火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

マグマとマグマ溜まり

マグマ溜まり


Question #69
Q 友達とマグマ溜りについて話していて疑問に思ったのですが、 マグマ溜りは地下水(帯水層)の様に固体の空隙に液体が入っている のか、液体がある程度の空間をしめているのかどちらでしょうか。 もし、岩の隙にはいっているのなら溶岩のなかにその岩があるとおもいます 。友達は減圧で溶けたのかもしれないと言ってました。 また、マグマがある程度の空間をしめているのなら、物理探査などで見つけ れるのではないかと思います。 そこで質問ですが、今のマグマ溜りのイメージはどういうものなんですか? それに関連してマグマ溜りのできる辺りの状態(圧力、温度、物性、空隙 )などはどのようなものと考えられていますか?

(3/24/98)

senda yoshimichi:学生:21

A
 質問を拝見しました。ご質問は、


 1.マグマ溜まりに対して、現在もたれているイメージ(内部構造)は?
 2.マグマ溜まりのできる深さでの物理的環境は?
 3.マグマ溜まりが物理探査で検出できるか?


 この問題は現在の火山学ではとても重要な問題であると思います。


 質問を受けて私もあらためて調べてみましたが、「マグマ溜まり」とはいっ たいどのような概念でしょうか。なんとなく頭の中では、火山の下に高温の流 体が蓄積された場所、というイメージがあるのではないでしょうか。
 この「マグマ溜まり」の概念をもっともドラマチックに表現しているのが、 カルデラの成因を説明する諸説です(大容量のマグマを溜める領域を想定する ことによって、短期間に大量の噴出物を出し陥没することが説明できる)。ま た、富士火山のような複成火山では噴火が繰り返し発生することや、その過程 で鉱物組成が変化するということもマグマ溜まりの存在を示す地質学的な証拠 として取り扱われています。さらに、活火山周辺の地震観測から地震波の振幅 異常や特徴的なスペクトルのピークを持つ火山性微動が見つかったり、水準測 量をはじめとする地盤変動観測から変動圧力源が推定されるなど、地球物理学 的な観測データからも火山活動に関連した、ある程度の広がりを持つマグマ溜 まりの存在が示唆されています。しかし、マグマ溜まりの地質学的な点からの 存在の要請と、地球物理学的な点からの要請は、質的には異なるものであるこ とにご注意ください。その存在は複数が推定されることが多く、地表から1キ ロの深さとか、地表から10キロの深さという話が頻繁になされます。このよ うに特定の深さにマグマの溜まり(あるいは圧力源)が推定されるのは、マグ マとその周囲の密度が等しくなって、浮力がゼロになるからだ、という説明が なされることがよくあります。だいたい、地下10キロ付近では静水圧 0.25GPa程度、マグマ溜まりの温度は800〜1000度ということで話を進めること が多いようです。空隙率については、手元に資料がないのでご了承ください。
