「堆積作用の速度」という用語をどうとらえるかによりますが,これを「堆積速度」
と解釈した場合,火山砕屑性堆積物中のglass shardsの存在や,それが保持されてい
ること自体は,堆積速度の速さを示す直接的な証拠にはなりません.glass
shardsは,地表に噴出したマグマが”急冷”されることによって出来ますが,この成
因と堆積速度との間には直接的な関係はありません.また,glass shardsは風化に弱
いため,glass shardsを含む堆積物は,非常に新しいか,風化や浸食を被りにくい環
境下(例えば深海底や湖底など)で形成されたことを示します.しかしこれらのこと
も堆積物の堆積速度とすぐには結びつきません.むしろ,深海底や湖底の堆積速度
は,通常は非常にゆっくりです.
ただし,ご質問の中の「火山砕屑性堆積岩」という用語がちょっと気になります.
「火山砕屑性堆積岩」(〜つまり凝灰岩)は,泥岩や砂岩といった堆積岩に比べては
るかに大きな堆積速度を持ちます.凝灰岩が2地点間をつなぐ鍵層としての役割を果
たす事ができるのは,凝灰岩自身の異常な堆積速度の速さが,地質学的な同一時間面
を広域的に作り出すことが出来るためです.通常,凝灰岩は露頭で容易に識別するこ
とが出来ますが,堆積物の産状や露頭条件によっては,野外で凝灰岩か泥岩かを瞬時
に識別することが困難な時もあります.そんな時は,堆積岩中にglass shadeがある
かどうかを調べます.もしglass shardsが中に多量に含まれていれば,その堆積岩が
形成された当時は,普通の砂や泥に混じって火山性の砕屑物もその場に供給されたこ
とになりますから,「glass shadeを含む(火山砕屑性)堆積岩は,他の泥岩や砂岩
に比べて堆積速度が急速であった」と言えるかもしれません.でもこの場合も,
glass shadeの存在は,砂や泥以外に火山性の砕屑物も供給されたことを判断するた
めに用いたのであって,堆積速度の速さを直接示している訳ではないことに留意して
ください.
それから,「glass shards」という用語ですが,せっかく疑問をもたれたのですか
ら,これを機会にいろいろな教科書や文献を読んでみると良いと思います.「glass
shards」を手持ちの辞書で調べると”直径2 mm以下の角張ったガラス質の粒子”と書
いてあります.粒径の定義に留意すれば,「glass shade 〜 火山ガラス」としてよ
さそうです.
(05/06/03)
大野希一(日本大学・文理学部・地球システム科学科)
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