噴火をとらえる
噴火の連鎖・地震の影響 |
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Question #107
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Q |
中学校の理科の教科書で、火山の噴火について次のように説明されています。
「マグマは地表へ向けて上昇し地下数kmでいったん止まりマグマだまりをつくっている。ここから上昇したマグマが噴火を起こすもとに
なっている。マグマは水蒸気、二酸化炭素、二酸化硫黄などの火山ガスを溶かし込んでいる。地下のマグマが冷えてくると火山ガスが
地表近くに集まりその圧力が高くなり、ついには上の岩石を吹き飛ばし噴火口が開く。それにともなってマグマも地表に吹き出し噴火
が起こる。」
この説明からはマグマが冷えた時点で、噴火が起こると理解できます。しかしこれでは子供たちは、「マグマが冷える=マグマの活動
が不活発になった時点」で噴火が起こるような捉え方をどうしてもしてしまいます。私もどうも噴火時の地下のようすのイメージが涌きま
せん。地学分野で火山の活動は子供たちにとても興味のあるところです。正しい火山噴火のイメージを伝えてあげたいと思います。
よろしくおねがいします。
(8/1/98)
園田 研之:中学校教員(理科):38
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A |
ご質問の趣旨は,以下のようなことですね.
マグマが冷えてくると,液体のマグマの一部は固体の結晶になる.マグマ中
の火山ガスは,結晶の中には入りにくいので,残った液体のマグマにどんどん
濃集していく.そうすると,火山ガスがマグマにとけ込みうる許容量を越えて
しまって,ついには発泡してマグマが噴出してくる.ご質問を読んでなるほど
と思いました.マグマが冷えると火山が噴火する??たしかに矛盾しているよ
うに思えますよね.やかんの湯が沸騰するのは逆に温度が上昇した時なのに,
その逆をいくわけですからね.
このことを理解してもらうために,私は,ビールを冷凍庫に入れっぱなしに
して忘れていると,ビールがシャーベット状に凍って残った液体の中の炭酸ガ
スが発泡してびんの隙間からこぼれ出ているという例をあげて説明していま
す.また,マグマが地下で発生して,地表に上昇し,冷やされて固まるまでの
一連のプロセスの中で噴火は起こるのだと説明しております.
なお,上記のようにして噴火が起こることもありえますが,ほかにも,地下
のマグマが急激に上昇したり地殻に断列が生じたり,もしくはマグマの頭上の
山体が地滑りなどのためになくなったりして圧力が低下した場合にも発泡して
噴火が導かれることもあります.
(8/12/98)
三宅康幸(信州大学・理学部)
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Question #159
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Q |
11月17日付の朝日新聞での記事で東北・北海道の火山が活発化しているのは,94年の三陸はるか沖地震の影響ではないかという見方が有力であると書いてありました.
どのようなメカニズムを仮定することで,プレート境界で起こる地震の影響で火山活動が活発化するといえるのか教えて下さい.
(11/17/98)
かずね:主婦:25
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A |
はっきり申し上げますと、「三陸はるか沖地震」のようなプレート境界型地震と
、そこからかなり離れた陸地の火山活動との関係をはっきりと物理的に証明した方
は居ないのではないかと思います。現時点では物理的なメカニズムというよりも「
統計的に見て」そのように見えるという事であると私は認識しております。「統計
的に・・」というのは、その背後のプロセスは問題ではなく、物事のつながりを経
験的に「なんでそうなるのかよくわからないけど、そのようになってしまうもの」
として見ているということです。
ただ、物理的に考え得ることとしては、火山の地下のマグマ溜まりが地震以前か
ら臨界状態にあって、(1)地震波の通過によってマグマ内部での相変化や脱ガスが促
進された、(2)地震発生後の広域応力の変化によってマグマ内部での相変化や脱ガス
が促進された、の説などがあげられます。
(1)については、地震波の通過は全体のなかでホンの一瞬(マグマが数キロのサイ
ズでも数秒)のことですし、遠く離れた場所で発生した地震波の通過に伴う内部で
の圧力変化はそれほど大きくないと考えられますので、時間的あるいは空間的なス
ケール的には無理なようです。実際に、阿蘇火山の活動火口近傍で発破をかけても
火山活動はおろか、火山性微動にも目立った変化は現れませんでした。
また、(2)の説については、たとえプレート境界の地震発生に伴う半永久的な応力
変化(応力解放)があったとしても、地震波ほど遠くまで伝わりません(ちなみに
地震波も一種の応力の揺らぎが伝播する現象です)。震源近傍ならともかく数百キ
ロも離れた場所では、同じ震源から出た地震波の方が大きな応力変化になります。
先日の雫石の地震と岩手山程度の距離であれば、地震発生に伴う応力変化が火山活
動に影響を及ぼす可能性があるかもしれません。
しかし、問題は地球の内部の構造です。地球の内部についてはまだ誰も見たこと
がないわけですから、私たちが想像も出来ないような「何か」が両者を結びつけて
いるかもしれません。
(12/2/98)
筒井智樹(京都大学・理学部・火山研究センター)
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Question #1350
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Q |
はじめまして。お忙しいところ、失礼します。現在私は愛知県に住んでいるのですがごく最近、実家である静岡の家族から以下のような話を聞きました。それは、富士山の頂上の積雪が以前より非常に少なく、これは富士山のマグマ活動が始まったためだと地元の新聞で報じられていたというのです。(実際私もネット上で確認しました。)実家は富士市近辺ですので非常に心配です。そのうえ最近ではあちらこちらで地震が絶えません。静岡県中部でも小規模な地震が増えているように思います。昔からいつか東海大地震がまた来ると言われていますし、地震を引き金とした火山噴火も十分考えられると思います。そこで富士山の現在のマグマ活動と積雪の減少の関係について詳しく知りたいのでよろしくお願いします。また、そのような最新情報をネット上で公開しているところがありましたらぜひ教えてください。
(12/17/00)
Zitrone:大学生:21
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A |
富士山の積雪が,ついこの間まで平年より少なかったことは事実でしょう(その後
12月10日に降った雪で今はすっかり真っ白になりましたが).おかげで今年は12月上
旬でも5合目付近の地質調査ができました.また,富士山の地下10〜20km付近で定常
的に起きている長周期地震(おそらくマグマ活動に起因する地震)の回数が,今年
10月頃より多くなっていることも事実です.このことは気象庁から公表されている資
料で見ることができますから,それにもとづいた報道もなされたのでしょう.