 マグマ溜まりの内部構造に関する研究としては、噴出物や古代の火成岩体か らその手がかりを得る方法と、地震観測などの地球物理学的なデータから手が かりを得る方法があります。噴出物の岩石学的な検討(斑晶鉱物組成の変遷の 追跡)では、マグマ溜まり内部ではマグマ混合が起こり得る可能性が示されて います。つまり、これは「いわゆるマグマ溜まり」の中では、マグマが流体と して流動し得る条件があることを示唆しています。しかし、これだけではマグ マがじゃぶじゃぶにたまっているのか、それとも岩石の隙間にしみこんでいる のかについて結論は出せません。速さは違えども流動が可能であるという点で は区別ができません。古代の火成岩体の研究からでは、冷え固まる過程の最終 的なマグマ溜まりの内部構造や温度・圧力の履歴はわかっても、現在活動中の 活火山の「マグマ溜まり」の内部構造はわかりません。
 一方、最近では地球物理学的な観測データからマグマ溜まりの形態を検出し た例も出てきました。日本では1990年代になって伊豆大島の地震観測デー タ(そのなかでも後続波)から深さ10キロ付近に扁平で地震波の散乱強度が 大きい領域があることがわかってきていますし、ハワイでは1970年代にす でに地盤変動のデータから水平方向に薄く広がるシート状のマグマ溜まりの存 在が推定されています。
 これでマグマ溜まりのことがわかった!と言いたいところですが、これらの 結果の取り扱いには注意が必要です。伊豆大島の例では火山の地下に存在する 地震波速度の異常な場所で発生する地震波の散乱効果を用いていますが、この 散乱効果の大きさはその散乱体の密度と地震波速度が周囲と比べてどれだけの 差があるのかということと、解析の対象とする地震波の波長に大きく依存しま す。伊豆大島で使った地震の主な周波数成分はおそらく数ヘルツ〜十数ヘルツ でしょうから、地震波速度を2キロ毎秒ぐらいとすると、波長は数キロから数 百メートル程度です。つまりこの例では目安として波長の1割以下のスケール (数百メートルから数十メートル)のものはあまりよく見えない(散乱波とし て検出しにくい)のです。そのために伊豆大島の結果もぼんやりとしか散乱体 がみえません。話に出ていたマグマの存在形態を議論して決定的な証拠を押さ えるためには、波長を選んで現在よりも少なくとも3桁以上分解能をあげる必 要があります。また、地震波速度と密度の周囲との差についてもマグマが液体 そのものとして存在するのか、それとも岩石にしみこんでいるかという存在形 態の差が直ちに反映されるものではありません。間違いなくわかるのはただ、 地震波速度または密度の異常が地震波の波長に対して無視できない大きさで存 在することだけです。
 また、ハワイの例では地殻変動のデータからの推定ですので、扁平なマグマ 溜まりの広がりや厚さについてはあまりはっきり特定できているとは思えませ ん。少なくとも深さは特定できているとは思います。間違いなくいえることと しては、時間を追っていろいろな場所に地盤変動の圧力源が移動するというこ とだけなのです。地球物理的な観測データからも、マグマがじゃぶじゃぶにあ る程度の空間を確保してたまっているのか、岩石にしみこんでいるのかという 問題を解決する決定的な証拠にするためには分解能がたりません。
 マグマ溜まりがある程度の大きさで、周囲に比べて明らかに地震波速度など の物性の差があれば、一応、物理探査ではそれとおぼしきものが見つかるはず です。むしろこれからの問題として、マグマ溜まりの内部構造を探る有効な手 法は探されなければならないのではないかと思います。質問を機会として、こ のような問題に取り組んで話を進めてくれるといいのですが・・・・。 (3/24/98)

