火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

噴火をとらえる

噴火エネルギー・爆発エネルギー・噴火マグニチュード


Question #3915
Q ここのページで火山に興味を持ち、色々な所のホームページを見ていてふと疑問に
思ったのですが、各々の火山の噴火履歴に大噴火の時と普通に噴火と記されて
いる時が有りますが、何をもって大噴火とするのかという定義みたいな物は
有るのですか? (03/18/03)

シゲ:会社員:29

A 火山噴火の規模を表現する方法があります。例えば、一回の噴火(爆発)で放 出される火山灰や溶岩の量を基準にしており、これはその噴火で放出される熱 エ ネルギーの量に対応しています。それによると大規模噴火というのは1回 の噴火でおよそ1億立方mの噴出物量のあるもので、中規模噴火というのはお よそ1 億〜百万立方mの噴出量のある噴火です。それいかは小規模噴火です。 しかし、火山ごとに数多くある噴火のうち、特に規模が大きい場合に大噴火と いうこと があります。ホームページに記述されている大噴火では、これらを 混同して使っていると思います。さらに、新聞やテレビ報道などで使われる 「大噴火」は規 模よりも社会的なインパクトや印象を重視して大噴火と表現 されていることが多いと思います。
 (03/18/03)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #22
Q おのおの噴火について,どのような方法でVEIを決定するのか教えて下さい (5/29/97)

野元洋一:会社員:29歳

A VEIには0〜8のレベルがありますが,その値は噴出したテフラの総量(m3),噴 煙柱の高さ(km),記述された言葉やその他のデータ(噴火のタイプや継続時 間など)を総合して決定されます.最近起こった噴火であれば,テフラの総 量,噴煙柱の高さと言った定量的なデータでVEIを決めることができますが, それ以前の噴火についても「激しい(violent)」とか「おとなしい (gentle)」と言った記録中の記述から,その値を推定できるようになってい ます.具体的な基準を説明するにはずいぶんとスペースを必要としますのでこ こでは説明できませんが,ご興味があるのでしたら,中村一明著「火山とプレ ートテクトニクス」などの本をご覧になるとよいと思います.

井村隆介(鹿児島大学理学部)


Question #20
Q 降下テフラの到達距離等に関していくつかお伺いしたいことがあるのですが、 降下テフラの到達距離と噴火マグネチュードの間にはどのような関係があるのでしょうか。例えば,噴火マグネチュードが6の場合,到達距離が80kmであるというようなおおまかな目安が存在するのでしょうか。また、降下テフラの到達範囲は噴火時の風向および風速に影響されると思うのですが,降下テフラの到達範囲への風の影響におおまかな目安が存在するのでしょうか。降下テフラの堆積厚は火山からの距離によって大きく影響されると思うのですが,火山からの距離と降下テフラの堆積厚の関係は数式で表すことができるのでしょうか。次に噴火マグネチュードについてお伺いします。個々の火山で発生する可能性のある最大規模の噴火マグネチュードが存在するのでしょうか。例えばある火山で発生する可能性のある最大規模の噴火は噴火マグネチュード5であるといったものは存在するのでしょうか,また、噴火マグネチュードごとの発生頻度を数値で表すことは可能でしょうか。それから噴火マグネチュードと火山爆発指数(VEI)の間にはどのような関係が成り立つのでしょうか。よろしくお願いします。 (5/22/97)

野元洋一:会社員:29歳

A 噴火マグニチュード(噴火M)は群馬大学の早川由紀夫さんが「噴出したマグマ の総重量を用いて噴火の規模を表現するとよい」と1993年に提唱されたもの で,具体的には噴火M=log(噴出マグマ質量kg)-7で求められます. さ て,ご質問の降下テフラの到達距離と噴火Mの関係ですが,ご質問のような単純 な目安や関係式は存在しません.なぜなら,噴火Mは噴出マグマの質量で決まり ますが,噴火によって生産されるテフラの量は噴火様式でずいぶん異なる上, 降下テフラの到達距離はご指摘のように主として上空の風速によって決定され るからです.たとえば,ハワイの火山のように溶岩をダラダラと流出し続ける ような噴火では,ほとんどテフラは生産されませんから,たとえ噴火Mが大き くとも遠くまでテフラを飛ばすようなことはありません.また,トータルとし て同じ量だけテフラが噴出しても,上空の風速は場所や季節によって大きく変 わりますから,降下テフラの到達距離もその時々で変わるわけです.したがっ て,降下テフラの到達距離と噴火Mに単純な関係を求めることはできないわけ です. 降下テフラの到達範囲と風の影響に関してですが,噴煙柱の高度を限 定し,特定の大きさのテフラ粒子に注目すれば,風速と到達距離のおおよその 目安は存在します.噴煙柱の高度に関する詳しい議論はとても難しいので省き ますが,特定の大きさのテフラ粒子に限定する必要があるのは,大きな粒子ほ ど風で遠くに運ばれる前に落下してしまうからです.Carey&Sparks(1986) によると,噴煙柱高度が20km・風速30m/sの場合,密度2500kg/m3・直径6.4cm の粒子は火口から約10km,密度2500kg/m3・直径0.4cmの粒子は火口から約30km それぞれ運ばれるということです. 火口からの距離と堆積厚についても,噴 煙柱高度,上空の風環境などによってそれぞれ変わってきますので,火口から の距離によって指数関数的に薄くなっていくということ以上にすべてのテフラ について完全に一般化できるような公式は存在しません.ただし,比較的短時 間に放出される1回の噴火によるテフラに限定すると,きれいな関数式で近似 できることがあるようです. 噴火Mは提唱されてから日が浅いため,個々の 火山で発生する可能性のある最大規模の噴火Mについて十分に検討された研究 例はないようですが,過去の噴火事例を集めていけば各火山において1回の噴 火で噴出しうるマグマの量をおおよそ見積もれるようになるかも知れません.
 噴火Mと発生頻度については,噴火Mの提唱者である早川さんが,1994年に最 近2000年間における日本の224の噴火事例をもとに考察しています.それによ ると,最近2000年の間に日本ではM=1級の噴火が47回,M=2級が46回,M=3級が 70回,M=4級が46回,M=5級が15回起こっています.古くて小さな噴火ほど収集 もれがあると考えられますから,M=1級やM=2級の噴火の頻度は実際にはもっと 高いものになると考えられます. 最後に噴火Mと火山爆発指数(VEI)の関係 についてです.VEIは爆発的噴火の定性的な記載から求められるものですか ら,溶岩だけを流出するような噴火の規模を示すことができません.これに対 し,噴火Mはマグマを噴出したどのような噴火の規模も表現できるという点で 優れています.両者の値を変換できるような関係式は存在しませんが,爆発的 噴火についてはVEIでも噴火Mでも噴火規模を評価できます.早川さんは,噴火 M提唱以前に広く受け入れられていたVEIに噴火Mの値が近づくように噴火Mの計 算式で7を引くようにしたそうです.したがって爆発的噴火だけの場合は,およ そVEI=噴火Mとなっています.

