火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

マグマとマグマ溜まり

揮発性成分・発泡


Question #1647
Q 軽石の中の穴の出来方についての質問なのですが、あの穴は石の中の水分が、熱によって蒸発して出来たものであっているのですか? (04/06/01)

へろへろ:もうすぐ高校生:15

A 火山の地下にあるマグマ溜まりの中で、マグマには数パーセントの水が溶け込んでい ます。意外と多いと感じられるのではないですか? 多量の水がマグマの中に溶け込 めるのは、マグマ溜まりが地下深くにあるため圧力がかかっているからです。マグマ が上昇して地表に近づくと、圧力が下がるためにいままでマグマに溶け込んでいた水 が気化します。

ビールやサイダーも栓を抜くと泡立ちますが、これは栓を開けることで瓶の中の圧力 が下がり、液体の中に溶けていた二酸化炭素が気化するためです。というわけで、軽 石の穴(泡)はビールやサイダーと同じように、圧力が下がる(減圧する)ことによ ってできた、というのが正解です。

岩石が熱せられて岩石中の水が気化して泡ができ、軽石になることもあります。とい っても天然の軽石ではありません。パーライトという名称で販売されている人工軽石 で、土壌の改良や断熱材に用いられています。身近な所ではセントポーリアの土など として園芸店で入手できます。これは黒曜石という火山ガラスを熱して作られていま す。工場でできた軽石です。ぜひ探して天然の軽石と比較してみてください。

なお、園芸店には天然の軽石も多数並んでいます。産地を調べたり違いを考えたりす るとおもしろいかも知れません。 (04/12/01)

(萬年一剛 神奈川県・温泉地学研究所)


Question #41
Q 化学組成が一定とした時、揮発性成分の含有量が高くなると、 何故マグマの粘性度が下がるのでしょうか。ただ、この事も、 気泡のサイズが大きい時に当てはまり、サイズが小さい時には 粘性度は逆に高まるということなのですが、その理由も教えて 頂きたいのですが。よろしくお願いします。 (9/16/97)

武藤君:学生:22

A 揮発性成分の含有量が高くなるとマグマ粘性度が下がるかどうかを考える場 合、その揮発成分がマグマに溶けているか、あるいは気泡として析出している かによって考え方がことなります。 (1)溶けている場合 マグマの粘性は、基本的にマグマ中の元素の化学結合の程度によってきまって います。マグマは液体ですので、マグマ中で元素は不規則な配置をしています が、ある程度元素同士が化学的に結合している状態にあります。化学結合の程 度は化学組成によって変化します。たとえば、珪酸が多くふくまれると相対的 に元素同士が強く結合してマグマの粘性があがります。揮発成分はマグマ中の 元素の結合を弱める性質があるため、揮発成分を多く溶かしこんでいるマグマ の粘性は小さい傾向があります。 (2)気泡がある場合 液体と気体の混合物の粘性というのは、その混合物に力(正確には応力)を加 えた時の変形のしやすさによって決まっています(それが粘性の定義)。言う までもなく、変形しやすいものほど粘性が小さいことになります。気泡のサイ ズが大きいときには気泡そのものが変形しやすいので、混合物全体としても変 形しやすくなり、実効的な粘性が低下します。しかし、気泡のサイズが小さく なると気泡は表面張力のために球形を保ったまま変形しないようになります。 この場合、混合物全体は、液体が変形する(気泡の間を流れる)ことによっ て、はじめて変形することができるようになります。このとき、気泡の存在は 液体の変形にとって邪魔な障害物でしかありません。したがって、混合物全体 の実効的な粘性は増加することになります。なお、混合物の実効的粘性につい ては、未だ研究の発展段階で、単純な公式があるわけではありません。ここで 説明したことは、定性的な概略であると理解してください。 (9/16/97)

小屋口剛博(東京大・地震研)


Question #136
Q さっそく教えていただきありがとうございました。そうやって岩石名がついたと知ると親しみが沸きまし た。もう1つ質問してよろしいでしょうか?

昔、学校で「マグマだまりでは冷却される過程の中、冷えて固まってしまう順に岩石がつくられる」という 結晶分化作用というのを習って痛く感心したのですが、このとき最後のほうまで残っていられたマグマは 比重が小さいということから、浮力で噴火する、というふうに理解していたのですが、新聞などで、噴火 は「マグマに溶けていた二酸化炭素や水蒸気の圧力でおこる」とあり、一旦は納得しました。でも、考えて みれば、高温のマグマに、気体が溶けていられるのですか?すこし疑問が残ってしまいました。教えていた だけないでしょうか? (10/3/98)

山寺和男:学生:22

A 水に二酸化炭素などの気体が溶けこめるように,マグマの中にはわずかな揮発性の 成分(H2O,CO2など)が含まれています.特に地下深くの高圧の条件では,高温でも マグマの中に溶けていられるのです.マグマの組成にもよりますが,溶けている量 は全体の重さにしめる割合で,H2Oで1-5%程度,CO2で0.数%程度と考えられています.