筒井智樹(京大・理・地球熱学研究施設)


Question #68
Q もう既に、質問されたことがあるのかもしれませんが。 桜島の噴火時にいつも不思議でなりません。一般的には、 地下のマグマ溜まりからエネルギー(溶岩?)がこみあげて、 噴火すると理解しています。しかし、例えば溶岩がこみ上げてくるのであれば、 噴火したときに必ず火口低に溶岩がくるとおもうのですが、大体は 噴煙を黙々と上げるだけです。 質問は、マグマ溜まりでのマグマから、どのような物理過程を経て、 噴煙のみの形へ変化するのでしょうか。「マグマ溜まりには、噴煙の 元となるガスだけが貯まっているのですよ」という話しなら理解できるのですが そうではなさそうですし。 よろしくお願い致します。

(3/18/98)

幸田 晃:鹿高専助教授:43

A
 ご質問ありがとうございます.鹿児島にお住まいの方は,実際に噴火をご覧 になりながら地下の現象に思いを巡らすことができるのですね.ときどき羨ま しくなります.
 さて,マグマ溜まりのマグマが噴煙に変化する過程を,簡単に説明してみま す.まず知っておきたいのは,マグマは単なる液体ではなく,その中にガスを 含んでいるということです.ビールやコーラを思い浮かべてください.ビール は炭酸を含んでいますから,急に圧力を低下させると(たとえば急に栓を抜く ととか)発砲して中身がビンの口から溢れ出てきますよね.噴火はそれに似て います.
 ガスを含んだマグマが地下から上昇してくると,発泡(はっぽう)という現 象が起こります.この発砲は,主にマグマが上昇してくる過程で圧力が低下す ることで起きるのです.発砲したマグマがさらに上昇すると,岩片(火砕物と いう)とガスの混合気体ができます.この気体はさらに速度を増して火口から 噴出し,噴火となります.噴煙柱は,噴出した高温の混合気体が周囲の空気を 取り込みながら上昇することによって形成されるのです.
 マグマはこのようなプロセスで噴煙となります.ですが,このプロセスはと ても複雑で,簡単なモデルでは実際の現象はなかなか説明できません.一口に 噴火と言っても,火山灰や軽石を噴出する噴火,爆発的な噴火,溶岩流を出す 噴火など様々です.その理由は,マグマの組成,温度,マグマの中にもともと あるガスの量,マグマ溜まりの深さ,マグマが上がってくる火道の大きさ,そ の上昇速度など,噴火様式を決める要素はたくさんあり,それらが火山ごと に,また噴火ごとに異なるからだと考えられています.
 ご質問に帰ると,例えば,ガスをあまり含まないマグマがゆっくりと上昇 し,粉砕されずに火口から出てくれば,それは溶岩流になります.噴煙柱をつ くる噴火との違いは,なんとなくイメージできるでしょうか? (3/19/98)

西村裕一(北大・理・有珠火山観測所)


Question #289
Q
 火山前線と火山分布および地下のマグマ溜に関してご教示ください。(1)火山の山体の地下にはマグマ溜が存在すると思われますが、日本列島を縦断するこの火山前線の地下にはどのような状態(形、大きさ、深さ等の形状)でマグマ溜が存在していると考えられているでしょうか。(2)火山前線は深さ120〜130kmの深発地震面にほぼ一致しているようですが、この辺りで初めてマグマが生成され、また、更に深くなるとマグマが精製されなくなると考えてよいでしょうか。(3)プレ−トがマントル中に持ち込む水の量とどのような状態で持ち込むのか。そして水が融点を下げるとのことですが、どのようなメカニズムで融点が下がるのでしょうか。 (4)マントルで生成されたマグマが上昇してきて、地下数kmのマグマ溜に溜まると聞きましたが、日本列島の地下のマグマ溜に流入してくるマグマは全て玄武岩質マグマなのでしょうか? それとも、マントル内ではなく地殻内部でマグマがつくられるのでしょうか。(1)から単純に推定するとマントル内でマグマが生成されている思われますが。 (10/9/99)

