日本火山学会学生優秀論文賞 (Best Student Paper Award)
第02号 関 香織
対象論文
Seki, K., Kanda, W., Tanbo, T., Ohba, T., Ogawa, Y., Takakura, S., Nogami, K., Ushioda, M., Suzuki, A., Saito, Z. & Matsunaga, Y. (2016)
Resistivity structure and geochemistry of the Jigokudani Valley hydrothermal system, Mt. Tateyama, Japan.
J. Volcanol. Geotherm. Res.,
325, 15-26,
doi: 10.1016/j.jvolgeores.2016.06.010.
授賞理由
関氏の論文は、電磁気学的手法と地球化学的手法を融合させ、立山(弥陀ヶ原)火山地獄谷の浅部熱水系を詳細に解明した。特に、蒸気の貯留を可能とするキャップ構造の発見は世界的にも過去に例が無く、特筆される。浅部熱水系は水蒸気噴火の場であり、その構造解明は、学術的に価値があり、また火山防災に貢献する。具体的に関氏の論文は、2013年から2014年にかけて比抵抗構造調査を行い、その結果、地獄谷の直下に厚さ 50 m ほどのキャップ構造が存在し、その下の比抵抗のやや高い領域に蒸気が貯留すると推定した。2014年以降に湧出する温泉水を採取し、イオン濃度と水の安定同位体比を測定した。その結果、マグマ起源流体が地下水とほとんど混合することなく地下浅部まで上昇しており、地表付近で化学的に分別し、複数の異なった組成の温泉水として湧出していることを解明した。さらに、温度依存性の高いHClの相平衡を仮定すると、地獄谷直下の熱水系温度が190℃から220℃、静水圧深度は 130 m から 240 m で、気液2相にあると推定した。この深度は、比抵抗構造から推定された蒸気が貯留する領域の深度とほぼ一致した。
本論文は、学生の研究として特に優れており、2017年度日本火山学会学生優秀論文賞に相応しいと判断される。