていくと思います。
 さて、あなた自身の考えはどうでしょうか。 (12/22/00)

高橋正樹(茨城大学・理学部・地球生命環境科学科)


Question #2478
Q 先日、立山カルデラの質問をしたものです。体験学習会の日は快晴で非常に有意義でした。ところで私は関西に住んでいて六甲山によくいくのですが。六甲花崗岩は浸食を受けると岩石に含まれる鉄が酸化して溶け出して茶色っぽくなるように思うのですが。立山の花崗岩は緑っぽい色に変色しているような気がします。これはどうしてなのでしょうか…。 (08/12/02)

青葉マーク1号:教員:40

A
 体験学習会は天候に恵まれ,有意義だったそうで,よかったですね.立山カルデラ 内に露出する花崗岩は,地質図によるとジュラ紀の船津花崗岩類で,一部は変成作用 や変形作用(マイロナイト化)を受けています.緑っぽい色はおそらく緑簾石(りょ くれんせき:鉄・カルシウム・アルミニウムに富む珪酸塩)の色で,変成作用を受け た花崗岩中に散在していたり,石英と一緒に幅数cm程度の緑色の脈として花崗岩を 貫いたりしています.飛騨山地一帯に広く分布する船津花崗岩類には,緑簾石がごく 普通に含まれており,露頭で黄緑〜緑色を呈するものも多いです.
 六甲山の花崗岩は白亜紀末期のもので,船津花崗岩類より1億年程度新しい時代の ものです.そのためか変成作用はほとんど受けておらず,緑簾石もあまり見られませ んが,仰るように「深層風化」が進んでいて,地表付近のものはほとんど真砂(マ サ)化しています.これが原因で,兵庫県南部地震の時は六甲山の山腹に多数の斜面 崩壊が生じました.私は昨晩ある会合に招待され,六甲山の山頂でバイキングを食べ てきましたが,あの曲がりくねった道路や急斜面に立つレストランの下に深層風化し た花崗岩があると思うと,ちょっと心配でした.その時ご一緒した神戸大学の先生 は,「学生を六甲山に連れて行っても,新鮮な花崗岩を見せることができないので残 念だ」と仰っていました.
 (08/12/02)

石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) --


Question #3878
Q 花こう岩が貫入して接している泥岩などは接触変成岩になることを習いました。そのとき貫入岩体としての花こう岩の中心付近はゆっくり冷えるので、花こう岩になるとは思いますが、泥岩と接している貫入岩体の部分は、急冷されるので流紋岩になるのでしょうか?それとも、花こう岩は底盤として存在するので、その場所の地温が高くて接しているところは急冷されず、ゆっくり冷やされて花こう岩になるのでしょうか。 (02/21/03)

うみぞう:高校生:17

A
 これは花崗岩体のサイズにもよりますが,接触変成帯があまり発達しない小さな岩 体の場合でも噴出岩(火山岩)の典型的な「流紋岩」と全く同じような岩石にはなり ません.流紋岩は一般に石英や長石の「斑晶」がガラス質または微晶質の「石基」に 埋まっている組織をしていますが,花崗岩体の周縁相は石基の結晶がかなり成長して いたり,全体が細粒結晶の集合体になっていたりすることが多く,「流紋」(流れの 模様)も見られません.接触変成帯が発達する大きな花崗岩体の場合は,周縁の境界 近くまで粗粒な花崗岩のことが多いですが,周縁部では「アプライト」や「グラノフ ァイアー(文象斑岩)」といった白色細粒な岩石の岩脈が粗粒な花崗岩や周囲の母岩 の中に貫入していることがよくあります.特に花崗岩体が石灰岩に貫入した部分では こうした岩脈が多く,境界部付近には珪灰石,灰鉄輝石,ベスブ石などの鉱物や銅・ 亜鉛・鉄などの鉱石が形成されていることがあります(「スカルン鉱床」).日本国 内は至るところに花崗岩体があるので,是非近くの露頭に行って,実際に花崗岩体の 周縁部がどうなっているのか,ご自分で観察されることをお勧めします.関東なら丹 沢山地や甲府盆地周辺,関西なら京都東山や六甲山周辺に見所がたくさんあります.
 (02/22/03)

石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) --


Question #5414
Q はじめて質問します。
私は宮崎県の出身です。理科の教師を目指していることもあり、大学のお正月休み中に前から気になっていた地元の“大崩山・行縢山・可愛岳”の形成について調べることにしました。しかし、地元の図書館に行ってもそれほど多くの資料もなくインターネットで調べても得たい情報が得られません。ぜひ、私の質問にお答え下さい。

1.花崗岩と花崗斑岩とはどうちがうのですか?