Jun:教員:51

A 回答に窮する難しい質問ですね。マグマ溜りの存在形態や火山前線の成因については 火山研究者の間でも議論となっている大きな問題です。より詳しく知りたい場合には 末尾に示す参考図書などをご参照下さい。これらの図書はふつうの図書館などにも よく置かれています。 (1)マグマ溜りの形態について
 現在、火山の下には複数のマグマ溜りがあると考えられています。一回の火山の 活動期に限っても、火山活動の推移や噴出物質の組成変化あるいは地殻変動の観測など から、幾つかのマグマ溜りの存在が示唆される場合があります。一つの火山が何回もの 噴火で作られる場合にはなおさら、深さも大きさも異なる幾つものマグマ溜りが関与 したと考えられています。地震波による物理探査では、火山体の地下数kmあたりに マグマ溜りであると思われる複数の独立した地震波反射面が見える場合や、地震波の 吸収が大きいことからマグマの存在を予想させる巨大な領域がより深部に発見されたり しています。マグマ溜り体積としては、噴火前のマグマの圧力による地殻変動などの データや、火山噴出物そのものの体積から、小さいものでは数立方キロメートル以下 から大きなものでは数千立方キロメートル以上まで、予想されているマグマ溜りの 大きさも様々です。
 マグマ溜りが形成される可能性のある場は、マグマの密度と周囲の物質の密度が 釣り合う場所、周囲の物質の変形速度が遅いのでマグマの上昇が阻害され結果的に マグマが滞留する場所、という2つが考えられます。マントルで生産された玄武岩質 マグマは周囲の固体マントル物質よりは軽いので上昇します。マントルと地殻の境界では、 マグマと周辺物質との密度差による浮力が低下することや周辺物質の流動しにくさのため、 一時的にマグマの滞留がおこることが予想されます。ここがマグマ溜りの最初の候補地です。 マグマ溜り形成の次の候補地は、玄武岩質マグマが周囲の固体物質と密度的に釣り合うこと ができる下部地殻から上部地殻の下部あたりです。ここに停滞したマグマは、周辺物質を 取り込んだり結晶分化をしたり、あるいはマグマ中にとけ込んでいた揮発性物質の発泡に よって密度が低下するので、さらにより地殻浅所の密度の釣り合う深度に向けて上昇し、 さらに別のマグマ溜りを形成すると考えられています。つまり深さの点では、地殻ー マントル境界から火山の地下数kmあたりまでの様々な深度にマグマ溜りは存在する 可能性がありうるわけです。マグマ溜りの形状については、周囲の物質の強度もおおいに 影響すると考えられます。周囲の物質が流動性をもった地殻下部では、マグマは周囲の 物質を押しのけてある程度まとまった空間を確保することが可能かもしれません。一方、 地殻の浅い部分ではマグマ溜りの周囲の物質は流動せずに割れるようになります。 このため、上昇するマグマは周囲の岩盤を割りながら移動するので、マグマ溜りの形状も、 1枚の板状やある空間に板状のものがたくさん集まったような形態になると思われます。 長い時間を経過して割れた周囲の岩盤を溶かしてしまえば、地殻の浅い部分でもある程度の 塊としてのマグマ溜りが存在できるでしょう。 (2)深発地震面とマグマ生産の関係
 プレートの年代が非常に若くて薄い(冷えていない)場合を除いて、火山前線に 対応するような120〜130kmの深発地震面あたりの温度は、プレート表面やそれに 接するマントル物質を溶融させるほど高温ではないと考えられています。普通の沈み込み帯の 場合には、プレートから放出された水がプレート表面よりかなり離れたマントル内の もっと高温の部分に到達した段階で初めて、マグマの生産が行われると考えられています。 深発地震面はプレートから水が放出される場に対応している可能性がありますが、 脱水過程と地震発生との関連は諸説があり必ずしも決定的ではありません。 (3)水のもちこまれかた、融点降下。
 水は海洋底堆積物の粒間に保持されたりあるいは含水鉱物の形で、プレートの沈み込みと ともにマントル内に持ち込まれます。このうち前者は沈み込みのかなり早い段階で圧密に よって大部分の放出が完了してしまうので、100kmを越えるような深度への水の持ち込みの ほとんどは含水鉱物が担っていると考えられています。含水鉱物はその組成・種類によって 固有の様々な温度圧力条件下で分解して水を放出します。最近の研究では、非常に冷たい プレートの場合には含水鉱物の一部が分解することなく地球深部まで水を運ぶ可能性も 示されています。また、水は必ずしもマントル内部を自由に移動できるわけではなく、 含水鉱物の分解で放出された水は、温度圧力環境によっては鉱物結晶の粒間に捕らわれたまま、 プレート運動とともにより深くへと沈み込んで行くというような状況も存在します。
 次に融点降下についてですが、一言でいえば「物質は一番安定な状態(自由エネルギー 最低の状態)をとろうとする」、ということが融点降下の原因です。高い圧力がかかる 地下深部の場合、エネルギー的安定に最も寄与するのは体積が縮小することです。 岩石が融解してマグマを作り、その中に水を溶解させたほうが、固体の岩石と水が別々に 存在するよりも全体としての体積が縮小するので、地球内部のある程度の深さまでは深度と ともに水と共存する岩石の融解開始温度は低下していきます。 (4)マグマの組成と由来
 温度、圧力、水の存在などによってマントル物質から生産されるマグマの組成は様々に 変化します。とはいっても、マントル物質から直接作ることができるのは玄武岩質マグマから 高Mg安山岩質マグマの範囲までで、日本列島のような島弧に噴出する、よりSiO2成分に 富むようなマグマを作ることはできません。マントルで生まれたマグマは地殻内部の マグマ溜りで、結晶分化したり周辺物質を取り込んだりしてマグマ自身が組成を変化させます。 また、周囲の地殻物質が低融点の場合には、周辺物質の融解で新たな別のマグマが生産されます。 こうしてできたマグマが、さらに上昇して火山体の地下数キロあたりの最終的なマグマ溜りに 貯えられて噴火に到るのです。したがって、マグマの成因をたどっていくとマントルにまで 行き着きますが、火山直下の浅部マグマ溜りを作っているマグマそのものの組成や由来は 様々です。

