日本火山学会賞 (Volcanological Society of Japan Award)
第07号 高橋栄一
受賞対象
「高温高圧実験に基づくマグマの起源・地球の進化と火山活動の研究」
授賞理由
高橋栄一氏は、全地球規模でのマグマ活動から、個々の火山のマグマ溜まりの進化、元素分配や溶解度などマグマの化学的な性質まで、火山学的に重要な課題について先駆的で世界的な研究成果を多数あげてきた。その具体例として、① 世界に先駆けてマントル物質の融解実験を28万気圧にいたる超高圧下で実行した。② 35億年以上の太古の地球で噴出したコマチアイトマグマがマントル物質の融解により生じることを解明した。③ 45 億年前の原始地球において大規模なマグマオーシャンが形成され、マントル物質そのものがマグマオーシャンの結晶化で生成したことを初めて明らかにした。④ハワイホットスポットなど巨大プルーム内部では、かつて沈み込んだ海洋地殻がマントル物質と同時に上昇しマグマ生成の主役となることを示した。⑤有珠火山のマグマ溜まりの進化過程を岩石学的に明らかにした。⑤初生的な島弧玄武岩質マグマは従来考えられてきたよりもはるかに多い水を含むことを高温高圧実験と天然の噴出物の分析から明らかにした。
これらの研究は、日本において独自に開発された大型マルチアンビルを初めてマントルの融解実験に適用することで、火山活動が、地球の形成時から現在に至るまで地球の進化に主要な役割を担ってきたことを明らかにしたものである。また地球のマントルが、惑星形成理論からその存在が予言されていたマグマオーシャンの固化で生まれた可能性を示したことにより、地球形成過程に対するマグマの重要性に対する世界中の研究者の関心を高めることになった。マグマの含水量に関する一連の実験および天然岩石の研究結果は、現在の火山活動の理解において欠くことのできないものとなっている。以上のよ
うに高橋氏は、日本の火山学の発展において一貫して岩石学的な立場から主導的な役割を果たしてきた。
高橋氏は、日本火山学会評議員、21世紀COE 拠点リーダー、科研費新学術領域研究代表者など様々な学界活動に尽力し、日本の火山学の発展に貢献するとともに、東京工業大学において長く学生の指導にあたり、現在の日本の火山学会を担う多数の人材を育成した。以上から、高橋栄一氏を日本火山学会賞に相応しいと判断する。