日本火山学会論文賞 (Best Paper Award)
第20号 安田 敦・他
対象論文
安田 敦・吉本充宏・藤井敏嗣 (2015) 姶良火砕噴火のマグマだまり深度.
火山,
60 (3), 381-397.
doi: 10.18940/kazan.60.3_381.
授賞理由
大規模なカルデラを形成する破局的巨大噴火の将来予測を可能とすることが、現在の火山学に求められている極めて重要な研究テーマである。そのためには、カルデラを形成する大規模噴火に関与したマグマ溜まりの深度を精度良く決めることが重要である。本論文は、日本最大規模のカルデラ形成噴火である2万9千年前の姶良火砕噴火の噴出物を、全岩化学分析、斑晶鉱物組成、メルトインクルージョン組成を様々な分析手法を用いて定量分析し、さらに最近の熱力学温度圧力計を適用して、マグマ溜まりの物理化学条件を明らかにした。その結果、マグマの含水量が4.5wt% あり水に飽和していたこと、大量噴出の主因が苦鉄質マグマの注入ではなく水の飽和であったこと、マグマ溜りには酸素雰囲気の不均質が存在し、高音部の方がより酸化的であったこと、マグマ溜り上部は、従来の推定よりかなり浅い深さ 4-5 km に達していたことを明らかにした。豊富なデータに基づき、明快な論理展開で、噴火直前でのマグマ溜まりの物理化学的条件を高精度で推定するなど、火山学的に極めて価値の高いものである。
以上から、本論文は日本火山学会論文賞に相応しいと判断する。