日本火山学会賞 (Volcanological Society of Japan Award)
第05号 藤井敏嗣
受賞対象
「マグマ学の創設・発展,およびその火山噴火予知・火山防災への適用に関する研究」
授賞理由
藤井敏嗣氏は長年にわたり、岩石学や火山学の研究にたずさわり多くの優れた業績をあげてきた。そして旧来の記載岩石学や岩石化学の分野だけではなく、熱力学や地球物理学的観測結果など多方面の手法・成果も加味してマグマを総合的に研究するという「マグマ学」の創設を提唱し、その発展に貢献してきた。さらにその成果を火山噴火予知研究や火山防災の分野に適用し、マグマ科学・火山学の社会貢献に関して主導的な役割を果たしてきた。
藤井氏の研究は東京大学や米国カーネギー研究所での実験岩石学による、地質温度圧力計の検討や玄武岩マグマの高圧物性に関する研究で本格的に始まった。特に、高圧下での密度測定手法を考案し、圧力上昇に伴ってマグマの密度が急激に増加することを発見し、地下深部でマグマとマントルとの密度逆転がおこるという理論の先駆的研究を行ったことは特筆される。その後は、かんらん岩の実験岩石学的研究を通して中央海嶺玄武岩の成因を議論した。一方で東京大学へのマルチアンビル装置の導入により、洪水玄武岩やコマチアイトの成因、外核の温度推定など、当時の高圧物質科学研究分野での先端的研究を行ってきた。特にデカン高原の洪水玄武岩に関する研究では、結晶分化と起源物質に海嶺玄武岩の溶融が関与しているモデルを世界に先駆けて提案した。さらには、マントルにおける流体挙動についても研究を推し進め、高圧下において水が多量のシリケイトを溶解することを発見し、水の連結度が火山フロントの位置決定に重要であることを提案した。一方で、1983年の三宅島火山の噴火を契機に火山噴火予知研究の分野にも参入し、1986 年の伊豆大島火山の噴火では地球物理学的観測結果を考慮したマグマ供給系のモデルを提案し、1989年の伊東沖海底噴火に際しては噴火に関与したマグマの特定を行った。1990 年から始まった雲仙普賢岳噴火ではドームの成長と火砕流の発生メカニズムを研究、そして現在も継続されている富士山の研究では、宝永噴火のメカニズムや富士山のマグマが高圧下で結晶分化したことを明らかにしてきた。
この間、文部省測地学審議会委員、科学技術・学術審議会委員、そして火山噴火予知連絡会委員に就任し火山噴火予知研究の推進に尽力してきた。特に2003 年に同連絡会長に就任以降は火山活動の総合的な判断の取りまとめに加え、気象庁の火山噴火警報の導入や観測体制の強化等に大きく貢献してきた。さらに、火山防災に関連した活動にも積極的に参画し、富士山のハザードマップや防災対策の取りまとめをはじめとして、国の火山防災への取組を牽引している。
このように藤井氏は永年にわたってマグマ学・火山学の分野で多大の研究成果をあげられ、火山防災の分野でも甚大なる貢献をしてきた。氏が火山学の発展と社会での認知に重要な貢献を果たしたことに関して、日本火山学会賞に相応しいと判断する。