井村隆介(鹿児島大理学部)


Question #4176
Q 私は科学部に入っているのですが夏休みの合宿で火山について勉強して疑問が出たので質問します。
(1)火山噴火の際のエネルギー量はどの位ですか?
(2)石固まった時の温度が高いと玄武岩に、低いと流紋岩になるのは何故ですか?また、マグマの温度と鉱物にはどの様な関係があるのでしょうか? (08/23/03)

中本伸志:高校生:16

A
 火山噴火において考慮すべきエネルギーは,マグマの持つ熱エネルギーと爆発の際 の運動エネルギーです。


 まず、マグマが放出する熱エネルギーは,マグマの温度と比熱の積にマグマが固化 する際に放出する潜熱を加えることで計算できます。その量は、マグマの温度を約 1000度とすれば1kgのマグマあたりで約100万ジュールです。一方、爆発時の運動エネ ルギーは、火口から放出される火砕物の速度を与えれば、これも容易に計算できます 。例えば、激しい噴火で音速に近い速度で火口から飛び出した物体のエネルギーは、 1kgの物体あたりおよそ5万ジュール程度です。つまり、圧倒的に熱エネルギーの方が 運動エネルギーよりも大きいことになります。従って火山噴火のエネルギーは、噴火 の際の噴出物の量を知ることによって、およその量を見積もることができます。


 ところで、火山噴火と一口に言ってもその規模は様々です。小規模の噴火であまり 噴出物がない場合には噴火のエネルギーも小さく、大量の噴出物がある場合には火山 噴火のエネルギーは大きくなります。例えば、1991-1995年の雲仙普賢岳の火山活動 ではおよそ5千億kgの溶岩が出ましたから、エネルギーとしてはおよそ5x10^17ジュー ルとなります。これは地震でいうとマグニチュード8.5-8.6程度の大地震の放出する エネルギーに相当します。また、東京都で1年間に使われる電力エネルギーはおよそ 3x10^17ジュール(平成13年東京都の統計データより)ですので、これよりも多いこ とになります。地球上の最大規模のカルデラ噴火では、この1000倍〜10000倍のエネ ルギーが放出されたと考えられています。


 石が固まった時の温度が高いと玄武岩になり低いと流紋岩になるというのは、正し くありません。これらの岩石は組成も違っているからです。例えば岩石の中で最も多 い割合を占めるシリカ(SiO2)成分に着目した場合、玄武岩では全体の50重量%程度が シリカ成分ですが、流紋岩ではシリカ成分は70重量%程度です。MgやFeといった他の 元素の量も大きく違っています。こうした組成の違いから、マグマが固化する温度は 、玄武岩組成のマグマでは高く、流紋岩組成のマグマでは低くなっています。


 マグマが冷えるにしたがって様々な鉱物がマグマから結晶化します。どんな鉱物が 何度で結晶化をするかについては、マグマの組成や場の圧力に大きく左右されるので 、一概には言えません。 玄武岩の組成を持ったマグマでは、マグマが冷えるのに伴ってかんらん石やCaに富む 斜長石、輝石などが結晶化します。これらの鉱物はもともとのマグマとは密度が違う ので、結晶化した鉱物は時間がたつともともとのマグマからは分離してしまいます。 結晶が分離した後の残液の組成は、もともとの玄武岩の組成よりもややシリカやアル カリ元素成分に富んでMg、Fe、Caに乏しい組成になります。(これを結晶分化による マグマ組成の変化と呼びます。)温度がもっと下がって残液部分からさらに別の種類 の鉱物の結晶化とそれらの結晶の分離が進行すると、残液の組成は、もっとシリカや アルカリ元素成分に富んでいき、やがては流紋岩のような組成に行き着きます。した がって、玄武岩の組成をもったマグマから結晶分化作用によって流紋岩をつくること は可能ですが、世の中にある流紋岩がすべてこのようにして作られたわけではありま せん。石英やカリ長石を多く含んだ堆積岩を溶融させたり、玄武岩や安山岩に水を加 えて部分溶融させて液体部分だけを集めても流紋岩組成のマグマを得ることが可能で 、そのマグマが結晶分化作用を起こさずに固化すれば流紋岩となります。
 (08/28/2003)

安田 敦(東京大学・地震研究所・地球ダイナミクス))