参考図書 「火山とプレートテクトニクス」     中村一明 著        東京大学出版会 「岩波講座地球惑星科学8 地殻の形成」 平朝彦他 著        岩波書店 「火山とマグマ」            兼岡一郎・井田喜明 編   東京大学出版会 (10/18/99)

安田 敦(東京大学・地震研究所)


Question #1836
Q 今自由研究で富士山の低周波地震についてやっているのですが、低周波地震がマグマの動きと関係しているだろうというのは、低周波地震がマグマのある位置でおこっているから、マグマの動きと関係があるだろうということなのか、それとも、地下深くで低周波地震がおこっているので、おそらくそこにマグマがあって動いているのだろうということなのですか?マグマだまりの位置はわかっていないのですか?

 あと、ほかにも低周波地震が現在起こっている山や、昔起こっていた山があったら教えて下さい。

  (08/05/01)

みっこ:中学生:14

A (1)低周波地震は火山の火口周辺の浅い場所では、しばしば観測される地震です が、深さ10kmより深いところ、すなわち地殻深部やマントルの上部では、そのような 低周波地震は限られた場所でしか観測されません。その多くは火山地域の下で発見さ れています。このため火山の活動と関係していると考えているのです。
 またほとんどの低周波地震は噴火と関係なく発生しているのですが、なかには噴火 の活発化と同じころに発生した場合があります。フィリピンのピナツボ山は1991年 6月に大噴火をしました。このときは5月下旬にピナツボ火山の下、30kmくらいの深 さで低周波地震がたくさん発生しました。日本では1998年に岩手山の火山活動が活発 化しましたが、そのときも深さ10kmくらいと深さ30kmくらいの2カ所で低周波地震が たくさん起こりました。このことからマグマが地下で動く時に低周波地震が発生しや すくなると考えられます。

(2)マグマ溜まりでは、溶けたものがあるため地震の波がゆっくりと伝わると性質 があります。このため地下の地震波速度の空間分布を詳しく調べ、地震波速度の遅い 場所にマグマ溜まりがあると考えられています。
 東北地方では深さ200kmくらいまでの地震波速度の分布がよく調べられています。 それによると低周波地震は地震波速度の遅い場所の周辺、すなわちマグマ溜まりの周 りで発生しているようです。
 低周波地震とマグマ活動がどのように関係しているのかはまだわかっていません。

(3)低周波地震が火山の深いところで発生していることがわかったのは、微小地震 を調べる観測網が整った1980年代始めです。ですから活動の様子がわかるのは古くて も1980年以降です。
 日本では、低周波地震について、富士山の他に北海道の十勝岳、岩手山や安達太良 山、磐梯山等の東北地方の火山、榛名山や日光白根山など関東地方の火山、伊豆大島 や三宅島等の伊豆諸島の火山など、20火山以上で報告があります。
 海外でもハワイのキラウエア火山、フィリピンのピナツボ山、アラスカのスパー火 山など、10火山地域以上で観測されたという報告があります。これらの地震は、ほ とんどがマグニチュード3より小さい微小地震と呼ばれる地震なので、地震の観測設 備の整った火山地域でないと観測できません。日本は地震の観測網が世界一整備され たところなので、たくさんの火山で低周波地震が見つかっています。
 (8/07/01)

鵜川元雄(防災科学技術研究所・固体地球研究部門)


Question #2342
Q 富士山の最近の噴火はいずれも側噴火だと聞きますがなぜなのでしょうか、もう中央火口からは噴火しないのでしょうか? また、マグマが上昇するためには重力に逆らわなければならないと思うのですが、そのためにマグマが上昇して噴火に至る限界高度というものがあるのでしょうか? (06/23/02)

