火山灰の鉱物同定は,地学団体研究会の地学ハンドブックシリーズ4
「火山灰分析の手びき」にあるように,通常は双眼実体顕微鏡で鉱物の
色や形態を観察して同定しますが,アルカリ長石の正確な識別には,
偏光顕微鏡を用いる方がよいでしょう.
直交ニコル下で,常に暗黒に見える鉱物粒を探せば,その粒の
光軸は鏡筒と平行になっているので,その屈折率はω(オメガ:一軸性
の場合)またはβ(ベータ:二軸性の場合)です.アルカリ長石は,正長
石がβ=1.522-1.533,サニディンがβ=1.523-1.525,アノーソクレース
が1.526-1.536です.それに対し,石英はω=1.544,斜長石はβ=
1.534-1.583です.通常の火山岩に含まれる斜長石はカルシウムが多く,
β>1.54のものがほとんどです.したがって,屈折率が1.536-1.540程度
の1種類の浸液を使えば,それよりβが低いものはアルカリ長石,高いも
のは斜長石や石英(これら2種は劈開や双晶の有無などで区別できる)
というようにはっきり区別できます.火山灰の中のアルカリ長石は通常
サニディン-アノーソクレース系列のものですから,屈折率1.52-1.54程度
の浸液を予め多数用意しておけば,屈折率を決定してだいたいの化学
組成を知ることもできます.浸液は直接スライドグラスにつけず,細かく
割ったカバーグラスに数滴つけて,それをスライドグラスにかぶせるように
するのがコツです.火山灰の粉をスライドグラスに薄く塗り広げておけば,
この方向で能率的に屈折率を決定することができます.
また,直交ニコル下で暗黒に見える鉱物粒について,コノスコープ観察
を行えば,アルカリ長石は斜長石よりも光軸角が小さいので,アイソジャ
イヤーの曲がり方から同定することも可能です.偏光顕微鏡の載物台に
「スピンドルステージ」を取り付け,その針の先に鉱物粒を接着して,直交
ニコル下で鉱物粒を様様な方向に回転させて光軸角を測定する方法も
あります.
いずれにしても,鉱物の偏光顕微鏡観察法について詳しく知りたい場合
は,都城・久城の「岩石学T」(共立全書189)や坪井誠太郎の「偏光
顕微鏡」(岩波書店,絶版)などを参考にして下さい.
また,もし既に長石だけを集めておられて,その中からアルカリ長石を
分離したいという場合は,重液分離が最も簡単で能率的です.アルカリ
長石の比重はだいたい2.60以下ですが,斜長石はそれ以上ですから,
この比重の重液を用意しておけば簡単に分離できます.
(10/8/98)
石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科)
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