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シリーズ「火山を伝える若い世代」

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2回目「産総研」

2019年2月8日

「火山を伝える若い世代」第2回は、国内最大級の公的研究機関・国立研究開発法人「産業技術総合研究所」(産総研)の研究者2人を取り上げる。

(日本火山学会広報委員・所澤新一郎=共同通信)

 産総研は2017~18年度、火山分野で若手研究者を2人ずつ採用した。活断層・火山研究部門マグマ活動研究グループ研究員の関香織さん(27歳)は「二足のわらじ」の研究者だ。ふだんは、つくば本部(茨城県つくば市)の研究室に身を置き、採取してきた火山ガスの分析などに取り組んでいる。もう一つの顔は東京工業大学の大学院生(博士課程3年目)で、毎週火曜は大岡山キャンパスへ。学部4年から所属する火山流体研究センターで、水蒸気噴火の発生場をテーマとして、地下の熱水系の比抵抗構造、温泉水や噴気の化学分析などを研究している。富山県の立山(弥陀ケ原)と神奈川・静岡両県にまたがる箱根山の大涌谷が主なフィールドだ。
 18年春に期限付きの雇用ではない「パーマネント」と呼ばれる資格で採用された。産総研として、火山の分野で博士号を取っていない段階での採用は初めてだった。博士課程では誰でもその後の進路が不安になる。「パーマネントの就職先が見つかって、学位論文にも取り組むことができて、めちゃくちゃハッピーです」と笑顔を見せた。

 博士号取得者の進路が限られている「ポスドク」問題。多くの博士号取得者が短い任期で大学や研究機関に所属し、「次の進路探しに追われ、論文に取り組む視野も狭くなりがちだ」と指摘されて久しい。火山のように噴火などの現象がまれで、地道で継続的な観測が不可欠なテーマは追求するのが難しくなる。そんな状況下での採用に、関さんからは「長い目で、落ち着いて研究できる環境にあるのは大きい。安心感がある」という感謝とともに、「火山は1、2年で成果がすぐに出るようなものではないと思う」との言葉も聞かれた。
 長崎県出身。子どものときから「父がよく連れて行ってくれて、山が大好き」という。雲仙・普賢岳噴火を伝える記念館(がまだすドーム)にも行ったことがあり、火砕流の猛威を再現した演出に「こんなにスピードが速いんだ!」と驚いたのをよく覚えている。
 地球科学を志すようになり、東工大に進学。学業の傍ら、ラグビー部のマネージャーも務めた。「プレートテクトニクスの理論などには実感がわかなかったけど、火山の現象は体感できる」。火山の「ボコボコと音を立てている地熱地帯や、噴気の硫黄のにおいが大好き」。五感で感じられる、火山独特のこうした現象にはまる研究者は多い。
 大学卒業論文の対象は水蒸気噴火を繰り返してきた立山地獄谷。「あまりにも美しくて、学部の研究だけで終わりにはしたくなかった」こともあり、大学院へ。立山と同様、噴気地帯を抱え、2015年に水蒸気噴火が発生した箱根山の大涌谷も「比較対象になる」と通い始めた。毎回、重い観測機器を背負うが、「山が大好きだから苦にならない」と笑う。

 研究対象は地表から2キロより浅い領域だ。戦後最悪の犠牲者を出した14年の御嶽山災害は、規模としては小さい水蒸気噴火だったが、火口付近に多くの登山客らがいたために大惨事につながった。これ以降、小規模な水蒸気噴火のメカニズム解明が社会的にも期待されるようになってきた。「自分も登山が大好きなので、あんな悲しいことがこれから起きないように、防災と登山・観光が両立するように向き合っていきたい。火山の知識がない登山客にどう危険を伝えていくのかも考えたい」。
 就職前は積極的に論文を書き、発表するよう心がけていた。毎年秋の日本火山学会や、毎年春の日本地球惑星科学連合の火山セッションなどでは「研究者の先輩と話し込むようにしていた」とも。後輩たちに向けて「就職するには、自分をアピールするずうずうしさも大切。採用の公募が出ていないかアンテナを常に張って、情報を取りに行く姿勢が大切」とエールを送る。就活では「自分に関心を示してくれる大学・機関の研究者がいたら早くコンタクトを取って」と、自分から動く必要性を熱く語ってくれた。
 以前よりは学会でも女性の研究者が増えてきたと感じる。「女性採用の動きが広がっているなら、うまく使ってほしい」と期待を寄せた。