しかし,それをもって積雪の少なさを火山活動と関連づけるのは,あまりに短絡的
なものの見方だと思います.富士山下の長周期地震は観測開始以来,年に十数回から
数十回程度起きている定常的なものです.つまり,もともと富士山のマグマ活動は地
下深くでずっと起きてきたのです.10月よりその回数が多くなったというだけです.
もちろん科学技術庁や気象庁では活動の推移を注意深く見守っていますが,その深
さは別に浅くなってきてはいませんし,それ以外の山体の膨らみなどの異常も今のと
ころ起きていません.現時点では富士山下のマグマが上昇を始めた証拠はありません.
活動は地下深部にとどまっています.
ですから,今の段階で「非常に心配」するのは,明らかに心配のし過ぎです.ちな
みに,初冬の富士山には積雪が少ない年もありますし,積雪の多い年もあります.も
し雪を溶かすほど地熱活動が高まれば,積雪の少なさだけにとどまらない様々な異常
が発見されるでしょうが,そういう報告は今のところ一切ありません.
なお,「静岡県中部で小規模な地震が増えている」というのは事実ではありません.
むしろ,ここ2〜3年逆に地震が少なくて地震学者に注目されています.東海地震と富
士山噴火の間にはおそらく密接な関係があると私も思いますが,東海地震自体がそれ
ほど差し迫っておらず,おそらく21世紀なかばに南海地震と一緒に起きるだろうと考
えている地震学者が(あまり表には出ませんが)数多くいます.
おそらく今一番大切なことは,この機会に富士山が生きている火山であることを再
認識し,当面はそれほど心配ないとしても,将来いつかは起きるであろう噴火に備え
た防災対策やまちづくりを着実に進めていくことだと思います.
なお,残念なことに気象庁や気象協会はネット上での情報発信にそれほど積極的で
はなく,今のところ三宅島などの特定の火山を除いた活火山(富士山をふくむ)の最
新情報をネット上には掲載していないと思います.こういうところは早急に改善して
いってもらいたいものです.
(12/22/00)
小山真人(静岡大学・教育学部・総合科学教室)
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Question #1713
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Q |
鹿児島に友人が住んでいるのでちょっと気になりました。
1)例えば桜島の火山が噴火した場合、近くにある他の火山がその影響を受けて噴火してしまう、ということはあり得るのでしょうか?
2)火山噴火によって、それ以外の災害・地震や水害、天候の激しい変化、爆風による何らかの災害、なんていうのが同時に起こることはあるのですか?
3)2万年位昔に鹿児島の火山が噴火した時の火山灰の地層が東北の方にもあるって聞いたことがあるのですが、今後もそんなに大きな噴火が起こることは考えられるのですか?
4)大きな噴火が起こってしまった場合、やはり逃げるしかないのでしょうか?噴火に関する情報に敏感であること以外に火山の災害に備えることはないのですか?
(05/16/01)
タコ社長:フリーター:26
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A |
1)「隣の火山が噴火した影響を受けて・・・」というのは,直感的にはありそうな
感じがしますが,こういったことは検証するのがとても難しく,明快な科学的結論は
得られていないというのが現状だと思います.「他の火山が噴火する」というのと同
様に「他の火山が静かになる」ということも考えられますよね.大正3年(1914年)
に起こった桜島大正噴火(20世紀に日本で起こった最大の噴火)の前は,桜島の北約
50kmに位置する霧島の御鉢火山が活発に活動していましたが,桜島大正噴火以降は御
鉢の活動が静かになったという事実があります.これを「桜島火山の噴火の影響を受
けて・・・」と考える研究者もいますが,私自信は「よくわからない」というのが本
音です.あなたならこのことをどのように考えますか?
