火山噴火において考慮すべきエネルギーは,マグマの持つ熱エネルギーと爆発の際
の運動エネルギーです。
まず、マグマが放出する熱エネルギーは,マグマの温度と比熱の積にマグマが固化
する際に放出する潜熱を加えることで計算できます。その量は、マグマの温度を約
1000度とすれば1kgのマグマあたりで約100万ジュールです。一方、爆発時の運動エネ
ルギーは、火口から放出される火砕物の速度を与えれば、これも容易に計算できます
。例えば、激しい噴火で音速に近い速度で火口から飛び出した物体のエネルギーは、
1kgの物体あたりおよそ5万ジュール程度です。つまり、圧倒的に熱エネルギーの方が
運動エネルギーよりも大きいことになります。従って火山噴火のエネルギーは、噴火
の際の噴出物の量を知ることによって、およその量を見積もることができます。
ところで、火山噴火と一口に言ってもその規模は様々です。小規模の噴火であまり
噴出物がない場合には噴火のエネルギーも小さく、大量の噴出物がある場合には火山
噴火のエネルギーは大きくなります。例えば、1991-1995年の雲仙普賢岳の火山活動
ではおよそ5千億kgの溶岩が出ましたから、エネルギーとしてはおよそ5x10^17ジュー
ルとなります。これは地震でいうとマグニチュード8.5-8.6程度の大地震の放出する
エネルギーに相当します。また、東京都で1年間に使われる電力エネルギーはおよそ
3x10^17ジュール(平成13年東京都の統計データより)ですので、これよりも多いこ
とになります。地球上の最大規模のカルデラ噴火では、この1000倍〜10000倍のエネ
ルギーが放出されたと考えられています。
石が固まった時の温度が高いと玄武岩になり低いと流紋岩になるというのは、正し
くありません。これらの岩石は組成も違っているからです。例えば岩石の中で最も多
い割合を占めるシリカ(SiO2)成分に着目した場合、玄武岩では全体の50重量%程度が
シリカ成分ですが、流紋岩ではシリカ成分は70重量%程度です。MgやFeといった他の
元素の量も大きく違っています。こうした組成の違いから、マグマが固化する温度は
、玄武岩組成のマグマでは高く、流紋岩組成のマグマでは低くなっています。
マグマが冷えるにしたがって様々な鉱物がマグマから結晶化します。どんな鉱物が
何度で結晶化をするかについては、マグマの組成や場の圧力に大きく左右されるので
、一概には言えません。
玄武岩の組成を持ったマグマでは、マグマが冷えるのに伴ってかんらん石やCaに富む
斜長石、輝石などが結晶化します。これらの鉱物はもともとのマグマとは密度が違う
ので、結晶化した鉱物は時間がたつともともとのマグマからは分離してしまいます。
結晶が分離した後の残液の組成は、もともとの玄武岩の組成よりもややシリカやアル
カリ元素成分に富んでMg、Fe、Caに乏しい組成になります。(これを結晶分化による
マグマ組成の変化と呼びます。)温度がもっと下がって残液部分からさらに別の種類
の鉱物の結晶化とそれらの結晶の分離が進行すると、残液の組成は、もっとシリカや
アルカリ元素成分に富んでいき、やがては流紋岩のような組成に行き着きます。した
がって、玄武岩の組成をもったマグマから結晶分化作用によって流紋岩をつくること
は可能ですが、世の中にある流紋岩がすべてこのようにして作られたわけではありま
せん。石英やカリ長石を多く含んだ堆積岩を溶融させたり、玄武岩や安山岩に水を加
えて部分溶融させて液体部分だけを集めても流紋岩組成のマグマを得ることが可能で
、そのマグマが結晶分化作用を起こさずに固化すれば流紋岩となります。
(08/28/2003)
安田 敦(東京大学・地震研究所・地球ダイナミクス))
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