しろしろ:フリーター:24

A
 富士山の最近の噴火でどうして側噴火が多かったのかはあまりよく分かっていませ ん.マグマがいろんな方向に入って側噴火を繰り返しているうちに,ついにはマグマ の入る余裕がなくなって中央(山頂)火口から噴火せざるを得なくなるという考え方 もあります.富士山の長い歴史の中では,側噴火と山頂噴火を一定の長さで繰り返し て起きているようです.次の噴火が側噴火なのか山頂噴火なのかははっきり分かりま せん.
 マグマの上昇限界についてですが,原理的には,地下でマグマのたまっている場所 (マグマ溜まり)の「マグマの圧力」と,マグマが溜まりから火口までつながって作 る「マグマ柱」が作る荷重(負荷)とが釣り合う高さまで,マグマは上昇することが できます.この高さは,「マグマの圧力」の周囲の岩石より余分に持つ圧力(過剰 圧)と「マグマ柱」の密度によって変わります.標高が高い火山でも,マグマが泡立 つなどしてその密度が小さく(軽く)なればより高く上昇することができます.
 ハワイのマウナロアは標高4000mを越えてもマグマが勢いよく噴き出していま す.中部アンデスの火山は標高6000mを越えています.これは過去には6000 mを越えて噴火したことを物語っています.地球上ではこの辺が高さの限界でしょ う.
 (07/23/02)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター) --


Question #2639
Q 富士山のマグマ溜まりについて質問します。
以前、富士山で低周波地震が多発したとき、富士山のマグマ溜まりは低周波地震が発生している地下10〜20キロメートルより、さらに下の地下25キロメートル付近にあると聞き大変驚きました。なぜなら日本の他の主な火山のマグマ溜まりの位置は浅いもので地下数キロメートル、深いもので地下10キロメートル前後と思っていたからです。
そこで質問なのですが、実際に富士山のマグマ溜まりは日本の他の火山のマグマ溜まりに比べて深いのでしょうか?また、もしそうならどうしてでしょうか? (09/11/02)

しろしろ:フリーター:24歳

A
 富士山のマグマ溜まりについてお答えする前に、マグマ溜まりがどうしてできるか を考えてみます。
 火山の下にマグマが貯蔵されているマグマ溜まりのあることは確かだと考えられて います。日本のような島弧の火山では、海洋プレートの沈み込みによって、100kmか ら150kmの深さでマグマが作られます。このマグマはまわりの岩石より軽いので上昇 しはじめますが、まわりの岩石の密度は浅くなるにつれて小さく(軽く)なるのでだ んだん密度の差がなくなってきます。このため、マグマはついには上昇し続けること ができず、一旦、上昇を止めて集まります。この場所にマグマの溜まりができます。 ここでマグマのなかの比較的重い成分が結晶となって取り除かれ、液体のマグマは軽 くなり、再び上昇をはじめます。マグマが地表に達して噴火するまでには、何回も一 時停止しては軽くなるはずなので、マグマの溜まりは1カ所ではなく、何カ所にもで きると考えられています。
 地中を目で見ることができないので、マグマ溜まりの探すのは簡単ではありませ ん。火山学者は火山の下を調べる方法として、地震波の伝わる速度や吸収のされ方に 注目しています。マグマがたくさん溜まっているところでは、地震波の伝わる速度が 小さくなったり、地震波のエネルギーがたくさん吸収されてしまうので、地震波の伝 わる様子を詳細に調べればマグマ溜まりのありそうな場所の見当をつけることができ そうだからです。
 1990年ころに行われた研究では、富士山の下、深さ25kmくらいの深さに地震波が周 辺よりゆっくり伝わる領域が見つかりました。この地震波速度の小さい領域がマグマ の溜まりの可能性があります。それよりも浅いところにマグマ溜まりがあるかどうか は、富士山の山体に地震観測点がまだまだ少なく、はっきりしたことがわかりませ ん。現在、富士山の観測点が強化されていますので、富士山直下の浅い場所の様子も 分かってくることが期待できます。
 他の火山のマグマ溜まりも、まだ、その大きさや深さがはっきりわかっている例は ほとんどなく、マグマ溜まりの姿を明らかにすることは、21世紀の火山研究の重要 な課題になっています。
 (09/16/02)

鵜川元雄(防災科学技術研究所・固体地球研究部門) --