日本火山学会賞 (Volcanological Society of Japan Award)
第15号 小林哲夫
受賞対象
「火山地質学研究および人材育成への貢献」
授賞理由
小林氏は、長年にわたり国内外、とりわけ南九州の桜島をはじめとする火山やカルデラ、離島火山における数多くのフィールドで、地質調査を基盤とした噴火史および噴火メカニズムに関する精力的な研究を重ねてきた。小林氏の研究スタイルは、露頭や噴出物の詳細な観察に立脚する調査手法を基本としつつ、一貫して本質を見極める簡明な視点から火山現象を捉えることに特徴がある。その成果は、我が国におけるフィールド火山地質学の確固たる礎を築くものとして、高く評価されるものである。また、この間、小林氏は国内のみならず、東南アジアやニュージーランドなどの火山にも積極的に調査の歩を進め、火山活動を広域応力場あるいはマグマ成因論などを踏まえた広い地球科学的視座から総合的に捉える研究を展開してきた。これらの卓抜したフィールド経験と幅広い学識は、後進の育成にも存分に生かされている。小林氏のもとからは、現在の火山地質学の中核を担う多数の優れた博士研究者が巣立っており、その教育的功績は特筆に値する。長年にわたって鹿児島大学において教育に尽力し、火山地質学の基礎教育を担うとともに、上述の経験に基づいたわかりやすい巡検案内書「フィールドガイド・日本の火山」や入門書「フィールドジオロジー第9巻・第四紀」を著し、火山学の魅力と理解を広く周辺分野や一般層の人々にも伝えた功績は大きい。
以上の理由から、日本の火山学の発展に対し長年において特段の貢献があった者として、小林氏を2025年度日本火山学会賞にふさわしいと認めた。