(1)火山噴火の予知について
マグマが地下にたまって地表から噴出するときのことを想像してみてください.物
質がたまるのですから,山は膨らむでしょう.この膨らみをGPSといって人工衛星
を使った装置で観測したり,傾斜計や体積歪計などで観測しています.また,物質が
たまって上昇すれば,あちこちに力が加わりますから地震や微動が起きます.また,
マグマそのものやマグマから出てきた高温のガスが上昇して地下水と接触すると微動
が起きたり,火山ガスの成分が変わったり,地熱異常が起きたりします.地下の温度
も上がりますから,岩石の持つ磁場の強さが変化して地磁気の異常が起きる場合もあ
ります.このようなさまざまな観測で異常現象を捉えようとしています.もっともこ
うした多項目の観測を行っている火山はごく限られています.観測を充実させるには
納税者のみなさんの支援(+叱咤)が必要なのです.
また,噴火の予測には異常現象を捉える努力だけではなく,過去の噴火の状態を詳
しく調べて,噴火の平均的な間隔や噴火の様式などを調べる努力も行われています.
よく週刊誌などに「・・・・のおつげで富士山が噴火する」とか「次の噴火は富士山
」などという記事が出たりして,そのたびに問い合わせを受ける火山学者もいます.
観測データからは噴火を示唆するデータは全くないのですが,たとえば「今後1年く
らいは噴火することはあり得ない」ときっぱり否定できないのが実情です.情報の空
白のを埋めるようにいろいろなデマが出てくるわけですから,こうした調査で噴火の
長期的予測をたてる研究も必要です.
(2)噴火の危険度を数値化について
この数値化は火山噴火予知連絡会のワーキンググループで検討されてきましたが,
具体的にはそれぞれの火山の活動状況や地元の社会的環境によって工夫する必要があ
り,その検討が気象庁の方で行われているようです.試案の段階では,活動レベル0
の「静穏な状態」から,レベル4の「火山周辺に影響の及ぶ中〜大噴火が発生か可能
性大」までランク付けして公表するというものです.これまではややもすると「・・
・・なので注意が必要」といった情報だけが出されて,安全になったという情報など
はあまり出ていません.火山学が進歩して,よりわかるようになった情報は納税者に
還元していこうという趣旨と私は理解しています.多くのみなさんがこの趣旨をご理
解いただき,情報を有効に利用していただけたらと考えています.
ところで,こうしたレベル化は,実は日本が世界に先がけておこなうものではあり
ません.アメリカ合衆国ではずっと以前から火山活動をレベル化して情報を出してい
ます.また,米国地質調査所のホームページには,いくつかの活火山の活動状況が掲
載されていて,毎週更新されています.現在の日本の場合は,活動に異常が出て臨時
火山情報が出されても,地元のテレビ・ラジオ・新聞で報道されることはあっても他
の地方でこの種の情報を入手することは簡単ではありません.たとえば,東京からあ
る火山の付近に旅行しようとした人が,その火山について活動状況を知ることはほと
んど不可能です.最近,多地方からの観光客が遭難するニュースをしばしば耳にしま
すが,米国地質調査所のホームページのような体制があれば,こうした事故も少なく
なるでしょう.よりよい情報をみなさんが受け取るためには,納税者としてみなさん
が私たちを支援していただき,かつ納税者の権利として私たちを叱咤して情報を要求
していただくことが大切だと思います.蛇足ながら,火山活動のレベル化は
「先進国」である米国ばかりではなく,多くの方が「途上国」と思っていらっしゃる
インドネシアでも行われていて,その情報がちゃんと機能していることも付け加えて
おきます.
米国地質調査所のロングバレーのページから入るといろいろと示唆に富んだ情報が
得られます.政府がその国の国民を保護するというのはどういうことか?政府は納税
者に対してどのような義務を負っているのか?という明確な思想が感じられます.
http://quake.wr.usgs.gov/VOLCANOES/LongValley/
インドネシアの火山調査所のホームページは最新の活動状況が載せられているわけで
はありませんが,観測体制を知ることはできます.
http://mekira.gsi-mc.go.jp/index.html
もちろん日本も何もしていないのではなく,たとえば国土地理院のページではGPS
を公表しています.
http://mekira.gsi-mc.go.jp/index.html
(5/10/99)
鍵山恒臣(東京大学・地震研究所・火山センター)
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