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日本火山学会学生優秀論文賞 (Best Student Paper Award)

第07号 谷内 元

対象論文

Taniuchi, H., Kuritani, T., Yokoyama, T., Nakamura, E., and Nakagawa, M. (2020) A new concept for the genesis of felsic magma: the separation of slab-derived supercritical liquid. Scientific Reports, 10, 8698, doi: 10.1038/s41598-020-65641-6.

授賞理由

 従前より沈み込み帯における火成活動の要因として、沈み込むスラブから脱水した流体がマグマの生成に対して重要な役割を果たしていることは知られているが、具体的にどのようなプロセスによって流体が輸送され、マグマが生成するのかという本質的な部分については未だ議論が続いている。
 本論文では、利尻火山の活動最盛期に噴出したアダカイト質デイサイトについてAr/Ar年代、全岩および鉱物化学組成・放射性同位体比の各分析を実施し、その起源が沈み込みスラブにあることを明らかにした。さらに、アダカイト質デイサイトと、その直前に噴出した玄武岩質マグマを端成分とするカルクアルカリ安山岩(Taniuchi et al., 2020, Lithos)の噴出の時間差が3,500年以内であることから、スラブ起源のアダカイト質メルト、および玄武岩質マグマの生成を引き起こしたスラブ起源の水流体がマントル内部で共存していたことを示し、両者の生成に対してスラブ由来超臨界流体の分離現象が関与していたことを明らかにした。
 本論文の特筆すべき成果は、利尻火山のアダカイト質デイサイトの成因を明らかにしたのみならず、これまで実験岩石学的研究から示唆されていた超臨界流体の分離現象と、それに伴って玄武岩とデイサイトという特徴の異なる2種類のマグマが同時に生成され得ることを世界で初めて天然試料から実証したことにある。今後、利尻火山以外の沈み込み帯火山におけるマグマの成因としても一般に適用できる可能性を提案し、火山学全般、特にマグマ成因論の分野に新たな研究の方向性を提示した。
 以上の理由から、本論文を日本火山学会学生優秀論文賞とする。

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