さて「浮力で噴火する」「揮発性成分の圧力で噴火する」も,どちらか一方が間 違っているというわけではないのです. マグマが地表に出てくるには,密度が十分に小さいことが必要ですが,揮発性成分が 多く溶け込んでいると,マグマそのものの密度が小さくなります.結晶分化作用で は,分化が進んだマグマほど揮発性成分も多くなりますが,「結晶分化作用が進んだ マグマは密度が小さい」は揮発性成分も含んだ上でのお話です. また揮発性成分が発泡するともっとみかけの密度は小さくなります.密度が小 さくなることは,マグマのみかけ体積の増加→圧力増加を意味しますから,圧力増加 →岩石の破壊→噴火となるわけです. もっとも実際には,どのように発泡するか,発泡した泡がマグマからどのように 分離するかなどで,噴火するかしないか,噴火がどんな様式になるかが変わって きます.

他の要因も絡み合っているので,なかなか難しいのも事実ですが,揮発性成分の量 や発泡の過程はこのように火山の噴火に大いに関係するので,非常に重要です. マグマの中にどんな揮発性成分がどのくらい入っているのかは,高温高圧実験を 行ったり,岩石の中に閉じこめられた発泡していないマグマの残りと考えられる ものを分析したりなど,様々な研究が進行しています. (10/8/98)

川辺禎久(工業技術院・地質調査所・火山地質課)


Question #3988
Q メルト中(シリケイトメルト)の水は、水酸化物イオンとして存在しているらしいく(H2O+O2-=2(OH)-)、水の溶解度は圧力の1/2乗におおまかに比例すると、文献に書いてありました。なんとなくわかる気がするのですが、1/2乗というのがわかりません。なぜなのでしょうか。
御教授お願いします。 (06/03/03)

ryu:学生:24

A
 ガラス工学(常圧高温低含水量の世界)では、飽和含水量が水蒸気圧の1/2乗に比例 することが古くから知られています。
 まず化学平衡について考えましょう。
  a P + b Q = c R + d S
(ただし小文字は係数、大文字は化学種)という反応が平衡のとき、反応の前後で自 由エネルギーの変化はゼロになります。化学ポテンシャルで記述すると、
  c μR + d μS - a μP - b μQ = 0
(ただしμXは、化学種Xの化学ポテンシャル)と、なります。これに μX = μ0X + RTln([X]) (ただしμ0Xは化学種X の標準状態での化学ポテンシャル、[X] はとり あえず化学種X の濃度や分圧)という関係を入れると
  c(μ0R + RTln[R]) + d(μ0S +RTln[S]) - a (μ0P + RTln[P])- b(μ0Q + RTln[Q])= 0
になります。これを整理すると、
  ΔG0 = RT ln(([R]^c [S]^d)/([P]^a [Q]^b))
となります。この式のlnの中が、化学平衡定数Kです(ただしΔG0 は標準状態のΔ G;また、公式により、n ln(x) = ln(x^n)です)。
 ですから、H2O(水蒸気) + O (メルト) =2(OH(メルト)) のKは、 [OH (メルト)] ^2/ ([H2O (水蒸気)] [O (メルト)]) となります。O[メルト] は一定とすれば、
  [OH] = k √[H2O]
ですから、飽和含水量が水蒸気圧の1/2乗に比例することがわかります。


 大雑把にはこの理解でよいでしょう。しかし細かく言えば、この理解には色々問題 があります。分光学的な観察によれば含水メルト中にはH2O 的な化学種が存在するこ とが知られているので、
  H2O (水蒸気) ⇔H2O (メルト)
という反応と、
  H2O (メルト) +O (メルト) ⇔OH (メルト)
という反応を両方考えます。高圧下では水蒸気を理想気体とする近似に無理が生じる でしょう。[O (メルト)] は水が入るにつれ消費されますから、一定とみなせないこ ともあるでしょう。より高圧下では多くの水がメルトに溶け込む一方でH2O (水蒸気 ) の中にも多量のメルト成分が入ります。場合によっては「メルトを溶かした水」と 「水が溶けこんだメルト」の区別がつかず、飽和含水量の意味がなくなります。飽和 溶解度には温度依存性があります。常温のガラスには、ゆっくりですがかなりの水が 入り(ガラスの水和)ます。ガラス化学組成が飽和含水量や水和速度に与える影響はは まだ未解決です。
 このように、水とシリケイトメルト・ガラスは意外に複雑な振舞いをします。とは いえ、マグマの温度圧力(〜1000℃;〜2000 気圧) では飽和含水量が圧力のルートに ほぼ比例することが実験的にわかっていますから、火山学では単にそう覚えておいて もよいでしょう。
 (06/06/03)

宮城磯治(産業技術総合研究所・深部地球環境研究センター)