2.花崗岩の貫入により大崩山が形成されたのち、花崗斑岩の貫入によって行縢山・可愛岳などの環状岩脈(リングダイク)が形成されましたが、その形成について調べていたら1種のカルデラであると出てきました。阿蘇のカルデラは負の重力異常により形成されたカルデラであるが、大崩山のカルデラは正の重力異常により形成されたカルデラで“バリアス式カルデラ”とも呼ばれるとも書かれてありました。このバリアス式カルデラとは一体どんなものなのか、またどのように形成されるのかいまいち分かりません。あるものにはカルデラの落下を引き起こした円筒形の断層に、マグマが進入して環状岩脈ができたとも書かれてあり、一体どうなっているのかさっぱりです。

3.大崩山はすべて花崗岩ではなく、途中8合目辺りから四万十地層がありますが、これは四万十地層群が始めあった所に花崗岩が貫入したからこうなったと考えてよいのでしょうか?

ぜひ、教えてください。 (01/12/04)

さくら:高校生/大学生:18

A まず入手可能な日本語の文献として以下のものがあります.

(1) 高橋正樹著「花崗岩が語る地球の進化」シリーズ自然史の窓7 岩波書店(1999) 147P:一般向けの本で第4章「花崗岩が生まれた現場を歩く」で大崩山花崗岩の解説がしてあります.大きな図書館に行けばこのシリーズの本は置いてあ ると思います.
(2) 奥村公男・酒井 彰・高橋正樹・宮崎一博・星住英夫 著 地域地質研究報告 5万分の1地質図幅「熊田地域の地質」工業技術院地質調査所(現・産業総合研究所) (1998) 100p:詳しい地質解説と地質図がついています.

質問1:花崗岩は粗粒等粒状(鉱物の粒が粗くて大きさが同じくらい)ですが,花崗斑岩は大きな結晶(斑晶といいます)とその間を埋めたやや細粒の結晶 (石基といいます)からなります.斑状なので花崗斑岩といいます.花崗岩とくらべて,より急冷した条件下でマグマから結晶化した岩石です.
質問2:カルデラは地形的な用語なので,地形的にへこんでいないと使えません.カルデラのうち陥没カルデラの仲間にバイアス(Valles)型カルデラ というのがあります.バイエス型とよぶこともありますが,もともとスペイン語なのでバイアスが最も原語読みに近いと思います.バリアスではありません. バイアス・カルデラはアメリカ合衆国西部にある大規模なカルデラで,環状の割れ目に沿ってカルデラの内側がピストンシリンダーのようにスポッと抜けたよ うに陥没したカルデラであると考えられています.環状割れ目からは陥没の後に溶岩ドームが噴出して,やはり環状に並んで配置しており,地下では環状の岩 脈を形成していると考えられています.こうしたカルデラが後の時代に隆起浸食を受けると,山岳地帯にカルデラの地下構造が露出するようになります.こう したカルデラの地下構造は陥没構造はありますが全体としては隆起して山を作っているので,地形的なカルデラとはよべません.そこでこうしたものをコール ドロンとよんで区別することが一般的です.大崩山岩体の環状岩脈はこうしたコールドロンの一部を構成しています.バイアス型カルデラは負の重力異常を示 しますが,過去のカルデラであるコールドロンはカルデラを埋めた軽い堆積物が失われていることが多いので,必ずしも負の重力異常を示すとは限りません. ただし,現在の大崩山花崗岩付近は負の重力異常を示しています.これは花崗岩体が周囲の岩石よりも軽いためと思われます.大崩山岩体では,最初に花崗斑 岩が貫入し,最後に花崗岩体が貫入しています.花崗斑岩の環状岩脈が後ではありません.
質問3:その通りです.よく観察していますね.大崩山では花崗岩体の水平な天井部がよく残されています.四万十層の堆積岩中に頭部の平たい花崗岩体が貫 入したためにこうした構造が残されているのです.ここでも堆積岩よりも花崗岩が後から貫入しています.
 (1/13/04)

高橋正樹(日本大学・文理学部・地球システム科学科)