2)ちょっと質問の意味がわからないのですが,二次的な災害のことでしょうか?噴
火に伴って大きな地震が起きる例はいくつも知られており,桜島大正噴火の時には,
噴火開始から8時間30分後にM7.1の地震が発生し,噴火による直接の被害がなかった
鹿児島市に大きな災害をもたらしたことは有名です.水害(あるいは土石流)につい
ては,火山から遠く離れた地域(噴火の直接的な被害を受けなかった)がやられてし
まったという例が世界的にたくさんあります.また,「大規模な噴火は世界的な気候
の変化をもたらす」という研究もあります.桜島では最近の比較的規模の小さな噴火
でも爆発の衝撃波によって窓ガラスが割れたりしています.桜島に限らず,大きな噴
火の際には,これらの災害が複合して同時に起こる可能性があります.
3)約2.5万年前に鹿児島湾の最奥部の姶良カルデラで大きな噴火がありました(先に
あげた桜島大正噴火の数100倍大きい).南九州でシラス台地として知られる火砕流
堆積物の大部分は,このときの噴火によって噴出したもので,その時の火山灰は,ほ
ぼ日本全土で見ることができます.この噴火では,南九州の動植物が全滅しただけで
なく,日本全体に厚い火山灰が降り積もって,日本中が死の世界のようになったと思
われます.今,同じ規模の噴火が起こると日本という国家は壊滅してしまうかも知れ
ませんね.このような大規模噴火は,姶良カルデラだけでなく,九州の阿蘇や北海道
の支笏・洞爺などのカルデラ火山で発生しています.日本では,過去50万年くらいの
間に,平均すると数万年に1回くらいの割合で起こっていますから,今後もこういっ
た規模の噴火が起こることは間違いないと思われます.
4)先の姶良カルデラの噴火くらいになると,日本にいたら逃げていることにはなら
ないかも知れませんね.噴火の規模の大小に関わらず,噴火災害に備えるためには,
噴火の情報に敏感であることだけでなく,火山噴火に対する正しい知識を持っている
ことが大切だと思います.火山学会のホームページをうまく活用して,火山に関する
いろいろな知識を身につけて下さい.
(05/24/01)
井村隆介(鹿児島大学・理学部・地球環境科学科)
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Question #5305
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Q |
今、学校の理科の勉強で「火山活動の変化」を勉強しています。。
質問なんですが、「火山が噴火するとどんなことがおこるか」と、
「今までにおこった火山活動では、大地にどんな変化が
見られたのか」を教えて下さい。。
よくある質問だと思いますが、お返事をよろしくお願いします☆
(11/23/03)
胡桃♪:小学生:12
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A |
この質問も非常に多いものです。これまでの質問に代表してお答えします。が、噴火がどこでおこるのか、どんな噴火なのか、さらに、何に対して考えるか
などでいろんなケースがあり、大変回答しにくい質問です。これからはもう少し具体的に質問して下さいね。
例えば、(1)火山灰が火口から放出された場合は山腹や風下にそれが厚くたい積します。田畑は灰でおおわれ収穫ができませんし、灰の厚く積もった道路
を車がはしれません。300年前の富士山の噴火では今の東京でも火山灰が積もりました。火山灰が空にただよう場合は、航空機がそれにつっこむと、エンジ
ンが火山灰を吸い込むと停止し墜落の危険があります。(2)火口から溶岩が流れる出る場合には、溶岩が住宅地までせまってくることもあります。ハワイの
キラウエアでは溶岩が約20年間も流れ続けており住宅地が埋め尽くされました。(3)火山灰と高温の火山ガスが火口から高速で流れ下る火砕流(かさい
りゅう)が発生することもあります。100年前のカリブ海の島でおきた噴火では火砕流で約3万人がなくなりました。(4)雨が降ると火山灰が堆積した場
所では泥流が発生しやすく、山麓にある河川や低地は危険です。約20年前にコロンビアでおきた噴火では火口から約40kmも泥流が流れ下り麓の街を埋め
尽くし、逃げ遅れた約2万5千人がなくなりました。(5)山がくずれることもまれにあります。約210年前の雲仙普賢岳の噴火では大きな地震によって古
い溶岩ドームがくずれて有明海になだれ込み、津波が発生し有明海の周囲で約1万5千人がなくなりました。火山活動が活発化すると、火口に近い場所だけで
なく、山麓でも火砕流、溶岩、泥流が流れてきそうな谷、川、低地などは危険になることがあります。
大地の変化では最近の噴火例をあげればわかりやすいと思います。10年ほど前の雲仙普賢岳の噴火では溶岩ドームが山の頂上付近にできて山の最高点がさ
らに120mほど高くなりました。有珠山の2000年噴火では溶岩が地面の下にたまって新しい小山が作られました。約60年前の噴火ではそれが地表に顔
を出しました。三宅島の2000年の噴火ではマグマが地下で隣の火山に移動したため、三宅島の下に空洞ができ、山頂が陥没してカルデラ(大きな穴)が作
られました。
(11/23/03)
中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)
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