 雌阿寒岳、十勝岳、樽前山、有珠山、浅間山、九重山、阿蘇、霧島、桜島、諏訪之瀬島、薩摩硫黄島…。2017年4月に産総研に就職した、同じマグマ活動研究グループ研究員の森田雅明さん(29歳)がこの2年弱で赴いた火山だ。
 火山に足を運ぶ際は「マルチガス」と呼ばれる火山ガスの測定機器を携えていく。40センチ×15センチ、高さ20センチの箱形の形状で、この機器があれば二酸化炭素、二酸化硫黄、水素、硫化水素などの濃度が測定でき、火山ガスの組成が分かる。セスナ機に乗って、火山の噴煙から火山ガスを採取することもある。

 「勢いよく火山ガスが噴き出る光景などに接すると、ふだんの生活とは違う大きなスケールに感動する。非日常の自然に接するフィールドに行けるのは楽しい」と森田さん。諏訪之瀬島の山頂付近でガスを連続観測した際は、火口の大きさに「おお、すげえ」と感じた。

 何であんな大きな火口ができるのか、何でこういうガスの組成になっているのか。「どうして、を考えるサイエンスとしての面白さがある。目の前の現象から、地下でマグマや熱水系がどうなっているのかをイメージする楽しさがある」。
 宮崎、鹿児島県境の霧島連山・硫黄山はここ数年、活動が高まる傾向にあった。「何か面白い変動が見えるかもしれない」。17年夏、観測機器を置いてみた。そうすると、冬から18年2、3月にかけて硫化水素に比べて二酸化硫黄が増える傾向が見て取れた。「地下から温度が高いものが上がってきている」と注目していたところ、4月に噴火した。「こんな風になるんだ、と納得できた。噴火までの過程がすごく鮮明にとらえられた」と実感した。観測データは気象庁や、火山噴火予知連絡会にも提出され、活動の評価や噴火予測に役立てられている。

 横浜市出身。エンジニアの父の影響もあり、早いころから「漠然と研究者への憧れ」があった。部活でバレーボールに取り組んだ高校では気象学や気候変動にも関心があった。浪人を経て理学部に進学した東京大学ではアメリカンフットボール部でビデオ映像を駆使した戦術分析も。
 大学では地下水のラドン濃度を測定し、東京大大学院の修士課程では諏訪之瀬島の火山ガス放出量を自動観測した。博士課程では、地下から上昇してきた火山ガス成分が、噴気などを伴わずに土壌ガスとして拡散的に放出される「拡散放出」について取り組んだ。浅間山で、土壌からしみ出してくる二酸化炭素の放出量を測り、山頂付近の東側で放出量の高い場所があるという分布の特徴を明らかにした。
 「二酸化炭素は火山ガスの中で水に次いで多い物質。火口から出るメインの噴煙以外の拡散放出がどの程度なのかを明らかにすることで地下の熱水系の広がりが見えてくる。穏やかな時から監視を続けることで、活動が高まった際に判断材料となる」という。2000年の北海道・有珠山噴火では噴火前に、二酸化炭素の分布に異常が観測されたと報告されている。
 18年春は鹿児島の桜島をフィールドに、全国から大学院生が参加する「次世代火山研究者育成プログラム」の実習が行われ、二酸化硫黄の測定などを指導した。「火山分野で博士課程に進む、意欲ある学生が増えてきていると感じる。博士課程に進む流れができてきている」と手応えを感じている。

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