この質問はかなりレベルの高い質問です.「結晶がマグマの中でできるときに,溶
けちゃう」ということは,不思議なようですが,実際によくあることです.溶ける原
因としては,(1)温度が上昇する,(2)圧力が低下する,(3)別のマグマや水
などの流体と混合する,などの場合があります.
斜長石は「固溶体」で,カルシウムの多いものからナトリウムに富むものまで,い
ろいろな化学組成のものがあります.一般に玄武岩にはカルシウムの多い斜長石が含
まれ,安山岩,流紋岩とSiO2が増えるに従ってナトリウムに富む斜長石を含むように
なります.これは,温度が下がって結晶作用が進行するに従って,マグマも斜長石
も,カルシウムの多いものからナトリウムに富むものへ,連続的に化学組成が変化す
るためで,斜長石は「連続反応系列」とも呼ばれます.
さて,例えば地下のマグマ溜まりの中で,流紋岩質のマグマ(低温)の中に玄武岩
質のマグマ(高温)が入ってきて混合すると,流紋岩のマグマの中に浮いていた,ナ
トリウムに富む斜長石は溶かされ,新たにもっとカルシウムの多い斜長石が結晶する
ようになります.三宅島や有珠山の火山活動を見ても,マグマは数年〜数10年ごと
に繰り返し上昇してきますし,その間の静かな時期にもマグマ溜まりの中で結晶作用
が進行しますから,結晶が成長したり,溶かされたりすることが繰り返し起きても不
思議ではありません.
ところで,これとは別に,ただマグマの温度が下がって,結晶が成長しているの
に,ある温度まで下がると,その結晶が逆に溶けてしまうという不思議なことが起き
ます.例えば,ある種の玄武岩質マグマの中で,カンラン石という鉱物が結晶化して
いるのに,ある温度まで下がると,カンラン石が溶けてしまい,この温度以下では,
斜方輝石という別の鉱物が結晶し始めるのです.この場合は,マグマの結晶作用の進
行とともに,別の種類の鉱物が結晶するので,「不連続反応系列」と呼ばれます.
(逆に温度を上げて斜方輝石を溶かすと,カンラン石+マグマになります.これは
「分解溶融」と呼ばれます.)
マグマは,いろいろな成分が混ざった複雑な液体なので,それが結晶化するときに
はいろいろと不思議なことが起きます.水が0℃で氷になるような,単純な結晶化と
はだいぶ違います.
(07/12/01)
石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科)
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